ラブライブ!~μ'sとの"非"日常~【完結】   作:薮椿

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ここへ来て進みが遅いような気がする……
実は当初の構想では第十話でこの章が完結予定だったんですよね。


第十話 ‐仲間への想い‐

「零たちがいるのはこの地区らしいけど、建物が密集していて道がややこしいわね」

 

「普段この辺に来るコトはないからなぁ」

 

 

 絵里と希は零たちがいる商業区まで足を運んでいた。彼女たちがココへきた理由は、少し前に零から穂乃果の捜索を頼まれたからである。零は穂乃果を逃がしたと言っていたが、絵里たちはそこまでに至る経緯を簡易的にしか説明されていないため、イマイチ情報が正確に掴めていない。それでも「穂乃果が逃げた」という言葉だけでμ'sの全員が動き出す辺り、事態の深刻さが容易に伝わってくる。

 

 

 

 

プルルルルルルルル

 

 

 

 

「あっ、電話。零からだわ」

 

 

 絵里の携帯に通話が入った。向こうで何かしらの動きがあったのだろうか?どちらにせよ、絵里も希も事態の把握が不十分なため零に連絡しようと思っていたところだ。絵里は希にも聞こえるようにスピーカーモードに切り替え電話に出る。

 

 

「もしもし」

 

『絵里、そっちは何か進展あったか?』

 

「特にないけど……それよりもっと詳しく説明してくれない?私も希も今どうなってるのか全然分からないんだけど」

 

『悪いな、色々と立て込んでて。俺は今、ことりと海未と一緒に穂乃果を捜索中だ』

 

「ことりちゃんと海未ちゃん……零君2人と一緒なん!?」

 

『心配すんな。もう2人は平気だよ』

 

「そう……よかった」

 

 

 絵里と希は自分たちが若干蚊帳の外に追いやられていた気持ちがあったものの、ことりと海未が戻ってきたという報告を聞くとそんなコトも忘れてホッと胸を撫で下ろした。そうなれば残りは穂乃果だけというコトになる。事態終息に向け、2人に一切の余念がなくなった。

 

 

『花陽が怪我をしちまって、凛、真姫、にこが一緒にいるハズだ。たぶんあっちは問題ない』

 

「それで私たちはこれから何をすればいいの?」

 

『引き続き穂乃果を探してくれ。すまねぇな、穂乃果を逃がしたのは俺なのにお前らに迷惑をかけて……』

 

「どうして零君が謝るの?ウチらは仲間や。仲間を助けたいという想いは零君にも負けてないよ、ウチも絵里ちもみんなも」

 

『……そうだったな』

 

「みんなで一緒に帰りましょ。あの"μ's"に。でも零、くれぐれも無理だけはしないようにね。あなたすぐ無茶するから……」

 

『分かってる。さっき散々海未とことりに説教されたから。じゃあ一旦切るぞ』

 

「えぇ」

 

 

 そこで通話は終了した。これほど切羽詰った事態でも1人1人に役割を与え、成すべきコトを遂行させる。絵里も希も、まさしく零がμ'sを光へと導く存在だというコトを改めて思い知った。彼と離れているこの状況でも安心できるのは、彼のカリスマ性のおかげだろう。

 

 

「ウチが知っている中でも一番豹変してるのが穂乃果ちゃんやと思う。日曜日に会った時、あの目は迷いなく人を刺せる目やった」

 

「私は今の穂乃果と直接会ったコトはないけど、真姫も凛もみんなそう言っているわよね。何が穂乃果をそこまで変えてしまったのかしら……」

 

「零君のコトが好き。もしかしたらその気持ちが誰よりも肥大化してしまったのかもしれへんなぁ」

 

「零が好きだから、それ以外の邪魔者……つまり私たちを全員消す。単純にして、とても恐ろしいわね……」

 

 

 自分たちも同じ気持ちに支配されていたからこそ、穂乃果の気持ちをある程度は理解出来る。それに恐らく、穂乃果の歪んだ愛は自分たちを遥かに凌ぐほどの大きさだ。付け入る隙は誰よりも小さいだろう。

 

 

「でも諦めるつもりなんてないわ。穂乃果がいなかったらμ's自体なかったんだし、みんなとの出会いもなったでしょうから」

 

「そうやね。穂乃果ちゃんがμ'sを設立してくれたからこそ今のウチらがいる。穂乃果ちゃんがいてくれたからウチらは救われた。だから次はウチらが救う番や」

 

 

 そもそもμ'sという存在がなければ、2人は今この場所にすら立っていないだろう。状況こそ最悪だが、自分たちを救ってくれたμ'sの創立者である穂乃果を絶対に見過ごすコトなんて出来ない。彼女の太陽のような笑顔を取り戻し、みんなで一緒にμ'sに帰る。過去に辛い経験があった2人だからこそ、その想いは一際輝く。後輩から教えられた仲間との絆、今度は自分たちが繋ぐ番だ。

 

 

 

 

ガツッ

 

 

 

 

 2人が想いを新たにしたその直後、後ろから鈍い音を立て、誰かが近付いて来ているのが分かった。

 

 

 背筋が凍る。足音だけでここまで身体に冷や汗が走るのは初めてだ。振り向かなくとも、今自分たちの十数m背後に誰がいるのか予想がつく。そしてその人物が遂に口を開いた。

 

 

 

 

 

 

「み~~いつけたぁ♪」

 

 

 

 

 

「「!!!」」

 

 

 固めた決意を嘲笑うかのような、狂気に満ちた声。一緒にいるだけで身体が貫かれそうな、禍々しいオーラ。狩る相手を見つけて喜んでいるかのような、黒い太陽の笑顔。何もかもが違う、あの時の彼女とは。まるで今の彼女が、本来の"高坂穂乃果"であるかのように。

 

 絵里と希は後ろをゆっくりと振り返る。そこにはまさしく、自分たちが想像した穂乃果がこちらに向かって"笑顔"で立っていた。分かっていたのに手が震える。知っていたのに頭が真っ白になる。それは自分たちの想像の範囲を軽く凌駕していたという証拠だった。彼女はこれほどまでに豹変していたのか。特に希は、日曜日に会った時とは比べ物にならない彼女の邪気にひるまされていた。

 

 穂乃果の足元でカランカランと金属が地面に引きずられるような音がしているコトに、絵里と希は今気付いた。彼女に釘付けになっていて、周りの景色が一切見えていなかったのだ。穂乃果の手元を見てみると、鉄製の棒が握られていた。ただしその棒は真っ直ぐではなくかなり折れ曲がっていて、何か硬いモノに叩きつけたような曲がり具合だ。

 

 

「さぁて……もう殺すね♪」

 

 

 2人がそこまで認識した直後だった。穂乃果は鉄棒をギュッと握り締め、ダンッと乱暴に一歩踏み出す。

 

 

 来る、絵里と希がそう思ったときには既に穂乃果の身体は動いていた。

 

 

 そして躊躇や迷いなど一切なく、穂乃果は絵里と希に突撃する。

 

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 

 にこと真姫は零からの頼みで、彼と穂乃果が監禁されていたというビルに来ていた。ココへ来た理由は凛と花陽に合流するためだ。2人を監視するという言い方には語弊があるが、今の凛と花陽は無茶をする傾向が強いのであくまでも制止役として2人を見るよう頼まれたのである。

 

 とは言うものの、にこも真姫も一番無茶をしているのはお前だろと零にツッコミたくなったのは内緒の話だ。本人曰く自分はどうなってもいいらしいのだが、そんなものμ'sのみんなが納得出来るハズがない。だが今は状況が状況なので、現在自分たちが出来るコトを率先してやるのが先決だろう。

 

 

「ちょっと何よコレ……話には聞いていたけど、これほど滅茶苦茶になっているなんて思ってもなかったわ」

 

「ホントね、これで周りの人が誰も気付いてないのが不思議なくらいだわ」

 

『凛たちの奇跡の脱出劇を2人にも見せてあげたかったにゃ~』

 

「冗談は寝て言いなさい。それより、あなたたちこのビルの何処にいるのよ」

 

『分かんないから、とりあえず適当に階段登って来て』

 

「分かんないって……」

 

 

 真姫は凛と通話しながらお互いに状況の報告と情報を交換していた。零から聞いていたよりもビルが凄まじい惨状になっていたコトに驚きながらも、にこと真姫は瓦礫を避けて階段へと向かう。凛は自分たちが何処にいるのか分からないと言っていたが、実は本当である。爆発から命からがら逃げ延びた凛と花陽は、零の怒鳴り声を聞いて無我夢中で階段を駆け上がっていたため自分たちが今何階にいるのか把握していなかった。

 

 

 2人は凛と花陽の名前を呼びながら歩く。何が面白くてこのビルがこんな構造になっているのかは知らないが、声がやたら響かない。つまりこのビル全体が防音性となっていて、遠くまで声が通らないのだ。にこと真姫はメンドくさい構造にウンザリしながらも、廊下を曲がりに曲がって歩いていく。その廊下も迷路のようにややこしく、行き止まりにアイテムでもあるかのような分かれ道がたくさんあった。

 

 にこも真姫も今考えれば、零に凛たちが何階にいるのか聞いておけばよかったと思った。事前に言っておいてくれない零も零だが、相当急いでいたのだろう。

 

 

「凛ーーー!!花陽ーーー!!」

 

「どう凛?にこちゃんの声聞こえる?」

 

『微かに聞こえた気がするにゃ。おーーーい!!』

 

「わぁ!!ちょっと急に叫ばないでよ!!」

 

『あっ、ゴメンゴメン。電話してるんだった』

 

「あなたねぇ……」

 

 

 電話をしている最中なのに電話を忘れるとは何事か。それが星空凛という感じでもあるが。とにかく声が聞こえたというコトは同じフロアにいるハズなので、お互いに声を出しながら合流を図る。

 

 

「あっ!!にこちゃん発見!!」

 

「あぁ、いたわよ真姫」

 

 

 凛が近くの曲がり角でにこを発見したのと同時に、にこも凛を発見した。

 

 

「やっと見つけた、もっと分かりやすい場所で倒れてなさいよね」

 

「あはは……ゴメンね、でももうだいぶよくなってきたから大丈夫だよ」

 

「もう無茶しちゃって……それで変わったコトは何もなかった?」

 

「うん、ていうより凛たちずっとココにいたから」

 

 

 花陽の脚の怪我はかなりよくなってきているようだ。穂乃果は零や絵里たちが探してくれているので、ココに隠れておけばとりあえずは安心だろう。

 

 

「じゃあもう行かないと……」

 

「えぇ!?その脚じゃ無理よ!!まだ安静にしてなさい」

 

「でもみんなが頑張っているのに私だけココで休んでるだけなんて出来ないよ!」

 

「花陽……」

 

「かよちん、さっき廊下を歩いてみたら普通に歩けたから大丈夫だよ。凛たちも早く行かないと」

 

「凛まで……」

 

 

 やはり零の言っていた通り、花陽も凛も無茶をしようとしている。もう歩けるとはいえ、またいつ痛んでくるか分かったものじゃない。下手に飛び出していって零たちの足を引っ張る可能性も否めないのである。

 

 

「もう……にこちゃんも何か言ってあげてよ」

 

 

 2人の決意は固く、真姫は自分1人ではどうにもならないと思ったのかにこに助力を求める。しかしにこはさっきからずっと黙ったまま、真剣な顔をして何かを考えているようであった。

 

 

 

 

「いいんじゃない、別に」

 

 

 

 

「はぁ!?あなた零の話聞いてたの!?」

 

「聞いていたわよ」

 

 

 にこも真姫と同様に零の頼みで凛と花陽に合流したハズだ。その目的は2人が無茶な行動をしないように見張っておくコト。数分前との意見の相違に真姫は困惑する。

 

 

「零の指示通りに動くのが正解なんでしょうね。状況判断ならにこよりアイツの方が得意だろうし」

 

「だったらどうして……」

 

「花陽、アンタは穂乃果を救い出したいと思っているのよね?」

 

「当たり前だよ、同じμ'sの仲間だもん」

 

「凛は?」

 

「かよちんと同じだにゃ!だからココで指くわえて見てるだけなんて、凛の中では全然納得出来ない!!」

 

「花陽、凛……そりゃあ私も同じ想いだけど……」

 

「確かに零の言う通りにしておけば間違いはないと思う。ずっとココにいれば、いつかは零たちが穂乃果を救ってくれるでしょうね。でもにこたちも穂乃果を助けたいの。あのμ'sを作った穂乃果だからこそ、にこたちにも穂乃果に伝えたい想いがある。そんな想い伝えなくても全部解決するかもしれない。だけどこんなところで待ってるだけっていうのはにこ自身が許せないわ」

 

 

 客観的に考えれば、にこの考えなど単なる我が儘に過ぎない。何の策もなしに、あの穂乃果の前に出ていくのがどれだけ無謀な行為なのかは目で見るより明らかだ。零はそんな勝手な行動を絶対に許す訳はないだろう。

 

 

 だけど、

 

 

 零同様、自分たちを救ってくれた穂乃果に手を差し伸べずに終わるなんて自分自身が許せない。にこ、凛、花陽、3人の気持ちは同じだ。たぶんこの感情は自分の満たされない心を埋めるための、ただの我が儘なのだろう。

 

 だがそれの何がいけない?苦しみ闇に囚われている親友を、仲間を救い出すコトの何がいけない?自己満足だと分かっている、足を引っ張る可能性があるコトも分かっている。それでもなお穂乃果に仲間との絆を想い出して欲しい。そのための想いを彼女にぶつける。自分たちをμ'sという素晴らしい仲間がいるグループに、巡り合わせてくれた彼女を救うために。この想いをこのまま心の奥底に閉まっておくのは、あまりにも勿体無い。

 

 

「だからにこも凛と花陽に賛成。花陽のコトなら大丈夫、何あったらどんなコトがあってもにこが花陽を庇うから」

 

「にこちゃん……ありがとう!!」

 

「仲間なんだから支えあうのは当然でしょ。むしろそれくらいの意気込みがなきゃ、あの穂乃果のところに行くって言い出さないって」

 

「凛も全力でかよちんのサポートをするにゃ!!だから脚に違和感があったらすぐに言ってね」

 

「凛ちゃん……うん!!ありがとう!!」

 

「それで真姫はどうする訳?零に言われた通りココで待つ?」

 

 

 そう言われて真姫は軽く溜息を吐いた。どうしようもない人たちだ。作戦もなしに穂乃果に突っ込んで、その結果がどうなるのか全く予想など立てていないのだろう。自分たちが行けば零は驚くだろうし、彼に何かしら策があるのならそれを潰しかねないというのに。

 

 

 でも、

 

 

 自分もにこたちを同じ気持ちだ。穂乃果に気付いて欲しいコト、伝えたいコトは自分の心にたくさん秘めている。変貌している彼女だからこそ知ってい欲しいコトが山ほど。もちろん自分の我が儘だ。しかしそれを通り越してまで、この仲間と一緒に穂乃果の心に想いを届けたいと思っている。

 

 

「零から頼まれたのは、凛と花陽が無茶しないように見守るコト。そのあなたたちが行くって言うのなら、私が行かない訳にはいかないでしょ」

 

「ホントに、素直じゃないわねぇ~行きたいなら行きたいって言えばいいのに」

 

「うるさいわね……」

 

「赤信号、みんなで渡れば怖くないってやつだにゃ」

 

「それはちょっと違うと思うけど……みんなで一致団結するのは間違ってないかも」

 

「よ~し、それじゃあにこたちも穂乃果を探しに行くわよ!!」

 

「「お~!!」」

 

「全く……しょうがないわね」

 

 

 きっとこれを零に聞かれたら怒られると思いつつ、真姫もにこたちと共に決意を新たにした。

 

 そして今、零とμ's8人の想いがすべて穂乃果に向けて集いだす。

 一寸先は光か闇か、それは9人の想いの強さに委ねられる。

 

 

 




これで零君とμ'sメンバー8人全員が穂乃果の元へ集うこととなりました。
初めに穂乃果と対峙したのは絵里と希。果たしてどうなるのやら……


そして第六章はあと2話で完結予定です。(あくまで予定)
最後になりますが最終章のあらすじを公開します。もちろんこの章のネタバレを含むので、それでもいいよって方のみ閲覧して下さい。










~最終章あらすじ~

 遂にμ'sメンバー9人全員を救い出した零。彼も彼女たちも、想い描いていたいつもの日常に帰ってきたのだ。だが零には1つの謎が残されていた。

――――どうしてあんな最悪な事態が起こってしまったのか

 取り戻した日常の中で、彼は1人葛藤する。


 スクールアイドルとしての練習を再開した穂乃果たち9人。だがそこで、彼女たちは零の異変に気付いた。

――――神崎零が、笑わない

 彼から"笑顔"が消えたのはなぜなのか?μ'sは自分たちの英雄を救うため、動き出す。
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