今回は希が主役。頑張れ希!
良くも悪くも一直線。それが"元"μ'sのリーダー、高坂穂乃果の長所でもあり欠点である。後先考えずとにかく前へ突っ走るその性格は、時には人を正しい方向へ導くが、時には仲間同士の関係を悪化させる。多少齟齬が生じても気付かない。今までそんなコトがあった。
つまり何が言いたいのかと言うと、何も考えずに希に突っ込んだ穂乃果は隙だらけだというコトだ。
希はこの状況を予想していなかった訳ではないが、意外ではあった。穂乃果の突進をスルリと避け、穂むらとは逆の方向に逃げる。
「希ちゃぁん、穂乃果に会いに来たんじゃなかったの?しかもあれだけ大見得切っておいて逃げるのぉ?」
「普通に考えて、凶器持った人と真っ向からやり合おうなんて思わへんやろ?」
穂乃果は一旦ナイフを懐に戻し、笑いながら希を追いかける。単純な追いかけっこなら運動神経が勝る穂乃果に分がある。このままではいつか希は追いつかれてしまう。
(まさか本当に裏路地で待ち構えてるとは思わへんかった……でも一応想定内や。少々強引やけど、これしかない!)
近くで細い物体が落ちるような音が聞こえたが気にしている余裕はない。希はポケットから小瓶を取り出し、真下に向かって思いっきり投げつける。
「な、なに!?」
小瓶が割れ、中に入っていた液体が四方八方に飛び散る。その液体は空気に触れたコトで一気に蒸発し、気体となって希と穂乃果の間を漂い、辺りを充満させる。全速力で走っていた穂乃果は突然現れた気体に驚くも、もう足を止めるコトは出来ない。彼女はそのまま充満した気体の内部に自ら飛び込んでしまった。
「ゴメンな穂乃果ちゃん……」
「希ちゃん……これは……いっ、たい……」
見れば、いつの間にか希はマスクを着けていた。穂乃果は気体を大量に吸い込んでしまい、その場で倒れ込んでしまう。あの時のように、この液体の即効性には感心をする。ついに穂乃果は動かなくなってしまった。
「まさか、あの時の薬がこんなところで役に立つとは……」
実は希が撒いた液体は、以前零を体育倉庫に閉じ込めた時に撒き散らした液体と同様のモノだ。あの時にすべて使わなかったため、未だにストックが残されていた。もうこんなモノは使わないと決めていたハズなのに、護身用として忍ばしているあたり、自分はズルいと希は思う。もし零なら、こんなモノを使わずとも解決出来るだろう。
だがズルいとか、そういう思考以前に穂乃果と話が出来なければどうしようもない。あの状態の穂乃果とマトモな話が出来る訳がないだろう。ここは仕方がないと思って割り切るしかなかった。
「あの時、零君が目を覚ますまで30分も掛からなかった。ここからなら穂乃果ちゃんを担いで行ったとしても、ウチのマンションの部屋まで15分ぐらい。うん、大丈夫そうやね」
希は倒れている穂乃果を担ぎ上げ、足早にココから立ち去ろうとする。零が30分で目を覚ましたとはいえ、穂乃果が30分で目を覚ますとは限らないからだ。30分よりも短いかもしれないし長いかもしれないが、何はともあれ迅速に行動するのに越したコトはない。
「待っててね零君。いつまでも零君ばかりに頼ってられない。今度はウチが、あなたの代わりにみんなを元に……」
「ソレ、こっちに渡してくれないかなぁ?」
「!!」
とろけるボイスで希を甘く誘うその声は、知っている者が聞けば誰もがすぐに分かる。
「ことりちゃん……」
目の前の路地からことりが現れた。ことりはハンカチをマスク代わりにして口に当てている。
「そんなゴミ、背負ってると重いでしょ?代わりにことりが処理しておいてあげるよ」
「断るって言ったら?」
「う~ん、色々やりようはあるんだけど、とりあえず死亡一歩手前まで追い込んでみようかな♪」
穂乃果もそうだが、希はまるで別人を相手にしているのかと思ってしまう。穂乃果とことり、彼女たちの変貌ぶりを見ていると、人間はココまで醜く変わってしまうのかとある種納得させられる。
「残念やけど、穂乃果ちゃんは渡せない」
「ふ~ん、自分がどうなってもいいんだ」
「逃げたくないからね」
「それも零くんの影響?流石ことりの零くん!こんな人にまで影響を与えるなんて、やっぱりカッコいいなぁ~♪」
「お得意の妄想?あまり度を越すと、虚偽の世界から帰って来られへんで」
「意味が分からない、タロットとかカード占いとかしている人に比べたら全然マシだよ。零くんは占い大嫌いだしね」
零が占い嫌いなのは本当だ。『自分の運命を相手に決められて堪るか!!』と言って、いつも占いを毛嫌いしているのを希は知っている。占いを趣味の1つとしている自分にとっては少々残念な気持ちだが、お互いに反発するからこそその話題から話が広がるので悪くはない。
「早く渡してよ~、別に穂乃果ちゃんをどうしようとか考えてないから」
「さっき処理するって言ってたやん……」
「あれは言葉の綾って奴だよ。ちゃんと介抱してあげるから心配しないで」
「言葉の使い方違うと思うけど……それに、ウチが今のことりちゃんを信用すると思う?」
「うぅん、思わない!」
一体彼女は何を考えているのだろうか?穂乃果を引き渡す交渉をしていたのではなかったのか?さっきから言いたいコトだけを言っているだけのような?希の頭に様々な疑問が走る。ことりの言動の意図が全く掴めない。
「フフフフ……」
しかもさっきからずっとニコニコしていて、表情からは何も読み取れない。言動を掴めないコトも相まって、その笑顔が不気味に見える。
そう、これがことりの作戦だった。彼女は零や海未、絵里や希のように脅しても動揺しない人に対する、有効的な会話を仕掛けていた。前述した4人には、話の論点がすぐに理解出来るという能力がある。ことりの作戦は逆にそれを利用してやるコトだ。
論点がすぐに理解出来るからこそ、相手がいきなり的外れなコトを言い出せば、当然その意図について考えざるを得ない。『もしかして罠ではないか』、『なぜ今そのようなコトを言いだしたのか』などである。この作戦の本質はそこにあり、あえて理解の早い人に対してそのようにして考え込ませる。もちろんこちらに意図などは一切ないため、相手を悩みの迷宮に叩き込むコトが出来る。
そうして相手の判断を少しでも鈍らせる。それがことりが打った一手だ。もちろんこの会話が無意味なモノだと気付かれたら終わりだが、そんなところまで思考が及ぶのは零ぐらいだろう。
ちなみに真姫も前述4人と同じような頭を持ってはいるが、脅せば勝手に怖気づくのでこの会話を仕掛ける必要はない。穂乃果、凛に対しては、そもそも理解する頭すら持ってないので効果はない。にこに対してだけは、どちらとも言えないので見極める必要がある。
そして案の定、希はことりの作戦にまんまと引っかかってしまっている。答えの出ない、悩みの迷宮を彷徨う。
~♪
「!!」
「希ちゃん、電話だよ。出ないの?」
ポケットに入れていた携帯が、このダークな雰囲気にそぐわない着信音を響かせる。
「出なよ。その間はことり、何もしないから……」
にわかには信じがたいが、この着信音はμ'sの誰かだ。もしSOSを求めていると考えれば無視するコトは出来ない。希はポケットに手を入れて、携帯を掴む。
「な~んてね♪」
ことりは一歩踏み込み、その勢いで一気に希へ近付く。希が気付いた時にはもう遅く、眼前までことりが迫っていた。
ドン!!!
「ぐっ!!」
ことりは希の腹に体当たりを仕掛ける。希の身体は軽く"く"の字に折れ曲がり、裏路地の壁に思いっきり激突する。その衝撃で希の手から離れ宙に舞った穂乃果を、ことりは乱暴にキャッチした。
「だから希ちゃんは甘いんだよ。人を簡単に信用して……まるで零くんみたい。あっ、さっきもそうだけど、もしかして零くんみたいになりたいとか?アハハハハハハハ!!そうだよね!転校ばかりで友達が少ない寂しい人生を送ってきた希ちゃんなら、友達も多くて人望も厚い零くんに憧れるのは仕方ないか!!」
「ウチは……」
「残念だけど、誰も零くんにはなれない。もし仮になれたとしても、それは自己満足。敵に立ち向かう自分に酔いしれているだけ。そんな作り物の気持ちは簡単に壊れちゃうよ!そうなったら……2度と立ち上がれないかもね」
「そ、そんなコトは……」
「もうこれ以上零くんに自己投影しないでね。ことりの零くんが汚されちゃうから」
希は全身に痛みが襲って、上手く動けずにいた。嫌でも耳に入ってくることりの罵倒をただただ聞いているしかない。呼吸も荒いせいか、口が思うように動かない。
「じゃあゴミ処理はことりにお任せあれ♪しばらくはゆ~っくりしていようかな?ことりのやるコトも、今のところは終わったしね♪」
「まっ……て」
その言葉は誰の耳にも届かず、ことりは裏路地から去ってしまった。穂乃果を連れ去られて……
~♪
再び携帯が鳴る。少し休んだおかげか腕ぐらいはなんとか動かせるようになったので、今度こそ携帯を掴んで相手を確認する。
"西木野真姫"
「ま、き……ちゃん?」
またしても何かあったのだろうか?あまり人の心配をしている場合ではないが、通話ボタンをタッチして電話に出る。
『希!やっと出たわね。もしかして、今忙しい?』
「忙しかったって、言った方がいいかな?」
『うん?』
「気にせんでええよ。ところで、何か用事?」
『用事というよりかは……零のコトなんだけど』
「零君?今日は家でゆっくりするって言っていたような」
『ゆっくりなんてしてるハズないわ』
「どういうコト?」
『実は……』
希は真姫たちから、今日彼女たちが直面した状況について事細かに聞いた。要点を絞ると、零が記憶喪失になっている可能性があるコト、μ'sやみんなは覚えていないコト、絵里だけは覚えているコト、絵里に自分と恋人関係だと思わされているコトだ。
「絵里ちが……でもどうやって零君を」
『それはまだ分からないけど、少し引っかかるコトがあってね』
「引っかかるコト?」
『ええ。それで今から絵里たちのところへ行こうと思うんだけど、希も来て欲しいの』
「もちろん行きたいけど……真姫ちゃんたちはまだ待っといて」
『どうして?って!ちょっと凛!!』
『待っててって、どうして!?早く行かないと、零くんが何されるか分からないにゃ!凛たちも零くんみたいに、みんなに立ち向かうって決めたもん!』
「凛ちゃん!?」
恐らく凛が真姫の携帯をひったくったのだろう。通話口から聞こえる声は凛の声の方が大きくなった。そしてその後に花陽の声も聞こえてきた。
『私たち覚悟を決めたんです、みんなを元に戻したいと。それは零君であっても同じ、このまま黙ってるだけなんてイヤ!見過ごせないよ!零君が私たちを取り戻してくれたみたいに、私たちもみんなを取り戻したい!』
「花陽ちゃん……」
まさか、あの凛と花陽がこれほどまでの決意と覚悟を持ったコトが今まであっただろうか。通話口からでも、彼女たちの真剣な声はハッキリと伝わってくる。今の彼女たちは"あの"零と全く同じ決意を持っている。
しかし、ここでことりの言葉が希の頭を支配する。
~~~~~
『誰も零くんにはなれない。もし仮になれたとしても、それは自己満足。敵に立ち向かう自分に酔いしれているだけ。そんな作り物の気持ちは簡単に壊れちゃうよ!』
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今の花陽と凛は"あの"零と全く同じ。今度は自分たちが"神崎零"となって、仲間を救い出す。希はまだことりの言葉の意味を理解はしていないが、このまま彼女たちを絵里の元へ行かせてもいいのか迷ってしまう。ここでもしっかりとことりの作戦は効いていた。
(やっぱり花陽ちゃんたちを行かせるのは危険すぎる。ことりちゃんの話を完全に信じてる訳じゃないけど……)
「絵里ちのところにはウチが行くよ」
『希が!?それだったら私たちも』
「今の絵里ちは危険や。真姫ちゃんたちを危ない目に遭わせたくない。だから、ココはウチに任せといて。絶対に絵里ちを連れて帰ってくるから」
『希!ちょっと……
ブチッ
希は真姫の言葉を最後まで聞かずに通話を切った。これ以上彼女たちの声を聞いてしまうと、自分の心が揺らいでしまうかもしれないからだ。
「零君やったら、みんなを危険には絶対に遭わせたくないハズ。もちろんウチもそうしたくない」
零だったらきっとこうする。自分が信じ、尊敬できる人だからこそ、その人の理念に従えば間違いはないだろう。
真姫たちは忠告を無視して動き出すに違いない。その前に自分が絵里と接触する。
「今度こそ……絵里ち」
希と絵里の協定が破綻してから何度も連絡をしているが、返事が返ってきたコトは一度もない。今まではそれで諦めていたが今回は違う。真姫たちと出会う前に、自分が何とかしなければならない。
まず、ある連絡用アプリを使用して絵里にある内容の通知を送った。その後、電話を掛ける。
プルルルルルルル
果たして今回も無視されるのだろうか。もし無視されたら今から必死で探すしかない。
プルルルルルルル
ガチャ
「!!!」
電話が、繋がった……
~※~
戦況報告
挿絵って基本は勝手に表示されるんですね。今更ですが、自分が使っているブラウザだとデフォルトで非表示なので気付きませんでした。見たくない方は非表示の方をお願いします。
意外と穂乃果の出番が少なかった。既にかなり出演してるからいいよ……ね?
次回は明日投稿します。