CyberRegular:Edgehunger 作:匿名Cyberpunk好き
Burrito XXL、食べてはいけない油の味がした。だが、非常に悔しいことに全体としては悪くない。
食べたことでの健康被害なんぞ考えてる余裕はない。
路地裏に行く前にタイガークロウズからもらったクレジットチップを自前のチップにかざす。'50€$'——分かっちゃいたが少ないな。さっきメガビルで見かけた求人広告は100€$だった。
大方、上納金の天引きってところだろう。
ここナイトシティにおいて、行政はお飾りだ。コーポの犬が市長に当選するのが既定路線。そんでもって、コーポは金のある場所しか面倒をみない、シティセンター、ヘイウッド、ウェストブルック、いわゆる中流階級と富裕層の高級住宅街とお膝元だけだ。
それ以外はギャングが占拠してる。人々は彼らに保護代、つまり上納金を支払い、身の安全から家の世話までをそれとなく約束してもらう。
もし拒否すれば、叩きのめされて面が変わるか、死体袋で眠ることになる。
水もタダじゃないし、メシも食わなきゃならない。加えて身ぐるみ剥がされない場所で寝るので、ぴったり50€$。近辺を支配する彼らは、どの仕事をするのがどういうやつで、どれだけ絞ってもいいかお見通しってことだ。
ワトソンの路地裏に向かい、歩きながら考える。醸し出す貧乏臭が効いてるのか、乞食にすら声をかけられない。仮に声をかけられてもゲームと違い、渡さなければ彼は死ぬだろうが、俺の生死がかかっているので渡さない。
路地裏を歩き続け、やっと見つけた場所は案の定という感じだった。
ワトソンの裏路地にあるコフィンホテル。看板こそ「宿泊施設」を名乗っているが、実際はただの鉄の箱を積み上げた集合棺桶にしか見えない。
フロアに入ると、汗と消毒液が入り交じった臭気が鼻を突く。通路は人ひとりがやっと通れる幅だが、梯子がそれすらも潰している。天井には安っぽい蛍光灯が明滅していた。
棺桶のような宿泊カプセルの内部には、古びたマットレスと電源コンセント、そしてノイズ混じりの小型モニター。プライバシーの保証はなく、遮光スクリーンを下ろしても音も匂いも漏れ放題。
客層はメガビルよりよっぽど酷い。日雇い労働者、借金に追われる移民、そして死体漁りのチンピラ。
料金は設定と変わらず一泊30エディー。安いが、払えなかったであろう人が即座にスクリーンを剥がされ、荷物ごと路地裏に投げ出されるのを見た。
誰かが中で死んでも、清掃員がボディバッグに詰めて数時間で新しい客が入るだろうことを直感する──そんな使い捨ての空間。
外から見ればただのネオンサインの塊だが、その全てのカプセルの中で、数百人の“生き延びるだけの人生”が眠っている。
そして俺も今日から仲間入りだ。ここの仕切りもギャングだろう。日々を生きる糧から限界を毟り取り、明日も働く自立式の鉄砲玉を作り上げる加工施設。歪んだ街の濁りの結晶。
最早ため息すら出てこない。
ゲームでは、主人公にはこの街を生き抜く素養があった。
ノーマッド――いわゆる遊牧民なら郊外、バッドランズと呼ばれる治安最悪の砂漠を生きた経験。
ストリート――ある程度ブランドを持ち、伝手があった。周りに手を出されないだけのコネ。
コーポ――言うまでもなく大企業のエリートだ。この街の陰謀をかいくぐるだけの知識があった。
今の俺にはそのどれもがない。知り合いもいなければ、知識もない。荒事なんざ銃の安全装置を外す前に脳髄をぶちまけるのが関の山だ。
今日やった仕事の最後、あのときは呆けていたが、ギャングが差し出した手のひらの意味が今ならわかる。
あの顔面凶器の仏様から、'手土産'を確保する必要があったのだろう。
ナイトシティでは命はカネに変えられる。銃器、チップ、クローム。丸ごと死者の尊厳を街に食わせれば、街は誰かが生きるためのカネを吐き出す。強者はそのカネを搾取し、次の生贄を街へと差し出す。
少なくとも、あのときの肉塊に残ったクロームをそのまま廃棄シャフトへ流し込んだのは間違いだった。
デーモンに塗れ、故障寸前で使えば体の制御にラグが残るようなクロームでも、ストリートでは買い手がいるということだ。俺自身、何でもいいからマシな義眼クロームを取り付けなければ、物の名称すら分からない。ゲームの主人公は20000€$を超える、キロシオプティクスの最新義眼クロームを、ヴィクターという違法医師から授けられていた。
今あれをツケにしてくれる奴がいたら、靴を舐めて磨くのも躊躇わないだろう。
ともあれ、明日もビルは汚れるそうだ。俺は丁寧にカネ以外の汚れを落とす必要がある。
今は寝て、大人しくその時を待つしかない。
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グッドモーニン、ナイトシティ。
今朝のめざましの音クイズの正解は、銃声だ。視界内のうっとおしいノイズは、整えればam9:00に見えなくもない。
コフィンホテルの棺桶から抜け出し、仕事場であるメガビルへと向かう。
メガビルの一階は、正規のエントランスホールだったはずの場所だが、今は即席のバザールだ。
剥がれたタイル床の上に鉄板を広げただけの焼きそば屋、古いドラム缶に火をくべて合成肉の串焼きを売る老人、腕の悪そうなテッキーが片手間で中古サイバーウェアを机に並べる──どれもが不格好で、どれもが生活の匂いに満ちている。
油煙と香辛料の匂いが入り交じり、蛍光灯のちらつく明かりの下で、住民が10エディーの安酒をあおり、ボロを着た母親が子どもの手を引いて屋台の安いスープを買う。
通路の隅では、昨日の男が腰掛け、屋台をひらく人々から"保護料"を徴収していた。
外界の騒音から切り離された"生活の中心"、碌なキッチンもないこのビルの日常が映し出されている。
昨日と同じようにBurrito XXLの自販機に5€$を支払い、床に座り込んで食べながら時間を潰す。12時に差し掛かった頃、タイガークロウズの男から声をかけられた。
「ようノロマ、今日は11階だ。1107の部屋にゴミが転がってる。お前の仕事はそいつの掃除だ。」
余計なことを聞いて、藪蛇になる前に短く返す。
「了解。行ってくる。」
何があったかなんて聞いたら拳が飛んでくるんだろうな。なんて思いながら、エレベーター脇のモップを手にさっさと部屋に向かう。
メガビルの一室
天井は低く、壁の塗装はところどころ剥げ、換気扇はほとんど機能せず、焼けた油の匂いが染みついていた。
部屋の隅には小さなキッチンユニットがあるが、シャワーブースは狭く、壁面のパネルは黄ばんで剥がれている。
収納はほとんどなく、衣服や日用品は床に積まれたまま。通路のざわめきが、壁を通じて響いてくる
窓の代わりのスクリーンは晴れ渡る青空を映すが、その脇には腹と足を一発ずつ撃ち抜かれ、鮮やかな赤をまき散らして中年の男が死んでいた。