この小説の方針としては、ヤンデレを更生したキャラもその場限りではなく、μ'sを取り戻すために活躍させようと考えています。つまり、今回のメインは…
「はぁ……はぁ……」
俺が目を覚ました時には倉庫に希はいなかった。残っていたのは、希が書いたであろう1枚の紙だけだ。
『身体を元に戻したいなら、誰にも言わずにウチの部屋に来てね。あと、ケータイは預かっとくね』
希があの倉庫で何をしたのかは分からないが、俺の身体はガタガタだった。全身に力は入らず、息も切れ、歩くだけでもフラフラする。
希が住んでいるマンションを行く途中、何度もガードレールや電柱に体を預けながら進んでいく。
「情けないな……」
希のコトは信用していただけに、自分をさらに責めてしまう。あれだけ真姫に注意しろと言われていたハズなのに。
「また携帯、壊されんのかな……?」
余計な心配で嫌なコトは払拭しようとするが、俺の身体がそうはさせてくれない。疲れがどっと押し寄せる度に、自分が如何に愚かだったのかを思い知らされる。
「み、見えてきた……」
以前、みんなでラブソングを考えていたコトがあった。その時に様子がおかしかった希を探るため、ココへ来たことがある。まさかこんな状況で再び行くことになるなんて、因果な運命だ。
エレベーターで希の部屋の階へと向かった。壁に寄りかかりながら一歩一歩進み、ついに希の部屋の前に辿り着いた。
「はぁ……はぁ……」
呼吸の乱れは止まらない。もう少し落ち着いてから来てもよかったのだが、このまま他のみんなに手出しをされたらたまったものではない。
ピンポーン
震える手でインターホンを押した。今回は、真姫の時の様に張り巡らした作戦は一切ない。そんなコトを考える余裕のない身体と言った方が自然だが。
「はぁーい、ちょっと待ってて」
部屋の奥から、扉越しに声が聞こえる。誰かも分からないのに敬語を使っていないあたり、俺が来たってコトはバレバレなのだろう。
ガチャ
「待っとったよ。ちゃんと来てくれたんやね」
「いいから……早く部屋に入れろ……」
「そんな身体でご苦労さん。入って入って」
そんな身体って、やったのはお前だろ。ここへ来る途中、何度人にチラチラ見られたコトか。傍から見れば、ただヨロヨロしている怪しい奴にしか見えなかったぞ。
~※~
相変わらず部屋は綺麗だ。一人暮らしっていうと人に部屋を見られるコトが少ないため、掃除を怠る人が多い。現に俺もそうだ。だが、希の部屋は毎日手入れされているかの様に整理整頓されていた。
「適当に座っといて。ウチ、今から買い物行ってくるから」
「俺を1人にしておくのか?」
自分で言うのもアレだが、折角俺を自分の部屋に縛りつけておくコトができたのに、自らそれを捨ててしまうとは……
「そんな身体やと、どこへも行けへんやろ?今の零君やったら、逃げたとしても余裕で押さえつけられるし」
余裕で押さえつけれれる……つまり、あなたはウチのモノだから絶対に逃げられない、と俺の脳内に刻みつけられた。
「それじゃあ行ってくるね。今日の晩御飯、楽しみにしててな」
よっぽど余裕なのか、本当に俺1人を部屋に残して出かけてしまった。
確かにこの身体ではどうしようもない。ソファに座りながら部屋全体を見回す。
真姫は部屋に何も置かないコトで、俺の退路を絶とうとした。だが、希は部屋を特別に模様替えはしていないみたいだ。そこら辺のモノを使えば最悪武器にはなるし、部屋から抜け出すコトもできるだろう。それだけ俺をこの部屋に縛り付けておくコトに余裕があるか。
他の部屋も見て回ってみよう。可能性はゼロに近いが、この身体をどうにかできるモノがあるかもしれない。
「ここは……トイレと風呂場か……そうしたらここは……恐らく寝室」
俺の予想通り、そこは寝室だった。だが、そんなコトはどうでもよかった。部屋に入った瞬間、驚くべきモノが目に入って来た。
「何だ……コレ?俺…?」
部屋中が俺、俺、俺……
寝室の天井、壁、床、すべてが俺の写真で埋め尽くされていた。その中には、どうやって撮ったのか分からない写真まで存在していた。教室での授業中や、体育の授業中の写真がそうだ。そして、一番驚愕だったのが…
「この写真……俺の家の中じゃないか……」
明らかに俺の家の中から撮った写真も貼り付けられていた。ここから分かるコトはただ1つ……盗撮されていた。
俺の部屋、リビング、玄関、キッチン、そして、脱衣所、トイレ…
「まさか……こんなコトが……」
目の前で起きたコトが衝撃的すぎて頭が着いてこない。希は一体何故こんなコトを?
「あーあ、見てしまったんやね。ウチの寝室を」
「の、希!?」
音もなければ気配もなかった。いつの間にか、後ろに希が立っていた。
~※~
時は少し遡る。
真姫は練習を抜け出し、零と希の消息を追っていた。とはいうものの、一切手がかりはなく。零は相変わらずというべきか、連絡が取れなかった。
「倉庫にいないってどういうコトよ!!」
真姫は学校中を駆け回りながら2人を探す。倉庫にはまだ運ぶべき機材がそのまま残されていたため、恐らく零に何かあったのだろう。
「全く、注意しなさいよって言ったのに」
2年生教室、3年生教室。残っていた生徒に聞いても、2人を見た人は誰一人としていなかった。
「だったら、行くべきところは1つだけ」
希が住んでいるマンション。真姫も零と同じ要件で以前に行ったコトがある。真姫はコソっと部室へ戻り、制服には着替えずそのままカバンへ放り込み、学校を出た。
~※~
「確か、あそこの公園の角を左に曲がって、次は……」
学校からだと、希が住んでいるマンションへの道のりが曖昧だったため、道を口ずさみながら進んでいく。最悪の事態になっているかもしれない。マンションに近づいていく度に、真姫の不安は大きくなっていった。
「あら?どこへ行くのかしら?」
「!!」
公園の角から人影が姿を現す。通り過ぎる人が見とれる様な、金色の髪を靡かせる。
「絵里……どうして!?」
「どうしてって……真姫が勝手に練習を抜け出したから、どうしたのかなって思ったのよ」
「そんな芝居はもういいわ。朝からずっと何も知らないフリをして……バレバレなのよ」
真姫は朝の出来事も、絵里が意図的に妨害していたと思っている。そして今もその状況と同じ。絵里は明らかに真姫をマークしている。
「あなたの目的は何?希と協力して何をしてるの?零をどうする気?」
「目的か……それは真姫、あなたと同じって言った方が分かりやすいかしら」
「!!」
真姫に悪寒が走る。目の前の絵里は、あの時の自分そのものだ。零を我が物とし、邪魔する者なら、例えμ'sの仲間であろうと切り捨てる。
真姫は右手で頭を抑える。あの時の自分のイメージが、脳内にフラッシュバックされるのだ。零は忘れろと言っていたが、自分が零やみんなを傷つけようとした罪悪感は消えるコトはない。
「でも、あなたは私と完全に同じではない。希と…仲間と協力しているんでしょ」
あの時の真姫は誰の力も借りずに、自分だけで計画を進めていた。
「そうね。私は一番の障害は希だと思っていたわ。だから、一時休戦というコトでお互いに手を打ったの。他のみんなを潰すまでね。それに……"一応"親友だしね」
「絵里……あなた……」
『一応』という絵里の言葉にショックを受ける。真姫と絵里が出会ったのは、真姫がμ'sに加入した時ぐらいだ。その時は中々話す機会がなかったものの、絵里がμ'sに加入してからは自然に打ち解けていった。そんな短い間でも真姫は絵里、そして希自身については色々分かってきたつもりだった。それに以前、希の夢を彼女自身から聞いたりもした。その夢を追い続けるため、手を取り合って走ってきた2人の仲が、こんなにも簡単に崩れてしまうとは……いや、絵里が崩そうとしているのか……
動揺して言葉が詰まる。仲間をなにより大切にしている真姫だからこそ、なおさら衝撃は大きかった。
「最後に零をどうするのか、だったっけ?そうね、希はもう用済みだから奪ってやろうかしら。今回は零を弱らせるのが目的だし」
絵里は幼少時にバレエを習っていて、体力には自信がある。だが、いくら自信があったとしても、男性の零には及ばないコトぐらいは百も承知だ。だから弱らせた。絵里にとって、それを遂行してくれた希は既に用済みだった。
「そんなコトはさせない!!」
やっている事は悪であれ、真姫は親友を裏切るという行為に対して激怒する。
「だったらどうするの?」
「ココで止める!」
拳をギュッと握り締め、絵里の顔を睨む。零が自分にやってくれた時と同じように、絵里を止め、そして彼女を取り戻す。
「無駄ね。零とじゃあ体力差は感じるけど、あなたとではねぇ……」
そもそも真姫は運動が得意な方ではない。学年の差もあって、体力差は歴然だろう。
だが、ここで逃げる訳にはいかない。零も逃げずに自分と立ち向かってくれた。それに、一緒にみんなを元に戻すと約束した。
「早く来なさいよ。真姫ごときじゃあ、私をどうにもできないと思うけどね」
「くっ…えぇい!」
真姫は絵里目掛けて切り込んだ。しかし、また相手の土俵に足を踏み入れさせられているコトに気付いていなかった。彼女は挑発に非常といっていいほど乗りやすい。それは真姫のプライドが故であるが、絵里はそこに突いたのだ。案の定、絵里の想定内の結果となった。
「零たちへの元へは行かせない!絶対に!」
あっという間に絵里の元へ追いつき、彼女へ手を伸ばす。
パシ!
「え?」
伸ばした腕が絵里に掴まれた。だが、彼女は一歩もそこから動いていなかった。
「案外ノロマなのね、真姫。こんなので私を止めようなんて片腹痛いわ」
絵里は真姫の腕を押さえつけ、その勢いで真姫の体を180度回転させた。息つく暇もなく、自分の体全体で真姫の背中を地面へ叩きつけ、真姫の体を完全に押さえ込んだ。
「ぐっ!」
右腕に降りかかる痛みを必死に堪える。ここまで簡単に捕まってしまうとは思っていなかった。
「真姫。あなた、零を襲った罰、まだ受けてなかったわよね?愛しの零をあんな状態にしたんですもの……しっかり償ってもらわなきゃね」
「零は……許してくれたわ……」
「私が許す訳ないでしょ!!!待っててね零……今1人……邪魔な存在を排除するから」
さらに真姫の右腕に衝撃が走る。
(このままじゃやられる。一体どうすれば……)
僅かに動く左手を闇雲に振り回していると、何やら膨らんでいるモノに当たった。
(ポケット中?タオルか……)
部室を出る時は急いでいたため、練習用のタオルを丸めてポケットに突っ込んでおいたのだ。
真姫は素早く左手でタオルを取り出し、僅かな力を振り絞って、絵里の顔に目掛けて投げた。
「何よコレ!?」
練習で使っていたため、タオルは汗まみれだ。突然顔にそんなタオルを投げつけられて、動揺しない人はいない。
絵里からの抵抗が弱まった隙を見て、真姫はスルリと抜け出す。
(とりあえず体勢を立て直して……)
「甘かったわね!真姫!!」
「!!」
体勢を整える前に、絵里が再び仕掛けてきた。真姫はなすすべもなく地面に叩きつけられた。
「残念だったわね。そんなコトで私が怯むとでも?」
「どうして、ここまでして……」
「汚物は排除よ。あなたの様に、私と零の仲にズカズカ入り込んでくる輩はね。でも、今日はここまで」
「!?」
「これ以上時間が掛かると、希が暴挙に出ちゃいそうだから…ね?」
プスッ!
「な、何を」
突然、首元に痛みが走る。絵里が持っていたのは、小さな注射器だった。
「今日、ここで私と会った記憶は消させてもらうわ。もしかして、私が何の考えもなしでベラベラ喋っていたと思ってたの?」
「嘘……」
「そしてソレはね、結構強い睡眠効果があるから。しっかりとお休み」
「絵里……あなたはもう……」
「じゃあね、真姫。次会う時は、私と零の愛を存分に見せつけてあげるわ」
倒れる真姫を見下し、絵里は零の元へ向かった。
襲い来る眠気を必死に振り払いながら、真姫はカバンを探る。
(あった、これを使えば)
・・・
真姫の記憶はそこから途切れた……
今回の話は真姫と絵里のパートを中心にしてみました。折角なので、メンバー同士の対立も描いてみたいと思っていたのですが、かなり絵里が怖くなっちゃいましたね(汗
絵里推しの方は納得してくれるかなぁ(遠い目
真姫推しの方。結果的には絵里にやられちゃいましたが、個人的にはカッコよく描写できたと思います。
零と希の対決は次回が本番!
(付録)現時点でのメンバーヤンデレ度vol.3
正常:真姫
正常(?):海未、にこ
予備群:花陽、凛
異常:穂乃果、ことり
末期:絵里、希