ラブライブ!~μ'sとの"非"日常~【完結】   作:薮椿

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久々に『日常』と同時投稿。


真姫や希などμ'sメンバーの心情は描いてきましたが、零自身の心情を詳しく描くのは初めてかもしれません。


第五話 ‐決意の証明‐

 

 

「コレのせいかよ……」

 俺は携帯を解体し、中に埋め込まれていたチップを抜き取る。そのチップは非常に小さく、一度落としてしまうと探すのが困難になるぐらいだ。

 

「それ埋め込むの大変だったんだから」

 

「大変だったんだからじゃねぇよ。まさか俺の携帯に発信機を埋め込んでるなんて思わなかったぞ」

 にこは俺の携帯の内部に発信機を取り付けていた。携帯の充電が恐ろしく早く減っていたのはコイツのせいだったんだな。にしても、μ'sのみんなが機械に精通し過ぎてないか?穂乃果も真姫も盗聴器を使いこなしていたし、好きな人のためなら何でもできるというコトか……

 

 

 

「ほらよ」

 

「返してくれるの?」

 

「さっき壊した。まあ、今回はそのおかげで助かった訳だけど」

 

「にこは何もしてないけどね」

 

「誰かが来てくれるだけでも嬉しいんだよ。何事も1人で戦うのはツライ」

 真姫に希。2人が一緒にμ'sを元に戻すと言ってくれた時はとても嬉しかった。仲間だから当たり前だと思うかもしれないが、相手は隙あらば命を取ろうとする奴らである。

 

 

「やるコト終わったんなら、早く家に帰った方がいいわよ」

 

「家?そういや凛が俺の着替えを取りに行くって言ってたな」

 

「今、アンタの家にいるのは凛だけじゃない、花陽もいるわ」

 

「やっぱりな……」

 

「知ってたの?」

 

「全然帰って来ないから、もしかしたらって思ったんだ。アイツが何を企んでるのかは知らないけど」

 あの2人は一時的な協力関係ではあるものの、お互いがお互いを抹消の対象としている。どちらかが突然裏切ってもおかしくはない。

 

 

「それで?何で早く帰った方がいいんだ?むしろ俺はアイツらが帰ってくるのを待って話がしたいんだけど」

 

「あの家には穂乃果もいるわ」

 

「なんだって!?」

 朝の連絡から予想していなかった訳ではないが、まさかこんな夜まで滞在しているとは思わなかった。しかもしっかりと俺の家に不法侵入しているらしい。

 

「もしかしたら、自分の家で血生臭い展開になっているかもね」

 

「くそっ!!」

 にこは俺を焚きつけるように笑っている。もしかしたらと絶望を想像をしてしまう。俺は無我夢中で部屋を飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 にこはただ1人部屋に残されていた。

 

「アイツもバカね。μ'sのコトになると、こうもホイホイ簡単に動いてくれるんだから」

 にこは零が寝かされていたベッドに近づいて思いっきりダイブする。

 

「すぅ~~はぁ~~。何でアイツからこんないい匂いがするのかしら?我慢できなくなっちゃうじゃない」

 枕に顔を埋めながら、こびりついた匂いを存分に堪能する。零はたった数時間寝かされていただけだったが、今日1日の疲労の匂いが十分すぎるほど溜まっていた。

 

「さぁて、にこが手を汚さなくてもいいように潰し合って頂戴ね」

 にこの思惑は恐ろしいほど順調に進んでいた。零にμ'sのピンチを焚きつければ確実に動いてくれる。現在零の家で誰と誰が対峙しているのかは知らないが、そこに零が介入すればさらに事態は悪化するだろうと考えている。なんたって自分の想いの人が目の前にいるのだから。その人の前で自分の功績を見てもらおうと、人を殺めてしまうコトなど彼女たちにとって造作もないだろう。

 

 

 

「先に消えるのは誰かしら、超楽しみだわ!」

 

 

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 

 後ろから花陽の声がした。いつもならその甘い地声に安心感すら覚えるが、今は一番聞きたくない声であった。穂乃果と凛の会話で恐怖を感じ、未だそれが抜けきっていない真姫は後ろを振り向くことさえ出来なかった。

 

 

「ちょこぉっと、花陽とお話しない?」

 

「……」

 言葉が出てこない。さっきから起こっている状況は理解できるが頭が着いて来ない。真姫の脳はパンク寸前まで追い込まれていた。

 

 

「どうしたの真姫ちゃん?何か言ってくれないと分からないよ」

 普段の花陽は話が得意ではなく、いつもは聞き手に回っている。だが今回は、相手の弱みに漬け込むかのように言葉を突き刺してくる。

 

 

 

カツカツ

 

 

 

 花陽は真姫に近づいていく。もちろん真姫にもそれぐらいは分かっている。だが言葉も出なければ身体も動かない。こちらに近づく音が大きくなればなるほど、さらに自分の身体が硬直していくのが分かる。

 

 

「来ないで……」

 やっと出た言葉がそれだけ。しかも隣にいても聞こえないぐらいの声である。

 

 

 

カツカツ

 

 

 

 何も考えられなくなった真姫はギュッと目を瞑る。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、そこまで~」

 

 

「「!!」」

 花陽とは違う聞き慣れた声。驚いているのは真姫だけではない。真姫はゆっくりと顔を上げ、花陽の目線の先を追う。

 

 

 

「の、希!?」

 

「こんばんは真姫ちゃん!エライ顔色悪いなぁ」

 花陽の背後には希が立っていた。いつもと同じ緊張感を一切感じさせない、包み込むような安心感を醸し出している。

 

 それとは対照的に自分の計画を邪魔されたのが頭に来たのか、花陽はギリっと歯を鳴らし希を睨みつける。

 

 

 

「花陽ちゃんもこんばんは。話がしたいんやったら、ウチと一緒にしやへん?」

 

 

「希、あなた……」

 

「どうする?真姫ちゃんも一緒に行くから」

 

「ちょっと!?勝手に決めないでよ!」

 

「まぁまぁ、それでどうかな花陽ちゃん?」

 

 

 

 

「……いいよ」

 

 

 

 

 表情には出なかったが真姫は少し驚いた。花陽が希の提案に素直に乗るとは思わなかったからだ。

 

 

 

 そして、ここでもμ's同士の対決が始まろうとしていた……

 

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 

 

 何故こんな事態になってしまったのだろうか、と考えてみたことがあった。たった1週間前までは何も変わらない、普通の日常だった。俺もその中に混じってふざけ合い、そして笑い、時には一緒に苦難を乗り越えたこともあった。楽しかった日々も一緒に立ち向かった苦難も彼女たちとの大切な思い出の1つであり、俺の中で一生忘れることはないだろう。作り上げられた俺と彼女たちとの絆は絶対に途切れないと思っている。

 

 

 

 

 

 

 だが、歯車は狂った。

 

 

 

 

 

 

 真姫や希と対峙した時を思い出すと、彼女たちの中には必ず俺がいた。花陽と凛もそうだろうし、そして穂乃果たちも……

 

 

 そう考えるたびに、この事態を巻き起こしたのは俺なのではないかと思った。俺がいたから彼女たちの笑顔が消えたのではないか、μ'sが崩壊してしまったのではないか。その自責の念で夜も眠れないこともあった。

 

 

 μ'sやみんなのことを考えれば考えるほど心が痛む。次第に心が”負”に侵食されていく。そこから生まれるのはまたしても”負”。その繰り返される連鎖は俺を絶望させるのには十分だ。

 

 

 精神的にも肉体的にも追い詰められ苦痛な思いをするぐらいなら、いっそのことμ'sの誰かに身を委ねてしまった方が楽だろう。過程やその後はどうであれ、あれだけ魅力的な女の子たちにこの身を預けられるのなら、それはそれで1つの選択肢かもしれない。そもそも、絶望に巻き込まれるならば逃げるのが普通な手だ。

 

 

 例えば、目の前で誰かが万引きをしたとする。そしてそれを見ていたのは自分だけ。もしその人に注意をしたら、手を出されるかもしれない。場合によっては病院送りになってしまう可能性もある。そのケガで人生を棒に振るかもしれない。ヘタに正義感を発揮するならば、その場で何も言わずに逃げてしまった方が今もこの先も安全だ。何も立ち向かうことが正解ではない。

 

 

 

 

 

 しかし……

 

 

 

 

 

 

 俺は絶望などしないし、逃げるつもりもない。

 

 

 

 そこまでの決意を固めた理由は真姫と希だった。その2人を元に戻した際、2人の本当の笑顔を見て、みんなともう1度あの日常に戻りたいと強く思った。何度も心が負の感情に押し潰されそうになった。だがその2人の笑顔がその感情を浄化した。

 

 

 俺が逃げてはみんなを救うことはできない。真姫や希だけではなくみんなともう1度笑い合いたい。一緒に馬鹿騒ぎしたい。

 

 

 

 

「全く……相変わらず手間のかかる奴らだ」

 

 

 

 こんな状況にも関わらず自然に笑みが出た。なにも1人で戦う訳ではない。真姫と希もいる、残りのみんなも元に戻れば力を貸してくれるだろう。誰かが意図的に仕組んだ脱出不可能な迷路ではない。1歩1歩確実に進んでいけば必ず終わりは来るはずだ。ただしそこに到達することができるのは、途中で逃げずに前に進むことを決めた者のみだ。

 

 

 

「俺自身も、もっと強くならないとな」

 

 

 この前、希からこう言われたことがある。

『零君はμ'sのみんなに優しすぎる。その優しさがアダになってると思うんよ。恐らくみんなは零君のその優しさにつけ込んでくる。注意せんといかんよ』

 

 

 そんなことは俺が一番分かっている。にこも俺のその部分につけ込んだのだろう。本人は隠しているようだったが今まで何人の黒い表情を見てきたことか、にこの本性は丸分かりであった。恐らくμ'sメンバー同士を対立させて漁夫の利を得ようとしている、小悪魔らしいにこのやりそうなコトだ。

 

 

 μ'sのみんなを大切に思っているし、守ってやりたい。だから自分の信念は絶対に曲げない。たとえその気持ちを利用されようとも、その信念を貫いた上でみんなを元に戻してみせる。

 

 

 

 

「そろそろか」

 そんなことを思い出している内に俺の家が見えてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 先も見えぬ夜闇の中で、未来を照らす光が動き出す。

 

 

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「さぁ凛ちゃん。覚悟はできた?」

 穂乃果はナイフを片手に凛との距離をゆっくりと詰めていく。ナイフを舌なめずりしながら、獲物を狩るオオカミのようである。

 

 

「っ……」

 凛は周りを見渡し武器になりそうなモノを探す。その顔には明らかに動揺が現れていた。

 

 

「いい表情だねぇ。あっ、イイコト教えてあげるよ」

 

 

「?」

 

 

「穂乃果ねぇ、最近肉や魚のさばき方を覚えたんだ。何のためだと思う?」

 

 

 凛には答えが分かっていた。だが、口に出すのはあまりにも恐ろしい。

 

 

「それはね、凛ちゃんみたいな豚を調理するためなんだよ。そうだ!零君に凛ちゃんの肉で作った料理をご馳走しようかな?きっと喜ぶよ~」

 

 

 穂乃果はどんどん凛へと近づいていく。それとは対照的に、凛は腰を抜かしながら後ずさりする。

 

 

 

 

 

 

 勝負は決した。凛に勝ち目はない。

 

 

 

 

 

 

「くっ……!」

 凛は近くにあったお玉を穂乃果に向ける。だがお玉を持つ手はブルブルと震えていた。

 

 

「アハハハハハハハハ!!惨めだねぇ、そんな悪あがきしかできないんだ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「凛!!」

 

 

 

「「!!」」

 

 突然、リビングの外の廊下から声が聞こえた。

 

 

「走れ!!」

 穂乃果は驚いてその声の方を振り向く。凛はその一瞬のチャンスを逃さなかった。

 

 

 

ブン!!

 

 

ガツ!!

 

「イタっ!!」

 凛は持っていたお玉を穂乃果の右手目がけて投げつけた。その反動で右手からナイフが落ちる。穂乃果がひるんだ隙を付き、凛は穂乃果の横をするりと回転してリビングの外へと駆け抜けた。

 

 

 

「零君!!」

 

「逃げるぞ!!」

 凛はリビングの外で手を伸ばして待っていた零と合流し、外へと逃亡した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 穂乃果は2人の後は追いかけず、1人リビングに残っていた。

 

 

「ふ~ん、まだ分かってないみたいだね。零君も凛ちゃんも。そうだよね~愛に障害は付きモノだもん」

 

 

 

 

 恐怖はさらなる闇を増幅させる……

 

 

 




第三章完結まで恐らく後3話。ストーリーの進行はかなり遅いですが、ここが1つのターニングポイントだと思うので。



次はついに零と凛の直接対決です。真姫と希の活躍もご覧あれ。
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