今回は全編通して、にこvs海未!
にこは立ち止まって海未に質問した。海未は突然思ってもないような質問をされたせいか驚きの表情を隠せなかった。とまどって自分の目をにこから逸らそうとするも、彼女の眼力がそれをさせてくれない。それに追い討ちをかけるように、零のコトが頭に浮かんできては離れない。
「どう思っているとは、どういう……?」
一旦心の整理したいため、にこが問いかけてきた質問の意味をそのまま問い返してはぐらかす。もちろん質問の意味など初めから分かっていた。恋愛事情には疎い海未でも、今のにこの真剣な面持ちから事情を察するコトぐらいはできる。
「単刀直入に言うわ。海未、アンタは零が好き?」
「そ、それは……」
少し昔の言葉で言えば、好きというのは"Like"か"Love"の2つに分けられる。にこが言いたいのは確実に後者だろう。
「その話が今のμ'sに関係あるのですか?」
「大ありよ、むしろそれしかないと言ってもいいわ。にこは零のコトは大好きよ。心から愛してる」
「愛してるって……」
「何?にこが男を好きになっちゃおかしいわけ?」
「いえ、いつもアイドル論で恋愛禁止って言っていたにこが普通に恋愛しているコトに驚いてしまって」
「本当に好きな人が出来た時ってね、今までの自分が自分ではなくなるのよ。だって自分の心が想いの人のモノになっちゃうんだもの。偉そうにアイドル論を語っていた頃が馬鹿みたいだわ」
自分が自分でなくなる。にこの恋愛論は間違いではない。だがそれはいい意味でも悪い意味でもある。想いの人に向けて、殻を破った新たな自分をアピールするのならば、"成長"という観点でいい意味だろう。だが、今のμ'sのように自分を魅せるために他者を蹴落とすという観点で見れば悪い意味として捉えられる。
ちなみに言っておくと、にこは後者である。
「穂乃果とことりも零の話ばかりしてるんでしょ?好きなのよあの子たちも、零のコトがね。雰囲気が変わった途端、男の話しかしなくなったのだとしたら、それは間違いなく恋よ。」
「穂乃果とことりが……零を……」
もしかしてとは思っていたが、にこにそう言われて確信できた。穂乃果もことりも零の話はとても嬉しそうに話す。むしろ最近2人から、零の話以外を聞いていないのだが。
「話を戻すわよ。それで、アンタはどうなの?」
「私は……零にはとても感謝しています。今のμ'sがあるのは零のおかげですし、スクールアイドルとして私に自信をつけてくれたのも零です。ことりの留学騒動の時も、私たちの幼馴染の関係を取り戻してくれたのも零で、後は……」
「どうでもいいのよそんなのは!!にこが聞いてるのは海未の気持ちよ!!」
にこは物凄い剣幕で海未を怒鳴りつける。ただでさえ妹と弟関連で苛立ちを覚えているというのに、海未のはっきりしない様を見て余計にストレスが募ったのだ。
「零が"好き"か"嫌い"か、この2択よ。どちらか答えなさい」
「そんな……」
中々に究極な2択。しかし海未にとっては実質1択だ。ここまで零に感謝をしておいて"嫌い"を選べるハズがない。もちろんこれはにこの想定通りの展開だった。
「………………好きですよ」
「ふ~ん、アンタも零をね~」
「でも私は違います!あくまで友達としてですよ!」
「本当に?」
「え……?」
「本当にそうなの?海未、それがアンタの本心?」
にこの質問は海未自身ではなく、海未の心に直接問いかけているようだ。海未は自分の心の奥まで完全に見透かされている感じがした。
「隠すのはやめなさい。知らなかもしれないけどアンタ、零の近くにいる時……顔赤くなってるわよ」
「えっ!?そ、そうなんですか!?」
「やっぱり気付いてなかったか。その時、ドキドキしたりしてない?」
「…………します。今までにない、心が優しく包み込まれるみたいに」
そう言われてみれば、海未は自分の心が暖かくなる時は決まって零が隣にいたコトを思い出す。μ'sをここまで成長させてくれた彼に対し、感謝という気持ちはもちろんある。だがそれ以上に海未の中では零という存在は、自分の殻を破るきっかけになったというのが大きい。
ファーストライブでは穂乃果たちと共に自分の緊張を解してくれた。ライブは大失敗だったが、今まで他人行儀な仲だった彼と大きな結束ができた。そこからだ、海未が少なからず零を意識し始めたのは。人前では緊張しがちは自分をいつも支えてくれて、しかもそんな性格の海未自身を否定するコトは一切ない。ことりの留学騒動で3人がバラバラになってしまった時も、追い詰められていてどうしようもできなかった自分に道を切り開いてくれた。
海未は今はっきりと分かった。そんな彼が、零が好きなんだ、と。もう自分の心は彼の色に染められてしまっているんだ、と。
「その顔、ようやく気付いたって感じね」
「はい、自分の中でも答えはでました。私、零が好きです。友達としてではなく、1人の男性として」
これが海未の出した回答だった。
話は変わるが、そもそも海未がここへ来た理由は今のμ'sの現状について話をするためであり、大告白大会に参加しに来たのではない。しかし海未はそのコトは既に忘れてしまっていた。にこの誘導にまんまと引っかかっているとも知らずに……
「これでにこも私のライバル……ですかね?」
「そうだけど、もっと身近にいるじゃない。アンタの"敵"が」
「え?敵ですか?」
「穂乃果とことりよ」
海未にとって最も身近で、恋のライバルになるであろう穂乃果とことり。しかし、この2人には海未とは決定的な違いがある。
「あの子たち、零への執着は正気の沙汰じゃないわ」
「ええ。零のコトになれば、穂乃果とことりはすぐに喧嘩してしまいますし……。なぜそこまでして啀み合うのでしょう?」
「言ったでしょ、恋をすれば自分が自分でなくなるって。あの子たちがまさしくそうなのよ。零を自分のモノにするためなら他は堂々と切り捨てる。それがμ'sであろうとね」
「μ'sであろうとって……μ'sは私たちから始まったんですよ!?あの2人がそんな簡単に切り捨てるハズが……」
「でも現にそうなっている。今の穂乃果とことりを見れば分かるでしょ?」
今の穂乃果とことり。2人はもはや『μ's』と『ラブライブ』という言葉を覚えているのかすら危うい。
「今のあの子たちにとって、世界っていうのは自分と零しかいないも同然になってるのよ」
「そんな……」
海未は自分では想像もしてなかった過酷な現実を突きつけられ動揺する。自分の知らないところでそんな事態になっていたとは思わなかったからだ。その中で、海未は疑問に思うコトがあった。
「零は……零はこの状況を知っているんですか?もしかして昨日、相談の乗ってくれた時は既に知っていたとか?」
「昨日もなにも、零は何日も前から知ってるわよ。被害者だしね……」
にこにとってここからが本番。自分の心を思いっきり黒に染まらせる。
「被害者とは……?零が被害者ってどういうコトですか!?」
「零はね……既に真姫や希、花陽や凛から監禁されたり変な薬品を嗅がされて疲労困憊なの」
零は真姫、花陽、凛に拘束・監禁され、希にはあらかじめ仕掛けられていた薬品によって気絶させられた。これが1週間以内の出来事なので、精神的疲労も大きい。
「みんなが……それもさっきの恋をするとどうとかっていうのですか!?」
「そうよ。みんな零を我が物にしたいからって、自分以外を蹴落としてばかり。零も零であの性格だから、自ら飛び込んで毎回疲労を貯めて帰ってくるの」
零の性格からして、彼は絶対に逃げ出さない。一度逃げ出して体勢を整えてからでも遅くはないのに、起きた出来事は早急に解決しようとする。もちろんそれが一番なのだが、自分の身体を気遣おうとはしない。それ故、事態は解決するが自分がボロボロになっていくのだ。
「ひどい……」
「にこも分かってるんだけど止められない。あの子たちはそれほどまでに手が付けられないわ。だから、海未……」
にこは一度言葉を区切って。海未の目を見つめ直す。
「一緒に穂乃果たちを止めない?穂乃果やことりだけじゃない、零を狙うμ'sのみんなを、にこたちで」
海未はにこの提案に大きく目を見開く。まさかにこが自分にこんな提案をしてくるとは思わなかったからだ。こう言っては失礼だが、面倒事は遠くから傍観する性格だと思っていた。
これがにこの計画。にこは自分が止める気などは更々ない。海未を焚きつけて、海未1人でやらせようとしているのだ。この話まで持って行くために海未の心を抉り、本心を引きずり出した。もちろん海未がどんな目に遭おうとも、にこには関係のないコトだ。むしろ同士討ちかなんかで穂乃果たちと消えてくれた方が都合がいい。
「はい、やります。穂乃果もことりも、μ'sも救いたいですから」
にこの計画はほぼ完了した。"ほぼ"である……
「そう、ありがと。それにしてもヒドイわよね」
「何がですか?」
これから別の話をするかのように、にこは一区切りを入れた。別の話と言えば"別"の話なのだが。声のトーンは今までよりもかなり低い。
「自分たちの私利私欲のために零を傷つけているコトよ。いくら好きだからとはいえねぇ」
「穂乃果もことりも独占欲は強そうですし。さすがにベタベタしすぎだとは思いますけど……」
「ねぇ……その時に心がモヤモヤしない?」
「そうですね……心に何か引っかかる時はあります。あれだけ零に積極的になれる穂乃果とことりが羨ましいのでしょうか?」
「それはねぇ…………嫉妬よ」
「嫉妬……」
海未の心の奥に眠っていた本当の気持ち。それは嫉妬。海未自身は気付いてなかったようだが、彼女も心の奥底では穂乃果たちに嫉妬心を抱いていたのだ。
「今まで心が痛んだり、それでストレスを感じていたのだとしたら、それは穂乃果たちに対する嫉妬……怒りよ」
「嫉妬……?怒り……?私はそんな……」
「自分が気付いてなかっただけで、アンタは零が好きだった。なぜ気付けなかったのか分かる?」
「さぁ……?」
「それはね、穂乃果たちに邪魔されていたからよ」
「穂乃果たちに?どうして穂乃果たちがそんなコトを?」
「アンタは穂乃果とことりに比べれば、前に出られる性格じゃない。だから無意識の内に自分の気持ちを殺していたのよ。今まで感じてきた心の痛みは、気持ちを殺した時のものだわ」
常に前へ、積極的な穂乃果やことり。だが海未は違う。2人が前へ出るために自分は一歩引いてしまう。その性格がゆえ、穂乃果やことりの気持ちには気付けても、自分の気持ちは気付かない。
「そう考えれば、邪魔だとは思わない?自分の好きな人を、想いの人をずっと取られてるっていうのは、にこだったら耐えられないわ」
邪魔?穂乃果とことりが邪魔?海未の中で猛烈な葛藤が生じる。
このままでは零が取られる。自分の気持ちを伝えるコトもできずに。
「辛いでしょ、悲しいでしょ、苦しいでしょ、そして……憎いでしょ?」
「わ、私は……」
「思い出しなさい。今まで傍観するコトしか出来なかった自分を。そこで素直な気持ちをぶつけてみなさい」
海未は教室でのワンシーンを思い出す。
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『零くーーん!!頭ナデナデして!!』
『穂乃果!?急に抱きつくな!』
『零く~ん!穂乃果ちゃんなんかより、ことりをナデナデしてよ~。頭だけじゃないくて、カラダでもいいよ~』
『だから2人同時に抱きつくのはやめろって!!』
『ことりちゃ~ん?相変わらず鳥臭い匂いだね~』
『穂乃果ちゃんこそ、お饅頭の匂いがプンプンするよ。おばあちゃんみたい』
『言い争いはよせっていっただろ?2人ともいい匂いだよ』
『さすが零君分かってるぅ~』
『お礼にもっとギュってしてあげるね』
『お、おい!』
自分はいつも遠くから傍観していた。注意したとしても2人は決して止めない。もはや海未のコトなど眼中に入ってないだろう。今までの自分なら黙っていた。だが今は違う。込み上げてくる負の心が海未全体を支配する。
嫉妬でも何でも構わない……憎い……穂乃果とことりが……今まで邪魔をしてきた2人が……とてつもなく不愉快……
怒りが込み上げてくる……想いの人を取られている……
邪魔……あの2人がいなければ……私と零はずっと2人きり……穂乃果とことり……消えてしまえばいいのに……
近づくな……私の零に……私だけの零に……
零の身も心も私のモノだ……近づく奴は許さい……
殺す……幼馴染の関係とか……もうそんなのはどうでもいい……零の側にいていいのは……私だけ……
海未は完全に邪悪に支配された。想いの人を手に入れるため、幼馴染ですら切り捨てる。ついに穂乃果やことりと同じ土台に上がってしまった。
「零から……離れろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
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「はぁ……はぁ……」
(さぞかし悲惨な光景だったんでしょうね。でもこれでにこの計画は達成されたわ)
「すみませんにこ、ちょっと抜けます……」
「ええ、ご自由に」
そう言って海未はどこかへ走り去ってしまった。行き先はおそらくあの2人のどちらかだろう。
「さて、どんな惨劇を見せてくれるのかしら?穂乃果、ことり、海未……フフフ……ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」
これで駒は9つすべて出揃った。μ's内の戦いはこれからが本番だ。
~※~
戦況報告
ついに海未が参戦し、μ'sメンバー全員が戦線に出ました。ここまで長かったぁ。海未推しの方、大変お待たせいたしました。
まきりんぱなサイドの話は次回に持ち越しです。意外にも、にこvs海未の話が長くなってしまったので。零の様態が気になっていた方には申し訳ない。
今までと比べると投稿ペースが落ちています。絵を描いているのもありますが、単純に第三章までと比較すると1話辺りの文字量が1000~1500、多いときには2000程度増えているのも原因です。それでも話の進行速度はかなりゆっくりなので、お付き合いいただけると幸いです。
付録:現時点でのメンバーヤンデレ度vol.7
正常(協力者):真姫、凛、花陽、希
異常:ことり、海未、にこ
末期:穂乃果、絵里