キングダム世界でファンタジーチート転生者が傭兵をするだけの話   作:鈴木颯手

19 / 31
ほぼほぼタイトル詐欺。山陽の前に秦趙同盟の話に行きます。


第十九話「韓攻め5」

 結局、韓攻めは中途半端な形で終了となった。攻め込んだ期間は約一月と10日ほどであるが手に入れた城は10を超えており、王都新鄭に並ぶ重要都市南陽への道を開く事に成功していた。

 しかし、本来であれば攻め込めたはずの南陽を目前にして帰国した事で中途半端な形となったのである。これらの城は長い時間をかけて韓によって奪還されていくことになるがひと先ずは自国領となった事で様々な文官が派遣されて統治が開始される事となった。

 そんな韓攻めを利用して北部より侵攻してきた趙だが馬陽を抜く事は出来ず、復帰した六将王騎率いる10万の軍勢に撃退される事となったがそれによって発生した傷は大きかった。

 先ず、総大将を務めた王騎は敵の総大将である龐煖との一騎打ちの末に致命傷を負い、死亡。10万の徴兵された軍勢も大きく損耗する形となった。

 一方で趙は三大天に龐煖の他に今回の戦を最初から最後まで描き、見事その通りに実現した李牧という対匈奴の総司令官が就任することとなった。

 将軍をかなり失ったものの王騎を討ち取った事で趙は注目を集めており、人が集まりつつあった。2、3年もあれば失った損害は補填することが可能となるだろう。

 

「……王騎、死んじゃったのか」

 

 炎鬼は王騎の死を桓騎軍内で聞いた。正直に言ってしまえば思い入れは無いに等しい相手だが数少ない名前を憶えていた相手の死は彼に衝撃を与えていた。

 

「久しぶりの戦場だから腕が訛っていたのかな?」

 

 とはいえだから何かをするわけではない。死んだことは悲しいがあまり関りのある人物ではないのだからそれ以上何かを考える事はなかった。

 

「ククク。ま、昔の武将が死んだだけだろ。一々騒ぎ過ぎなんだよ」

 

 そんな中でいつもと変わらない様子だったのは桓騎だった。蒙驁に見出されて武将となったがそれが秦だっただけで国自体に思い入れがあるわけではない。ましてや直接かかわったわけではない相手に悲しみを覚えるような性格でもなかったのだ。

 

「それに、悲しんでいる暇なんてねぇしな」

 

 桓騎の言うとおり、王騎死すの報を受けて周辺諸国は大きく反応していた。趙や魏、楚といった国々は度々国境を侵すようになったのだ。幸いというべきか大打撃を受けた韓は侵攻することはなく、攻め取った領土を維持する事が出来ていた。

 そして桓騎軍は帰国する道中で楚の軍勢と接敵したが向こうが仕掛けてくることはなかった。

 

「ハハハ! なんだ。楚の連中炎鬼に怯えているのか」

「ま、まぁ向こうは秦に続く形ですが炎鬼さんと仲良くしていますからね。あの武を小競り合い程度で失いたくはないのでしょう」

 

 炎鬼が桓騎軍と行動している情報が楚に出回っているのか侵攻してきたはずの楚軍は桓騎軍を見つけると方向転換して撤退していくのを繰り返したのだ。その様子に桓騎は爆笑し、摩論は理由を正確に見抜きつつも苦笑いを浮かべていた。

 楚という大国においても炎鬼の力は無下には出来なかった。秦や斉との戦には参加しないがそれでも魏や韓、南方に広がる百越の討伐では目覚ましい戦果を上げており、楚でもその名を知らしめていたのだ。

 無論、自国よりも秦を優先し、気まぐれが過ぎる炎鬼に対して春申君を筆頭に幾人もの人間が良い感情を持っていなかったが炎鬼の武力はそれらを黙らせるには十分すぎるものだった。

 故に炎鬼の矛先が楚に向かないように彼らは気を付けていたのだ。向いたが最後、散々目の前で見てきた最強の男が敵に回るのだから。

 

 そんなわけで桓騎軍は無事に秦に帰国を果たし、一度軍容を解く事となった。それにより炎鬼と桓騎軍との関りは一度終わりとなった。

 

「またね盗賊王」

「次会う時にはきちんと名前を憶えておくことだな」

「ん。多分無理」

 

 その言葉を最後に炎鬼は再び根無し草の生活を始める事となる。ちなみに、炎鬼に家はない。秦や楚、斉では炎鬼を国内に引きとどめる為に豪華な家を用意する計画もあったがそう言った物を嫌う炎鬼は断っており、高級宿に泊まるかその辺で野宿をする両極端な生活を送っている。チートがあるからこそできる破綻した生活であった。

 こうして、順調に始まったと思われた年は最悪の形で始まることとなったのだった。

 

 

 

 

 

 王騎の死から約一年後、秦は各国による激しい領土侵犯を繰り返されるようになっていた。どれもこれもが万を下回る程度の小競り合いだが確実に秦の国境は少しずつ縮小していた。特に王騎を討ち取った趙は僅か一年で大きく躍動しており、燕の不落の城二つを簡単に落とす事に成功するなど目覚ましい活躍を見せていた。

 その活躍には王騎を殺す計画を立てて実行し、見事に成功させた李牧という男が関与しており、彼は一連の功績から宰相の地位を与えられていた。李牧へのこの地位は趙が彼をどれだけ信用しているのかの表れであり、李牧はそれに見事答えていたのだ。

 しかし、そんな彼に危機が訪れた。趙王である悼襄王が寵愛している春平君という人物が呂不韋の招きに応じた結果、捕らえられてしまったのである。そして春平君を返してほしければ宰相、つまり李牧を迎えに寄こせと書簡を悼襄王に送りつけたのである。

 当然ながら悼襄王は激怒し、李牧に対して春平君を連れ戻せと命じたが失敗すれば切り捨てると脅しをかけていた。しかし、李牧を指名しているという事、王騎を嵌め殺した人物と言う事で明らかに殺そうとしているのが明白な状況であった。行けば死ぬ可能性があり、行かねば確実に殺される。最悪の状況となった李牧だが彼は特に動じた様子もなく秦の咸陽へと旅立ったのである。

 

-この目で咸陽を見れる機会などない。むしろ呂不韋丞相には感謝するべきでしょう。

 

 内心で李牧はそう思っており、呂不韋の申し出を悠々と受け入れたのである。

 例え殺される形となってもそうなれば列国の信用を失う事になり、秦は孤立してしまう可能性が高く、余程の事がない限り殺される事はないだろうと考えていた。そして殺される事を回避する為の準備も万端であり、彼は側近の女剣士カイネや昨年の戦いにおいて共に戦った公孫龍将軍らと共に旅立ったのであるが……。

 

「ん。廉頗将軍よりも弱い?」

「は、はは。そうはっきりと言われると傷つきますね……」

 

 気づけば李牧の隣には炎鬼がおり、心臓を潰さんばかりの圧をまき散らしながら李牧の護衛を自称してともに咸陽へと向かっていたのだった。

 




主人公の中では李牧は「戦略面では圧勝してるけど戦術、武術面ではボロ負け」と判断しています。つまり李牧は主人公に名前を憶えてもらえませんでした。「李牧? 贅沢な名だね。今からお前の名は嵌め殺し君だよ」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。