※前々回から零の身体が不調なため、彼の会話文が三点リーダー多めとなっています。言葉が途切れ途切れになっている事を表していますので、読みづらいかと思いますがご理解お願いします。
「お前……どうしてココにいるんだ?」
買い物に行くと言って出かけたハズの希が、俺の後ろに立っていた。人の気配には敏感な俺だが、背後に迫っていた希には全く気が付かなかった。そういえば、μ'sについて相談する時も知らず内に現れていたような気がする。
「買い物なんてウソや。零君にこの部屋を覗いてもらって、その驚く顔を見たかっただけ」
「悪趣味……だな」
希から何をされたのかは知らないが、俺の体力はみるみる失われている。言葉も途切れ途切れでしか話せない。近くのデスクに手を付きながら、かろうじて身体を支える。
「えぇ~いいと思うんやけどな、この部屋」
「人の写真を……勝手に飾るな」
「でも、ウチはこの部屋にいると凄く落ち着くんよ。零君に囲まれているみたいで」
希は恍惚とした表情で、自分の両手で身体を抱きしめる。
「写真如きでそんなコト……」
「あるよ。ウチが落ち込んだ時や壁にぶつかった時なんか、いっつも零君を見て癒されてるんやから。四方八方から零君がウチを包み込んでくれる感じでな」
今度はうっとりとした表情を浮かべている。普段俺の写真を使って、何をしているのだろうか。とにかく、正気の沙汰でないコトは確かだ。
「どうしてそこまで……俺に拘るんだ?」
「どうしてって……零君が好きやからに決まってるやん。もちろんラブの方やで」
真姫の前例があるため、大体この答えは予想がついていた。俺は歪みきった愛を受け入れるコトなどしない。
「ウチ、零君のコトをずっと見てたんや。穂乃果ちゃんたちが名も無き頃のμ'sを結成した時からずっとな」
俺は廃校阻止の手伝いとして、自ら穂乃果たちの手伝いをしていた。しかし、あの時から手伝っていたのは俺だけではない。希もその1人だ。μ'sという名前を決めたのも、第一回のPV撮影を許可してくれたのも希だ。彼女あってこそ、μ'sはここまで来れたのだと思う。
「前に話したやろ?ウチには夢があるって話。穂乃果ちゃんたち、そして零君なら、その望みが叶うと思ったんや」
「それで俺たちに……初めから肩入れしていたんだろ………あの時聞いた」
穂乃果の家で恋愛映画を見た帰り、希の様子がおかしくて後を追いかけた。そして、希の部屋で彼女の夢を聞いたんだ。両親の転勤続きで、まともに友達が出来なかった希。だが、高校で絵里という初めて親友と呼べる仲間ができた。その後にμ'sに加入し、新しい仲間がたくさんできた。希はその証として、みんなで1つの曲を作り上げたいという夢があったんだ。
「ウチにとってはな、零君は救世主なんよ。μ'sをここまで成長させて、ウチに夢を叶えるコトができる可能性をくれた零君には、感謝の気持ちでいっぱいや」
「だったら……どうして俺に……こんなコトを」
「そうやって段々と、零君を好きという感情に気付いた。それと同時にな、μ'sのみんなに嫌悪感が出てきたんや。みんなが零君に近づく度に、憎しみや苦しみがウチを支配していった。でもな、『好き』って言えへんやんか。もしかしたら、その一言でμ'sが壊れてしまうかもしれへん。そうなってしまうと、ウチの夢も叶わへんから……」
今はμ'sに亀裂が入ってしまってるが、まだその時はμ'sを崩壊させようとは思っていなかったらしい。
「でもな、ある時、絵里ちがこう言ったんや。『ねぇ希、零を私のモノにしたいんだけど、手伝ってくれない』ってね。その瞬間、ウチは自分の中で何かが崩れていく感じがしたんや。そしてもう迷わないと決意した。零君を誰にも渡さない。彼はウチが手に入れるってな」
「そんなコトしたら……お前の夢が……」
「もうどうでもいいんや、そんなコト。今のウチの夢はな、零君と一生一緒にいるコトなんよ」
「だから……俺にこんな仕打ちを」
「そう。絵里ちと一緒に考えた作戦や。後は、絵里ちを含めたみんなをどう処理するかやね」
もはや、陰日向にμ'sを支えていた時の希は存在していない。仲間たちと打ち解けられるよう一計を案じるなど、面倒見の良い彼女はとうの昔の消え去っているのだろう。今は、あの時の真姫と同じく邪魔者を消し去るコトしか考えていない。
「それで……今絵里はどこにいる……?」
ドゴォ!
「がはっ!!」
急に希の拳が、俺の腹をえぐった。身体が弱っているためか、感じたこともない激痛が襲う。
あまりの痛みに腹を抑え、その場に倒れ込む。
「な、に……すんだ……」
「彼女の前で別の女の話は禁止や。常識やろ?」
「ゲホッ!!ゴホッ」
身体から酸素が一気に抜け出そうとするため、咳が止まらない。さっきなんつった?彼女?勝手に決めつけやがって……
「もう楽になってもいいよ。零君、最近疲れてるやろ。真姫ちゃんの時も色々大変やったしなぁ」
「知ってたのか……真姫がやったコト」
「ウチも絵里ちも知ってるよ。作戦を張り巡らすなら、まず敵の行動を読まないとあかんしね」
今回の行動もすべて、真姫が行動を予測してのコトだったのか……
「でもこれで零君が頑張るのは終わりや。今までの疲労は、ぜーんぶウチが癒してあげる。一緒に暮らすのに、ストレスなんて感じて欲しくないから」
「こと……わる」
「え?」
「断るって……言ったんだ……俺は…今のお前と……一緒に暮らすつもりなんてない」
「どうして!!?ウチの愛の告白聞いたやろ!!?」
その声は希とは言えないほどの悲痛な叫びだった。彼女のそんな声を聞くと心が痛いが、今はそれどころではない。
「そんなの……俺の心には響かない」
「じゃあこの部屋を見てみ!!ウチがどれだけ零君のコトが好きか分かるやん!!」
「無駄だ……今のお前を好きには……なれない」
「何が!?何が不満なん?零君もウンザリやろ、おかしなみんなと一緒にいるコトが!!もうみんなは諦めて、ウチと一緒になろうや!!後始末はウチが全部、しっかりしとくから!!」
さっきまで冷静だった希だが、本性が直に出てきた。彼女もここまで狂っていたとは。いつもの穏やかな性格の希からは、誰も想像ができなかっただろう。
「やだね……光を失ったお前なんて……見たくもない」
「は、はは~ん、わかったで。そうやっておちょくって、ウチの反応見て楽しんでるんやろ?やらしいな零君は!まあ、そんな可愛い零君も大好きやで」
「俺はな……夢を追っているお前が好きだったんだ」
「……そんな夢、捨てたって言ったやろ」
「じゃあ……またあの時に戻りたいんだな……1人孤独だった、あの頃に」
「1人じゃない、零君と2人や。零君がいるから孤独にはならへん」
「例え俺と一緒でも……みんなを手にかけるのなら……その傷は一生埋まるコトはない」
「そんなコト……」
「そんなコトある……お前は優しすぎる……絵里と手を組んだのも……自分ではなく絵里にみんなを始末させようとしたんだろ?」
希は唇を噛み締め、そっぽを向く。どうやら図星のようだ。彼女は人生で唯一の親友や仲間を忘れられていない。口ではみんなを手にかけるようなコトを言っていたが、彼女は最後の最後で非情にはなりきれなかった。だから、希は俺だけを捕まえ、他のみんなは絵里に任せていたのだ。自分の傷口が再び開くのを防ぐために。
「μ'sの練習では運動音痴な花陽や……行き過ぎてミスが目立つ穂乃果や凛に目が行きがちだけど……俺は分かってたよ……お前のコト」
「ウチの?」
「ああ……一生懸命練習して……空いている時間に自主連をしている時もあったよな」
「そ、それは……」
「頑張って練習して……みんなに教えるコトができるようにしてたんだろ?みんなとライブを成功させたい……ラブライブで優勝したい……初めて仲間と共に……一緒に頑張ることができる………嬉しかったんだよな…?」
「っ……」
「俺はしっかり見ていたよ希……お前をな……そして俺は……そんなお前が大好きだった……俺にとっても救世主だったんだよ」
「零君……」
「初めは俺1人で廃校を解決しようと思った……今まで俺が動けば何とかなってきたコトばかりだったから……でも今回ばかりはそうはいかなかった」
周りからは『彼がいれば何とかなる』と思われてきたし、俺自身もそう思っていた。だが、廃校なんて大きな問題を1人で解決できる訳なかったんだ。
「その時、穂乃果たちに出会った……彼女たちならこの問題を解決できると悟ったんだ……だが、俺にはアイドルの知識なんて皆無だ……どう手伝っていいのか分からなかった……そこでお前が現れたんだよ」
「ウチ……?」
「そう……お前は陰ながらμ'sをサポートしていった……結果、今のμ'sは最高のメンバーが集まった……それもお前のおかげだ……希がいなかったら、俺の夢が潰れていたんだから」
μ'sをここまで成長させたのはメンバー全員だ。もちろん希もその一角を担っている。
「だから……もう一度やり直さないか?」
「え……?」
「もう一度俺たちであの頃のμ'sを取り戻すんだ!!夢を捨てたとしても、何回も追いかけていいんだ!!まだそれができる!!」
身体を蝕まれながらも、必死で彼女の心に問いかける。俺なんて、多少朽ち果てても構わない。
(なんやろ……今の零君の言葉で、胸がスっと軽くなったような気がする。夢、か……みんなの顔が思い浮かんでくる。みんな楽しそうや………)
希はμ'sと関わってからのコトを次々と思い浮かべる。みんなと一緒に練習したり、遊んだ記憶が蘇ってくる。
(零君が伝えたかったコト、やっと分かったよ。今までのウチは、ただ嫉妬心に支配されていただけ。本当のウチはあの中にいる。ウチが一緒にいたいのは零君だけやない、"みんな"と一緒や。もう一度走り出したい!みんなと同じ夢へ向かって!!)
「落ち着いたか?」
「うん、もう大丈夫」
どうやら、いつもの希に戻ったようだ。
「もう一度聞く。俺たちとまた夢を目指さないか?」
手や腕に力は入らないが、俺はそっと手のひらを希に差し出した。
「はい」
そう言って、希は俺の手を取ってくれた。その手はすごく暖かく、彼女が戻って来たという温もりが感じられた。そして俺は、その時の希の笑顔を決して忘れるコトはないだろう。
第二章クライマックスでした。どうだったでしょうか?希の葛藤はアニメでよく描かれていたので、想像しやすかった人も多いかと思われます。そんな彼女だからこそ、人への恋、はたまた憎しみや嫉妬で心がブレやすいですね。
勝手にQ&A
Q.希は零が好きだから襲ったんじゃないの?みんなと一緒にいたいとか解決になってなくね?
Q.絵里は!?真姫は!?
A.全部次回で!(笑)
次回は第二章完結編。次回までに零君生きてるかな…?