CyberRegular:Edgehunger   作:匿名Cyberpunk好き

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あとは気が向いたら続き書きます。


必要なもの

 

 遺体を確認する。

 

 彼の左腕は肘から先がサイバーアームに換装されており、安物であろうナイフを握りしめている、ところどころ塗装が剥げたそれは血と油で黒く濡れていた。指先には安物のデータポートが並び、まだ赤く点滅するLEDが、まるで心臓の鼓動を模倣するように明滅している。

 

 顔には改造が施されていた。右目は義眼で、死んだ今も不気味に赤色の光を放っている。顎のラインには粗雑な神経ジャックが埋め込まれ、皮膚の隙間からは血の代わりに冷却液がにじみ出していた。

 

 腹と脚を撃ち抜かれ、壁や床には逃げ惑った軌跡が血のスパイラルを描いている。

 男はすでに沈黙していたが、クロームだけが動きを止めず、義眼の赤い点滅や指先の微弱な振動が、死体をまだ機械として動作させていた。

 

 男が握っていたナイフを手に取り、顔と腕に獲物を解体するかのように刃を入れる。初日から柘榴めいた死体の処理をさせられたせいか、覚悟があったからだろうか、特に感じることもない。路地裏のリパードクが接続したであろう接続部を探し当てケーブルごと断ち切る。

 

 男が使っていたであろう日用品の内、まだ使えるであろう黒色の擦り傷が大量に付いたジャケットを身につける。流石にいつまでもタンクトップだけはパンクすぎるし、捨てるくらいなら貰っておく。

 その後部屋の掃除を済ませた俺の手の中には、今日の戦利品である目と腕が収まっていた。

 

 頭の中に考えがよぎる。

 

 これらを大人しく差し出すか、アニメ版主人公デイビッドの母親みたく流せる先を探すか。

 確かグロリアは医療機関の日雇い清掃員として、廃棄処分かコーポが独占管理するクロームを横流ししていたはずだ。危ない橋を渡りアラサカの学校に通える程の金を稼ぎ出していた。

 正規の医療機関で外されたクロームとは程遠い品質だが、安いクローム一つでも人生を変えるだろう。

 

 今は少しでもカネだ。もし、動けなくなれば間違いなく死ぬ。

 

 ビルの清掃が明日もあるとは限らない。義眼クロームとナイフの刃先を布で包む。それらをカーゴパンツのポケットに突っ込んで、サイバーアームを宝物のように抱えた。

 

 相変わらずロビーに座っている男の前まで行き声をかける。

 

「終わりました。それとコレを。」

 

 男は表情もなくひったくるようにサイバーアームを奪うと、手をひらひらを動かしながら返事を返した。

 

「死体のお古が似合ってるぜ、臭えからこっち来んな。ほらよ。」

 

 正しくはただ古着であって、あの男が死の際に着ていた訳では無いが。

 

 見下す感情を隠すこともなく、チップを投げて渡してくる。

 

「目の方は駄賃だ。抜け出したいならもっとうまくやるんだな。」

 

 ばれてる。

 

「ええ、それで次はいつですか。」

 

「張り紙を見つけたら俺に会いに来い。今日の奴はここで違法ブースターを売りやがった、巧妙に細工してな。タイガークロウズの島を荒らせばああなる。」

 

 ノロマからペットへの格上げだ。忠告付き。

 

「分かりました。」

 

 これ以上話すことはないと無視した男に目を向けず、路地裏へ入る。行き先はコフィンを探す際に目をつけておいた路地裏の隙間、少し離れたそこへ歩調と変えることなく淡々と進む。

 

 今が何年かは分からないが、探せば何処かにはゲームと同じ建物が存在するのだろうか。ワトソンならヴィクターの店にミスティのエステリカ。もっとも、見つけるならVが住んでいたH10メガビルが早いだろう。わざわざ行く意味はあまりないが。

 

 ワトソンからではスモッグに遮られ、アラサカタワーすら目に入らない。中流階級が暮らす区域ならばどこからでも見える権力の象徴。近い内に拝んでみたいものだ。

 

 お目当ての場所に辿り着いた。

 

 壊れて廃棄されたスクリーン。外見上はゴミ山の一部で、回収業者の目も通りにくいだろう。裏側、制御回路の空洞――俺が必要としていた空間だ。

 

 ナイトシティで働いた分は、その日の飯と寝床で消える。残った小銭はギャングへの保護料か、壊れかけたクロームの修理に吸い込まれる。

 銀行口座を持つこと自体が上流階級の証であり、庶民にとっては無縁の話だ

 

 今日手に入れた安物クロームをリパードクにでも売り払えば、カネに変わるだろうが、あいにくそんな伝手はない。

 ギャングを頼っても、為替は暴力と脅迫なのは目に見えている。

 

 この廃材の中のスクリーンの隙間が、今日から俺だけの貯金箱になる。

 

 地面や溝蓋の下に隠しておいてもいいが、ナイトシティの雨は基本的に酸性雨だ。血液だけじゃなく、そんなものまで染み込めばタダでさえ安いだろうクロームがブリトーより安くなる。

 そのまま持って歩けば、膨らんだ俺のポケットの中身がそのままチンピラのポケットマネーに変わるだろうな。

 

 あとは昨日と同じく棺桶で眠るだけだ。

 

―――――――――

 

 さて、次の日だ。

 

 ブリトーと棺桶の2日間は俺に20エディーの貯金を許してくれた。このやっすいクレドチップの中身が多くなれば、そこそこの義眼をつけたやつに残高を見られ、床に転がる羽目になるだろうが。

 

 この世界初の給料日じゃない日。少なくとも10€$をどうにかして稼がなければ、野宿となる。

 ナイトシティでは、路上で眠るものは死体予備軍だ。

 ギャング、臓器刈り、酸性雨。通行の邪魔であれば殴られ、カネに変わりそうなら殺され、雨が降ればジャンクに変わる。

 

 しかし仕事のあてなんぞない。

 

 フィクサーを見つけて傭兵業でも始めるか?

 

 ストリートでは「匿名性」が最大の武器だ。今の俺は自分の名前も知らない名無しの権兵衛であり、誰にも知られていないことは圧倒的なアドバンテージではある。

 

 タイガークロウズの男には顔を覚えられてるが。ちなみに昨日の清掃中に自分の顔を確認したが、目つきの悪さ以外は普通だった。

 

 懸念点を考えるなら、たとえ傭兵業で稼いで偽造IDを手に入れても名前が街に出回った瞬間、もう匿名の傭兵じゃなくなる。仕事は回ってこなくなるし、家のドアを開ければ銃口が待っているだろう。

 NCPDやコーポのブラックリストに載り、追われる身分となれば圧倒的な暴力を持たない限り、ストリートでは致命的だ。

 ナイトシティがそのまま現実になった今“身元が割れる”ことは、墓標を立てるのと同じ意味だ。

 

 依頼主もバカじゃない、足跡を残すマヌケな人物と関われば自分まで怪我をする。そうなればデクスター・デショーンのように街を離れるか。名を変えイチからやり直すか。

 

 だから傭兵は生活のための本名と"ブランド"を使い分けるのだろう。

 

 ゲーム主人公が'V'と名乗り続けた理由、ジョニー・シルバーハンドに本名を教えたのはそういうことだ。

 匿名の鎧を脱ぎ、弱点を晒す。本名を明かすことで身内と認める。

 

 まあ、ジョニーはロバート・ジョン・ランダーソンと明かさないが、ドッグタグ見せてるので...要するに俺が名前についてそう考えてるだけだ。

 

 こうしてみると本名でやってたジャッキーは異端だな?警官に身元当てられてるし。

 

 あるいはVはコーポレートのプラザを借りられるから、市民IDかバイオメトリクスが正式に登録された人物だったんだろうか。

 俺には現状どちらもないし、下級市民よろしく存在しない"ゴースト"だ。

 

 逆に自由に動くなら今しかないような気もする。

 

 ただ、傭兵をやるにはあるものが必要になる。腕のいいリパーだ。信頼できて、生涯の付き合いができる奴が必要だ。「まだ生きてるなんて奇跡だな」って毎週言ってくれる奴がな。

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