婚約ダンジョン   作:水上上水

2 / 2
1話を全面的に改稿しました。もしよろしければそちらもご覧になってください。


2話

「………。とりあえず、順をおって話してくれると助かる」

 

 

後輩の唐突な発言からしばらく。再起動をはたした私は、後輩に説明を求める。

 

 

「実は実家にダンジョンが出来まして」

 

 

「それは………。おめでとう」

 

 

ダンジョンで採掘されている魔石は、ありとあらゆる機械の燃料として用いられ、社会にとって必需品となっている。そんなダンジョンの所有権を持つ人間は、必然的に大金持ちになる。

 

 

「ありがとうございます、先輩」

 

「いやー私もびっくりしました。だってダンジョンですよ?家に金の泉が湧き出るような、そんな話ですよ?当時の私のうろたえっぷり、先輩にみせて上げたいくらいです」

 

 

からからとコップを振りながら、楽しそうに後輩が笑う。現状俺は宝くじの当選報告を聞いているようなものだけど。

 

 

「一生働かずに生きて行けるじゃん。羨ましいわ」

 

 

「ですよね、ですよね。だから先輩、婚約者に成りません?」

 

 

キュルリンと、かわいこぶった後輩が、またもや婚約を進めてくる。逆玉不労所得生活に憧れはあるものの、突然の話に怪しさが止まらない。

 

 

「いや、だから事情を話せって」

 

 

「先輩が好きだから。じゃ、だめですか?」

 

 

テーブル越しに上目遣いでにじり寄る後輩の可愛さに、一瞬負けてしまいそうになるものの、冷静に考えれば考える程、怪しさ満点である。

 

 

「いや、突然好きって言われても………。嘘であっても嬉しいけれど、あまりにもあやしいと言いますか………」

 

 

「気持ちはわかりますよ、先輩。私も祖父にダンジョンが出来たと言われた時は、認知症になってしまったのではないかと、気が気じゃ有りませんでした」

 

 

それは確かに心配にもなる。

 

 

「ですが、先輩。裏など有りません!さぁ先輩、婚約すると言ってください。不労所得が待ってますよ!」

 

 

だめだこりゃ。

 

 

「いい加減にしないと帰るぞ?」

 

 

「すみませんでした!」

 

 

スッパリと下げた頭に免じて、話を聞いてやるとしよう。

 

 

「婚約してほしい、って話はホントに本気なんですけど、ちゃんと説明しますね」

 

 

きちんと説明する気があるなら、最初からそうしてほしいところだ。

 

「まず先輩、家の家族構成覚えてます?」

 

 

鞄から取り出した赤いのメガネを掛け、キリっとした表情で続ける後輩。

 

 

「たしか、姉と兄がいるんだっけ?」

 

 

どうでも良いけどその眼鏡、度が入って無いんじゃない?

 

 

「正解です!で、姉と兄はどっちも結婚してるんですよね」

 

 

確かどちらも後輩が高校生のときに結婚したはず。結婚式に行った後輩が、式はチャペルであげたいと熱心に語っていたので覚えている。

 

「で、私の立場を考えて欲しいんですけど、現状、相続権を持っている人間の中で、私だけ配偶者がいないんですよね」

 

 

しかめっ面をしながらこめかみを叩く後輩。面が良いと何をやっても絵になるからずるいよなぁ。

 

 

「なるほど、つまり虫除けが欲しいって事?」

 

 

そりゃぁお姫様が独身なら狙うよね。

 

 

「イグザクトリー、そのとおり。現在、お金のために目の色変えた、銭ゲバ王子様がいっっぱい、私に婚約を申し込んで来ているわけです」

 

 

「具体的には下は15歳上は40代、イケメンフツメンナゾメン問わず、ありとあらゆる属性の、王子様からおじさんまで、たくさんのアプローチがありまして」

 

 

「それは、おめでとう?」

 

 

「どーも」

 

 

他人事だと思いやがって、そんな言葉が聞こえてくるようなしかめっ面をした後輩。

 

 

「私もね、最初は浮かれてテンション上がりました。イケメン選び放題。何だったら逆ハーも行ける。理想のショタを育成したって良い。でも、でもですよ。実際冷静になると、ちょっと怖くなっちゃって」

「冷静に考えて、お金持ちだからって、見ず知らずの人間にいきなりアプローチを掛けてくる。そんな人間がまともな訳あると思います?」

 

 

ずいっとこちらに身を乗り出した後輩。笑顔ながら、目だけは一切笑っておらず、普通に怖い。

 

 

「とはいえ、中にはきちんとした名家からの、ちゃんとした政略結婚もまぎれてるんじゃない?」

 

 

彼女はこれから超がたくさんつくようなお金持ちになるわけで、本人が望まなくとも政治の世界に巻き込まれる。その事を考えると、ここできちんと政略結婚に応じることは、悪くない選択だと思う。

 

 

「実は、兄の奥さんがかなり立派なお家のご令嬢でして」

 

 

そう言って彼女は、誰もが知るような巨大企業の創業者一族の名前を出した。

 

 

「なるほどね。縁はもうあるから、自分は別に問題ないと」

 

 

こちらに乗り出したまま、赤ベコみたいに頷く後輩。首の筋を痛めそう。

 

 

「ですです。すでに色々とお話は済んでまして、私は特に何も求められてないんですよね」

 

「なので現状、私にアプローチ掛けてきているのは、そういった話をわざと無視しているか、そもそも事情を知らない人ばかりな訳でして」

 

 

確かにそういった事情であれば、特に政略結婚を受けるメリットは無いだろう。

 

 

「だったら特に虫除けとか要らないと思うけど………」

 

 

別に自由に生きればよいのではないかと思う次第です。

 

 

「そんな簡単に諦める連中でないので、問題なんですよね」

 

 

机に突っ伏して、シクシクと鳴き真似をする後輩。

 

 

「事情は分かった。けど別に俺じゃなくても良くない?」

 

 

ガバっと起き上がった後輩が、ぐっと私の腕を掴む。

 

 

「金に目ん玉ギラギラさせた、ちょっとやんちゃな連中ですよ、そんな連中に婚約者がいると伝えたらどうなると思います?」

 

 

あまり愉快なことにはならないだろう。それだけはわかる。

 

 

「ごめん、ムリ。今回は後縁がなかったという事で」

 

 

君主危うきに近づかず。逃げるが百計、恥知らず。私は帰る事にした。

 

 

「わわ、まってくださいよ~。せめて話を最後まで、聞いて下さい」

 

すがりつくように抱きついてきた後輩に、思わずドキッとして、一瞬硬直した隙を逃すこうはいではなく、私は椅子に押し止められてしまった。

 

 

「はぁ、話を聞くだけ、だから」

 

 

隣に座った結衣が、グイグイと迫って来る。私は自ら壁際に押し込められてしまい、身動きが取れなくなった。

 

んん、んーとチューニングを済ませた後、上目遣いで擦り寄る彼女。

 

「先輩、私の婚約者になってください」

 

 

「断る」

 

 

かわいい悪魔の誘い。乗るわけにはいかない。病気の母と、年の離れた妹に、何かがあっては遅いのだ。父とした約束を、反故にする訳にはいかない。

 

 

「おかあさん」

 

「私なら、先輩のお母さんを,

助けられますよ?」

 

 

私の心を揺さぶる、悪魔の言葉を発した彼女は、泣きそうな顔をしていた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。