キングダム世界でファンタジーチート転生者が傭兵をするだけの話   作:鈴木颯手

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短いですが山陽はこれでおしまいです。次は何話か挟んで合従軍編に行くと思います


第三十話「山陽7・終戦」

「ウオオォォォォォッ!!! 炎鬼殿が廉頗を討ち取ったぞオオオォォォッ!!!」

 

 秦兵の一人が興奮気味にそう叫んでいた。それは無意識のうちに声に出ていた物であったがそれを咎める兵どころか気にする兵はいない。この場の誰もが同じ思いだったからだ。

 

 本陣の裏手より奇襲を仕掛けてきた廉頗に対して蒙驁は長年練り上げてきた戦術を駆使したが失敗、頂上で廉頗と炎鬼が一騎打ちを始めたのだ。

 最初こそ廉頗が押していたが全力を出した炎鬼の前に右腕と右足を両断され、敗北した。今、彼は瀕死の重傷を負って地に伏せっている。

 六大将軍とも渡り合った趙の元英雄が倒れ伏す姿に秦の誰もが雄たけびを上げずにはいられなかったのだ。

 

「(廉頗もそうだが炎鬼もよもやあれほどの力を有しているとは……!)」

 

 そんな中で、ただ一人、現実を見据えているの人物がいた。蒙驁だ。

 凡人の自分なりに練り上げた策が一切通じなかった事で心を沈ませていたが炎鬼の一撃を見て現実に引き戻されていた。廉頗を切り裂いただけではなく、本陣裏手の森すら両断した人の枠を超えた一撃に。

 

「(炎鬼は全力を出したと言ったが一回しか使えないとは言っておらぬ。つまり、あれだけの力をその気になればいくらでも使える可能性があるという事。あんな力があるのならば兵など、いや軍がどれだけいようとも関係ない……!)」

 

 それは炎鬼の強さを越えた規格外の実力に有った。軍を率いる蒙驁だからこそ気づけたことだ。

 炎鬼が秦を贔屓にしている事はこれまでの事からも明白であり、炎鬼は一度として秦の敵になる事はなかった。しかし、だからと言ってこれからもそうであるとは限らないのだ。もし、何かの手違いで敵対するような事になれば今のような一撃を放ってくる可能性すらあった。

 

「(勝てぬ……! 秦の全てを投じて戦いを挑んでも勝てぬ……!)」

 

 廉頗すら防ぐことも出来ずに一瞬でやられた一撃をただの雑兵が耐えられるか? 否だ。どれだけ人の壁を作ろうと防ぐ事は出来ないだろう。良くて両断、最悪の場合は肉片一つ残さずに消し飛ぶだろう。

 

「(炎鬼との敵対はその国の終焉を意味する……! 絶対に、絶対に敵対だけはしてはならん……!)」

 

 そう考えてしまえば蒙驁は最早炎鬼を凄い戦果を上げる傭兵として見れなくなった。蒙驁の中では今後の国の数百年を左右する絶対的な存在として認識するようになっていたのだ。

 そのように内心で蒙驁が思っていると何を思ったのか炎鬼は瀕死の廉頗の元に歩き始めた。右腕と右足を切断された廉頗だが未だ息はしているが戦う力どころか体を持ち上げる力も残されていないのか視線で炎鬼を捉えるだけだった。

 

「ごほ……、見事だ。まさかこうも、あっさりと負けるとはな……」

「ん。廉頗将軍も強かった」

 

 そう言うと炎鬼は懐から小瓶を取り出し、口を開く。小瓶には水色の液体がたっぷりと入っており、それを躊躇なく廉頗にぶちまけた。

 

「だからこれはサービス」

 

 そう言うと同時に不思議な事が起こった。液体をかけられた廉頗の体が淡く光だし、切断されたはずの右腕と右足が生えるように再生し始めたのである。

 

「なっ!? これは一体……!?」

 

 誰もが驚いている間に廉頗の失われた右腕と右足は完全に再生され、切断前の状態に戻っていた。それは廉頗本人も驚きを隠せない事であり、何度も右腕を握ったり開いたりを繰り返すが炎鬼は淡々と告げる。

 

「ん。治した。今の液体は瀕死の人間も元通りに出来る手作りの薬」

「これが、手作りじゃと!?」

「頑張った」

 

 ぶい、と炎鬼は何処か誇らしげに言うがそれがどれほどの薬なのかは理解していないのだろう。誰もがこぞって欲しがるものであり、これ一つで血みどろの戦争が起こるだろうと予測できてしまうものだった。

 

「……成程。最初から叶う相手ではなかったか」

「ん。誰にも負けるつもりは無いよ」

「それには同意するな。こうして打ち合って分かったが儂どころか中華の誰もが貴様には勝てぬだろう」

 

 最後に見せた炎鬼の一撃は廉頗でも見る事は出来なかった最速の一撃であり、喰らったもの全てを破壊する必殺の一撃であった。とてもではないがたった一人の老将相手に使う技ではないなと廉頗は苦笑すると前方から誰かが上がってきた。

 

「じいちゃん! 大丈夫!?」

「蒙驁将軍!」

 

 それは前線で戦っていたはずの蒙恬と信であった。二人はボロボロながら健在であり、こうしてやってきたことからも前線の戦いは秦の勝利に終わったことは明白だった。

 

「ヌハハ!! 戦も儂らの負けの様じゃな」

「ん。そうみたい」

 

 炎鬼はふらりとその場を離れて天幕の方へと向かっていく。

 

「なんじゃ。止めは刺さんのか」

「燃え尽きた。今日はもうやる気が出ない。好きにして」

 

 元々やる気が起きない戦いの所に廉頗の出現で火を無理やり燃やした状態なのだ。全力を出して廉頗に勝利したことでそのやる気は完全に消え去っていたのだ。

 

「白老。全部終わったら教えて。ネル」

「……ふぉ、フォッフォッフォ! 炎鬼殿は何もかもが規格外じゃな」

 

 声をかけられた蒙驁は何処か引きつった笑い声を上げながら天幕の中に入っていく炎鬼を見送るのだった。

 

 

 

 

 

 廉頗による本陣奇襲が失敗に終わった事で廉頗は自軍の敗北を認める事となった。同時期に魏軍本陣では桓騎軍が奇襲を仕掛けて陥落させており、総大将白亀西は桓騎によって惨い最後を遂げることとなった。

 更に魏軍の中央軍は信が輪虎を討ち取った事で中央突破は失敗に終わっている。まともに残された軍勢は主戦場が少し離れた場所で簡易砦に引き籠る王翦を包囲する姜燕の部隊のみとなっていた。

 そこで廉頗は蒙驁に無理やりだが和睦を結ばせ、山陽から魏軍が撤退する代わりにそれ以上の進軍をしない事を約束させた。蒙驁も炎鬼が完全に帰る気でいる事と元々山陽攻略が主目的の為にそれを呑み、流尹平原での両軍の戦いは秦の勝利という事で決着がつく事となった。

 この情報は即座に中華諸国に広がる事となった。とはいってもその内容は伝説の将である廉頗ですら炎鬼に敵わなかったという事がほとんどであったが。

 最強の傭兵は古の英傑すら相手にならないという事を理解させられた魏を始めとする炎鬼の脅威にさらされる諸国は絶望的な衝撃を受けると同時に恐怖を抱いていく事になるのだった。

 そして、そんなことなどお構いなしの炎鬼は今日も今日とて自由気ままに生きるのだった。

 

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