※挿絵機能を一度使ってみたくて、今回初めて使ってみました。本文の最後に付録として付けています。
第一話 ‐妹たち‐
花陽、凛との騒動が終わった翌朝9時。今朝は俺たちにかかっていた暗雲が取り払われたかのような、雲1つない快晴だ。だが俺のテンションは快晴とは真逆、曇りに曇って今にも雨が降りだしそうである。今までほとんど休みなしで動いていたためか、精神疲労と肉体疲労が同時に襲いかかってきている。折角の休日も昨日は丸1日潰れてしまったので、今日こそはゆっくりと休みたい。
とはいかなかった。なぜ俺がこんな早朝から起きているのかというと、携帯に来た1通のメールのせいだ。差出人は"高坂雪穂"。穂乃果の妹であり、姉と違ってしっかり者かつ現実的。俺はそこまで彼女と面識がある訳ではないが、一度会った時に俺がしつこく連絡先を聞いたため、お互いに連絡先は知っている。ちなみに雪穂からの連絡は初めてだったりする。
初めは『雪穂からメールをくれるなんて嬉しいぜ、ひゃっほい!』とか思っていたが、メールの内容を見て顔をしかめた。そのメールの内容はこうだ。
『突然で申し訳ありません。少し相談したいことがありまして、今日って空いてますか?』
正直言うと、普通の世間話のメールなら適当に返事をして、今日は1日中寝るつもりだった。しかし、元々あまり話したコトのない人に対して相談を持ちかけるというのは、よほど親しい人間に言いづらいコトなのか、もしくは切羽詰った状況なのだろう。
雪穂からの相談で想像できるのはやはり穂乃果だろう。もはや穂乃果の様子が異常なのは誰の目から見ても明白なのだが、実際に自宅ではどのように過ごしているのかは分からない。もし自宅でも"あの"穂乃果だった場合、雪穂が俺にSOSを求めている可能性がある。
凛を殺そうとした穂乃果だ、手遅れになってはマズイ。俺は急いで雪穂に返事を出し、朝の身支度を整える。
「ふぁあ~~~~」
まだ疲れが取れてないのか大きなあくびが出る。
昨日は色々ありすぎて、家に帰ってきた時には午前1時を回っていた。誰かが潜伏していないか家中を探したり、風呂に入って一息ついている間に時間は過ぎ、結局ベッドに入ったのが午前3時。今が午前9時なので6時間しか寝ていない。6時間も睡眠を取れば十分だと思うかもしれないが、連日の疲労はこの程度では全然取れてはいない。
休みたいが穂乃果たちは待ってくれない。むしろ今まで彼女たちがあまり動かなかったのが不思議なぐらいだ。恐らくこれからは、今まで以上に攻撃が激しくなるに違いない。だとすると、休んでいる暇は一切ない。
~※~
小泉花陽、星空凛、西木野真姫の3人は、昨日の慰安を兼ねて街で買い物を楽しんでいた。希も誘ったのだが用があると言って断られ、零に関してはゆっくりと休ませてあげようと3人からの配慮で誘ってはいない。
「この服、すっごく真姫ちゃんに似合うと思うにゃ!!」
「そ、それはいくらなんでも派手すぎるわよ。絶対に似合わないわ」
「そうかなぁ。私も似合うと思うけど」
「花陽まで……」
「ちょっと着替えてみてよ!ほらほら!」
「分かったから押さないでよ!」
真姫は凛にグイグイ引っ張られ、試着コーナーへと無理矢理押し込まれる。ちなみに凛が選んだ服はことりやにこが着るような、まさに『女の子です!』って感じの服だった。真姫は普段落ち着いた服しか着ないため、女の子らしい服を着るのは中々勇気がいる。
「じゃあ凛!あなたもコレを着なさい!」
「えぇーー!!」
真姫が持っていたのは、凛が選んだ服と負けないぐらい女の子らしい服だった。一番に目が行くのは何といってもフリフリのスカート。最近練習着をスカートにしたばかりの凛にとって、その服を着るのが1つの試練となり立ち塞がった。
「凛ちゃんもとても似合うと思うよ。さあ、着替えて着替えて!」
「かよちん押さないでよ!」
今度は花陽が凛を後押しして試着室に放り込む。花陽は別に面白がっている訳ではなく、単純に凛の可愛い姿を拝みたいだけである。下心や悪気は一切ない。
真姫と凛は仕方なく試着室のカーテンを閉めて着替え始めた。
「わくわく」
花陽は心を躍らせていた。真姫と凛の可愛い姿を見れるからというよりも、またこの3人で一緒にいる時間が堪らなく嬉しい。2人とこうやって笑い合ったり、時にはふざけ合いながらも日常を過ごせるのはとても幸せだ。元の自分に帰って来れてよかったと思っているし、何より自分を探し出してくれた零と希には多大な感謝をしている。
そして、ついに試着室のカーテンが開かれた。
「わぁ~~~!」
花陽はドレスアップした真姫と凛を見て驚きの声を上げた。いつもとは全く違う2人の服装に新鮮さを感じる。
「ジロジロ見ないでよ……恥ずかしい」
「恥ずかしがる真姫ちゃんも可愛いよ」
「ちょっと花陽!何言ってるのよ!」
「いつもはクールって感じだけど、今の真姫ちゃんはイマドキの女の子みたい!」
「意外にもキャピキャピした服似合ってるにゃ」
「意外に持って……凛、まさか適当に服渡したんじゃないでしょうね。私を辱めるために」
「ふぅ~ふぅ~」
「口笛、吹けてないわよ」
花陽の言った通り、真姫が着ているのはまさにイマドキの女子校生といった感じの服だ。ライブでなら派手な衣装を着るが、日常生活の中ではこういった服はあまり着ない。むしろ敬遠しているほどだ。
「凛ちゃんも、アクセサリがとってもオシャレだよ!」
「これは真姫ちゃんが持ってきたから仕方なく!」
「あらあら、とっても可愛いわよ、凛ちゃん」
真姫は悪い表情を作りながら、皮肉を込めて凛を攻め立てる。
「にゃ~~!!真姫ちゃんがイジメるよ~!!」
「先に突っかかって来たのはそっちでしょ!!」
凛は真姫の持ってきた服とアクセサリでドレスアップ。以前までは自分にオシャレは似合わないと思っていたのだが、零やμ'sのみんなのおかげで過去と共に克服。今では練習着もスカートになるほどファッションにはこだわりを見せている。だが、やはり注目されると羞恥心でいっぱいになる。
店だというのにギャーギャーと騒ぐ2人を見ると、花陽はいつもの日常が戻ってきたのだと実感する。しかし、これはこの3人だけの日常。μ'sとしての日常はまだまだ深い闇の中。この時間がいつまでも続けばいいのにと思う反面、他のみんなを取り戻すためにその闇に飛び込まなければならないという不安も生まれる。
でも、凛と真姫が一緒なら乗り越えられる気がする。頼りになる零と希もいる。仲間こそが心の支え、零の言葉の意味が今はっきりと分かった。
「かよち~ん!真姫ちゃんを何とかしてよ~」
「花陽、甘やかす必要ないからね」
「よし!凛ちゃん、真姫ちゃん!次にコレを着てみてよ!」
「「えぇ!?」」
どんなコトがあっても絶対に逃げない諦めない、もうμ'sに入る前の自分じゃない。仲間と共に乗り越える。新たな決意を胸に、今はこのひと時の日常を楽しもうと思った。
~※~
約束の時間の10分前、俺は雪穂と待ち合わせをするために公園へとやって来た。
「まだ来てないか」
周りには遊具で遊んでいる小さな子供とその親ぐらいしかいない。雪穂が到着するまで暇なので、ベンチに腰掛けその親子を眺める。その様子を見ていると、まるで向こうが住んでいる世界とこちらの住んでいる世界が全く別の世界のように感じた。片や笑顔と幸せが満ちており、片や怒りや憎しみ、悲しみに満ち溢れている世界。待ち合わせの場所をここにしなければよかったと後悔してしまう。もちろんあの親子に何も罪はない。ただの俺の嫉妬だ。
それにここ最近、"公園"にはそれほどいい思い出がない。真姫と絵里が対峙したのも公園だし、俺が凛と花陽に拘束されたのも公園、花陽が暴走したのもこの公園だ。子供たちの憩いの場として提供されている公園が、まさかあのように利用されているなんて誰も思わないだろう。
「すみませ~ん!遅れました!」
雪穂の声が聞こえた。駆け足で来たのか少し息が荒い。
「あれ?そっちの子は確か……亜里沙」
「はい!お久しぶりです、零さん」
雪穂と一緒にいたのは、絢瀬絵里の妹である絢瀬亜里沙だった。そういえばこの2人は同じ学校で同じ学年だったな。
「ごめんなさい。雪穂から話を聞いて、私も行きたくて、それで支度していたら思ったより時間が掛かって、それで」
亜里沙、何か緊張してる?言葉が途切れ途切れになっているが……
「いいから落ち着け。別に年上だからって緊張する必要ないし慌てなくてもいい。時間には間に合ったんだ、文句はないよ。」
「あ、ありがとうございます!」
「とにかく一旦休憩な」
雪穂も雪穂で申し訳なさそうにしているから、とりあえずジュースでも飲んでお互いに気持ちを落ち着かせよう。うん、それがいい。
~※~
「じゃあそろそろ本題に入るか」
10分程度の休憩を挟み、やっと本題に入る。その間にも2人と世間話をして、2人との距離もかなり縮まったと思う。気兼ねしてては相談するものもできないからな。
「はい、相談というのはお姉ちゃんのコトなんです……」
やっぱり、予想的中。穂乃果の妹と聞いて、予想を立てられないのがおかしいのかもしれない。
「お姉ちゃん、家にいてずっとニコニコしてるんです」
「楽しそうなんだな……」
「気になって聞いてみたんですけど、その時は決まって神崎さんの話題ばかりでした。『零君とこんなコトがあった』とか、『零くんに褒められた』とか……本人は楽しそうですけど、私は怖いんです、今のお姉ちゃんが」
「それっていつから?」
「2週間ぐらい前です」
穂乃果が俺の家を訪ねてきたのが先週の月曜日。その1週間前から予兆はあったのか、全く気が付かなかった。その時はまだ取り返しのつく状況だったのかもしれない。
「神崎さん!お姉ちゃんについて何か知りませんか!?急に性格も態度も変わってしまって、気味が悪くて……。それに、亜里沙も同じなんだよね?」
「亜里沙も?」
「はい、お姉ちゃんも雪穂のお姉さんと同じ感じです」
これも大方予想はついていた。絵里の妹だからこそ、彼女に聞いておきたいコトがある。
「なあ亜里沙、絵里って今どこにいる?」
「お姉ちゃんですか?今日は朝早くから出かけてますけど」
「一昨日と昨日は?金曜日と土曜日はどこにいた?」
「金曜日は学校を休んでずっと部屋に閉じこもってました。風邪かなぁと思ったんですけど、お姉ちゃんは違うって。昨日もどこかへ出かけてましたよ」
明らかに絵里は何かを企んでいる。希と共同戦線を張っていたのにも関わらず、裏切った彼女なら間違いなく。再び重くのしかかってきた不穏な空気に俺は戦慄する。
「家での絵里の様子は?」
「雪穂のお姉さんと大体同じです。最近は部屋に篭ってばかりで、夜中も笑い声とか聞こえてきて……怖いです」
あれだけ姉を慕っている亜里沙が、絵里に対してここまで嫌悪感を抱くのは珍しい。今の絵里がどれだけ壊れているのかが分かる。
「そうか……お前たちが言いたいコトは分かったよ。それに関してだけど……」
原因は分かっている。
「俺のせいなんだ」
「えぇ!?」
「どうしてですか!?」
「悪い、それはまだ言えない」
ここで話せば、彼女たちの心が少しは軽くなるかもしれない。だけど、もし彼女たちから穂乃果たちの耳にそのコトが入ってしまうと一触即発な空気になりかねない。この事態、少しでも危険がある場合、その因子はなるべく排除するべきだ。別の意味で俺たちより穂乃果と絵里に近しい2人を命の危険にさらすなんて俺には出来ない。
「でもこれだけは約束する。穂乃果も絵里も、絶対に取り戻す。だからもう少しだけ待っててくれ」
「信じていいんですね」
「ああ、俺に任せてくれ」
2人の真剣な目を見て、俺も真剣な目で返す。
「分かりました、お姉ちゃんは任せます」
「絶対!絶対ですよ!信じてます!」
「ありがとう」
雪穂と亜里沙、2人と約束を交わした。背負うモノは増えたけど、俺は背負えば背負うほど強くなれる。新たに守らなければならない人ができた。あの時固めた決意が更に強固になる。
~※~
2人に別れを告げて帰路に立つ。取り戻すと約束はしたものの、さっきから消化できずにいた疲労が襲ってきて身体がダルい。何もしていないのに息が切れそうなっているとは……
「あら?零じゃない」
その声を聞いただけで背筋が凍る。さっき感じていた疲労など一瞬にして忘れ去られた。自分の心臓の音が聞こえる。振り返って顔を確認するのも躊躇される。この声の主は、さっき話題に出ていた"お姉ちゃん"の1人……
"絢瀬絵里"
~※~
戦況報告
ということで第四章が始まりました。今まではメインキャラを絞っていましたが、第四章ではμ'sメンバー全員がメインで登場します。むしろ9人が主人公です。
~挿絵を閲覧して下さった方へ~
差付けなければ挿絵もこのまま続けていきますが、キャラクターを鉛筆で書いている上、挿絵が出来上がっても運営に許可を貰わないといけないので、この章の話は今までに比べて投稿が少し遅れそうです。