そもそもなぜ俺と凛が公園にいるのか。それは単純に『嫌な予感がしたから』、それだけだった。訓練さえすれば、人間でも予知ができるらしい。よくテレビでやっている、警察が怪しい人物に声を掛け、結果本当に怪しい人物であり、その人を逮捕するという展開を想像してみれば分かりやすい。別に超能力者でなくとも可能である。
今回もその通りだった。公園に駆けつけると、希たちが険しい表情で会話しているのが見えたため、俺たちは隠れて様子を見ていたわけだ。まさかとは思っていたが、花陽が本当にμ'sのみんなを襲うとは……
「ここからは俺と花陽で話をさせてくれ」
希は黙って後ろへ下がった。花陽からの抵抗もなくなったため、凛も花陽から離れて希たちと同じ場所で待機する。
「うっ……零君……」
突然現れた俺にどう言葉を掛けていいのか分からないのか、今まさに希たちを襲うところを見られたためか、花陽はかなり動揺している。言いたいコトはほとんど希が言ってくれたため、俺から掛けてあげられる言葉は少ない。
「どいて…」
「花陽、お前は」
「どいてよ零君!!みんなを殺せない!!」
目に涙を浮かべながら、まだ自分の役目を遂行しようとする花陽。どんな逆境に立たされても自分を保てるのは褒め称えたいが、あいにく俺が会いたいのはこの花陽ではない。
「どかない」
「どうして!?みんな零君を壊しちゃうんだよ!!」
「今の自分を見てみろ」
今のこの状況。俺とその後ろには凛、真姫、希。対して反対側には花陽1人だけ。花陽は俺たちの顔を交互に見ている、となれば自分の立場が理解できただろう。
「大体希が言ってくれた通りだよ。俺は今のお前を絶対に褒めたりはしない。自分が何をやっているのか、よく考えろ」
「うっ……あぅ……」
さらなる動揺に駆られ、思っているコトを口にだせないようだ。
「お前は俺のために行動しているって言ってたよな。でもそれと同時に、俺のためじゃなくてお前自身を守ろうとしたんだ」
「……?」
「そのままの意味だよ。俺を守ろうとする気持ちもあったんだろうけど、一番の目的は俺の傍にいる自分を守ろうとしたんだよ」
「それは……」
「本当に大切に思ってるんなら監禁したりしないだろ。つまりお前は俺がどんな状態であれ、俺が傍にいたらそれでよかったんだよ」
キツイ言葉を投げかけているが、今の花陽を否定しなければ元の花陽は帰ってこない。
「俺と傍にいれば自分が狙われる、だから今までのお前の行動は自分を守るためだったんだ」
「うぅ……」
花陽は両手両膝を地面に着き、ポロポロと涙を流して泣き始めた。
「!!」
俺が急に頭を撫でたため、花陽は驚いて顔を上げた。
「俺は好きな花陽はただ努力するだけのお前じゃない、みんなと一緒に夢に向かおうとするお前が好きなんだ。みんなと同じ道を歩むために、一生懸命頑張っているお前が大好きなんだ。だからさ……」
俺は一呼吸置いてから次の言葉に移る。正直言って、これで花陽が元に戻らなかったら手の打ちようがない。だけど、もう彼女は……
「俺たちと一緒にやり直してみないか?俺はもう1度、お前が踊って歌っている姿を見てみたい」
俺はそっと花陽に向かって手を差し伸べた。
「いいの?こんな私でも?」
「いいに決まってるだろ、お前はμ'sのメンバーなんだから。μ'sに入った時の熱いハートがあれば、どんな苦難も乗り越えていけるさ」
花陽はμ's結成初期から、ずっと加入するかどうか迷っていた。自分は加入しない方がμ'sのため、足を引っ張ってしまうから、そのような理由から躊躇していたんだ。だが、彼女の心にはアイドルに対する熱いハートがある。俺はそれに気付いた時、絶対花陽をμ'sに入れてやろうと決めた。
「不安なら、俺がまた取り払ってやる。挫けそうな時も、諦めそうな時でもずっと……だから戻ってこい!!」
「れ、零君…………」
花陽の顔から黒さが、闇が消え去っていく。
「はい!!」
花陽は俺の手を取って立ち上がった。真夜中だが、俺の目には明るくキラキラした笑顔だけが映っていた。
~※~
「どうだ?花陽と凛の様子は?」
「もう寝っちゃったよ。だいぶ疲れていたみたいやねぇ」
「そうか……」
俺たちは花陽の貸家に戻って来た。一応事態は収束して安心しきったのか、隣の部屋で眠ってしまったらしい。
「零君もお疲れ様。まさか花陽ちゃんたちに監禁されているとは思わへんかったよ」
「俺もビックリした。ここまで計画を練っていたとはな」
これから先は、もっと恐ろしい計画を練っている奴しかいない。どう考えても今まで通りのやり方では通用しないだろう。
「ゴメン、私もう帰るわね」
さっきからずっと喋っていなかった真姫が口を開いた。花陽たちが戻ってきたというのに、その口ぶりはかなり重かった。
「ああ、今日はありがとな」
「っ……それじゃあ……」
真姫は足早に家を出ていってしまった。
「真姫、どうしたんだろう?えらく暗かったけど」
「これは真姫ちゃん自身が1人で乗り越えなきゃあかんコトや」
「知ってるのか?真姫の気持ちを」
「大体察しはついてるよ。でもこれを教えてしまうと、また甘えてしまうから教えられんよ」
甘える?誰が誰に?あまり事情は分からなかったが、希がこう言っているんだ。真姫を信じてみよう。
「零君ももう帰る?花陽ちゃんたちはウチに任せといて」
「そうだな。それじゃあよろしく頼むよ」
あんな争いごとのあった家に戻るのは気が引けるが、家主は俺だ、何が悪い。というのは冗談で、もし穂乃果たちがいた場合、アイツらの好き勝手にはさせないためだ。
「じゃあな」
「うん、またね」
希に挨拶をして貸家から出る。スッと夜風が通る。今まで感じられた邪気が嘘のように風が気持ちいい。
まだまだ問題は解決していない。穂乃果たちのコトも、真姫のコトも。だが、決して明けない夜はない。俺は凛と花陽が戻ってきたという一時の幸福を噛み締めながらも、また次の事態へ立ち向かう決意を固めた。
これにて第三章完結になります。μ's同士の対決が激化したり、更生した人もまた新たな葛藤が生まれたりなど、今後の話に繋がる重要な章になります。真姫たちにも必ず活躍の場はありますのでご心配なく。
ここまでありがとうございました。次章でもよろしくお願いします。次章のあらすじは第三章の第六、七話の後書きに掲載しています。
以下付録集。個人的に小説の設定集というものが好きなので作成。
付録1:現時点でのメンバーヤンデレ度
正常:真姫、希、凛、花陽
正常(?):海未
予備群:にこ
異常:ことり
末期:穂乃果、絵里
付録2:ここまでの時系列
(時刻・時間帯):(出来事)
某月
【日曜日】
昼:花陽と昼食
【月曜日】
~本編開始~
~序章開始~
早朝:穂乃果来宅
~第一章開始~
昼:実態調査
放課後:真姫により拉致、穂乃果とことりが対峙、脱出
夕方:真姫が更生
【火曜日】
某時刻:絵里と希が拉致作戦を練る
【水曜日】
【木曜日】
~第二章開始~
早朝:真姫と情報交換
朝:希と情報交換
放課後:希により拉致、真姫と絵里が対峙
夕方:希が更生
【金曜日】
某時刻:絵里が姿を消す
【土曜日】
~第三章開始~
昼:海未の相談に乗る
夕方:凛と夕食
夜:花陽と凛により監禁、真姫が零の家へ、にこ襲来、脱出
真夜中:凛と穂乃果が対峙、穂乃果とことりが対峙、凛が更生、希と花陽の話し合い、花陽が更生
【日曜日】
~第四章開始~