ラブライブ!~μ'sとの"非"日常~【完結】   作:薮椿

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海未編の決着編となります。
果てしなく高い壁に囲まれた、彼女の心を取り戻せるのか!?


第九話 ‐園田海未‐

 俺たちの前に立ち、海未と対面したことりは両腕を広げ、自分には抵抗する意思がないコトを示す。それは同時に、俺たち3人を守っているかのようでもあった。いつもはおっとり天然なことりだが、今の彼女の背中はとてもたくましく見える。だけど彼女を命の危険には晒したくない。俺はさらにことりの前へ出ようとするが既に海未は弓を構えおり、ことりを射抜く準備は万端だ。俺が一歩でも動けば、それに触発され矢と悲鳴が飛び交うかもしれない。

 

 

「もう覚悟は出来ているようですね……」

 

「覚悟が出来てなきゃ前に出てこれないよ……」

 

「そうですか……」

 

 

 ことりと海未は向かい合ったまま睨み合っている。ことりは『にこと真姫には手を出さない』という約束で射抜かれ役を買って出たが、海未がその約束を守る保証はどこにもない。ことりがやられた後、そのままにこと真姫に飛び火する可能性は十分にある。今の海未ならなおさらだ。

 

 どうする……このままではことりが射抜かれるのも時間の問題だ。俺はどうなってもいい、ことりだけは助け出さないと。でもそんな暇はあるのか?ことりと海未の距離は思ったよりかなり近い。どう考えても俺が介入する前に、矢がことりを射抜いてしまう。

 

 横目でにこと真姫を見る。彼女たちも色々と策を練っているようだが、2人の表情を見る限り有効な策は思い浮かんでいないようだ。険しい表情と焦りが交互に見え隠れしている。俺たちが4人いたとしても、誰か1人が犠牲になる選択肢しかないのか……海未がいつ矢を放ってもおかしくはない。

 

 

 

 

 ……時間がない?いつ射抜く?よく考えれば……

 

 

 

 

 どうして海未はことりを射抜かない?

 

 

 

 

 2人の間に何かしらの因縁があるのは分かる。それで海未がことりに憎悪を抱いているコトも。だとしたらなぜ海未は"すぐに"ことりを射抜かなかった?どうして今も2人は向き合っている?そもそも初めから時間を気にするという考えが出るコト自体がおかしい。射抜くならサッサと射抜けばいいのに、海未はそれをしていない。

 

 

 見えてきた……海未を救い出す道筋が。

 

 

「「零!?」」

「零くん!?」

「……」

 

 

 俺は俺たちの前に立っていることりよりさらに前に出た。あまりにも無謀な行動にみんなが驚愕するも、海未だけは俺を睨みつけている。

 

 

「やっぱり射抜かなかったな、海未」

 

「どういう意味です……」

 

「そのまんまだよ。射抜くタイミングなんていくらでもあったハズだ。でもお前はそれをしなかった」

 

「確実にことりを仕留めるために、狙いを定めていただけですよ」

 

「こんな近い距離でか?」

 

「……」

 

「射抜けなかった理由はただ1つ。お前の中にまだためらいがあるからだ」

 

 

 この場は完全に海未1人が支配していた。彼女のさじ加減1つで複数の命を奪うコトも可能だった訳だ。だけどそれをしなかった。こんなに近い距離で、いつでも俺たちを仕留めるコトが出来たハズなのに。それはためらい以外の何物でもない。

 

 

「海未ちゃん……本当なの?」

 

「そんな訳ないじゃないですか!!私は本気でことりを殺そうとしてたんです!!」

 

「じゃあ打てよ」

 

「え……?」

 

「お前にそれが出来るか……?」

 

「っ……」

 

 

 感情に身を任せているのなら、ここで俺やことりを射抜けるハズだ。でも海未の表情は先程よりもさらに険しくなっている。そこから伺えるのは、ためらい、迷い、焦り……それが海未の手を止めているに違いない。

 

 

「出来ないよな?」

 

「そんなコトは!!」

 

「お前とことりの間にどんな確執があったのかは知らない。だけどことりが俺たちをかばって前に出た時に、ことりの目が一瞬見えたんだ。それは覚悟の目だった。お前はそれに躊躇したんじゃないのか?」

 

「違います!!私にとってことりも穂乃果も邪魔な存在なのです!!躊躇なんてする訳はないでしょう!!」

 

「俺が昨日、お前の家に行った時にあるモノを見ちまったんだ。勝手に見たのは謝るけどさ」

 

「見たって何を……?」

 

「アルバムだよ。俺しか写ってないアルバムじゃない、もう1つの方だ。お前と穂乃果とことり、3人で写っている写真がたくさん収められていたやつだよ」

 

「なっ……」

 

 

 昨日、海未が晩御飯を用意してくれている最中に見つけた1つのアルバム。そこには幼少期の頃から今に至るまでの写真が丁寧に収められていた。そのアルバムを捲っていくと、家族の写真と同じぐらい穂乃果とことりとの写真もあった。幼馴染としての記録が、しっかりと保存されていたんだ。

 

 

「2人を始末したいのなら、どうしてそのアルバムが残されているんだ。本当に憎いなら、そんな人が写っている写真なんか処分するか、ズタズタに切り刻むだろ。でもあのアルバムはとても綺麗だった。それはお前がとても大事にしていたっていう証さ」

 

「海未ちゃん、もしかして今もことりたちのコトを……」

 

「意外ね。あそこまでことりを睨みつけていたから、本気でことりを射抜くかと思ってたわ……」

 

「よかった、まだ海未の心には穂乃果とことりが残っているのね」

 

「穂乃果とことりだけじゃない。言っただろ、今に至るまでの写真もあるって。もちろんアルバムの後ろの方にもちゃんとあったよ、μ's結成後からの写真も、μ'sのみんなと一緒の写真もな」

 

 

 幼馴染と仲間の記憶は、そのアルバムと海未の心にしっかり残されていたんだ。俺が悩む必要もない、初めから答えは目の前にあった。灯台下暗しって言い方は変だけど、奥深くまで追求しすぎて逆に迷い込んでしまった気がするな。勝手に海未の心を高い壁だと思い込んでしまっていた。

 

 

「海未ちゃん、ことりたちのコトをずっと忘れないでいてくれたんだね」

 

「……そう、だったみたいですね」

 

 

 海未は構えていた弓を下げ、その場で静かに木にもたれ掛かった。さっきまでの覇気が一転、哀愁漂う姿に様変わりする。

 

 

「何度もアルバムの写真を切り刻もうとしました、でも直前になるといつも手が止まってしまったんです。それがなぜだか、自分でもよく分かりませんでした。でも、零の言葉のおかげでようやく自分の心に気付けた気がします。忘れていなかったんですね、穂乃果とことりで作った思い出。そして真姫やにこ、μ'sとの思い出も……」

 

「海未、あなたさっき"本当の気持ち"に気付いたってにこちゃんに言っていたわよね?」

 

 

 今度は真姫が前に出て海未と向かい合う。確かに海未は言っていた、にこが謝った時に『気付けましたから、自分の本当の気持ちに』と。

 

 

「それは偽りのあなただったのよ。穂乃果やことりのコトを忘れたいけど忘れられない。だから自分を偽るしかなかった。自分の心に嘘を付いて、自分自身を騙すしかなかったんだと思うわ。そうでなきゃ、穂乃果とことりより思い出が薄い私たちのコトまで忘れられないハズがないもの」

 

 

 自分を偽っていた……か。恐らく迷いやためらいがあったのも、本当の自分の心じゃなかったからだろう。決意が固ければ俺たちの誰かが地面に転がっているハズだからな。

 

 

「すごいですね。零もことりも真姫もにこも。私の心はすべてお見通しってコトですか」

 

「違うわ」

 

「にこ……?」

 

「にこはアンタを利用しようとした。海未の憎しみを煽って、心の弱みに付け込んで。だからにこは海未の本当の心に気付くコトはなかったわ。今更謝っても遅いけど、ここはもう一度」

 

 

 にこは俺たちより前に出て一呼吸置き、海未の目を再び見て向き合った。

 

 

「ゴメンなさい!!」

 

 

 

「はい。でも、お気になさらずとも結構ですよ。そのおかげでみんなとの思い出も改めて心に刻むコトが出来ましたし、何より自分の中で何かが変わったような気がしますから」

 

「ありがとう。実はね、零が言ってくれたの。失敗を失敗のままで終わらすなって。だからにこは絶対に海未を取り戻したいと思ったわ。もう一度、こうやって笑って話し合えるようにね!」

 

「はい!」

 

 

 にこの笑顔に海未も笑顔で返した。仲間と築く未来ももちろん大切だけど、仲間と築いてきた過去もかけがえのない宝物だ。自分を偽ってまでそれを忘れようとしていた彼女に、再び仲間との絆を取り戻せて本当によかった。あの綺麗な笑顔を見れば、もう心配はいらないだろう。

 

 

「海未ちゃん……海未ちゃーーーーーーーーん!!」

 

「こ、ことり!?どうしたんですか!?急に抱きついてきて」

 

「よかった……よかったよぉ」

 

「ことり……申し訳ありませんでした。でももう忘れようなんて絶対にしませんから」

 

 

 そう言って海未はことりを抱きしめ返した。幼馴染として一緒にいた時間が長い彼女たちだからこそ、その過去を大切にしてもらいたい。もう決して忘れようなんて思わないぐらいにな。

 

 

「なんとか海未も取り戻したわね」

 

「あぁ、流石に神経すり減るな。いつになっても海未を相手にするのは大変だ」

 

「それ、本人に言ったら怒られるわよ」

 

「そうだな、ヤバイヤバイ」

 

 

 真姫が俺の隣に来て一時の余韻を味わう。でもまだ終わっていない。ことりと海未、幼馴染はあと1人いる。そしてμ'sのメンバーとしてもあと1人。今すぐにでも動き出さなければならない。

 

 

「そういえばお前、背中は大丈夫なのか?」

 

「えぇ、かすっただけだから。それより心配なのはあなたよ。右腕見せてみなさい」

 

「お、おい!!」

 

 

 真姫は俺の腕を無理矢理掴み、上着の袖を捲った。掴まれた時の軽い衝撃で、右腕がズキッと痛む。

 

 

「やっぱり怪我してる、あなたずっと我慢してたの!?」

 

「自分の腕を心配しているような状況じゃなかっただろ」

 

「あなたって人は……待ってなさい。包帯持ってきてるから」

 

「何でそんなモノあるんだよ……」

 

「何が起こるかなんて分からないでしょ?まさか矢を乱れ打ちされるとは思ってもみなかったし」

 

「確かに……でもその包帯役に立ったじゃん。ありがとな」

 

「どういたしまして。だけど動かないでよ!!上手く巻けないでしょ」

 

 

 真姫みたいな綺麗な女医さんに介抱されるなら、怪我してもいっかみたいな考えに陥ってしまいそうで怖い。しかも利き腕が使えないとなると、もしかして食事の時に「あ~ん」とかしてくれたりするかも。なんて馬鹿なコトを考えている余裕はない。この余韻に浸るのもここまでだ。最後に穂乃果をみんなで救い出さなければならないからな。

 

 

「サンキュー真姫、もう大丈夫。ここからは作戦会議だ。おーい!にこ、ことり、海未、話がある、ちょっと来てくれ」

 

 

 何やら積もる話をしていた3人は、和やかなムードから一転して真剣ムードに変わった。俺が今から話す内容を理解しているのだろう。ここだ、ここからが俺たちの正念場だ。

 

 

「にこと真姫は凛と花陽のところに行ってやってくれ」

 

「花陽が怪我したって話よね?でも凛がいるから大丈夫なんじゃ……」

 

「そうなんだけど、アイツら2人だと無茶しそうなんだよな。特に今の花陽はかなりやる気だから、凛を説得して動きそうな予感がするんだよ。だから一応行ってやってくれないか?アイツらが無茶しないようにさ」

 

「わかったわ」

 

「にこたちがやるのはいいけど、アンタたちはどうするの?」

 

「俺たちは穂乃果を探すよ。アイツはことりと海未がいた方がいいだろ」

 

「穂乃果……」

「穂乃果ちゃん……」

 

 

 たぶん俺や真姫、にこよりもことりや海未の方がよっぽど穂乃果を心配しているだろう。幼馴染として過ごしてきた時間の長さが、彼女たちをより不安へと導いている。正直言って、あの穂乃果にことりと海未を会わせるのは賭けに近い。最悪、手がつけられないほど暴走するかもしれない。今でも手を焼くというのに……でもアイツの心を引っ張り出すにはこの2人が最適だ。

 

 

「悪いなことり、連続で動くコトになっちまって」

 

「ううん、穂乃果ちゃんやみんなのためだもん。それにどこも怪我をしてないのに、休んでなんかいられないよ」

 

「海未もだ。本当はもっと心に余裕が出来るまで待機していて欲しかったんだが……」

 

「いえ、私もことりと同じ想いです。それよりも心配なのはあなたです。腕の怪我大丈夫ですか?私のせいであなたに怪我を……」

 

「大丈夫だって。俺だってのんびり休んでなんかいられない。もう最後なんだ、穂乃果を取り戻すまで突っ走るさ。謝罪の言葉なら、全てが終わった後にまとめて聞いてやる。だから今は穂乃果のコトだけに集中しよう」

 

「うん!!」

「はい!!」

 

 

 μ'sの再結成に、あと一歩のところまで迫ってきた。だからもう立ち止まらないし駆け足でもない。全速力で事態の終息へと駆け抜ける。みんなの想いを1つにすれば、穂乃果の心にもきっと届くハズだ。だから途中で決して諦めるな、仲間との絆を信じよう。

 

 

 最後の激突が、始まる……

 

 




遂に8人目が帰ってきました!!
そして残るはあと1人、μ'sのリーダーにして太陽のような存在の彼女。第六章もいよいよ佳境に突入します。

μ'sの初期メンバーが最後に戦うという、自分で言うのもアレですがかなり粋な展開となっています。



次回は忘れられていた(!?)絵里と希が登場。この2人は第四章と第五章で大活躍だったので、出番を抑えようと思ったら第六章では思いっきり抑えられてしまった……だから次回ガッツリだします!
ラブライブ好きの皆さんなら、覚えてましたよね?



付録:現時点でのμ'sメンバーヤンデレ度

正常:ことり、海未、真姫、凛、花陽、にこ、希、絵里
異常:穂乃果(ラスト!!)
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