キングダム世界でファンタジーチート転生者が傭兵をするだけの話   作:鈴木颯手

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色々と注意です。


第十八話「韓攻め4」

「お頭ぁぁぁぁぁっ!!! 南陽の奴らが出てきました!」

「ククク。ま、そりゃ狙うよな」

 

 介泉を落としたことで南陽攻略に乗り出そうと軍を集結させていた蒙驁軍だがそこに来て本国より趙が侵攻してきたという話を聞いて急ぎ軍を帰還させるべく撤退を開始していた。

 その結果として最初に南陽の前に陣を作り、敵の攻撃に備えていた桓騎軍がそのまま殿を務める事が決定されたのだ。桓騎軍は確実に来るだろう南陽の追撃に備えていたが予想通りに博王谷軍は南陽を出て攻撃を仕掛けてきた。

 

「出番ですよ! 挟み込みなさい!」

「っ!!?」

 

 そして、それに備える準備は大量にあったために桓騎軍による攻撃も的確であった。博王谷を先頭に前面に騎兵、後方から歩兵という陣形でやって来た南陽軍を左右から挟み込むように攻撃を開始したのである。右からは朱摩一家が、左からは雷土が攻撃し、騎兵と歩兵を分断させたのだ。両者の間に分厚く兵を配置する事で歩兵の侵攻を完全に阻害させる事に成功していた。

 

「さぁ出番ですよ! こういう時の為にいるんですからしっかりやってください!」

「ヴォオオオオオオォォォォォッ!!!」

 

 騎兵だけとなった南陽軍を正面から襲い掛かったのはゼノウ率いるゼノウ一家であった。桓騎軍内でも突出した破壊力を有しながらその危険性ゆえに扱いが難しい彼らを摩論は最高のタイミングで出すことに成功したのである。

 

「なめるな!!」

「っ!!??」

 

 しかし、そんなゼノウ一家の攻撃は博王谷には通じなかった。韓の第二将として韓を背負う彼の迫力はそこらの腕自慢ごときで敵う相手ではなく、次々とゼノウ一家を屠り、突破していく。

 

「来るよ! てぇっ!!!」

 

 しかし、そんな博王谷軍に次なる攻撃が開始される。桓騎軍の本陣前に多数配備された黒桜率いる弓兵部隊が矢の雨を降らし始めたのである。ゼノウ一家すら巻き込みかねない攻撃は博王谷軍の勢いをそぐことに成功していた。

 

「分断された上に先頭はボロボロ。呆気ねぇな」

 

 中核を担う歩兵5万強は後方で分断され、残された騎兵数千はゼノウ一家と矢の嵐でボロボロになってしまっていた。完全に孤立した形となったが博王谷はあくまで冷静に周囲を見渡すと残存兵力を纏めて進路を変更。陣形の継ぎ目を狙って突撃すると後方の歩兵との合流を測ったのだ。

 

「っ! 想像以上ですね……! なんとしてでも止めなさい!」

 

 元野盗として腕っぷしには自信がある桓騎兵だが博王谷の力には及ばずに屍を大量に生産していくだけだった。結果、博王谷は雷土隊の脇をすり抜けて合流に成功してしまい、敵の士気を底上げさせてしまう事となった。

 

「ゼノウを下げろ。代わりに厘玉を出せ」

「っ! 分かりました!」

 

 仕切り直しという形となったが桓騎は更なる一手を打つべく摩論に指示を出した。厘玉を出す。それが意味する事を瞬時に理解した摩論も同意して合図を出す。普段はないが今だけ存在する桓騎軍最高戦力である炎鬼の出陣を。

 

「出番だ! 行くぞ!」

「ん」

 

 騎馬隊を率いて厘玉が出陣する傍らで炎鬼もフレアに跨り並走していた。自分の全力を出せない事で不満そうなフレアを無視して炎鬼は韓軍に突撃する。

 

「え、炎鬼だぁぁぁぁぁっ!!!」

「ひいぃぃぃぃっ!!」

「逃げろ! 殺されるぞ!」

 

 炎鬼の出陣はあまりにも効果的だった。炎鬼が剣を振うまもなく士気が最高潮に達していたはずの韓軍は完全に士気を破壊されて逃げ出す者が出てくるほどだった。あまりにもあっけない韓軍の醜態に厘玉も思わず固まってしまった。

 

「……は! 敵が崩れたなら追撃のチャンスだ! 行くぞ!」

 

 しかし、どちらにせよ好機である事に変わりはない。殿という役目である以上敵が攻撃して来れない程度に削っておくに越したことはない。厘玉に続き雷土や朱摩と言った桓騎軍の中の実力者たちも動き出した。

 

「オラァッ! その程度か!」

 

 その体躯通りに重い一撃を繰り出す雷土によって敵兵が吹き飛んでいく。同じく精鋭である朱摩も敵兵を切り刻み、無双していく。

 完全に出鼻をくじかれ、いいようにやられた上での炎鬼の登場で韓軍の勝ち目は完全に消え失せた。最早追撃を仕掛けるどころか軍を維持する事で精いっぱいな状況になってしまっていた。

 通常であれば弱小の韓軍と言えどここまで脆くはない。むしろ練兵に次ぐ練兵で組織化され、集団で戦う事が基本的な韓軍は弱くはない。しかし、今回のように指揮系統を一度破壊されたうえで立て直す暇もなく炎鬼という敵から見れば最悪の死神のような存在を出した事で自軍の強みを全く生かすことが出来ずに軍の崩壊に至ったのである。

 

「よわ」

 

 そんな韓軍の惨状は炎鬼でさえ思わず吐き出してしまう程に悲惨であり、炎鬼の機嫌は悪くなっていた。昨年の魏との戦いではほぼ負け戦同然であった為にそれとどうしても比較してしまい、炎鬼は苛立ちを剣に込めて振るっていく。

 主人の機嫌を察したフレアが速度を上げて韓軍内を縦横無尽に動き出した。元々厘玉と一緒にいただけで戦場では好きに暴れて良いと言われているのだ。炎鬼は遠慮なく韓軍を蹂躙し始めた。

 

「ちっ! おまえぇら! 停止だ! ()()に巻き込まれたくなけりゃとまれ!」

 

 そんな中でいち早く炎鬼の動きに気づいたのが雷土だった。図体に見合わずに状況判断を得意とする彼は炎鬼の動きからこのままでは巻き込まれると考えて韓への追撃を止めたのである。

 そして少し遅れて厘玉、朱摩も攻撃を止めると同時に、炎鬼は戦場を大火で包み込んだのだ。彼が炎を生み出し、操れることはこれまでの進軍で理解していた。それでも、目の前で行われたのは知っていたつもりになっていた桓騎軍を驚愕させるには十分だった。

 

「ほ、炎だと!?」

「に、逃げ場が……!」

 

 炎鬼が生み出した炎はあっという間に前方にいた韓軍3万を包み込み、完全に逃げ場を潰していたのだ。炎に触れた者は消える事のない火によって灰と化すまで焼かれる事となった。そうして逃げ場を失った3万の兵たちに炎鬼は迫る。

 

「少しは頑張ってみてよ」

 

 それより始まったのは蹂躙だった。熟練兵も新兵も関係なく等しく屠られていく彼らは存在しない逃げ場を探して逃げ惑った。仲間に押されて炎に触れて身を焼かれていく者。果敢にも炎鬼に立ち向かうもたったひと振りで両断され、肉を焼かれていく者。死んだふりを行い、フレアに踏みつぶされる者。

 死に方は人それぞれながら3万の兵士たちは炎鬼によって死を与えられ、地獄の如き苦痛と絶望に包まれて死んでいった。

 幸いなのは後方に撤退していた博王谷とその周辺の1万弱の兵士はまだ健在という事と炎が邪魔をして桓騎軍も攻撃が出来ないでいる事だった。完全に桓騎軍を見誤った博王谷は苦々しい表情のまま静かに告げた。

 

「南陽に撤退する。あの中の兵士は()()()()()()()。炎をどうにもできない以上我らに出来る事はない」

 

 それはまさに敗北宣言に等しかった。生き残った兵たちは博王谷の言葉に悔し涙を流しながらも指示に従って南陽に撤退していく。そんな彼らの背には炎に包まれた中で悲鳴を上げる仲間たちの声が聞こえてくる。耳にこびりついて離れなくなるのではないかと思う程の時間を経て炎は解除された。

 それによって現れた内部は3万の焼死体が地面を埋め尽くした地獄の光景だった。五体満足な死体は一つもなく、全てが黒く焼け焦げていた。

 そんな死体の中心部で飄々とした態度で炎鬼がいた。彼の表情には3万の兵士を殺したことに対する罪悪感や興奮と言ったあらゆる感情は浮かんでいなかった。そこにあったのはただただいつもと変わらない無感情無表情な何時もの顔であった。

 




原作の博王谷はここまで馬鹿ではない、と思う……。
主人公「追撃に出てきた敵を倒そうとしたら自分を見て勝手に敗走し始めてムカついたから殺した。後悔はしてない。お腹空いたから摩論にお肉でも焼いてもらう」

※主人公はスキル等で精神に生じる負荷を軽減どころか無くしています。なのでこんな発言は平然と出てきます。
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