キングダム世界でファンタジーチート転生者が傭兵をするだけの話   作:鈴木颯手

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第二十六話「山陽3・布陣」

 蒙驁、桓騎、王翦が率いる3つの軍による足並みを揃えた進撃により秦は山陽に存在する城のうち16にも及ぶ城を落とすことに成功していた。ちなみに、落とした城は蒙驁が3、桓騎が5、王翦が8であった。蒙驁軍の数が少ないのは高狼城を始めとする主要な城を中心に落としていた事が理由であった。

 

「れ、廉頗が出てきただと!?」

 

 しかし、蒙驁軍の快進撃もそこまでであった。何と迎撃に出てくる軍を率いているのは廉頗将軍だという事が発覚したためである。

 元趙国三大天にして王騎将軍ら六大将軍としのぎを削り、黄金時代とも言える時代を築きあげた人物であった。並みいる将が代替わりを果たした現在、中華最強の将軍と言ってもおかしくはない人物である。

 現在の趙王である悼襄王とは折り合いが悪く、彼が即位するとその地位を奪われてしまった為に魏へと亡命してきていたのだ。しかし、その魏でも王との仲は芳しくなく、亡命してきてから一度も戦場に出る事はなかったのだ。

 

 それなのにこのタイミングでの出陣。驚かない方が無理というものだ。

 

「安心せよ。廉頗が出てくる等想定済みじゃ」

 

 一方で蒙驁将軍が動じることはなかった。廉頗が魏にいる以上何時出てきてもおかしくはなかったのだ。可能性は低いとしても想定はしているのが将軍という万の兵を預かる者としての責務であった。

 因みにだが、蒙驁将軍は廉頗出陣の報を聞いて一度は怖気づいていたがたまたま出会った信との会話で自信を取り戻していた。

 

 

 

 

 

「炎鬼。白老を出迎えるから一緒に来い」

「えー」

 

 決戦の地となる流尹平野に到着して本陣を構えた桓騎は完全にだらけきっている炎鬼を引きずるようにして蒙驁将軍の出迎えに出ていた。既に廉頗はこの地に辿り着いており、本軍が到着するのを待っている状態にあった。

 

「盗賊王。面倒だから背負って」

「自分で歩け」

 

 結局、一度も城攻めに参加できなかった炎鬼のやる気の低下は凄まじかった。摩論の料理ですら食べる気になれず、誰もが心配になるほどだった。

 現在も桓騎に首根っこを掴まれてズルズルと運ばれている。明らかに雑な対応だが桓騎の口元には笑みが浮かび、炎鬼も何処か楽しそうにしているあたりどちらもこの状況に不満はないようだ。端から見れば気が気ではない状態ではあるが。

 

 そして蒙驁将軍が通る道まで桓騎が出てきたとき、炎鬼は目の前の人物を見て露骨に顔をしかめた。

 

「んげ、変態仮面」

「……」

 

 炎鬼はもう一人の副将である王翦を見てそう呟くが彼は最早興味が失せているのか反応することなく蒙驁将軍が来る方向をジッと見つめていた。

 

「なんだぁ? こいつと仲がわりぃのか?」

「嫌い。変態。馬鹿、能無し、クズ、変態仮面」

「ククク。随分と嫌われているじゃねぇか」

 

 桓騎は王翦との馴れ初めを知らなかったが炎鬼の口から明確な悪口を言っているのを聞き、面白そうに笑った。これまでの付き合いから炎鬼が酷い渾名をつける事はあっても明確に誰かの悪口を言っているのを見たことはなかった。

 それだけにどうやったらここまで嫌われるのかと嘲笑っていたのだ。炎鬼は王翦を視界にも入れたくないのか桓騎の横に立ち、壁代わりとした。

 

「何やってんだ」

「桓騎バリアー」

「……バリアーってのが何なのか知らねぇが俺を間に挟むな。餓鬼か」

「確か去年で40歳超えましたー」

「年上かよ。おっさんが何してんだ」

「心は10代」

 

 どう見ても20代前半の若者にしか見えない炎鬼の実年齢がアラフォーだという事に桓騎は内心で驚愕しつついつも通りの会話を続ける。相変わらずの規格外だと桓騎が思っていると蒙驁将軍が漸く到着し、桓騎と王翦は礼をした。

 

「お待ちしておりました」

「大将軍」

「フォッフォッフォッ。二人ともご苦労。炎鬼殿もよく参戦してくれた。礼を言うぞ」

「ん。何もしてないけどね」

 

 炎鬼は桓騎が敬語使って敬意を払っている姿に似合わねぇ、本当に盗賊王か? と内心驚愕しつつ蒙驁の労いの言葉に軽く返した。益々蒙驁と桓騎の関係が意味不明だと感じつつも黙って様子を見ていた。

 

「魏軍の本体もまもなくこの地に到着します」

「今日中に戦が開始されるでしょう」

「……わかった。ならばこちらも準備をするとしようかの。二人とも、配置につくのだ」

「「はっ!」」

 

 やる気十分の蒙驁はすぐさま布陣を行い、魏軍———廉頗との戦いに備えさせるがそこで驚きの情報が駆け巡った。

 

「急報! 魏軍総大将は白亀西! 繰り返す! 総大将は廉頗に在らず! 白亀西なり!!」

「白亀西? 誰だそれ」

「亀さん?」

 

 魏軍総大将となったのは白亀西という人物であった。魏軍内では凡将として知られており、蛇甘平原でも呉慶将軍の副将として出陣していたが大した活躍もしなかった人物だ。

 しかし、これは逆に考えれば厄介な事でもあった。総大将が廉頗ではないという事は廉頗が自由に動き回る事が可能であると言っているような物だからである。全軍の総大将となれば万が一に討ち取られた際に総崩れとなる可能性が高い。しかし、廉頗が死んでも総大将がきちんといれば立て直しも可能だからだ。凡将だが魏国内では人気の高い白亀西ならそれも可能なのである。

 それに加えて言うのであれば廉頗は亡命して以降魏王に疎まれており、戦場に出る事が許されていなかったと噂されていた。そのせいで今回も出てくる可能性は低いとされていたのだ。完全に油断させられていたと言えるだろう。

 秦趙同盟を成したことで趙への警戒の為に軍を割かずに済んでいるとはいえ大国楚への警戒もあり、援軍を蒙驁将軍に送ることは難しかった。つまり、蒙驁将軍は現状の手札のみで中華最強の廉頗将軍に挑まねばならないのだ。

 

「フォッフォッフォッ。では始めるとするかのぅ」

 

 しかし、蒙驁将軍は恐れはしない。かつての祖国斉で()()()()した相手である廉頗に最後の最後で勝利するために。

 

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