俺たちは1列に並びながら夜道を歩く。俺は凛と花陽に挟まれているため、傍から見ればRPGのパーティか何かと勘違いされそうだが、今はそんな楽しい状況ではない。
「どこまで行くんだよ……」
「もう少しだよ」
「あっそ……」
歩きだしてから10分ぐらいが経過して周りも見慣れない場所になってきたが、どうやらもうすぐ到着するようだ。道中での会話はほとんどなく、3人はほぼ無言で歩いているだけだった。唯一会話をしたのが、俺が何とか携帯を操作しようとポケットをゴソゴソしている時だ。それは後ろから監視している花陽に止められてしまったが。
無言と言っても、俺と2人では完全に温度差が違っていた。俺はこの状況をどうにか打破しようと考えているのに対して、凛と花陽は明らかに嬉しそうにしている。凛に至っては軽くスキップをしているぐらいだ。
「着いたにゃ」
凛は一軒の家の前で足を止めた。その家は見たところ普通の一軒家だ。正直もっと汚らしいアパートの一室みたいな部屋を想像していたためかなり予想外だった。
「案外普通の家なんだな」
「私のお父さんが不動産関係の仕事をやっててね、そのツテで私が借りてるんだ」
「やっぱりかよちんと組んで正解だったにゃ!」
「凛ちゃんってこういう時だけ都合いいよね」
たかが15歳の女子高校生が一軒家を借りられるなんてどれだけ高い地位にいるんだよ、花陽父は。
花陽は玄関の鍵を開け、俺たちを家の中へ案内する。玄関だけ見ればもの凄く清潔にされていた。たとえ普段こない場所であっても綺麗に保っておくのがいかにも花陽らしい。
「零君の部屋はこっちだよ」
家の中に入ったが、俺を挟んでの隊列は未だに崩れていない。今度の隊列は家主の花陽が前、後ろが凛と入れ替わっている。
花陽に案内された部屋はベッドが置かれ、側に水道がある。机やタンス、本棚など一通りの家具が揃っているので、水道に目を瞑れば普通に生活できる部屋だ。だが妙にこの部屋には違和感を感じる。
「えい♪」
「!!」
バコッ!!!
「がぁ!!」
突然凛が俺の背中を蹴り上げた。その勢いで俺は身体を吹き飛ばされ、思いっきりベッドにダイブする。
ガチャン!!!
「!?」
今度は花陽に右手首を掴まれ、ベッド脇の部屋の支柱と俺の右手首を手錠で繋いだ。
「またこのパターンか……」
「あれ?もしかして零君慣れてるのかにゃ?」
「慣れたくはないけどな」
「でも大丈夫!凛たちは真姫ちゃんみたいな乱暴はしないから」
やっぱりコイツら、俺と真姫の間で何があったのかを隅から隅まで知っているらしい。一体コイツらに話したのは誰なんだ?
「俺なら好きにしろ。だけど真姫や希に手を出すなよ、その約束だったハズだ」
「心配性だなぁ零君は。約束は守るから安心して……今はね」ボソッ
俺はこの時、花陽の後ろの言葉は聞き取れなかった。
「それじゃあ今から、零君との生活のルールを発表するにゃ~!!」
「ルール?」
「そうです。零君が私たちに心を開くまで、あらゆる行動を制限させてもらいます」
そんな時は一生来ないけどな……
「まず1つ目。普段はこの部屋にいてもらうにゃ。手錠が付いている限り動こうとしても動けないけどね」
「食事もトイレも全部私たちに任せてね」
トイレの世話もするのかよ……
「2つ目。お風呂は毎日入っていいけど、凛かかよちんのどっちかと一緒に入るコト。その時手錠は零君の両手に繋げるにゃ」
「何でお前らと一緒に!?」
「え?好きな人と一緒にお風呂に入るのって普通じゃないの?凛ちゃんは?」
「別におかしくはないと思うにゃ」
明らかに普通ではない。今まで恋愛をしてきていない彼女たちだからこそ、余計な偏見が生まれるのだろう。
「3つ目は、寝る前に凛たちへ愛の囁きをするんだにゃ!!」
「はぁ!?何だよソレ?」
「私たちへ愛の言葉を言ってくれるだけでいいんだよ。ただし同じ言葉は2度と使っちゃダメ」
何という拷問。自慢じゃないが俺も恋愛経験などは一切ない。特にそういったドラマや漫画も見ている訳でもないし、最悪1日目で終了する可能性がある。
「もし愛の囁きなしで零君が寝ちゃったら、次の日のご飯は3食全部抜きにするからね」
「それで俺が餓死したらどうすんだ……?」
「それだったら凛たちの言うコトをしっかり聞けばいいだけだにゃ。それに餓死するってコトは零君が凛たちへの愛がないってコトだから、そんな零君はいらないにゃ」
ルール自体はえげつなかったが和やかだったムードが一転、凛のその言葉で空気が凍る。
「そうだ凛ちゃん!もし餓死しちゃったら、その零君を2人で分けちゃおうよ」
「それ賛成!だったら零君の頭は凛がもらうにゃ」
「勝手に決めちゃダメだよ!頭は私がもらうから、凛ちゃんはそれ以外全部でいいよ」
2人は俺の身体のどのパーツを入手するかで争っている。俺は2人の信じられない会話とその残虐さを想像して、若干の吐き気を催す。この2人とって人の切断に躊躇はないらしい。ここへ来て、夜道で聞いた花陽の『真姫と希を襲う』という言葉が現実味を帯びてくる。
「お前ら……人の身体をなんだと思ってやがる」
「凛のモノかにゃ?」
「私のモノです!」
そうやってまた喧嘩が始まる。2人の掛け合いは非常にコミカルに見えるが、一歩間違えば血生臭い展開へと足を踏み入れてしまうだろう。
~※~
「また連絡なしっと……」
西木野真姫は呆れていた。この1週間で零と連絡が取れないコトが何回あっただろうか。しかも、彼が連絡を断つ時は大抵よくない事態になっている。あれほど何かあったらすぐに自分に連絡するようにと言ったのにも関わらずこの仕打ちである。
だからと言って彼は馬鹿ではない。むしろ頭の回転は人一倍早く機転も効くため、臨機応変に物事を対処するコトができる。もしかしたら、いつの間にか連絡が出来ないような状況に追い込まれている可能性が高い。
「希に聞いてみるか」
今のところ、零以外で唯一信頼ができる希に電話をかける。
『もしもし真姫ちゃん、どうしたん?』
「希、そっちに零から何か連絡なかった?」
『零君から?特にないけど』
「そう……」
『零君になんかあったん?』
「それが分からないから聞いてるのよ。一体どこで何をやってるのかしら」
『じゃあ零君の家に行ってみる?もしかしたらただ携帯を見てないだけかもしれへんし』
「そうね。今すぐ行きましょう」
『ああ……今晩御飯作ってる最中なんやけど』
「夜9時前なのにまだ食べてなかったの?」
『今日は少し忙しかったから……』
「まあいいわ。先に行ってる」
『ゴメンな』
「いいわよ別に。それじゃあね」
『うん。気つけてな』
通話終了後、真姫は急いで外へ出る支度を済ませる。また零を自分の時のような目に遭わせたくない、その一心で零の家へと向かう。
~※~
「はい!あ~ん!」
俺は今、花陽と一緒にご飯を食べている最中だ。花陽は箸で一口サイズのご飯を摘み、俺の口元へと持って行く。そもそも俺は凛とラーメンを食べてきたため晩御飯は必要ないのだが、花陽が食べていないからという理由で2度目の晩御飯を取っている。
「早く!」グイグイ
「わかったからそれやめろ!」
聞き手を封じられているため、ご飯を食べさせてもらわなければならない。そこまで腹が減ってないので拒否しようとしても、箸を俺の口に無理矢理ねじ込もうとするため食べざるを得ない。ほっかほかの白米を押し付けられすぎて、唇が火傷しそうだ。
「ケホッケホッ、もっと食べさせるペース遅くしてくれよ。もうそんなに入らないからさ」
よほど"あ~ん"がしたいのか、まだ口の中にご飯が残っているのに次を与えようとするため口や箸からポロポロとご飯粒が溢れる。
「あ~あ、もったいない」
花陽は溢れた米粒を拾い上げて自らの口へ運ぶ。
「お前、人がこぼしたモノ食ってんじゃねぇよ」
「どうして?むしろ零君がこぼしたモノなら何でも大歓迎だよ」
「正気か……」
満面の笑みでそんなコトを言われると、こちらから返す言葉はない。
バタン!!
「お風呂沸いたよ~ってまだ食べてたのかにゃ!?」
「静かに入ってきてよ、凛ちゃん!」
いつになく上機嫌な凛が部屋へ入って来た。さっきから姿が見えないと思っていたが風呂場にいたのか。
「そんなのはいいから、零君!早くお風呂に入るにゃ!」
「まだ私とご飯の最中だよ!」
『私と』とか言っているが向こうは俺に食べさせてしかいないため、食べているのはほとんど俺だけである。
「今度は絶対にちゃんと食べるから、今日は勘弁してくれ。もう腹いっぱいだ」
「むぅぅ、絶対だよ」
疲れる……こうやって彼女たちの機嫌を取りながら生活するのはもの凄い疲れる。脱出しなければ、この生活がずっと続くのか……
「それじゃあ行くにゃ!」
「あっそうだ凛ちゃん、零君の着替えどうしよう?」
「あ!忘れたにゃ…」
「さすがに今の服のままって訳にもいかないしね」
監禁しているのに毎日風呂に入れたり、着替えの心配をするあたり花陽と凛のわずかな優しさを感じる。
「しょうがない、今から零君の家に行ってくるにゃ」
「え?今から行くの?」
「善は急げって言うにゃ」
それ絶対使い方間違ってるぞ……
「分かったよ、お願い」
そして凛は俺の家へ向かった。つまりこの家に残されたのは花陽と俺、ただ2人だけになる。もしかしたら脱出の機会があるかもしれない。
「ちょっと私、食器を片付けてくるね」
「え?あ、あぁ」
何を考えているのか、花陽は俺1人を残して部屋から出ていってしまった。
「よく分からんがこれはチャンスだ」
今まで花陽たちの監視があったため取り出せなかった携帯をポケットから引っ張り出す。これで真姫と希にさえ連絡できれば……
「が、画面が映らない!?充電が切れたのか!?」
今日1日、ほとんど電源を切っていたハズだ。なのに充電切れになっている。
「意味が分からない…もしかして花陽はコレを見越して……いやいやアイツは俺の携帯に触れてすらないぞ」
結局、脱出の手立てが見つからないまま夜が更けていく一方だった。
~※~
同時刻:零の家
神崎零は1人暮らしである。彼が監禁された今、家主を失った家は誰もいないのが普通である。
ガチャ
「お邪魔しま~す」
何故か誰もいないハズの零の部屋に人影が1つ。零より一回り低い身長、歳相応のスタイルに栗色の髪、その髪で結ばれたサイドテールが特徴の少女……高坂穂乃果が零の部屋に入って来た。
こちらの家の夜は、今から始まろうとしている……
あけましておめでとうございます。今年も『日常』『非日常』共によろしくお願いします!
今年の目標はもちろんこの小説の完結です。大雑把に構成を練ったところ、第六章で一応完結予定です。さらにこれはまだ未定ですが、この小説完結と同時に『日常』も完結させようと思っています。理由としてはラブライブの小説でまた新しい話を思いついたからですが、あくまでも未定です。
次回は何人かのμ'sメンバーが零の家に集結。真姫の運命は如何に!?
※12時間限定公開の小説を閲覧して下さった方、ありがとうございました。
付録:現時点でのメンバーヤンデレ度vol.5
正常(協力者):真姫、希
正常(?):海未、にこ
予備群:
異常:穂乃果、ことり
末期:花陽、凛、絵里