ラブライブ!~μ'sとの"非"日常~【完結】   作:薮椿

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第三話にしてまだまだ導入部分。
今回はvsことりからどうぞ!


第三話 ‐蜂蜜色の罠‐

 

 最近ベッドに入ると速攻で眠ってしまう。冬になると外気の気温に晒されていた身体が一気に温もりの楽園に足を踏み入れたかのように気持ちよくなり、そのまま数秒で眠りに就いてしまうコトはままある。今回もそれに近い感じだが、温もりの楽園というよりかは溜まりに溜まった疲れという腐敗物がみるみる抜け出していく気持ちよさだ。まるで身体全体が浄化されているようで夢見心地になる。

 

 しかし、その快楽を邪魔する者がいるようだ。俺は現在絶賛夢の中にいるがそれだけは分かる。夢から引きずり出される。苦しい現実へ再び舞い戻る。そして舞い戻って来て初めて感じる重量感。明らかに掛け布団の重さではない。何かいる。寝ぼけているがそれぐらいの認識は出来た。

 

 

 ここで俺はようやく目を開いた。

 

 

「あっ、おはよう零くん♪まだ夜中だけどね」

 

「こ、ことり……」

 

 

 目の前にことり、正確にはことりの顔が見えた。その近さは今にもキスが成立してしまうほどだ。むしろことりはそれを狙っていたのかもしれない。その時、涼しい風が俺の頬をつついた。窓が開いていてそこから吹き込んで来たんだろう。ことりもそこから入ってきたに違いない。閉めておいたハズなんだがな……

 

 

「お前、勝手に入ってくんなよ……」

 

「ゴメンね~♪でももう自分の気持ちを抑えられなくなっちゃって!それに、一度零くんと一緒に寝たいなぁって思ってたところだったしね」

 

「俺は疲れを取るために一人で寝たいんだけど……」

 

「それはダメ、寂しくなって死んじゃう!」

 

「それは困るな……」

 

 

 深い眠りから目覚めてまだ頭が回ってないなのか、もうこのような状況に慣れてきただけなのか、自分でも驚くほど冷静になっていた。にこや海未の暴走を見たら、今のことりが普通に見えてしまうのが困りものだ。もちろんコイツは尋常ではない。そもそもこんな夜中に窓から人様の部屋に侵入し、キスをしようとしていた奴が普通とは思えない。

 

 

「お前に聞きたいコトは山ほどあるが、とりあえずそこをどけ。重たいから」

 

「む~、女の子に重たいとか言っちゃダメなんだよ!」

 

「普通の女の子には絶対に言わねぇよ、普通のな」

 

「じゃあ零くんがことりにメロメロになればいいってことだね♪」

 

「どこからその発想が出てきたんだよ……」

 

 

 今まで俺が見てきた誰よりも、コイツの思考はブッ飛んでいる。ことりの中では俺の意見などどうでもよく、自分の都合のいいように解釈しているのだろう。その点幼馴染である海未にも似ている。間違っても海未の名前をここで出してはいけない。また死が見えそうになるのはゴメンだ。

 

 

「ちょっとこの体勢辛くなってきちゃった……」

 

「お、お前!!!」

 

「ん?なに?」

 

 

 ことりはようやく身体を起し、俺の身体に股がる体勢になった。さっきからことりは俺に引っ付いたまま会話を続けていのだが、もちろん俺は目が覚めてから動いていない(動けない)ので、キス寸前の距離で会話をしていた訳だ。そうなれば当然、ことりの全身を見るのはこれが初めてである。

 

 

「お前、服着ろよ!!どうして上全部脱いでんだよ!!」

 

「零くんにことりの全部を分かってもらおうと思って♪」

 

 

 ことりは驚くべき姿をしていた。下は辛うじて下着を履いていただけまだマシ(これだけでも刺激は強いが)だが、上は何も身に着けていなかった。透き通るような白い肌、月明かりに照らされたその姿に見とれそうになるが、このことりは俺が好きなことりではない。いつもの俺ならこちらから飛びかかっていただろうが、今は顔を逸している。

 

 

「どうして目を逸らすのぉ?零くんいっつもことりの身体を褒めてくれたのに~」

 

「状況が状況だ。今のお前を素直に褒められるかよ……」

 

「ねぇねぇ触りたい触りたい?ちょっと恥ずかしいけど、零くんのためなら我慢する!!」

 

 

 ひたすら行われる会話のドッジボール。テニスのように相手とラリーを続けるのではなく、ドッジボールのような一歩的にボールをぶつける会話だ。俺のボールはさらりと避け、自分のボールは虎視眈々と相手を狙い続ける。

 

 

「俺の話も聞けよ……」

 

「むぅ、そんなにイヤなの?」

 

「状況が状況だって言っただろ。自分が危険な目に遭ってるのに、呑気に女の子を眺めてる場合じゃないからな」

 

「でも、ことりに触るためには条件がありま~す♪」

 

「……条件?」

 

 

 もうコイツと現状維持の会話を続ける気にもなれないので、仕方なく相手の土俵に上がるコトにした。あまり相手が誘導するようには動きたくないが、そうしなければ逆転の芽を掴むどころか拝むコトさえ望めないだろう。特に今のことりには。だから俺はあえてことりの会話に乗った。

 

 

「零くんがことりのお人形さんになるって誓うなら、ことりが零くんのお人形さんになってもいいよ♪お人形遊びは楽しいもんね♪」

 

「…………断るっていったら?」

 

「それはないよ~。だって零くんは絶対にことりから逃げられないんだから、断るコトなんて出来ないんだから!」

 

 

 逃げられないとはどういう意味だ。ここでことりを蹴飛ばせば逃げるのは容易い。それは彼女も分かっているハズだ。と言うコトはそんな物理的な話ではなく、もっと精神的な、内面的な話なんだろうな。

 

 

「断れないだって?残念ながら俺は今のお前には……」

 

 

 

 

「穂乃果ちゃんに会いたい?」

 

 

 

 

「え?」

 

 

 俺の言葉を遮ったと思ったら、突然穂乃果の話題に転換した。ことりが穂乃果を連れ去ったという事実は希から聞いている。そして現在俺たちが一番知りたい情報でもある。

 

 

「誓いはまだ早いかな?それじゃあことりと一緒に来てくれるって言うなら、穂乃果ちゃんのコト教えてあげるよ♪」

 

「穂乃果は、穂乃果は無事なのか?」

 

「それはことりの要求を飲んでからのお楽しみ♪」

 

 

 逃げられないという言葉の意味が、ここでようやく分かった。穂乃果の話題を切り出せば、俺が断る訳がないとことりには分かっていたからだ。なんせ穂乃果の安否は連れ去った自分自身しか知らないのだから。俺が喉から手が出るほどその情報が欲しがっているというコトぐらいはすぐに予想出来るだろう。俺を連行するために穂乃果を連れ去ったのか、それとも他に別の目的があるのかは知らないが、穂乃果の安否を確認するためにはことりの策に乗るしかない。

 

 

「一緒に行きゃいいんだな?穂乃果と合わせてくれるなら、それでいい」

 

「素直な零くんは大好きだよ♪ちゅーする?」

 

「しない」

 

「むぅ~ケチンボ!」

 

 

 いつも通りことりはふわふわしているように感じるが、頭、そして心の奥底では想像もしたくないほどの計画が張り巡らされているのだろう。無垢な様子で俺を欺いて、実は裏で色々と画策していたに違いない。この前の休日、俺はことりとは会ってないが希の話を聞く限りではそう確信出来る。

 

 

「とりあえず、外に出るならまず服を着ろ。俺もさっきから首を曲げてて痛くなってきた」

 

「流石のことりも、零くん以外にはこの姿を見せないから安心してね。でも零くんがその心配をするのも野暮かもねぇ」

 

「なに……むぐぅ!!!!!」

 

 

 ことりがそう言った瞬間、俺の口元にハンカチが当てられた。というよりかは思いっきり鼻に押し付けられている。そしてこの匂い、まさか……

 

 

「お、お前……」

 

「大丈夫、ただの睡眠薬だから。というコトで、お休み零くん♪」

 

「あっ……くっ……」

 

 

 かなり強い睡眠薬を嗅がされ、俺の意識は一瞬の内に吹き飛んでしまった。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 日が昇り、現状のμ'sを嘲笑うのような快晴である。平日の朝と言えば登校中の学生や、仕事へ向かう社会人など通学通勤ラッシュ真っ只中な時間帯である。だが今日はそんな人は少なく、むしろ私服で家族や友達、恋人などと一緒にいる姿が多く見受けられる。本日は祝日であり、しかも通常なら学校や仕事がある平日なため外見では分からなくても意気揚々としている人は数多く存在するだろう。

 

 そんな中、祝日でいつもとは違う盛り上がりを見せる街とは逆に星空凛と小泉花陽は街外れを歩いていた。今から2人で買い物に出かける訳ではない。呼び出されたのだ。相手は南ことり。凛と花陽にとっては1つ上の先輩だが、穂乃果同様先輩とは思えないほどフレンドリーでおっとりな性格。だがμ'sの衣装を一手に引き受けている彼女を凛たちはとても感謝をしているし、尊敬もしている。

 

 しかし今は零の言葉を借りるなら『状況が状況』。凛と花陽にとっては仲間でありながら、戦うべき敵でもある。

 

 

「ことりちゃんの用事って何んなのかにゃ?しかも凛とかよちんの2人で来るようにって」

 

「穂乃果ちゃんに会わせてあげるって言ってたけど、怪しいよね……」

 

「それにどうして凛たち何だろう?」

 

「……」

 

 

 花陽は薄々だが、なぜ自分たち2人が呼ばれたのかある程度分かっていた。恐らく自分たち2人がμ'sの中で一番"弱い"からだろう。絵里と希には及ばないのは言わずもがな、真姫には頭で勝てないし、にこもいざという事態なら頭の回転は早そうだ。そうなれば残るのは自分たちだけ。完全に花陽の憶測で、ことりの狙いも分からないが、わざわざ自分たちだけが呼ばれたとなればそう考えてもおかしくはない。

 

 

「かよちん?どうしたの?」

 

「えっ?何でもないよ!」

 

 

 凛に顔を覗き込まれ、花陽は咄嗟に誤魔化した。自分の考えを隠す必要はないのだが、今からことりに会いに行くというのに凛の不安を煽るような真似をする必要はない。それ以前に自分たちが弱いコトなんて分かりきっている。しかし弱くても必ず戦いの舞台に立たなければならない、むしろ強制的に立たされる。本当の"強い"と"弱い"が発揮されるのは舞台に立ってからだ。そこで立ち向かうのか、そうでないかでそれは決まる。

 

 凛と花陽は、ある時は記憶喪失の零に、ある時は絵里に、ある時は学院のピンチに立ち向かった。彼女たちは自分の"弱さ"を知っている。知っているから立ち向かう。そしてそれが"強さ"になる。本当に"弱い"のは、自分の"弱さ"を知っていてもなおそれを保有しようとする者だ。"弱い"から"強い"と言葉で表せば矛盾するのだが、彼女たちは確かな"強さ"を持っている。

 

 

「ねぇ、凛ちゃん」

 

「ん?なぁに?」

 

「絶対に穂乃果ちゃんを助けよう!!そしてことりちゃんも穂乃果ちゃんも、みんなで一緒にμ'sへ帰ろうね!!」

 

「かよちん…………うん!!もちろん凛もそのつもりだにゃ!!覚悟しろぉーーことりちゃん!!」

 

 

 もうあの頃の弱かった2人はどこにもいない。凛は大声で気合を入れ、花陽も心の中で決意を固めた。

 

 

 

 

「元気だねぇ~~♪今から大切なお話をしようとしてるのに」

 

 

 

「「!!!」」

 

 

 突然道の脇から声を掛けられた。だが2人は声を掛けられたコトに驚いているのではない。待ち合わせの場所とは全く違う場所で声を掛けられたからだ。ここにいるハズのない人がここにいる。

 

 

「ことりちゃん……どうしてここに?」

 

「待ち合わせの場所はここじゃないよね!?」

 

「一応尾行してたんだ。凛ちゃんと花陽ちゃん以外に誰かいないかってね」

 

「心配しなくて誰もいないにゃ。言われた通り凛とかよちんの2人だけだし、誰にも教えてない」

 

「ふ~ん、偉い偉い♪」

 

 

 軽く馬鹿にされているように見えるのは、やはり自分たちがμ'sの中でも"弱い"と認識されているからだろうか。それとも向こうに余裕がありまくりなのかどうか、ここで考えても結論は出ない。

 

 

「ことりちゃん、そろそろ教えてくれない?穂乃果ちゃんの行方を。それに連絡してきた時に言ってた"条件"って?」

 

「それはことりの条件を飲んでくれたら教えてあげてもいいよ」

 

 

 それは昨晩、零に対して行った条件と全く同じだった。穂乃果の情報を餌に、それを釣竿に付けておけば向こうから飛びついてくるのは明白。あとは自分の有利な道へ誘い込めばいい。しかもこの2人は零ほど"強くはない"。多少誤っても軌道修正は可能だ。それが例え強硬手段であったとしても。

 

 

「この場所へ向かってくれるだけでいいんだよ。そこに穂乃果ちゃんがいるから……」

 

 

 ことりは自分の携帯に映し出されているマップを2人に見せる。マップのある一点を示しているが、2人にとっては未開の地だ。罠の可能性が高い。しかしここで引けばこのままふりだしから動けないかもしれない。敢えて彼女のレールに乗っかり、それでもなお自分たちのレールに戻るコトが出来るのか……

 

 

「さぁ、どうする?凛ちゃん、花陽ちゃん……」

 

 

 

 

 答えは、もう決まっていた。

 

 

 




μ'sのみんながどう強くなったのかを描写するのって難しいね!
真にその力が発揮されるのは幼馴染組と対面した時になりそう。



次回は遂に穂乃果が登場!!零と出会った穂乃果の行動は!?
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