ラブライブ!~μ'sとの"非"日常~【完結】   作:薮椿

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ことり編完結話です!
今回はことりvs零……と、あと2人。

絶望に打ちひしがれる零に、逆転の芽は!?


第六話 ‐南ことり‐

 どれだけ時間が経ったのか分からなかった。俺の目の前にはことりが放り投げた携帯電話がある。その画面に映っているのは、天井が抜け落ちてまるで震災があったかのようなエントランスホール。今そこには誰もいないが、さっきまでは確かにいた。星空凛と小泉花陽。俺の後輩で、μ'sメンバーの一員。μ's再結成へのピース。

 

 声も出ないし何も考えられない。放心状態とはまさにこのコトなんだろう。悲しみや苦しみさえ感じない、ただそこに跪いているだけだった。

 

 カツカツと音がする。ことりが俺に近付いてきているのだろう。だが俺は、抵抗する力が出ないどころか抵抗しようと考えるコトすらしなかった。そもそも"抵抗する"という思考すら持ち合わせていない。俺はそのまま、それこそことりが言う"人形"のように動かず黙ったままであった。

 

 

「いや~いいショーだったね♪想像していたより派手だったから驚いちゃったよ♪」

 

「お前は……」

 

「ん?」

 

「お前は……何も感じないのか?痛みも、苦しみも、悲しみも……」

 

 

 俺は自分の口を動かすだけで精一杯だった。しかもこの発言自体に何か意味がある訳ではない。ただ考えるより先に言葉が出てしまっているだけ。そうしないと自分まで壊れてしまいそうだったから。自分でも、俺が何を言っているのか理解していなかった。

 

 

「何かを感じてたらこんなコト出来ないでしょ?」

 

 

 そりゃそうだ。痛みも、苦しみも、悲しみも、何か一つでも感情があればこんな無慈悲な真似なんて出来ないハズだから。俺は何分かりきったコトを質問してるんだ。

 

 

「なんで……どうして……」

 

「目の前でみんなが消えれば、零くんそうやって絶望するでしょ?その零くんを、ことりがやさし~く介抱してあげたかったんだぁ~♪」

 

「そんな……そんなコトのためにアイツらを……」

 

「そんなコト?ことりはね、零くんを手に入れるためなら何だってするよ。しかもこの方法だと、零くんも手に入ってみんなも死んで一石二鳥だよね♪」

 

 

 ことりの考えは俺の想像する範疇を超えていた。今まで救ってきたμ'sメンバーは、程度の違いはあれど心のどこかでμ'sや仲間たちのコトを想っていた人ばかりだった。それを引っ張り出してやれば必ず救ってやれる、そう思っていたんだ。

 

 だけど、ことりは違う。コイツに躊躇や慈悲なんて言葉は存在しない。俺のために、たった1人の俺を手に入れるためにすべてを切り捨てる。切り捨てる姿だけなら、今まで他のみんなで幾度となく見てきた。しかし絶望の大きさは段違いだ。俺をすべて支配するぐらいには。

 

 

「大変だったんだよ、ここまでの計画を実行するの。穂乃果ちゃんを餌に零くんをココへ呼んで、次に凛ちゃんたちを呼びつける。そして目の前で殺す。このショーを開演するのに何日も費やしたんだから、もっともぉ~と楽しんでよ♪」

 

「……」

 

「あれ?もうことりに屈しちゃったの?ダメだよ~もっと色々考えているのに~」

 

「……まだやる気なのか」

 

「もちろん♪次は絵里ちゃんと希ちゃんかなぁ?」

 

「っ……」

 

 

 あれだけのコトをやっておいて、まだ続けるというのか。本当に全員を始末しようとしているのか。俺はことりを止めるコトが出来るのか。何も出来なかった、この俺に……

 

 

「ここで今まで誰も殺してこなかったのが生きる訳だね。楽しみ~♪」

 

「……」

 

「もっと絶望した顔を見せてよ、零くん。もっともっと壊れちゃえ♪お人形さんになっちゃえ☆」

 

「それが……お前の計画だったのか」

 

 

 元々ことりは、俺を正常な状態で引き入れようなんて考えはなかったんだ。俺が壊れていてもいい、ただ自分の隣にいて自分の言いなりになる俺ならば、どんな俺でもよかったのだろう。そこに今の俺はいない。だから俺を壊そうとしているのか。

 

 

「絵里ちゃんたちに送る連絡の内容、どうしよっかなぁ~。どんな煽りをしたらいいと思う?」

 

 

 次に狙われているのは絵里と希。ここまで完璧な計画を立てたことりならば、いくら絵里たちであっても適わないだろう。そしてその絵里たちを救えるのは自分だけ。この事実を知っている俺にしか、彼女たちを助けるコトは出来ない。

 

 

 だが、しかし……

 

 

 今の俺に何が出来るって言うんだ。そもそも俺の夢は潰えている。みんなで一緒にμ'sに帰り、また笑い合うという夢が。俺はそのために今まで必死になっていた。その夢を掴むため、自ら危険に飛び込んでいった。だけど、出来なかった。もうみんなで帰るコトは叶わない。俺が動いたところで、その先に何がある。

 

 

「早く残りのみんなも潰して、2人一緒に幸せになろうね♪もう2人で暮らす場所も考えてるんだ」

 

「!!」

 

 

 残りのみんな…………そうだ、まだ終わっていない。俺がずっとこのままだったら、絵里たちも確実に命を落とす。それだけは絶対に阻止しなければ。それで俺の中で何かが変わる訳でもない。でも、途中で投げ出すなんて許されない。それが秋葉との約束だった。悲しい結末をさらに悲しい結末にするのだけは絶対に避ける。その過程で、俺がどうなろうがもうどうでもいい。

 

 

「それは出来ない相談だな……」

 

「零、くん……?」

 

「俺がずっとこのままだったら、他のみんなにまで手を掛けられる。それだけはやらせない。ことり、お前だけは俺が確実に止めてみせる。例え共倒れになったとしてもな……」

 

「ふ、ふ~ん、すごいね、ここで立ち上がるなんて……」

 

 

 今一瞬だったけど、ことりの様子が変わったような気がした。さっきの言葉も、余裕が僅かながら削がれていた感じもする。ここだ……逆転するにはここしかない。いや、逆転と言うよりかは悪あがきと言った方がいいか。もう何でもいい、ことりに一矢報いれるのならば。

 

 

「立ち上がってやるさ……凛と花陽の意思も継いでな……」

 

「ここへ来て、まだ……」

 

 

 

 

 

 

 

「て言うよりさぁ~、どうして凛たち死んだコトになっているのかにゃ?」

「流石に2人共、不謹慎過ぎると思うんだけど」

 

 

 

 

 

 

 

「!!!」

「凛……花陽……お前ら」

 

 

 さっきまでことりがいた曲がり角の影から、凛と花陽の2人が姿を現した。初めは俺が自分自身に幻を見せているのかと思ったが、あの2人は正真正銘の凛と花陽だ。多少髪は乱れていて、服もボロボロになっているところはあるが怪我をしている訳ではなさそうだ。とにかく大事に至ってなくてよかった……

 

 

「どうして……どうして2人共生きてるの?あそこからは出られなかったハズ……」

 

「あぁあああああああ!!やっぱりことりちゃんの仕業だったんだ!?凛たち大変だったんだよ!!」

 

「おいおい、説明をしてくれよ……」

 

「ゴメンね。天井が落ちてくる直前に、凛ちゃんが壊れている扉を見つけたんだ」

 

「何だって?でもことりはすべてオートロックにしてあるって……」

 

「そうだよ……そんな扉があるハズは……」

 

「え?でも確かに壊れてたよね、かよちん?」

 

「うん。間一髪そこに逃げ込んで助かったんだ」

 

 

 オートロックなのに開いていた……ことりは知らないし、凛たちも何故かは分からない。もちろん俺に分かる訳もない。ここにいる4人が知らないとなると…………いる!!この4人の他にココにいた人が!!

 

 

「穂乃果だ……穂乃果が壊したんだ」

 

「穂乃果ちゃんが!?でも私たちは会わなかったよ」

 

「今どこにいるのかは知らないけど、俺たち以外だったらアイツしかいない。俺と分かれてからじゃエントランスホールまで行く時間はないから、恐らく俺が監禁されていた部屋に来るまでに壊したんだろう」

 

「そう言えば、穂乃果ちゃんを監禁していた場所から零くんの部屋まで行くのには、エントランスホールを通らないといけない……だから……」

 

「なるほど……それで当の本人はどこかにゃ?」

 

「エントランスホールに人影は見えなかったし、裏口から出て行ったんだろうな」

 

「ことりが凛ちゃんたちに会っている間に、そんなコトが……」

 

 

 やはり凛と花陽を呼びつけに行っていたのか。携帯の連絡だけよりかは、実際に面と向かって穂乃果や俺の危機を生で伝えた方が誘導出来る確立がアップするだろうしな。しかも今まで行方を晦ましていたことりが突然目の前に現れるんだ、こちら判断が鈍るのも想定出来る。

 

 

「ここ数日で死にかけるコトはたくさんあったけど、今回だけは本当に危なかったね」

 

「かよちんが思いっきり背中を押してくれなかったら危なかったよ。あのまま天井にプレスされて、ラバーマスコットみたいになるところだったにゃ」

 

 

 あの凛が、穂乃果に狙われ腰が引けていた凛が、この状況に対して冗談が言えるぐらいに正気を保っている。それは花陽もそうだ。凛と共に決意を固めたのだろう、その表情には恐れがない。2人は目に見えるほど成長していた。

 

 対してことりは、目に見えるほど表情に余裕がなくなっていた。絶望に打ちひしがれると思っていた俺が立ち上がったコト、さらに凛と花陽を仕留め損ね、極めつけは自分の前に現れたコト。ここまで"想定内の不測事態"だったのが本当の不測の事態に変化する。今まで完璧を連ねてきた計画が一気に破綻し、動揺を隠せないのだろう。

 

 計画って言うのは綿密に立てれば立てるほど"想定内の不測事態"には強くなるが"想定外の不測事態"には弱くなってしまう。もちろん計画を練っていなければどちらにも弱いのだが、練っていればいるほど想定外が起きた時に焦ってしまうだろう。俺だって想定外には強くはない。それは先立てて計画を立てる人ほど、"想定外の不測事態"がどんどん脳内の片隅に追いやられてしまうからだ。それを取り出すとなると、かなり難しい。

 

 そう考えれば、ことりは真姫と似ている。真姫は自分のレールに乗って進むのは得意だが、機転が効かない時がたまにあり、レール外に追い出されると弱い。ことりもそれと同じ。自分の計画をあらゆる方面で練り込み、それを実行するまでは良し。"想定内の不測事態"というレールの上なら対処可能だが、"想定外の不測事態"というレール外には滅法弱い。

 

 

「それにしても、お前らココに俺たちがいるってよく分かったな」

 

「零くんの声が聞こえたからだよ。一階にいた凛たちまで聞こえてたもん」

 

「俺の?」

 

「うん、零君すごく大声出してたでしょ?それを聞いて零君に何かがあったんだって思ってね、ここまで走ってきたんだ」

 

「そ、それだけ?」

 

「そうだけど……何かおかしかったかな?」

 

 

 大声といえば、俺が穂乃果に怒鳴ってしまった時だ。特に根拠も手掛かりもない。だけど花陽たちは俺の声を聞いてここまで駆けつけてくれた。理由なんてそれだけで十分。仲間が危険な目に遭っているかもしれない、それだけで俺たちが行動する理由となる。

 

 

「ありがとな、凛、花陽。2人のおかげで立ち直るコトが出来たよ。本当にありがとう」

 

「わわわ!!零くんがここまで素直に褒めるなんてビックリだにゃ!!」

「凛ちゃんすごい失礼だよ……」

 

 

 確かに失礼な奴だ。でも今だけは許してやろう。

 

 

「有り得ない……こんなコトって……どうしてこうなるの……」

 

 

 自分の敷いたレールから脱線したせいか、ことりは困惑した表情を隠せない。まるでさっきのまでの俺のようだ。そしていつの間にか俺は、さっきまでのことりのような余裕を取り戻している。凛と花陽が無事だったコトが、俺にここまで力を分け与えてくれるとは想像もしてなかった。

 

 

「それは仲間の力だよ、ことり」

 

「な、かま?」

 

「さっきまで何も出来なかった俺が言うのもおこがましいけどさ、やっぱり1人だと限界があったんじゃないか。完璧という名の限界が」

 

 

 1人だけで考えた計画なんて、本当は穴だらけだったんだ。ことりの計画が破綻する要素はいくつかある。穂乃果が無理矢理扉をこじ開けたコト、俺が穂乃果を逃がしてしまたったコト、凛と花陽が間一髪で脱出したコト、その要素1つ1つが計画破綻への鍵となっていた。完璧なんて成し得ない。

 

 

「今の穂乃果が俺たちを仲間とは思っていないだろうけど、アイツがいなかったら俺たちが揃ってココにはいなかっただろうしな。だから穂乃果は俺たちの大事な仲間だ。そしてお前もだ、ことり」

 

「仲間……ことりも」

 

「こんなコトやめよう。もうお前も気付いてるハズだ。μ'sを初めからずっと見てきたお前なら、仲間っていうものがどのようなものなのか」

 

 

 ことりは名もない頃のμ's結成時から俺たちと共にいた。1から10まですべて見てきたことりなら、海未や真姫、凛や花陽、にこに絵里に希、みんなの葛藤を受け止め快くμ'sに引き入れたことりなら、絶対に仲間の大切さ、そして強さが分かるハズだ。

 

 

「凛はことりちゃんが作る服、大っ好きだよ!!また可愛い衣装を着て、ことりちゃんと一緒に踊りたいにゃ!!」

 

「ことりちゃん、私に美味しいスイーツをたくさん教えてくれたよね。この前一緒に行ったケーキ屋さんのケーキ、とっても美味しかったよ。私はまたことりちゃんと一緒にお出かけしたいな」

 

「凛ちゃん……花陽ちゃん……」

 

 

 ことりの目に輝きが戻ってきている。さっきまで悪魔のように人を見下した目をしていたことりが、凛と花陽の言葉を聞き入れ元のことりに戻ろうとしている。

 

 

「Wonder Zoneって曲があったよな。あの時お前はすべてを自分で抱え込んでいた。留学の時、お前は海未にしか話していなかった。でもまたお前がμ'sに戻ってこれたのはどうしてだ?自分1人の力で、解決した訳じゃないだろ?」

 

「仲間の……みんなのおかげ……」

 

「そうだ。お前の愛情は行き過ぎていたけどさ、ことりのみんなを気遣い想う気持ちは誰にも負けていないと思う。それだけは誇っていいところだ。今度はさ、その愛情をみんなに注いでやってくれないか。もちろん俺も全力で受け止めるよ、ことりの中にある、本当の愛情なら」

 

 

 ことりは衣装を自分1人だけで制作している。でもことりは根を上げないし、そもそも苦労したコトなんて一度もないという。その理由には、『みんなにこんな衣装を着てもらいたい』『この衣装を着て輝いてもらいたい』などみんなへの愛情の他にも、『俺に見てもらいたい』など恥ずかしいけど俺への愛情も込められていた。そのことりこそが本当のことりだ。

 

 

「ことり、もう一度みんなと一緒にいたいよ……それなのに……ゴメンね凛ちゃん花陽ちゃん……うぅ」

 

「な、泣かないでことりちゃん!!」

 

「そうだよ。涙は最後まで取っておくものだにゃ……でもとりあえず、かよちんいくよ!!」

 

「うん!!」

 

「せーのっ!」

 

 

 

 

 

「「お帰りなさい!!ことりちゃん!!」」

 

 

 

 

 

「うんっ!!ただいま!!」

 

 

 

 

 悪魔のような天使は、仲間からの光で元の姿へと戻った。ことりの仲間を想う気持ち。それもμ'sを形成している骨格の1つだったんだ。そして、俺も改めて思い知らされた仲間の意味。それがあれば絶対に、μ'sを取り戻すコトが出来るだろう。

 

 凛の言う通り、まだ涙は早い。穂乃果と海未、ことりの大切な幼馴染たちがまだ残っている。恐らくことりには、この後すぐに動いてもらわなければならないだろう。

 

 

 だけど、今は俺も……

 

 

 

「おかえり、ことり……」

 

 

 




ことり編はこれで終了です。しかし第六章はまだまだ続きますので、一旦一区切りといった感じですかね。

絵里やにこと比べると、過去の葛藤を払拭するという観点ではあっさりしていたかもしれません。それはことりが自分の計画が崩れたことで心の隙間が広がり、零と凛、花陽がそれを早急に埋めたおかげです。次回でもう少し掘り下げる予定(あくまで予定)。


この小説にも終わりが見えてきました。ここまで読んでくださった方、よろしければ最後までお付き合い下さい。



付録:現時点でのμ'sメンバーヤンデレ度vol.11

正常:ことり、真姫、凛、花陽、にこ、希、絵里
異常:穂乃果、海未(あと2人!!)


次回は『日常』を投稿します。
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