キングダム世界でファンタジーチート転生者が傭兵をするだけの話 作:鈴木颯手
俺は戦争で敵対した国の傭兵として戦う事は基本的にしない。何故なら恨まれているのがよくわかるからだ。少し前まで自国の兵士を殺しまくった相手が今度は味方ですと言われてもはいそうですかとはならないだろう。絶対に戦っている最中に後ろから刺されるだろう。その程度の不意打ちならば防ぐことなんて可能だがそんな危険性を抱えてまで戦いたくはない。
なので俺が参戦する国は秦をメインに楚、斉に限定している。魏、趙は秦とよく敵対するため、燕は斉で活躍する時の主な相手の為。韓は弱いし金払いが悪いから敵になれど味方には絶対にならない。
「諸君! 我らの勝利は決まったも同然ぞ! 我らには“炎鬼”がついている!」
「「「「「ウオオォォォォォッ!!!」」」」」
そんなわけで俺が久しぶりに斉に来て戦争に参加したが知った途端にこれである。ちなみに相手は燕だ。一時は両国ともに滅びかけたが今では拮抗する戦力に落ち着いているが若干斉が不利と言ったところだ。向こうには北方の他民族を数多く従えているからだ。この世界、なぜか他民族の方がめちゃくちゃ強いのだ。やっぱり蛮族と言われているからなのか?
斉の戦いに参加するのは基本的に海鮮料理が目当てだ。秦は内陸にあるせいでそういった物とは無縁だからな。魚が食いたいときは斉に来ることにしている。
「敵は合従軍にも参加した劇辛将軍だが炎鬼がいれば敵ではない! 行くぞぉ!!!」
斉軍の士気は高い。相手が合従軍では王都を落とした劇辛将軍とか言う相手だからかもしれないがいくら何でも俺がいる=勝利は考えが浅いだろ。
第一こちらの軍勢は5万だが相手は9万。数的不利はどうしても発生する。俺は別に気しないが他はどうかは分からないぞ。
「案の定だな」
意気揚々と突撃していった第一陣は敵の堅牢な陣形の前にずたずたにやられている。滅亡の危機から見事に復活した斉だがそれでもかつての勢いはない。というか俺がいなければ確実な負け戦っぽいし斉の海産物の為に俺も動くとしますか。
「報告! “炎鬼”が戦場に現れました!」
「ようやく来たか!」
劇辛将軍はその報告を聞いて笑みを浮かべた。趙、魏、韓、燕にとって恐怖の敵、炎鬼。彼が起こした伝説は嘘としか思えない程のものばかりであった。
曰く、「万の軍勢を皆殺しにした」、「炎を操り、戦場を地獄にする」、「たった一人に10万の軍勢が壊滅した」、「炎鬼が敵の戦は必ず負ける」などなどであり、劇辛将軍は未だ炎鬼と戦った事がない為にそれをどれほど信じていいのか分からなかったがこうして斉軍と対峙したことで理解させられた。
明らかに斉軍に場違いな圧を放つ者がいる。楽毅相手にさえ感じなかった強者のオーラを感じた劇辛の中で噂は全て真実であり、全力をもって挑まなければ負ける相手だと理解した。
「斉はどうでもいい! 炎鬼を集中的に狙え!」
「報告! 第一陣炎鬼によって壊滅! 第二陣に向かっています!」
「何!?」
だが、それでも劇辛は炎鬼を過小評価していると言わざるを得なかった。どれだけ強大であろうとも所詮は人間。万の軍勢で囲めば殺せると。だが、実際はそんなことは無く劇辛が敷いた陣形は脆くも崩れ去ろうとしていた。
「報告! 第二陣の斗尚将軍討ち死に! 第二陣が破られました!」
「ぬう……! 9万程度ではどうしようもないな……!」
趙への備えもあり、最近台頭してきたオルドを始めとした主力は本国にいたがそれを連れてくるべきだったと後悔しつつ自らの矛を持ち、馬に跨った。
「お前ら! 炎鬼は直ぐにでも来るぞ! ワシが死んでも軍が崩れないように各地に散れ!」
「はっ! 劇辛将軍はどうなさるので?」
「迎え撃つ! 逃げたり隠れたりすれば奴は軍そのものを標的にするだろうからな」
劇辛将軍は自らの命で炎鬼を引き付ける事を決めた。第一陣は壊滅し、第二陣は将を失ったがまだまだ斉軍を上回る兵力を持っている。それらが正常に機能すれば斉軍相手になら勝つ事が出来るだろう。だが、そのためには劇辛自らが炎鬼を引き付ける必要がある。もし、本陣を捨てて逃げたり移動すれば炎鬼は劇辛を見つけるために軍勢に襲い掛かるだろう。そうなれば勝つことは出来ない。死ぬと分かっていても劇辛にはどうする事も出来なかったのだ。
「最低限の共廻りだけで良い。他は前線に出て斉軍を徹底的にたたくのだ!」
「了解しました!」
そうして指示を出しているうちに最後の陣も突破され、返り血で染まり切った炎鬼が姿を見せた。鮮血を浴びながらも武器に光る漆黒の直剣を手に持ち、蒸気を発する姿に劇辛の口角は自然と上がっていった。
「お前が劇辛か」
「その通りだ。お前が炎鬼だな?」
「そう」
炎鬼はそれだけ言うと武器を構えた。劇辛も矛を構えるとそのまま突貫する。馬上からの攻撃は歩兵相手に有利に働く。たとえ相手が炎鬼だとしても劇辛は殺す気で武器を振り下ろす。
「……強い」
「なっ!?」
「けど、弱い」
炎鬼は劇辛の動きに合わせるように武器を振り上げ、互いの武器がぶつかるようにしてきた。互いの得物がぶつかり、そのまま力の勝負となると思ったが劇辛の矛は触れた個所から抵抗もなくするりと切り裂かれた。断面は赤く光り、熱を帯びているのが分かるがそれが何故なのかを理解することも、解析することも出来なかった。
矛を切り裂いた炎鬼は通りすぎた劇辛に向けて跳躍すると落下の勢いと合わせて両手で持った剣を劇辛に振り下ろした。頭部から馬の腹まで両断し、肉体は断面から発火する。
炎鬼が転生特典で手に入れた魔剣レーヴァテイン。神話の武器に相応しく持ち主の思い通りに熱を帯び、炎を生み出すこの剣に勝てる武器等この世界には中々存在しないだろう。
そんな武器の一撃を受けた劇辛は両断されるとともにその肉体が焼かれたのである。あまりにもあっけない燕の英雄の死に対して炎鬼は冷めた目で見下ろしていた。炎鬼にとっては英雄かどうか何てどうでもいいのだ。何なら劇辛がどういう人物かさえ分かっていないだろう。
「……面倒な」
そして、劇辛を討ち取った炎鬼は改めて戦場を見た。炎鬼が進んだ道はふさがれ、斉軍は燕軍に押されていた。劇辛将軍の最後の命令に従い指揮官たちが奮戦しているのだ。早くしないと斉軍は壊滅してしまうだろう。
「……行くか」
炎鬼は覚悟を決めると再び戦場に向かって駆けて行った。
この戦いは最終的に燕軍の撤退で決着したが勝者はいない戦いとなった。確かに燕軍は劇辛将軍を失い、炎鬼によって数多くの兵士が殺されたが斉軍も壊滅一歩手前まで追い込まれており、とても勝利したとは思えない状況だったのだ。
だが、燕軍の侵攻を防いだことは事実であり、勝利には違いはなかった為に斉は戦勝ムードになっていた。そして、その立役者である炎鬼の名は更に広がっていくことになるが当の本人は戦争で得た金を使って海鮮料理を楽しむのだった。
主人公は個人的な戦闘能力は中華最強ですが戦術、戦略にはからっきしです。理解はできるので出来ないというよりはやらないに近いですが