キングダム世界でファンタジーチート転生者が傭兵をするだけの話 作:鈴木颯手
この戦いで最初の相手はハゲでした。どうやら古代中国ではハゲが多いようだ。確かに戦場とかでは髪の手入れが大変だしハゲの方が楽かもしれないけど皆ハゲだと見分けがつかなくなるんだよなぁ。
まぁ、そんなことはどうでもいいんだ。漸く出番が来たからついつい張り切り過ぎて大量の敵兵事スパーンと切り捨ててしまったのだ。周囲の木も巻き込んだから火災が発生してそっちの消火活動が大変だった。
あ、ここに来た敵兵は全部切り捨てたよ。最初の一撃で総崩れだったけど逃すわけないので皆死んでもらいました。特産物が無いから別に殺しても問題ないしね。
「よくやったな、炎鬼」
「ぶい」
敵本陣を奇襲してきた盗賊王が戻ってきた。なんでもなんとか峰? とか言う軍師をスパッとやったらしい。ブドウみたいな名前だし詰めも甘かったのかな?
「これからどうするの?」
「あ? 決まってるだろ。次の標的の元に向かう」
「廉頗将軍?」
廉頗将軍が相手だと流石の盗賊王も厳しいと思うけど。廉頗将軍の武力に勝る人ってこの秦軍にいないからさ。辛うじてボロ布君が戦えそうくらいだし。白老も武力は良いんだけど廉頗将軍には遠く及ばないから。
「炎鬼。お前は敵を煽るように堂々と道を歩け。敵は炎鬼の実力を恐れて常に警戒するだろうからな」
「ん。目的地は?」
「好きにすればいい。もう俺はお前に我慢しろなんて言わないからな」
成程。独立行動を許すと。……マジでどうしよう。盗賊王と一緒に行動しても良いけどなんか気が乗らないし。確か総大将って亀さんでしょ? 誰かは知らないけど廉頗将軍じゃないなら本陣にはいなさそうだなぁ。あの人なら自分から突っ込んでいきそうだし。
「中央に行く」
「輪虎を討つのか?」
「寝る」
「……」
「……」
あ、今呆れられた。なんか盗賊王の俺を見る目が残念な者を見る目になっている。自覚はあるけどやめて欲しい。悲しくなる。
「廉頗将軍なら本陣奇襲してきそう」
「ふ、それもそうか。どっちにしろ俺はもう命令しないからな。好きにすればいいさ」
「ん。そうする」
……うん。
「バイバイ。桓騎」
「っ!? ……く、クハハハ!!! 戦後は酒を奢ってやるよ。とびっきりのな」
「ん。楽しみにしてる」
そう言って盗賊王、桓騎は楽し気に笑いながら山々に入っていった。桓騎ならば魏軍の目から逃れる事も出来るだろう。盗賊だけあってそういった事は得意みたいだし。
……さて、俺は本陣に行きますか。正直に言って二か月何もしていなかったせいであまり気分も乗らないしやる気も出ないからな。桓騎としては最高のタイミングで最大の戦果を出したかったんだと思うけどちょっと長くなりすぎたね。眠いわ。
「介子坊を討ち取ったのは炎鬼らしい」
「なっ!? あいつが!?」
「ああ。本陣に隠れていて介子坊軍を全滅させたらしい」
「……」
夜、臨時で千人将に繰り上がった信は同じく千人将となった蒙恬という青年に誘われて同じく千人将となった王賁の元を訪れていた。実は王賁は初日に輪虎と戦い大怪我を負っていたのだが二人が訪れた時には怪我も大分治り、槍を振って勘を取り戻そうとしている姿があった。
「これで右翼の戦いは決着がついたも同然だ。魏軍は壊滅状態だしね。まぁ、流石に桓騎軍の攻撃をそのまま易々と受けるとは思わないから決着には程遠いと思うけどね」
「だが輪虎は本気を出してくる可能性もある。今の中央軍にそれを受け止められる力はない」
蒙恬もその点に関しては完全に同意していた。王騎将軍の防陣を打ち破るような相手にこの軍が勝てるはずがなかった。戦う前から幾人もの千人将を討ち取られ、連携能力が著しく低下している中央軍がこれ以上の猛攻に耐えられるはずがなかったのだ。尤も、輪虎の実力を考えれば例え万全の状態でも蒙驁軍では勝てるとは言いづらいのだが。
「とにかく、右翼が崩れた以上輪虎も本格的に攻めてくるはずだ。魏に残された時間は少ないからね」
「だが向こうも準備が必要なはずだ。明後日、だな」
「明後日……!」
蒙恬も王賁も魏の動きを朧気ながらも理解できていた。信もそこまで分からないとはいえ時間が残されていない事だけは理解した。
「そこで、だ。俺からの提案だけど輪虎を討つ為に3軍で連携しない?」
「連携だと?」
「ああ。とはいえ狙うのは輪虎じゃない。彼の回りにいる兵たちだ」
「あ? 態々兵士を狙うのか?」
信は蒙恬の提案を理解できていないようで首を傾げているが王賁は言いたい事を理解したのか険しい表情をした。
「輪虎兵か」
「その通り。輪虎は亡命する際に選りすぐりの精鋭兵を数百ばかり連れてきている。当然、この戦いにも連れてきて輪虎の回りを固めているよ」
この精鋭兵の実力を王賁は理解していた。何しろ初日に輪虎に狙われた際に戦っており、それによって玉鳳隊も少なくない犠牲を出していたのだから。
「輪虎の攻撃に彼らは常に傍についてその突破力を高める手助けをしている。彼らがいるのといないのとでは倍くらいの差があると言っていい」
「それほどかよ……!」
「だからこそ明日はそこを狙う」
輪虎兵がいなくなれば輪虎の突破力は著しく低下する。流石に魏軍にそこまでの力はないのだ。
「だが奴らの実力は本物だ。返り討ちに遭う可能性が高いぞ」
「分かってるよ。だから俺の隊が潰れ役になる。そしたら二人は輪虎に突撃してほしい」
全ては勝利をつかむために。蒙恬は自らの隊を犠牲にする事を決めたのである。逆に言えばそうでもしないと勝利は難しいと判断したのである。
「正直なところ炎鬼にも手伝ってほしいけど難しいからね」
「なんでだ? 無茶苦茶嫌だけどアイツの実力は本物だし輪虎だって討てるだろ」
幾度となく炎鬼の戦いを間近で見てきた信は当然とも言える疑問を口にする。実際、炎鬼がいれば輪虎も敵ではないだろう。輪虎も十分脅威ではあるが炎鬼はそれすら上回る規格外の存在である。同じ人間かさえ怪しいと信は思っていた。
「それがね。桓騎将軍が必殺の一撃に使用するために戦いに出さなかったせいで拗ねちゃったみたいでね。今は本陣でふて寝してるってさ」
「なんだそりゃ……」
「兵士としては失格だな」
蒙恬の言葉に信は呆れ、王賁は侮蔑するように吐き捨てた。炎鬼が王賁を嫌っているように王賁も炎鬼を嫌っているのだ。醜態を晒す炎鬼に厳しい言葉を放つのは当然と言えた。
「仕方ないさ。むしろ炎鬼頼りでいる方が危険だ。彼だっていつも秦にいるわけじゃない。楚や斉でも活躍しているんだ。炎鬼に依存すればするほどいざという時に危険だからね」
一方で蒙恬は炎鬼をそこまで重要視していない。確かに秦にいて欲しい相手だがそれを無理強いすれば逆に炎鬼は秦を離れてしまう事を理解していたからだ。炎鬼を秦に引き留めたいのならこれ以上は無理強いするべきではない。
しかし、そうすれば最強の手札としては不安定すぎる者だった。故に蒙恬はいればラッキーくらいに考えるようにしている。彼に頼れば頼る程自分たちが劣化していく気がしたからだ。
「それに逆に言えば炎鬼が本陣にいるということは本陣が陥落する可能性はないという事。無茶をして失敗しても大丈夫って考えることが出来る」
無論そんなつもりで挑めば痛い目に合うのは自分自身だが過度な緊張を持たずに済み、リラックスして無茶な攻撃に出る事が出来るだろう。
「とにかく、明日の奮戦次第でどちらの勝利になるかが決まると言って良いだろう。お互い頑張ろうね」
「おう! 任せとけ!」
「……」
蒙恬の言葉に信は勢いよく答え、王賁も無言で同意するのだった。
呂不韋、王騎、廉頗に続き桓騎も名前を覚えられました。8割が桓騎の魅力、0.1割くらいが桓騎軍の緩さ、残りが摩論の料理によるものです。