いつか時系列をまとめて付録として載せたい。
「いない……」
俺たちが花陽の家に戻った時には、既に誰もいなかった。家主である花陽、俺を助けに来たと思われるにこ、どちらもだ。
「凛、どういうコトだ?花陽は家にいるんじゃなかったのか?」
「そのハズだったんだけど、おかしいにゃ~」
俺が監禁されている間にいなくなったのか、俺が脱出してからいなくなったのか。おそらく前者だ。なぜなら、にこが普通に玄関から家に入って来たから。俺が脱出する時に玄関の鍵が破壊されていたため、にこは正面から侵入したと考えられる。あの花陽が家の中にいて、玄関の鍵が壊れる音に気付かない訳がない。
「というコトは、花陽はお前に内緒で何かしようとしてたんだな」
「何かって……なに?」
「それは分からないけど……とにかく、花陽が行きそうな場所で心当たりはないか?」
「う~ん、今日はずっと家にいるって言ってたし」
「そうか……」
花陽が行きそうな場所……考えろ、考えろ。今日の会話の中に確実にヒントがあるハズだ。思い出せ。
……
……
……そういえば
『あっそうだ凛ちゃん、零君の着替えどうしよう?』
!!!
「俺の家だ。花陽は俺の家に行ったんだ!」
「え!?どうして!?」
「お前をリタイアさせるため。それを俺の家へ確認しに行ったんだ」
「凛を?」
「ああ、俺の着替えを持ってくるという提案をしたのは花陽だ。それをお前に取りに行かせたんだよ。もし凛が『自分が行く』って言わなかったら、そう言わせるように誘導しただろうな。今回はお前がすぐに立候補したから円滑に進んだけど」
「でも、かよちんがどうして?」
「俺の家の洗面所の窓が開いていた。それは今日花陽が俺の家にあらかじめ侵入したからじゃないのか?それも朝早くに」
「そ、そう言ってたにゃ」
「やっぱりな。その時花陽は知ってたんだよ、既に俺の家に穂乃果がいるって。その穂乃果が今日ずっと俺の家にいるだろうってコトもな」
今の穂乃果なら、俺の家に誰もいないと分かったら絶対に潜伏しようとする。誰が見ても分かるだろう。
「花陽はそれを知った上でお前を行かせた、穂乃果と遭遇させるためにな。そうなれば、争いは避けられないだろ?」
「かよちんが……そんな」
穂乃果と凛の戦闘は、穂乃果の圧勝だった。おそらく花陽はそれも見越していたのだろう。
実の親友に裏切られたのはツライだろうな。あの時の凛なら同じコトを考えていたかもしれないが、今の凛にとっては仲間という心の支えがなくなってしまうようなものだ。
「俺は今から家に戻るが、お前はどうする?」
家に戻れば花陽がいる可能性があるが、穂乃果がいる可能性もある。穂乃果に大きなトラウマを植えつけられた凛にとって、もう1度あの場所に行くのは躊躇されるだろう。
「行くよ。凛も零君と一緒にみんなを助けるって決めてるもん!!」
「そうか、よし!じゃあ行こう!」
決意新たな凛と共に、もう1つの光を取り戻す。
~※~
時間は少し遡る。
希は花陽を引き連れて、零の家の近くにある公園へとやって来た。真姫もその後に続く。
「とりあえず花陽ちゃん、人と喋る時ぐらいポケットから手を出した方がええんとちゃう?」
希の言葉を聞いて、真姫は花陽の姿を見る。確かに両手を上着のポケットに入れている。零はクセでよくしているが、花陽がやっているのは珍しい。
「あまり物騒なモノを持ち歩るいたらアカンよ」
「物騒なモノって?まさか!?」
「そのまさかやろうなぁ」
真姫は驚いた目で花陽を見つめる。希に敵意がないと分かったのか、花陽はポケットから手を出した。信じられないが、あのポケットには凶器が仕込まれていたに違いない。
「そしたら本題に入ろか。単刀直入に聞くけど、花陽ちゃん。どうしてこんなコトしてるん?」
本当に直球すぎて、さすがの真姫もツッコミそうになる。しかし、そんな質問は愚問だと思った。真姫も希も同じ境遇に立っていたからだ。
「零君のためだもん。みんなと一緒にいると、零君がダメになる。今だってとても疲れてるし……だから、私がなんとかしないといけないの」
「それを零君には言ったん?」
「言ってないよ。でも分かるんだよ、零君は私に迷惑を掛けないようにワザと言ってないんだって。零君優しいから、私を巻き込まないようにしているんだよ」
真姫には花陽の主張を少しは理解できた。零は真姫たちに優しいがゆえ、自分の問題は自分で解決しようとする。それは真姫たちを信用していないからではなく、単純に巻き込みたくないからの一言で片付けられる。
「零君、とっても苦しそうだよ。普段から険しい表情ばっかりしてるし、それに……最近全然笑わなくなっちゃった」
「もしかして他のみんなから、自分が零君を守ろうと思ってる?」
希は余計な詮索はしないように、かつ要点の回答は花陽の口から言わせるように慎重に言葉を選ぶ。花陽を激昂させてしまうと話し合いどころではなくなる。
「もちろんそうに決まってるよ。みんなのせいで零君が苦しんでるんだったら、その原因を排除しなきゃいけない。でも零君にはそれができない。だったらその役目は私がするしかないんだよ」
淡々とした口調で語っている花陽だが、溢れ出る狂気は凄まじいモノだった。まるで凛を恐怖に陥れた穂乃果と同じオーラだ。
いつもとは全く違う花陽に圧倒され、真姫は一歩後ずさりをする。
だがその瞬間、希が目で何かを訴えかけてきた。
『逃げたらアカン』
真姫はそう捉える。
真姫は自分が元に戻った直後のコトを思い出す。零と一緒にみんなを元に戻すと誓った。だが、それから自分は何かの役に経っただろうか?
零たちの話では、一昨日の木曜日に自分が一部記憶喪失になっているのだという。どうやらその時、絵里に合っていたみたいだ。今日は穂乃果と凛の争いを止めるどころか逃げ出し、花陽に見つかった時は希がいなければどうなっていたのか分からない。そして今も花陽から逃げ出そうとしてしまった。
何をやっているのだろう……
「花陽ちゃん、それは零君のためじゃないよ」
こちらでは再び2人の話し合いが始まっていた。真姫は惑いながらも耳を傾ける。
「じゃあ希ちゃんはどうするの?指を咥えて見てるの?私は零君が壊れるところを見たくないよ!!」
花陽は段々と声を荒げて言っている。このままでは理不尽に手を出されかねないが、ここで引いてしまっては花陽を認めてしまう。希は危険を感じながらも、このまま突っ込んでみた。
「もちろんウチだってそんな零君は見たくない。でも、花陽ちゃんのやり方で零君が喜ぶと思う?」
「喜ぶよ。だって零君、私が頑張った時はいっつも褒めてくれるもん!!『頑張ったな花陽』、『ありがとな花陽』って、笑顔でそう言ってくれるもん!!だからその笑顔を壊したくない!!みんなが壊そうとしてるなら、私はμ's全員を敵に回してでも零君を守る!!」
μ'sの中でも圧倒的に運動音痴な花陽。そのため、みんなに置いていれないように1人で練習する時もままある。その努力は一番零が褒めてくれた。μ'sのみんなと一緒に踊れるのはもちろん楽しい、だが零に見守ってもらえるコトは花陽にとって何よりも嬉しいコトなのだ。
「だから、私は零君を壊そうとする人を全員やっつける!!そうすれば零君が安心できるから!!」
μ's内で自分が一番未熟だと思っている花陽は、話し合いだけでは他のメンバーには絶対に勝てないと恐れていた。だから殺す。もう誰も零に近付けさせないように、自分が守る。それしか道がない、そう思っている。
「本当にそうやろか?」
「え?」
「本当にそれで、零君が花陽ちゃんに笑顔を向けてくれるんやろか?絶対にそうはならんと思うよ」
「そんなコト!!」
「そんなコトある。零君が自分で言ってた、『俺はもう1度、あの時のμ'sと日常を過ごしたい』ってな。でも、花陽ちゃんが導くその未来では、零君の未来へは絶対に辿り着けんよ」
零はもっと具体的に自分の目指す未来を語っていたが、希は簡潔にまとめた。それを印象付けて、花陽の心に響かせようと思ったからだ。
「その未来は零君と花陽ちゃんしかおらん未来や。そんな未来、零君は望んでない。むしろ、花陽ちゃんが今やっているコト、それが零君を苦しめてるんやで」
「そんなの嘘だよ!!だって零君はいつも私を褒めてくれる!ミスした時も励ましてくれる!いつも私に笑顔を向けてくれる零君が、私で苦しむハズがないよ!!」
「本当に?最近、零君から笑顔を向けられた?」
「!!」
「思い出して。花陽ちゃんから見た零君を……。ここ最近一度もないハズや」
花陽はここ1週間辺りの記憶をすべて引っ張り出す。異常となったみんなと一緒にいる時はもちろん、自分と一緒にいる時も零の表情は険しく、苦しそうだった。そして今日も……
「分かったみたいやね。そう、零君はおかしくなってるみんなどころか、元に戻ったウチらにすら笑顔を見せてない。そらそうや、自分を中心としてこんな状況になってるんやから」
真姫はここまでの会話を黙々と聞いていた。希が花陽に言葉を投げかけるたびに、自分の心にチクリと刺さるモノがある。
「それを花陽ちゃんは気付けなかったんや」
「うるさい!!!!!!!!!!」
「「!!」」
突然、花陽は俯きながら震えだす。頭に相当血が上っているのか顔が真っ赤になっている。
「さっきからうるさいよ!!そうだ……ここで希ちゃんを殺しちゃえば、絵里ちゃんにもダメージが入るかな?精神的に」
花陽は右ポケットに手を突っ込む。その中に隠してあったナイフを握りしめ、こちらへ向かって来た。
「真姫ちゃん!!逃げて!!」
「あ…ぁ…」
また……逃げる……?
希の叫びが聞こえる。だが真姫は"逃げる"という言葉に反応して、その場から動けなかった。
「真姫ちゃん!」
もしかしたら花陽は真姫も襲うつもりかもしれない。そう考えた希は真姫が動かないのを見て、彼女だけでも守ろうと真姫の前に立った。
希は運動神経がそこまでいい方ではない。μ's内では花陽と同じぐらいだ。だが最近の花陽の成長は著しく、彼女では難しいと思われていたステップもラクラクこなす。そういうステップやダンスの動きなら、希より遥かに上かもしれない。
もう花陽とは既に数メートルの差しかない。自分の運動神経では花陽の攻撃を受け流したり、かわして反撃するコトもできない。だったらもう自分が……
もし自分がやられたとしても、真姫が逃げ出す時間を稼げるように心臓部分は腕で隠す。
来る……希は目を瞑った。
刹那、公園の草むらがゴソゴソ動いた。
そしてその草むらから何かが飛び出す。一瞬過ぎて人間の目では確認が不可能なぐらいだった。その何かは希たちの元へ向かって一直線に走る。
「かーよーちーーーーーん!!」
「凛ちゃん!?」
「凛!?」
凛は無謀にも花陽に飛びついた。俊敏な動きで花陽の手からナイフをひったくり、そのまま遠くに投げ捨てる。左のポケットに入っていたもう1つのナイフも同様に、ポケットから抜き取って捨てる。
「邪魔しないでよ!!!凛ちゃぁああああん!!」
武器を失った花陽は、拳を握り締め凛の顔面を狙う。
希も真姫も、突然すぎる状況に戸惑っていた。だがその一瞬の戸惑いで凛を危険に晒してしまっていた。
「凛ちゃん!!」
「凛!!」
2人は凛の名前を叫ぶコトしかできなかった。
「そこまでだ!!」
聞いたコトのある声が聞こえた。その声の主は、自分たちを再び正しい道の上に立たせてくれた人。
自分たちの救世主、そしてμ'sの希望……
「零君……」
「零……」
「待たせたな2人とも」
闇に、光射す。
次回が第三章完結編です。
この話から真姫が弱キャラみたいに思えますが、これが普通です。ちなみに物語の展開上、零を負けさせることは出来ませんが、μ'sメンバーは負けても話は進みます。そういうことなので決して弱くはないですよ。
~次章予告~
以下は次の第四章のあらすじです。若干ネタバレが入ってますのでご注意ください。(※前話より内容を追加してます)
零は花陽と凛を取り戻し、日常にまた一歩近づいた。今日こそはゆっくりと休もうとしていた矢先、携帯に連絡が入る。連絡の主は高坂雪穂と絢瀬亜里沙。再び不穏な空気を感じ取った零は、彼女たちとコンタクトを取る。
同日、買い物に出かけていた花陽、凛、真姫は最も出会ってはいけない人物に遭遇していた。絢瀬絵里。そしてそこには、変わり果てた零の姿があった。
よって、第四章のメインが絵里となります。
ちなみに第五章のメインがにこ、最後の第六章のメインが穂乃果、ことり、海未の幼馴染組となります。(※変更の可能性アリ)つまり第三章完結で折り返しです。