キングダム世界でファンタジーチート転生者が傭兵をするだけの話 作:鈴木颯手
それと感想でもあったのですが段々主人公が男に見えなくなってきてしまった……。TSさせるかそれとも女体化のスキルでも追加した方が良いのか……。
秦と趙の間で同盟が結ばれた事により、王宮は再び慌ただしく動く事となった。何しろ、同盟成立を祝して王宮の副殿にて祝の宴が催される事になったからである。王宮に仕える者達は男女関係なく右往左往しながらも準備を淡々と進めていく。
特に料理人たちは文字通り死ぬ気で極上の料理を作っていた。目は血走り、少しのミスも許さないという傍から見れば異常な程の熱量を込めていたがこれには訳があった。
-不味い料理だしたら殺す。
空腹で苛立っていた炎鬼が料理人の前に現れてそう宣言した為である。普段であれば料理人相手にそこまでのことは言わない。基本的に呂不韋が囲い込んだ者という事もあるが美味しければなんでも良いというスタンスだったためだ。
しかし、今回に関しては空腹で苛立っている事と宮廷の料理人、つまり呂不韋配下ではない為に気を使う必要は無いと考えての行動だった。無論、そんなことなど相手からすれば分からないし関係ない。ただただしくじれば自分たちの命はないとだけ理解させられていたのだ。
「ん。まぁまぁ」
そして、そんな料理人の後ろで炎鬼はつまみ食いをしながら監視するように見ていた。つまみ食いがメインなので料理人に対して関心はないが当然ながらそんなことが料理人たちにわかるはずもない。彼らはミスをすればこの場で殺されると感じて人生の中で一番の料理を次々と完成させていった。
そんなわけで祝いの席には相応しい極上の料理が次々と会場に運ばれていく。ちなみに、つまみ食いをして多少苛立ちが収まった炎鬼が気まぐれに料理を運ぶ手伝いをしていた。彼の手に掛かれば人が抱えて運ばなければならないような大皿料理を両手に一皿ずつ持っていく事など簡単だった。
「美味しいから、残したら駄目だよ?」
「ひっ!」
そして、運んだ皿を置く時に近くの秦趙両方の人間にぼそりとそう呟く事も忘れない。本人的には美味しいから残すのは勿体ないというニュアンスで言ったのだが彼らからすれば残せば自分たちの命はないと感じてしまっただろう。
「んあ」
そして、皿を置いて改めて会場を見た炎鬼は思わずと言ったように声が出ていた。そこはまさにこの世の楽園と呼ぶにふさわしい光景だったからだ。秦が誇る至上の料理に酒、天女の如き美女たちが舞を踊り、演奏家たちがそんな彼女たちの魅力を十分に引き立てていく。
一つだけ欠点を上げるとすればそれに参加する者達の表情が険しい事だろうがそれも無理もない。殺し合っていた両国がいきなり同盟を結んだからと言って仲良くできる方が可笑しいのだ。
「あ、ボロ布君と白布君」
「っ! 炎鬼か!」
「……っ」
ふと、会場に入って来た人たちが知り合いだったことに気づいた炎鬼が声をかける。声をかけられた人物、信と羌瘣は炎鬼を見て驚きながらもそれに応えた。羌瘣だけは会った時の印象のせいで少し警戒というか気まずそうにしていたが。
「前もそうだったがお前の殺気やべーな! 体が固まって動けなくなるんて初めてだったぞ」
「……あれくらいよゆー」
「あんなのできるの何てお前くらいしかいねーだろ」
信と炎鬼は呑気に話しながらも歩き出す。会場は既に人でいっぱいであり、座れるところが残っていなかった。幾人かの知り合いはいれど席は空いていない為に空席を探してさ迷っていたのだ。
「あ、嵌め殺し君の前開いてるじゃん」
「嵌め殺しぃ? 誰だそんな変な仇名の奴」
「……それは恐らく私の事ですよ」
「っ!!??」
炎鬼がたまたま開いていた席を見つけてさっさと座った。信はその前にいっていた嵌め殺し君という不名誉な綽名が誰なのか問いかけたがそれに応えたのはそう呼ばれている本人、李牧だった。
そう、3人が見つけた席は丞相呂不韋の席だったのだ。炎鬼はともかく信と羌瘣がそこに座るのは不味かった。何しろ丞相の席だ。炎鬼相手ならば笑って許してしまうだろうが信相手ならば容赦はしないだろう。
「丞相の席は流石に不味いですからね。他の席をお勧めしますよ」
「っ!」
王騎将軍の仇たる李牧を前に思わず剣を抜こうとしたがそこで彼は気づく。会場は宴席の場である。武器の持ち込みは許されておらず、信は剣を預けてしまっていたのだ。ちなみに、炎鬼は武器を取られていない。武器を閉まっていたこともあるが誰も炎鬼に声をかけようとしなかったために素通りしてしまったのだ。
「ん? 座らないの?」
「炎鬼殿、流石に呂不韋丞相の席に衛兵が座るのはいけないでしょう? ほら、向こうで彼の知り合いが呼んでいますよ」
そして、席など一切気にしない炎鬼は信が座らない事に首をかしげていたが李牧の言葉にそれもそうかと納得して目の前の料理を食べ進めていく。空腹という事に偽りはなく、李牧の前に並んだ料理は半分以上が炎鬼の胃の中に流れていった。
李牧は巨体でもない炎鬼の体の何処にこれだけの量の食べ物が入っているのでしょうかと少し引きながらも信と呼ばれた少年の名に引っ掛かりを覚え、そして気づいた。
「もしかして飛信隊の信、ですかな?」
「っ! 知ってるのか」
「勿論です。百将の身でありながら我が国の将軍を討ち取った方ですからね」
馬陽での戦いの際、信は百人隊を率いて趙将馮忌を討ち取っていた。情報戦に通じている李牧はきちんと信の名を把握していたのだ。そして、王騎将軍より矛を受け取っていたことも。
「とすると貴方は私が殺されなくて残念に思った事でしょうね。何しろあなたにとって私は仇に等しいので」
「んなわけねーだろ」
李牧の何処か挑発するような言動に対して、信は即答した。確かに仇であり、憎くもある相手に間違はない。絶対に倒すと決めてもいるがそれは
「確かに王騎将軍を討ったお前は憎いがそんなお前がこんなしょうもない場所で死んで良い分けねぇだろ。お前は俺が戦場でぶっ倒す」
その言葉に李牧は目を細めた。同盟を結んだばかりの宴席の場で決して言って良い言葉ではない。実際、参加している者どころか演奏家も舞を舞う美女たちでさえ信に注目している。注目していないのはほぼ全ての料理を食べ終えて満足そうな炎鬼くらいだ。
「……いいでしょう。私は人の名前と顔を覚えるのに自信があります。貴方の事はきちんと覚えておきますが果たしてあなたに出来るでしょうか?」
「確かに今の俺じゃ無理だ。馬陽の功績で三百人将になったばかりだしな。だけど、ぜってー上に上がって将軍になってお前を倒してやるよ」
そう、静かに宣言する。信の場の事を何も考えていない発言に誰もが驚くがその中で李牧は笑った。若き将の啖呵に。
「信! いい加減にせぬか!」
「んが!?」
しかし、それ以上は黙ってみていられないと言わんばかりに昌文君が信の元まで近づき、彼の頭に拳骨を落とした。そして料理を名残惜しそうにしている羌瘣と共に信を引っ張り自分の席へと連れて行った。
「……いやはや、我が国の者が無礼を働いたようで」
「! 丞相も来ておられましたか。問題ないですよ」
その時、いつの間に現れたのか呂不韋が傍に立っており、李牧に謝罪をしたがそれを笑って返した。この程度の事李牧には無礼にもなっていない。さんざん炎鬼の嫌がらせを受けた後ではあんなので心が揺れ動く事などないのだから。
「ですが秦国は面白い若者が育ってきているようで羨ましく思いますよ」
「そうですかな? 趙国とて探せば将来有望な若者の一人や二人、見つかってもおかしくはないでしょう」
呂不韋はそう言って笑う。李牧も笑みを浮かべて呂不韋の言葉に返した。
「……ところで、李牧殿はどうやら我が国の料理を気に入っていただけたようですな」
「? それはどういう……」
「おや? ワシの分の料理まで食べた様子なのでそう思っただけですが」
李牧はそこで漸く眼下の料理に視線をやった。そこには完全に空となった料理の皿だけが並んでおり、酒すら残っていなかったのだ。李牧はハッとして目の前の席にいたはずの炎鬼がいない事に気づいた。よくよく見れば信たちと共に炎鬼も移動しており、羌瘣と共に料理を取り合っている姿があった。
「どうやら李牧殿は大食漢のようですな! なに、食べる事はよい事ですぞ!」
「は、はは。そうですね……」
呂不韋がどこまで本気かは分からないものの、大食いという名誉か不名誉か微妙な勘違いをされている事に李牧は引きつりながらそう返すのだった。
因みに、宴席の場に用意された料理のうち、半数以上が炎鬼の胃袋に入る事になるが完全なる余談である。
ずっと頭に引っ掛かっていたのですが炎鬼がなんかのキャラに似てるなぁと思っていたけど恋姫の恋だったことに気づいた。表情に乏しい、強い、ご飯好き、旗も呂だし。好きなキャラだったから知らず知らずのうちに寄せていたのかもしれない。