キングダム世界でファンタジーチート転生者が傭兵をするだけの話 作:鈴木颯手
やる気が出ない。桓騎によって本陣に長くいたせいもあっていつもならあるはずのやる気が全くでない。白老の本陣に作られた天幕の一つを占拠してゴロゴロしてるけどいい加減暇になってきた。でもやる気が出ない。このまま何もしないでも10年くらいいられそう。
戦いは佳境に入ってきているとは兵士が言っていた。どうやら桓騎軍が活躍した一方で左翼の変態仮面は窮地に追いやられているらしい。状況は分からないがどうせ「俺は勝てない戦はやらない主義だ(`・ω・´)」とか言って逃げてんだろう。副将の自覚があるのだろうか。桓騎の方が優秀だぞ。盗賊以下。阿保馬鹿変態仮面。
「っ!!?」
そんなことを思っていたせいか。あり得ない程の覇気を宿した気配が突如として現れた。それはもう本当に突如だ。『隠密』スキルか『潜伏』スキル、いや『気配完全遮断』を発動したレベルで全く気付かなかった。
「ゴラァ!! 蒙驁ォ!! へっぴり腰が治ったか廉頗様が見に来てやったぞォ!!!」
「っ! 廉頗将軍……!」
その気配の主は廉頗将軍だったらしい。成程。あの人ならあり得る話だ。王騎将軍がいない今中華最強の将軍はあの人だろうからな。このくらいは出来て当然だな。
そして、廉頗将軍の声で俺の中のやる気もグングンと上がってきている。久しく見ない強敵の出現に俺の中でとっくに消え去ったと思っていた闘志が燃え上がってくるのを感じる。
天幕を出れば兵たちが後ろに集まっていた。守備兵としてはどうなんだと思うが相手が廉頗将軍なら仕方がないだろう。彼らからすれば敵本陣にいると思っていた廉頗将軍が本陣の真後ろに来ているのだからな。
「白老」
「! 炎鬼か。どうやらやる気になったようじゃのぅ」
「ん。お待たせ」
なんだかんだでうるさい本陣の将校連中を黙らせて俺が天幕でゴロゴロしていていいいと許可を出してくれたらしいからな。その分も戦わないとな。
「さっさと降りて来い! 一騎打ちでカタをつけるぞ!」
「フォッフォッフォッ。相変わらずのようじゃの」
「行くの? 勝てないよ? 絶対に」
正直、白老の腕力は凄いがそれ以外は完全に廉頗将軍に負けている。戦えば確実に死ぬだろう。ぶっちゃけ総大将の白老が死ぬとこちらが負けちゃうからやめて欲しい。廉頗将軍って総大将じゃないって話だしうま味は無いに等しい。
「安心せい。儂は奴の前では何時も敗北者じゃった。故に奴への準備は整えておる」
「そう」
まぁ、一騎打ちはしないらしい。それに俺からでもわかるくらい自らの策で討ちたいという気持ちが伝わってくる。白老が指示を出して兵を後ろに集めるのと同時に柵とかで陣形を整えていっている。
「……廉頗将軍がここまで来たら俺が相手するよ」
「……かたじけない。儂の策が通じなかった場合は頼むぞ」
ここは白老の気持ちを汲んでやるべきだろう。これだけ自信にあふれているんだ。白老と廉頗将軍の間に何があったのかは知らないけど俺の出る幕はまだ先だという事だけは分かっている。
「ん。魔獣召喚」
さて、それじゃ俺はやる気をさらに上げると同時に白老のお手並み拝見といきますか。
自軍右翼にて王翦将軍を退け、本陣裏へのルートを確保した廉頗将軍は2千ほどの兵と共に裏手からの襲撃に成功した。その際にかつて自らの手で何度も敗走させてきた蒙驁相手におちょくりをしたりもしたが結局蒙驁がいる丘の上まで上がることとなった。
「(凡人なりに考えた儂を殺す狩場か。悪くないではないか!)」
しかし、それを廉頗は優々と超えて見せた。途中いくつも張り巡らされた蒙驁が仕掛けた見えない狩場。それらを長年の経験と戦場で極限にまで鍛え上げられた直感で回避していく。
既に半数近くが脱落し、狩られているが最終的に丘の上まで行ければ問題は無い。廉頗は例え一人になったとしても本陣の兵を皆殺しに出来る自信があったのだ。
……ただ一つの相手を除いて。
「(やはりいるか)」
開戦して直ぐに自らの配下である四天王筆頭である介子坊を殺した相手、炎鬼。魏だけではなく趙すら苦しめる戦場の悪鬼は開戦して以来その姿を全く見せていなかった。そのせいで介子坊も玄峰も桓騎にいいようにやられてしまったのだ。
「(待っておれ介子坊。儂自らの手で炎鬼を討ち取ることでお前への手向けとしてやる……!)」
これまで廉頗は炎鬼と戦った事はない。だが、その活躍を正確に理解し、実力を把握していた。その結果として自らでは勝てない可能性がある。いや、勝てない事も理解していた。
「(まさに悪鬼! だからこそ挑む価値がある!)」
本陣にいるのならば彼を倒さない限り秦軍は崩れないだろう。それを理解しているからこそ廉頗は進み、頂上へと到達した。そう、蒙驁が数十年に渡り準備を行った策は廉頗には通じなかったのである。
だが、それでも廉頗は蒙驁を討ち取るまでにはいかない。何しろ目の前には炎を纏い8本足で立つ不思議な馬に跨った炎鬼がいたのだから。
「ヌハハハ!!! 貴様が炎鬼か! 聞いていたよりも若いではないか!」
「ん。廉頗将軍。やっぱり強いね。王騎将軍以外で初めて見たよ」
「そりゃそうだ! 儂も王騎も天下を股にかける大将軍だからな!」
対峙する二人は笑う。片方が豪快に、片方は笑みを浮かべるだけだがその間に生じる圧は見ている者の全ての呼吸を忘れさせるほどの緊張をもたらした。
「儂にとってお主は介子坊の仇だ。故に、取らせてもらうぞ! その首を!」
「ん。返り討ち……ぃ!」
廉頗が振るった矛を炎鬼は自らの愛剣で受け止めた。これがただの相手ならば魔剣たるレーヴァテインによって武器は溶けて折れ、返す刀で切り殺されているだろう。いや、そもそも普通の相手ならば炎鬼が受けに回るまで間合いを詰められたりはしない。
しかし、今回の相手は違う。天下の大将軍たる廉頗の一撃は早く重かった。故に炎鬼は受けに回ったのだがその威力は想像をはるかに超えていた。
辛うじて落馬は避けたが想像以上の衝撃が走ったのか8本足の馬、スレイプニルのフレアは痛みか驚きか悲鳴のような鳴き声を上げた。
そして、その光景に誰もが絶句した。戦場において無敗且つ敵対すれば負けると言われ、相対すれば死を免れないと言われている炎鬼を相手に廉頗は弾き飛ばして見せたのだ。
「廉頗……! ここまでとは……!」
その光景は蒙驁でさえ驚愕の表情で固まるほどだった。決して甘く見ていたわけではない。しかし、それでもまさか炎鬼を相手に廉頗がここまでの戦いを見せるとは思っていなかったのだ。
「(奴は儂如きでは勝てぬ相手であったか……)」
その結果、蒙驁の中に生まれたのは諦めの心だった。祖国である斉で負け続けて以来廉頗との再戦の為に準備をしてきたがそれでも通じなかった。浅はかだったのだ。廉頗には自分如きでは決して勝てない相手であったというのに。
「オオォォォッ!!!」
「ぐっ!!」
続く薙ぎ払いも炎鬼は受けに回る。剣を相手にねじ込んで防御をするがそれも廉頗には通じない。剣ごと炎鬼の胴体に一撃を叩きこむ。ミシミシと炎鬼の骨にひびが入る。この世界に来て初めて感じる本格的な痛みに炎鬼の表情は歪む。スキルによってダメージは直ぐに回復するが痛いという感情は直ぐに消える事はなかった。そしてそれは廉頗の前では大きな隙となった。
「これでどうじゃぁぁぁっ!!!!」
「っ!!」
止めと言わんばかりに放たれる上段からの振り下ろし。それを炎鬼は真っ向から受け止めに掛かるが先ほどまでの攻撃を防ぎきれなかった以上それらを防御することは出来ない。
結果、
「炎鬼が!?」
「バカな……!」
「お、オオォォォッ!!! 廉頗将軍が炎鬼を討ち取ったぞ!!」
その衝撃はすぐに周りの兵に波及した。全く想定されていなかった炎鬼の敗北。その事実は本陣陥落や蒙驁討ち死に以上の衝撃を両軍に与えていたのだ。魏軍は雄たけびを上げて秦軍は悲鳴の如き絶叫を上げる。
しかしそんな中で訝し気な表情をしているのは炎鬼を倒したほかならぬ廉頗だった。
「(
倒すつもりで叩き込んだとは言え本当に倒せるとは思っていなかっただけに廉頗は困惑するがその疑問は直ぐに解消される事になる。
「……ん。効いた」
倒れていたと思っていた炎鬼は何事もなかったようにむくりと立ち上がって見せた。その肉体に与えたダメージはない。倒れる前に見えた傷は全て無くなり、いつもと変わらない炎鬼の姿がそこにはあった。
「油断してた。まさか
「まぁ、そうであろうの」
廉頗はニヤリと笑みを浮かべて見せた。
普段、炎鬼はスキルを多用しているが筋力増強などのステータスを強化するものは一切使用していない。理由は単純で強くなればそれだけ日常生活等で不便だからだ。どこぞのサイヤ人のように力の調整は難しく炎鬼はそれを面倒に思いこれらを使用したことはほとんどない。それだけ、炎鬼のステータスは強大であり、必要に感じない程に隔絶した差が存在したのだ。
「廉頗将軍。今から
「フハハハ!! 言いよるわい。儂はそう簡単に死なんぞ!!」
「ん。知ってる」
炎鬼はオフにしていたスキルを次々と発動していく。
『ステータス上限解放』『ステータス上限突破』『超筋力』『筋力倍加』『握力上昇』『肉体強度上昇』『身体能力上昇』『身体能力倍加』『身体能力超上昇』『心臓強化』『肉体柔軟化』『スロータイム』『千里眼』『ホークアイ』『並列思考処理』『高速思考処理』『反応上昇』『反射神経最大化』『思考処理最大化』『脳強度上昇』『基本的肉体ステータス上昇』『基本的肉体ステータス超上昇』『全ステータス上昇』『全ステータス超上昇』『炎属性魔法発動』『身体強化魔法発動』『保有熱最適化』『魔力攻撃上昇』『魔力防御上昇』『無属性魔法発動』
「……っ!!!!!!!」
自らの全てを込めた一撃。それは文字通り人では決してたどり着けない一撃だった。
ありとあらゆるスキルを開放して放たれたそれは矛を振ってきた廉頗の右腕と右足を寸断し、
切り裂かれた幅は僅か1センチ。現代の技術でもってして初めて出来る音すら遥か後方に置いていくその一撃は炎鬼と廉頗がすれ違った後に大きな衝撃波として余波を生み出した。廉頗の後方にいた兵士たちは肉塊すら残さずに粉みじんに吹き飛ばされ、丘は砕け散り森は直線上に更地と化した。
「は、ハハハ……。これほどとは、な……」
そんな一撃を振り返ってみた廉頗は口から流れ出る血も構わずに笑みを浮かべてそう言うと左側へと倒れ、落馬した。
それは間違いない炎鬼の勝利であり、廉頗の敗北を決定づける者だった。
そして、それを理解した秦軍は一拍の間の後に大きな歓声を上げた。
これ以外にも炎鬼はダメージ軽減とか自動回復とか防御魔法とかいろいろ持っていますが完全に持て余している状態です。ベルセルクのような世界だったらそんなことはなかったんですけどね。
因みに廉頗将軍はまだ死んでないです。