キングダム世界でファンタジーチート転生者が傭兵をするだけの話 作:鈴木颯手
ご飯を食べていたら唐突に呂不韋が現れて咸陽に帰ると言ってきた。一体どれだけの間こうしていたのかは分からないが途中からあまりにも暇すぎて熊さんとも手合わせをするようになっていたし勝手に城に入って大暴れをしたりした。
確実に城の兵士は少なくなっていたがそれでも攻め込まないあたりこの城に興味はないんだろう。何なら取る気すらないかもしれない。
何度か、援軍らしい魏軍が来たがその時はその時でとても楽しかった。とはいえ20万の呂不韋に対して増援は精々5万程度で軽く追っ払ってしまったけどね。
「すまんな。お主にはもう少しだけ付き合ってもらうぞ。なに、その分の報酬は期待してよいからのぉ」
「呂不韋との仲だし面倒だけど良いよ」
何でもこれから帰還して王様に謁見するらしい。聞いた話によると何でも弟が反乱を起こした結果、命の危険があったらしい。俺が飯食ってる間にそんな事あったんだな〜とのほほんと思ったけど結構やばくない? と思ってそのへん呂不韋に聞いてみたが
「問題ない。ワシが仕える王ならばこの程度出来て当然である」
らしい。良く分からないが呂不韋自身優秀な人だし王様にも同じように求めているのかもしれない。もしかしたらそちらの方が玉座を奪う甲斐があると思っているのかもしれないけど。
「さて、危うく生き延びた大王が我らをどんな顔で出迎えるのかを見届けようではないか」
呂不韋はそう楽しそうに笑っているが絶対に良い感情は抱いていないんじゃないですか? というか大丈夫だよね? 怒り狂って殺そうとしてこないよね? え? 大王にそんな力はないから心配ない? うわぁ、大王かわいそうだな。
左丞相、竭氏と王弟成蟜による反乱を鎮圧し、束の間の平和を手に入れた大王政とその側近たちだが呂不韋の帰還の報を受けて張り詰めた空気が王宮に流れていた。
「呂不韋っつーのは政がここを追われても助けなかった奴だろ? それを咎めてやれば政は正々堂々とこの国の王様って事だろ?」
それをたまたま王宮に来ていた信は張り詰めた空気など知らんと言わんばかりに叩ききるように言った。
この信という少年は数奇な運命の元大王である政と出会っていた。政にそっくりな下僕の少年、漂を友に持ち、漂がクーデターのどさくさで死んだ時には彼に代わって政を助け、見事クーデターの鎮圧まで力を貸したのである。
その功績から彼は土地と家が与えられ、下僕という卑しい身分から脱却する事が出来たのだ。これにより彼は軍人の頂点たる天下の大将軍を目指す事が出来るようになったのだ。
そんな王宮の事とは無縁の生活を送って来た信の言葉は何も知らないが故の勇敢さがにじみ出ていた。しかし、呂不韋という存在を知る政たちからすれば咎める事などできるはずがなかった。
「信、これはそういう問題ではないのだ。竭氏という対抗勢力がいなくなり、かつてない程強大になっている呂不韋を今の我らで裁く事などできないのだ」
「は? それだけやばいのか?」
何も知らない信に説明をするのはともに戦い抜いた壁という男性だった。士族の産まれでありながら信を差別することもなく肩を並べて戦った事で信からの信頼はとても厚い人物だ。そんな彼の言葉に流石の信も事態の重さを痛感させられた。
「もし、呂不韋が反乱を起こそうものなら我らは抗う事も出来ずに皆殺しにされるだろう。呂不韋にはそれだけの力がある。それに……」
壁は最後に言いづらそうにしつつもはっきりと告げた。
「呂不韋には懇意にしている炎鬼がいる。呂不韋が要請すれば彼は大王様にも剣を向けるだろう」
「炎鬼? 誰だそれ?」
信は唐突に上がった人物の名前に眉をひそめた。田舎村の下僕という立場の信では仕入れられる情報にも限りがあった。故に炎鬼という言ってしまえば一兵卒以下の傭兵の噂は入ってこなかったのだ。
そんな信の為に説明をしたのは側近の中でも筆頭格の昌文君だった。
「炎鬼とは現状で最強の武人だ。恐らく、単体では王騎でも苦戦するだろう人物だ。彼は傭兵として10年に渡り秦や楚、斉と言った国で活躍をしている」
「へぇ! つえぇ武将ってわけか!」
いくら敵対派閥の人間とは言え強い武将であれば興味をひかれずにはいられなかった。その様子に共に王宮まで来た河了貂は呆れているが補足するように昌文君は続ける。
「武将ではない。武人という方が近いな。奴は兵を率いる事はせん。しかし、ただ一人で戦場を変えてしまえる“武”を有している」
「はぁ!? なんでそんな奴が呂不韋なんかに……!」
「呂不韋とは旧知の間柄だ。加えて呂不韋本人の人たらしの才で関係が途切れることなく今まで続いている。呂不韋と大王様。どちらを取るかと言われれば奴は間違いなく呂不韋を取るだろう」
実際、昌文君は最後の切り札として炎鬼を雇おうと動いていたのだがそれらは全て無視されて呂不韋の要請を受けてしまったのだ。これは昌文君と炎鬼との間に交流がないためであり、交流があれば先に届いていた昌文君に対して最低でも話は聞く事にしていただろう。
「っ! どちらにせよ、お前も来たのなら列に並べ。これから越えねばならない相手を見ておくべきだ」
「わ、分かったよ」
本来は隣にいる河了貂の報奨金をもらう為に来たのだがとんでもない時に来てしまったと思いつつ整列している大王派閥の者達の後ろに座った。
それからしばらくして呂不韋の帰還を知らせる報告が入り、王宮の入り口の扉が開かれると信は今後の政の敵がどのような顔をしてやってくるのかと見ようとした時だった。
「~~~~~っ!!!???」
突如として心臓をわしづかみにされるような感覚に陥り、意識が、命が飛びかけた。ブワッ! と、いやな脂汗が噴き出し、今にも倒れこみそうな感覚に陥りながら周囲を見れば信程ではないが同様の圧を感じているのか大王派閥の面々の顔色は先ほどに比べて明らかに悪かった。隣に座った河了貂も体を震わせて頭を蓑で隠していた。
そんな彼らを一瞥もせずに続々と入ってくるは呂不韋が配下とする各部門の精鋭たち。武に司法に外交、それら国にとって欠かせぬ分野に秀でた猛者達だった。
「(……こいつらじゃねぇ!)」
しかし、これほどの圧を放っているのは彼らではなかった。確かに文官もいるというのに武将にも負けない覇気を感じるがこれほどまでに明確な圧を放っているわけではない。
その時だった。こつり。と、複数の足音が響く中でその足音だけは嫌によく聞こえた。ゆっくりと近づいてくるその足音の主に信は視線をやり、圧の正体を直感した。
「(あれが……! 炎鬼……!)」
その名に相応しい姿と言えよう。着物を着た彼らの中にあって彼の姿は異質だった。中華とも、山の民とも違う独特な服をきたそいつは気だるげにしながら呂不韋派閥の者達の後をついていった。
そして、最後に登場した人物こそ呂不韋だった。文官とは思えない武将とは違う覇気を持った彼はまさに傑物と呼ぶに相応しい存在だった。
呂不韋は大王の前まで来ると拝礼を行った。後方についた配下の者達も同じようにする中で、炎鬼と思われる人物だけは膝をつくだけだった。明らかな礼を欠いた行為だが未だ圧を放つ彼を咎められる者等いなかった。
「……まずはご無事で何よりでした。大王様」
そう話す呂不韋の言葉に無事を祝う感情は込められていなかった。それも当然だろう。呂不韋は大王が死んでも構わないと、その方がありがたいと感じていたのだから。
「早速ですが、大王様。此度の反乱に際して、我らが救援に駆け付けなかったこと、さぞご不快にお思いでしょう」
唐突に話始めたのは今回の反乱で呂不韋が一切動かなかったことに対するものだった。いきなり何を言い出すのかと思えば信は次の呂不韋の言葉に驚愕する事になる。
「そのご不快はごもっともです。何しろ、私は大王様がお亡くなりになれば良いと思っておりましたので」
「(なっ!? 自分から言った!?)」
何かしらの言い訳を並べるとばかり思っていた信は呂不韋の言葉に驚く事しか出来なかったが同時にチャンスとも感じていた。自分から助ける気はないと言い切ったのである。これで呂不韋を裁く事が出来ると政の言葉を待ったが彼の口から出た言葉は裁きの言葉ではなかった。
「……冗談はよせ、呂丞相。何か事情があったのだろう?」
それは呂不韋の言葉を冗談だと受け流すものだった。何故、と信は思うが先ほどの壁の言葉を思い出していた。「今の我々には呂不韋を裁く事は出来ない」という言葉を。自らの命を狙っており、こうして自白した事すら冗談としてしか言えない程に両者の間には強大な権力の差があったのだ。
「これは失礼しました。仰る通り今の言葉は冗談にございます。何やら王宮内の空気が沈んでおるようでしたので」
煽っている。そう思われても仕方のない言葉を呂不韋はつらつらと述べる。流石にこの時点で信は理解していた。理解させられていた。例え呂不韋がここでどのような発言をしたとしてもそれを大王である政自身にさえ裁く事は出来ないのだと。
「(政、お前と呂不韋との間にはそれだけの差があるのかよ……!)」
反乱を起こした竭氏が霞んで見える程の強大な敵を前に、信は呆然とそう考えるとしか出来ないのであった。
因みに大王派閥から見た炎鬼はこうなっています。
大王:今は敵だがいずれは……
昌文君:本質は傭兵ゆえにうまく立ち回ればこちらの戦力となりえる
壁:油断ならない敵だ
信:めちゃくちゃやべー奴
河了貂:ちびるかと思った……
炎鬼側はこうなっています
大王:鑑定すると呂不韋並みに優秀じゃん。でも興味はないね
昌文君:誰あのおっさん
壁:……?
信:なんか変なのいる
河了貂:え? 人? 置物じゃないの?