ラブライブ!~μ'sとの"非"日常~【完結】   作:薮椿

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気付けば第六章も終盤に差し掛かっています。
もう完結に近付いて来ていると思うと、嬉しいような寂しいような。

今回も海未編です。
この章は常に綱渡りな気がしますね。


第八話 ‐果てしなき心の壁‐

 凛と花陽と別れた俺とことりは、監禁されていた建物から出て真姫たちがいるであろう商業地区へ向かっていた。まず穂乃果を探し出すのが優先事項なのだが、その穂乃果がμ'sのみんなを狙っているのだとしたらまず近くにいる真姫たちの元へ向かう可能性がある。それだけでなく海未とも対峙するかもしれない。もし穂乃果と海未が対面してしまった場合、先ほどの穂乃果とことりが対面した時みたいに壮絶な修羅場になるコトは簡単に予想出来る。

 

 

「アイツら、海未を追跡してるって言ってたけど見つかってないだろうな」

 

 

 海未なら誰かに後をつけられているコトぐらい、すぐに分かりそうなものだ。だけど真姫たちはここまで気付かれずに尾行を続けている。それなら心配ないと割り切るのか、それとも真姫たちが踊らされていると警戒するべきなのか……どちらにせよ、穂乃果がアイツらに会わない内に合流するべきだろう。

 

 

「とにかくにこと真姫に合流するか。ことりもそれでいいよな?」

 

「え!?あ、うん……」

 

「そんな驚いて、どうした?もしかして、まだ花陽のコト気にしてんのか?」

 

「そりゃあ気にするよ……ことりがやっちゃたんだから……」

 

 

 復活はしたものの、まだ心の傷は治っていないようだ。ことりはとことん自分で抱え込んでしまうタイプだから、他のみんなと比べても罪悪感が大きいんだろうな。

 

 

「自分の犯してしまった罪を悔いるコトは重要だけど、もっと重要なのはそこで立ち止まらないコトだよ。花陽もそんなことりは見たくないと思うぞ。本当に見たいのは、みんなのために前を向いて進むコトの出来るお前だ。失敗なんて人間だったら誰にでもあるさ。でもその失敗を失敗で終わらすんじゃなくて、それをバネにしてその失敗分を取り返す。それは既にことりもやっているコトだよ」

 

「ことりが、もうやってる?」

 

「ああ。メイド喫茶のバイトも、留学の件も、お前にとって失敗は色々あったハズだ。だけどまたお前はみんなと一緒に笑い合っている。それは失敗を乗り越えて、お前自身が強くなったからじゃないのか?失敗を失敗のまま放置してたら、こうしてみんなと一緒にいるコトなんて出来ないだろうから」

 

「ことりが強く、なってるのかな……?」

 

「なってるさ。今回もまた失敗してしまったけど、決して後ろなんて振り返るな。もし振り返りそうだったら俺を頼れ。俺がお前の手を引いて、一緒に前へ進んでやる。自分一人だけじゃない、みんなを頼って、みんなで進んでいけばいい」

 

 

 失敗して心のどん底にいる自分を、自分だけの力で立ち上がるのは難しい。だが何も自分一人で解決しようとしなくてもいいんだ。仲間に支えてもらって立ち上がり、再び前を向いて歩いていければそれでいい。これこそが仲間との絆の力なのではないかと俺は思う。

 

 

「零くん……」

 

「悪いな、説教臭くなっちまって」

 

「ううん、とっても嬉しかった。ことり頑張るよ!!ことりを強くしてくれたみんなのために、μ'sを再結成するために!!今度はことりが頑張る番だね!!」

 

「よく言った!!それじゃあ、この調子でお前の幼馴染を救いに行くとしますか」

 

「うん!!」

 

 

 ことりにいつもの明るさが帰ってきた。やっぱりマイエンジェルはこうでなくっちゃな。俺も俄然やる気が出てきたぞ。この勢いで穂乃果と海未を見つけ出して、一気にこの最悪の事態を終息させるか。

 

 

「でも零くんってやっぱりスゴイよ。ことりたち、いつも零くんに導かれてばっかりだもん。もしかして零くん、失敗したコトないの?」

 

「んな訳ねぇだろ……」

 

「え……?」

 

「ん?おい、あの雑木林で何か光らなかったか?」

 

「え、あっ、ゴメン、見てなかった……」

 

 

 この商業地区には、RPGのダンジョンのような雑木林があるみたいだ。俺はこの辺には来たコトないので詳しくないが、外からみるだけで別世界のような暗さだ。あの雑木林、ちゃんと日光当たってるのか?モンスターとかいそうなんですけど。

 

 

「ちょっと行ってみるか。何か胸騒ぎがするし」

 

「真姫ちゃんたちと合流しなくてもいいの?」

 

「もしかしたら、もしかしたらで俺のカンなんだけど、あの雑木林に真姫とにこが……」

 

 

 その直後だった。

 

 

 

 

『ぐぅっ!!』

『ぎゃぁっ!!』

 

 

 

 

 その雑木林から女性の叫び声みたいなものが聞こえた。この特徴ある高音と、綺麗な声は……

 

 

「やっぱりあそこにいるんだ!!行くぞことり!!」

 

 

 俺とことりはその声がした方へ全速力で走り出す。あの叫び声はただ事ではない。恐らく、いや確実ににこと真姫がピンチに陥っているに違いないだろう。

 

 

「あの声はにこちゃんと真姫ちゃん……でも2人はどうしてココに?」

 

「最初から海未に気付かれていたんだよ。だから人のいる可能性がある街中じゃなくて、誰もいないだろうココで迎え撃ったんだ」

 

 

 この雑木林に入ってから気付いたコトは、外から見れば木が生い茂って暗そうに見えるが、中に入ってみると意外と視界は開けている。ただし中へ入れば入っていくほど、下から上への視界は木々によって封鎖されていく。逆に上から下を見る分にはあまり問題なさそうだ。

 

 

「零くん、これって……」

 

「どうした?」

 

「この辺に落ちているのって、矢だよね?」

 

「矢…………そうか、そういうコトか」

 

 

 ことりは地面に落ちている複数の矢を見つけた。だが前々から落ちていたにしては新しすぎるし、それになにより俺もことりもこの矢には見覚えがある。俺の同級生が、ことりの幼馴染が愛用していたモノと全く同じだ。

 

 

「海未ちゃんが、にこちゃんたちを狙っているってコト?」

 

「そうだろうな。それにココに落ちてるってコトは、もうこの辺にいるんじゃ……」

 

 

 俺は立ち止まり辺りをぐるっと見渡す。そして俺たち以外の影を2つ発見した。

 

 

「いた……」

 

 

 その影はゴソゴソと左右に動いている。恐らく海未からの攻撃を避けているのだろう。でも、あのままじゃいつか動きが鈍って頭を射抜かれてしまう。

 

 

「ことり、今は俺の指示に何も言わず従ってくれ」

 

「う、うん……」

 

「俺がにこと真姫の前に出る、お前は後ろから2人を守ってやってくれ」

 

「えぇ!?」

 

「もう行くぞ!!」

 

 

 悩んだり考えたりしている時間はない。ことりは俺の作戦に初めは困惑してようだが、何とか決心してくれたみたいだ。彼女が驚くのも無理はない、俺自身がみんなの盾となろうとしているんだから。しかも次々と飛んでくる矢に立ち塞がって……でも方法はこれしかない。

 

 

 俺たちはにこと真姫の元へと一気に駆け抜ける。その間にも海未はにこたち射抜こうと矢を乱射するが、その中の1つがにこの頭を捉えようとしているコトに俺は気が付いた。真姫もにこも同じ察知をしたのか、他の矢は視界に入っていないかのように無視し、その矢が飛んで来る方向だけを唖然として見つめていた。

 

 

「アイツら……くそっ!!諦めやがって!!」

 

 

 動こうとしないのか動けないのかは分からないが、『もうダメだ』と言わんばかりの表情を浮かべている。確かに回避行動をしたとしてももう遅い。確実に頭部が射抜かれてしまう。

 

 

「間に合え!!」

 

 

 俺はダンッと地を蹴り、その勢いでにこと真姫の前まで一直線に飛んで行く。そしてそのまま矢の射程圏内に立ち塞がるようにして、にこと真姫の壁となる。

 

 

 

 

バシュッ!!

 

 

 

 

「がぁっ!!!」

 

 

「「!!!」」

 

 

 矢は俺の腕を軽く引き裂いて通り抜ける。その際俺の腕に激痛が走ったものの、奇跡的に大量出血とはなっていないみたいだ。その矢は俺という壁のせいで僅かに軌道が逸れ、そのまま地面へと突き刺さる。

 

 

「諦めるのは、まだ早いと思うぞ」

 

 

「「零!?」」

 

 

「にこちゃん!真姫ちゃん!大丈夫!?」

 

 

「「ことり!?」」

 

 

 俺の指示通り、ことりはにこと真姫を守ってくれているみたいだ。それにしても、そのまま抱きしめるとは思ってもみなかったが。まあそれでもいい、見る限り2人に目立った怪我はなさそうだし、このまま海未を追い詰めよう。彼女が矢を飛ばすのを止めているというコトは、絶対に俺たちの登場で焦っているハズだ。グズグズしていると逃げられてしまうかもしれない。

 

 

「さぁ立て!!海未を取り返しに行くぞ!!」

 

「え、え!?」

「どうしてアンタたちがこんなところに……」

 

「今はそんなのどうだっていい。動けないのなら、少し休んでから俺のところへ来い」

 

「ちょっと!!私も行くわよ」

「にこも。海未に話があるからね」

 

 

 ことりがにこと真姫を開放し、2人はよろよろとしながら立ち上がる。やっぱり矢を避け続けていた影響で身体が疲れているんだな。だがしかし、にこも真姫も目は本気だ。特に真姫はこの状況でも迷わず立ち上がれる辺り、数日前との成長が目に見えて明らかだった。

 

 だとしたらもうやるコトは1つ。ココで海未を取り戻す!!

 

 

「海未!!聞こえているんだろ!?出て来い!!」

 

 

 海未を呼ぶためにその場で大声を出したが、その声は虚しくも虚空へと消え去る。俺たちは黙ったままその場を動かなかった。もう海未は何処かへ行ってしまったのか……

 

 彼女を探し出そうと一歩前へ踏み出したその時だった。

 

 

ガサガサ

 

 

 木の葉が揺れる音が頭上で聞こえた。俺たちは一斉に見上げる。

 

 そして、木の上には長い髪を靡かせた人の姿があった。彼女は俺たちを、違う、なぜか"俺だけ"を見つめている。その目は昨日見た彼女の目とは違い、段違いに"黒"かった。

 

 

「フフッ、私に会いに来てくれたのですね、零」

 

「あぁ、会いたかったぜお前にな……」

 

 

 もちろん海未が言う『会いたかった』と俺が言う『会いたかった』は別の意味だが、ここで重要なコトはそれではないので言及はしない。ただ1つ言いたいのは、俺はこの海未とはもう二度と会いたくない。

 

 

「降りてこいよ、色々見えちまうぞ」

 

「別に零だけなら構いませんよ。むしろ見たいと言うのならばいくらでも」

 

「こんなところで冗談はやめようぜ。ことりたちもいるしな」

 

「ことり……」

 

 

 ことりの名前を出した瞬間、海未の顔が曇るどころか暗雲に包まれた。よほどことりに因縁があるのか?もしかしたら思いっきり地雷を踏んでしまったかもしれない……

 

 

「海未ちゃん……」

 

「……」

 

 

 海未は黙ったまま、今度はことりを睨みつけている。ここで海未が弓を構えたら、俺は迷わずことりの前に立つ。俺は海未の動向を気にしながら、自分の身体を若干ことりの方に向ける。

 

 

「海未、お前は俺に会いに来たんだろ?だけど途中でにこと真姫に尾行されているコトに気付いた。だから上からなら見晴らしのいいこの場所に誘い込んだんだ。その弓はこの時のためのモノ。お前なら、こういう事態になるコトぐらい想定してるだろうからな」

 

「流石、私の零ですね。いつものあなたも大好きですが、クールなあなたも大好きですよ」

 

 

 海未は俺を褒めちぎりながら木から飛び降りた。落ち葉をクッションとして華麗に着地する。これだけでも絵になるのが、海未が大和撫子と呼ばれる所以だろう。

 

 

「ちょっと待って、どうして海未がアンタに会いに来たなんて分かるのよ。にこたちが見た限りでは、海未は地図なんて見てなかったし携帯も確認していなかったわよ。それなのにどうして零の居場所が分かるの?」

 

「愚問ですね、にこ。零の匂いぐらい何処からでも分かりますよ。それを頼りに進むなど造作もないコトです」

 

 

 コイツも穂乃果と同じコト言ってやがる。この幼馴染たちはアレか?犬の遺伝子でも受け継いでいるのか?いくらなんでも嗅覚に優れすぎだろ。むしろ犬以上だわ。

 

 くだらないコトを考えている間に、にこが俺たちの前に出て海未と対面する。底知れぬ度胸があるとは思ったが、表情は今までにないってぐらい決意を固めている。そういえば、昨日にこから話を聞いた。自分が海未をこんな状態にしたのだと。

 

 

「久しぶりね、海未。日曜日にあったばかりなのに、そう思えるわ」

 

「そうですね、色々ありましたから」

 

「にこは海未に取り返しのつかないコトをしてしまった。アンタの心を勝手に抉ったのは、謝っても謝りきれないと思うわ。でも……」

 

 

 にこは一呼吸置いて、海未の目を再び見て向き合った。

 

 

「ゴメンなさい!!海未に辛い想いをさせてしまって……」

 

「にこ、お前……」

 

 

 ここまで人と向き合って、真っ向から謝る彼女を俺は初めて見た。絵里と希にも謝ってはいたが、今回はそれとは別の、本当に取り返しの着かないコトをしてしまった後悔と自分の罪に負い目を感じているようだ。日曜日にどんな話をしていたのか、具体的には聞いていない。でもにこがここまで謝るというコトは、海未の心の奥深くまで踏み込んで荒らしてしまったのだろう。

 

 

「いいですよ、別に気にしなくても……」

 

「いい、の……?」

 

「にこのお陰で気付けましたから、自分の本当の気持ちに。零が好きだっていうこの気持ちに」

 

「違う……それはアンタの本当の気持ちじゃない!!間違ってるのよ!!」

 

「そうですか?好きな人を独占したいという気持ちは、ごく普通の欲求だと思いますけどねぇ」

 

 

 にこの必死な想いも、今の海未では都合のいいように塗り替えられてしまう。何とか心の隙間に入り込み、本当の海未を引っ張り出してこない限りまともな話し合いは期待出来ない。昨日、俺は海未の家へお邪魔して彼女を元に戻す算段を掴もうとしたが、彼女の心の壁は果てしなく高かった。この俺が、断念してしまうほどに。

 

 

「だからあなたたちは不要な存在です。もちろんμ'sも。もし私と零の仲を邪魔しないと誓うなら、命だけは助けてあげましょう」

 

「海未、あなたはそんなコトをして何も思わないの?私たちが今まで積み重ねてきたモノも何もかも潰そうとしているのよ!!」

 

 

 真姫も必死に海未を説得しようとする。だがそれでは彼女の心の壁を超えるコトは出来ないだろう。でも何かはあるハズだ。海未の心に眠っている想いが。それを引き合いに出せば彼女を取り戻すコトが出来る。他のみんながそうであったように、同じμ'sにいた彼女にも捨てきれてはいない想いがきっとあるハズだ。

 

 

「積み重ねてきたモノ、ですか。その積み重ねがなければ零ともっともっと一緒にいるコトが出来たと考えると、全く不要なモノでしたね。そうですよ!!あなたたちのコトですよ!!真姫、にこ、あなたたちだけなら両腕を射抜くだけで助けてあげましょう!!ですがことりと穂乃果だけは必ず私の手で仕留めます!!私は2人が憎い!!邪魔なんですよ!!いつもいつも零の隣にいて!!私はいつも蚊帳の外!!でももうこれで終わりにします!!零の隣にいていいのは私だけです!!」

 

 

 怒りと憎しみの感情に身を任せ、海未は弓を構える。俺は咄嗟ににこの前に出る。もう時間がねぇ。だが海未の心の壁は現在進行形で高くなり、誰も寄せ付けない。ここから心の隙間を見つけるコトが出来るか!?考えろ、海未が秘めている本当の想いを……

 

 

 その時だった。にこたちの前に立っていた俺のさらに前に、ことりが海未に向かって立ち塞がった。

 

 

「ことり!!お前何をして……」

 

 

 

 

「海未ちゃんがそれで満足するのなら、ことりを射抜いて。その代わり、にこちゃんと真姫ちゃんには手を出さないで……」

 

 

 

 

「な、に…………」

 

 

 




『非日常』で楽しい部分は、μ'sのメンバーが欲望を剥き出しにして暴走しているシーンですね。これは普通のラブライブの小説を書いていては味わえない感覚なので、かなり新鮮です。今回海未が暴走しているシーンのセリフの量は、実はあの倍ぐらいあったのですが、同じような表現が続きくどすぎてやめました(笑)


この話で目が行くのはことりや海未で間違いないのですが、もう一度読み返す時は零の心情にも注目してみて下さい。


次回は海未との決着編!
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