キングダム世界でファンタジーチート転生者が傭兵をするだけの話 作:鈴木颯手
嵌め殺し君と仲良く話をしているうちに咸陽にまで無事に到着した。咸陽はいつもに比べてバタバタしているように見える。どうやら嵌め殺し君が来たことは唐突だったらしい。もしかして呂不韋の独断だったのかな? 丞相だし問題はないだろうけど。
「炎鬼殿。李牧の護衛感謝する」
「ん」
咸陽に入ってからは嵌め殺し君達と別れて呂不韋の元に直行しようとしたら諏〇部さんと出会った。どうやら呂不韋から護衛の件は聞いていたらしい。諏〇部さん軍の最高責任者らしいからね。
まぁ、諏〇部さんも話は聞いていなかったのかいつもよりも余裕は無さそうに見える。眉の間に険しい皺が出来ているから今回の事に憤りを覚えていそうだな。
「そしてこれは私からの依頼になるがもし、丞相と李牧の話しあいが決裂した場合、私の合図で李牧を切り捨てて欲しい」
「ん。良いよ」
諏〇部さんのお願いだし聞いても良いかな。諏〇部さんだし。
「……本来ならば衛兵に紛れる必要があるがそなたにそれを命じられる者はいないだろう。好きな位置についてくれて構わない」
「ん」
諏〇部さん分かってるね。優秀な人だけあるね。呂不韋ならば面白おかしくここが良いと言ったりしてくるだろうし小言おじさんならきっちりと礼節を指せようとしてくるだろう。熊さんは……そんなこと言わないしおじいちゃんも気にはしないだろうね。
「では私はまだやることがある。先に王宮内に行っていてくれ」
「良いよ」
諏〇部さんが階段の下に目を向ければボロ布君と白布君がいた。どうやら二人も呼ばれたらしい。まぁ、二人の実力を考えれば妥当だな。
しっかしお腹が空いたな。護衛中は大していいもん食えなかったしこれが終わったら呂不韋に美味しいものご馳走してもらおう。いっぱい頑張ったしいつもよりもうまいもんが食えるはずだ。お肉にお魚にお野菜。一体何が食べられるのか今から楽しみだな。
ついでに誰か女性でも見繕ってもらおう。とはいえ何故か最近は女性を抱こうとすると変な視線を感じて萎える事が増えたんだよなぁ。でもスキルで感知できないし気のせいなのかな? さすがに俺のスキルを上回るスキルを持つ奴がいるなんて考えられないしな~。……本当にいないよな?
馬陽の一件で王騎将軍によって結成された信を隊長とする百人隊、飛信隊は三百人隊に増強されて前線で活躍していた。そんな中、李牧が来朝するという事を受けて前線から呼び戻された信と羌瘣は昌平君の命令で衛兵に紛れて会場内に入るように命令を受けた。当初こそ暗殺するような真似を嫌い、拒否していた信だが昌平君の次の言葉に驚愕することとなった。
『お前がどう思おうが関係はない。李牧と因縁があるから特別に呼んだだけだ。信、お前がやらぬというのであれば炎鬼殿を筆頭として他の者達が切るだけだ』
『っ!? 炎鬼!? アイツも来ているのか!?』
『そうだ。私がお前と同じように合図で李牧を切るように指示を出している。奴がいる以上しくじることはないだろう』
『……』
そのように言われてしまえば我儘を言う事は出来ない。例えする気がなくとも李牧だけはこの目で見ておきたいと信と羌瘣は衛兵の服を着て後方から会見をうかがう事になったわけだが……。
「おい、アイツはあんなところでいいのか?」
「俺が知るわけねーだろ。……だけど、言えるのは
信と羌瘣は炎鬼が座っている場所、呂不韋の隣を見て驚愕していた。他の文官たちも驚きこそすれそれに対して咎めるような事を言う者はいなかった。それだけ、文官の間にも炎鬼の実力が浸透してきているという事と炎鬼ならばこの程度の事をしても問題ない程の実績を持っている事の表れでもあった。
では趙の面々はどうかと問われればこちらも何かを言う事はなく、むしろ正面から見る形となった事で若干名だが顔を青くしている程だった。李牧達が道中でどのような目に遭ったのかを知らない信ではただただ趙でさえ何も言えない相手であると映っていたのだ。
「趙国宰相、李牧です」
「秦国丞相、呂不韋である」
二人の挨拶と共に始まった会見だが信は改めて李牧という人物を間近で見たことでその実力を朧気ながら把握する事が出来ていた。戦術家とは思えない程武の気配を漂わせる李牧に信を始めとして秦国側は李牧の実力を改めて認識していた。
一方で趙国側も呂不韋の
そうして始まった会見だが意外にも二人の会話は穏やかに進んだ。呂不韋の何処か棘や皮肉を感じさせる言葉に李牧はさらりと躱しながら答えていく。とても敵対する国同士のナンバー2の会話とは思えない程穏やかに流れていたが呂不韋の次の言葉でそれも終わった。
「やはり李牧殿にはここで死んでもらおうか」
「っ!」
呂不韋のその言葉に趙国も秦国の人間も反応した。予想していたとはいえいきなりの流れに過剰な反応をせざるを得なかったのだ。
「李牧殿は自らを小心者と言ったがワシは長年商人として多くの人を見てきた。李牧殿のような事をほざく輩はどうも小さく見えるのだが貴殿は逆に大きく見える。ただの策士とは到底思えぬ貴殿は今後秦国を蝕む槍となり、趙国を守る絶対的な盾となるだろう。だから、そうなる前にここで殺す」
呂不韋はそう言って不敵な笑みを浮かべる。そして、そんな呂不韋の言葉に反応した人物がいた。隣に座っている炎鬼である。彼は二人の会話に興味がないのか緊張的な会見の場とは思えない程能天気に転寝をしていたのだ。頭が上下に揺れている様子はこの場において場違いとしか言いようがなかった。
そんな彼が呂不韋の言葉に懐で抱いていた剣の柄を掴んだのである。そして、顔を上げた炎鬼の表情は戦場で見せる敵を殺すときの目をしていた。その瞬間、趙国の人間たちは自らが死んだと一瞬錯覚する程の殺気に全身を襲われた。
視界がブレて、自らの頭部が切り落とされる。それを明確に感じてしまい、何人かが膝をついた。李牧でさえ顔色が悪くなっており、すました顔を維持する事で精いっぱいとなっていた。
……炎鬼は別に『威圧』スキルを放ったわけではない。何ならスキルを発動すらしていない。炎鬼でさえ気づかないうちに戦場で培った敵を殺すための殺気を無意識のうちに放っていたのである。
「……だが、貴殿に限ってこの事態が予想外、というわけでもなかろう? 王騎を嵌め殺し、僅か1年で宰相にまで登りつめた天才李牧の話を聞こうではないか」
しかし、その一方で呂不韋は李牧に対して自らの首に代わるものを差し出せと暗に言ってきた。いくら何でもここで李牧を殺すのはかなりのリスクを背負う事になる。敵とは言え他国の要人を勝手に殺すようでは他の六国の信用を失い、秦は孤立してしまうだろう。どんな国であれ信用ならない相手とは敵対こそすれ手を組むことはありえなくなる。それを避ける為にも李牧を殺すような事は出来ないが同時に李牧の首はそれだけの危険を冒す価値があったのだ。
「勿論ですとも。しっかりと丞相が満足いただける手土産を用意していますよ」
「当然ながらそれは貴殿の首よりも重い物でなければ話にならんぞ」
「承知しておりますとも」
李牧はそう言って不敵に笑い、自らの首の代わりとなる手土産を準備するのだった。