キングダム世界でファンタジーチート転生者が傭兵をするだけの話   作:鈴木颯手

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第二十七話「山陽4・開戦」

 山陽の西側に広がる流尹平野にて蒙驁将軍率いる秦軍14万と廉頗率いる魏軍14万は互いに展開を終えた。秦軍は左翼に王翦、右翼に桓騎を配置し、中央軍が敵中央軍の攻撃を防いでいる間に左右の軍勢が敵軍を突破し、本陣を落とす作戦を取った。

 一方の廉頗も同様の策を取った。とはいえそれは蒙驁将軍のそれとは真反対のものであり、左右の軍勢が敵を抑えている間に中央軍が敵を突破し、本陣を落とすという物だ。そのために廉頗は中央軍の将として自身が最も信頼し、王騎将軍の防陣を軽く突破したうえで傷を負わせる程の活躍を見せたことがある輪虎を派遣している。更に後方の第二陣には廉頗将軍の幼少期の師として軍略を叩きこんだ軍師玄峰を配置する徹底ぶりを見せていた。

 

「向こうは介子坊とか言うよくわからねぇ奴だ。いつも通りで十分だな」

 

 右翼に展開した桓騎は開戦と同時に本陣を移動し、山々の中に隠し、全軍にゲリラ戦を徹底させた。奇襲を前提としてある程度戦えば逃げ、深追いしてきた敵兵は徹底的にたたく嫌がらせの如き戦術を取った。

 良くも悪くも普通の将である介子坊はこの桓騎の攻撃に対して苦戦を強いられていた。何しろ兵法からは逸脱した動きを見せるために敵の行動を読み取れないからである。その証拠として介子坊は移動した本陣の位置を特定する事もかなわずに手をこまねいている状況にあった。

 

-やりづらい相手だ。どの兵法にも乗らない独自の戦術。蒙驁はこれほどの将を隠し持っていたわけか。

 

 そして、何よりも介子坊を苦しめたのは桓騎の残虐性にあった。開戦して直ぐに魏軍の兵士の無惨な姿が散見されるようになった。串刺しにしたり、目玉をめぐりだして袋に詰めて送り出したり、腸を取り出してそれで肉体を飾り付けたり……。

 とにかく見ただけで吐き気を覚え、数日は脳裏にこびりつくような悲惨な死体を量産したのである。最初こそ仲間のむごい死に方に激怒し、士気を上げていた魏軍だが桓騎の正面からは決して戦わないゲリラ戦と何度も行われるむごい殺し方のせいでそれも直ぐに陰りを見せてしまっていた。

 開戦より4日も経てば介子坊軍の士気は徐々に低下し始めていた。輪虎と玄峰によって秦中央軍に大打撃を与え、中華十弓の一人として確かな腕前を持つ姜燕による矢を用いた指揮によって有利に進めている中で唯一の魏軍の劣勢の場所となっていた。

 

-加えて、此度の戦にはあの炎鬼が出てきているという。奴が戦場で叩き出した戦果は紛れもない事実。そんな相手が何時出てくるのか。それを考えるだけでも警戒をせざるを得ず、こちらの神経を削ってくる。

 

 そして、一番の問題は桓騎軍にいるはずの炎鬼が未だ戦場に出てこない事だった。ただでさえ山々が点在する戦場において炎鬼の位置を補足できていないことは行軍する魏軍を常に警戒させることとなり、結果的に神経を大幅に消耗させ、戦いで全力を出せなくなっていた。

 

-最悪の場合他の戦場にいるのかもしれない。だが、そう思わせてこちらの油断を誘っている。そう考えてしまう。

 

 この神経の消耗は炎鬼が出てくるまで続くだろう。炎鬼がひとたび戦場に出ればそこは敵対する者にとって地獄と化すが存在するのに姿を見せない事がここまでキツイとは考えもしていなかったのだ。

 

「何をしておるか介子坊。四天王筆頭の名が泣くぞ」

「ッ! 玄峰様」

 

 しかし、そんな介子坊の元に訪れたのは本陣にいるはずの軍師玄峰だった。廉頗を支える四人の将である四天王。その実力は廉頗に次ぐと言える上に一部においては凌駕していると言っても過言ではない英傑だ。

 それなのにその筆頭である介子坊の苦戦に玄峰は苦言を呈したのだ。

 

「廉頗からの指示じゃ。この軍の実権はしばし儂が預かる事になった」

「……策士には策士、というわけですか」

 

 廉頗からの指示という事と指揮官の交代という事実に本陣の兵たちは驚きを隠せなかったがそんな中で同様すら見せなかったのは介子坊だった。廉頗の指示という事で異論はない上に自身では桓騎の相手は難しいとここまでの戦いで分かっていた為だった。

 

「阿呆。精神攻撃に頼るアヤツと一緒にするではない。儂が本当の軍略という物を見せてやろうではないか」

 

 そこからの玄峰の動きは早く、的確だった。図面を頼りに桓騎の本陣を当てるとそこに介子坊に本軍を率いらせて向かわせたのである。介子坊は廉頗に匹敵する程の破壊力を持ち、正攻法では決して勝てない力を持っているのだ。玄峰はそんな彼を最大限生かせるように指示を出したのである。

 

-流石です。玄峰様。

 

 そして、そんな介子坊は山々の間に布陣する桓騎軍本陣を見つけ、四天王一の軍略家である玄峰に尊敬の念を抱いた。眼下に広がる桓騎軍は介子坊の動きを知っていたようで抗戦の構えを取り、待ち構えていた。

 しかし、その程度で介子坊が負けるはずがない。いざ戦えば桓騎軍等一ひねりであるからだ。

 

「行くぞ! ここの戦いに決着をつける!」

「「「「「オオォォォォォっ!!!」」」」」

 

 そして介子坊は軍を率いて桓騎軍を強襲した。

 

 

 

 

 

「ん。邪魔」

 

 そして、そんな介子坊は突如として現れた炎の剣線を最後に一瞬で葬られた。

 

 

 

 

 

「今頃お前が向かわせた最強の軍勢は返り討ちに遭っているだろうよ」

「桓騎……!」

 

 魏軍左翼本陣にて玄峰は目の前の人物の登場に驚きを隠せなかった。何しろ目の前には敵の副将である桓騎がいたのだから。本陣にいた兵は桓騎が連れてきた兵により皆殺しにされており、玄峰を守る兵士は残されていなかった。

 玄峰がここまで桓騎の接近を許してしまったのには理由があった。桓騎は伝令兵を殺し、彼らに扮して本陣に接近したからである。このために桓騎は伝令兵を見つけては優先的に殺すようにしていた。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 結果的に玄峰はじめ誰もが桓騎の接近に気づかなかったのである。

 

「炎鬼が出てくるとは思ってなかっただろ? そりゃそうだ。そう思わせたからな」

「……成程のぅ。してやられたわけか」

 

 実は一部で桓騎兵とは思えない程徹底的に殺される部隊がいた。それらは桓騎軍の残虐さに隠れてしまっていたが玄峰はそれを見逃すことなくそこに炎鬼がいると思い込んでいた。つまり、炎鬼が本陣を遠く離れて魏軍をせん滅していると思わせたのだ。

 

「介子坊とか言う奴がどれほど強いとしてもあいつには勝てねぇよ」

「おのれ……!」

 

 小馬鹿にするような態度の桓騎を最後に玄峰は首を切られ、その生涯に幕を閉じる事となった。

 

 玄峰及び介子坊の死と魏軍左翼の壊滅は即座に廉頗の耳に届けられた。そして、桓騎軍を見失い、炎鬼は見せつけるように堂々と移動している事も。

 片翼の崩壊は魏軍の動きを完全にマヒさせることとなり、戦略を練り直す事に迫られるようになるのだった。

 




実は主人公が山陽戦で最初の戦いでした。ずっと不貞腐れて本陣で飲み食いしてたので。漸く戦えた事で勢い余って介子坊とその他諸々を一撃で真っ二つに割っています。ぶっちゃけここで死んでも問題ない人なので死んでもらいました。
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