ラブライブ!~μ'sとの"非"日常~【完結】   作:薮椿

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ヤンデレの中で一番どんなヤンデレが怖いって、こっちの話を聞かずに向こうから一方的な愛を注がれることだと思います。

ということで今回も穂乃果編です。


第十一話 ‐悪魔の笑顔‐

 

 穂乃果を探すため、俺、ことり、海未は雑木林を抜け再び商業区へと戻ってきた。彼女の行方は誰1人として分かっていないので捜索はかなり闇雲になる。今日は祝日のためか商業区にはほとんど人はおらず、閑散としているのがまるで嵐の前の静けさを表現しているかのようで非情に不気味だ。俺たちは響く自分たちの足音を聞きながら、いつ穂乃果が現れてもいいように全神経を集中させる。

 

 

「静かだな……本当にアイツこの辺にいるのか?あれからかなり時間が経ってるから、もういない可能性もあるな」

 

「だとしてもあてはないですし、このままあの穂乃果を放っておく訳にはいきません。何としてでも探し出しましょう」

 

 

 今の穂乃果の考えを読むのは誰であっても不可能だろう。もしかしたら怪我をしている花陽たちのところへ向かっているかもしれない。犬並みに鼻が効く彼女なら、μ'sメンバーが集まっているところに出向いて悲劇を起こすなんてコト、容易に想像出来る。

 

 

「零くん、腕……やっぱり痛むの?」

 

「……そんなコトはない」

 

 

 ことりが俺へ心配を投げかけてきた。この移動中も俺が度々腕を抑えていたコトに気付いていたのか。さっき海未に腕を射抜かれそうになったが、幸いにも上着を引き裂かれるだけで身体にあまり影響はなかったと思っていた。だがしかし俺自身がそう思っていただけで、移動している最中に俺の身体は悲鳴を上げていたのだ。

 

 

「心配するな……多少痛むだけだから」

 

「でもさっきから零くん、ずっと険しい顔しているよ。にこちゃんたちから別れてからずっと……」

 

「なっ、なぜそれを早く言わないのですか!?私がしてしまったコトなので自分で言うのもおこがましいですが、腕を抑えるほど痛むのなら少し休みましょう!」

 

「ダメだ……そんな余裕なんてない。早く穂乃果を見つけ出さないと、またμ'sの誰かが狙われるかもしれないんだ」

 

「焦ってもいい結果は出ません。ましてそんな状態で穂乃果と向き合えるのですか?」

 

 

 確かに腕に痛みを抱えながら他のみんなを庇うなんて芸当は不可能だろう。それにこんな状態では暴走する穂乃果を俺1人で止めるコトも出来ないかもしれない。

 

 

「俺のコトはどうでもいい、それより早くアイツを……」

 

「ダメです!!明らかにさっきより顔が険しくなってますよ!!痛むのでしょう?今は休みましょう!!」

 

「俺なんていくら傷ついてもいいんだ!!みんなが無事でいられるならそれでいいだろ!!」

 

「あ、あなたって人は……」

 

 

 

 

 

 

「零くん……ゴメンね」

 

 

 

 

 

 

パァン!!

 

 

 

 

 

「なっ……」

「ことり……?」

 

 

 何が起きたのか、一瞬判断も理解も出来なかった。隣にいる海未もそうだ。気付いた時には頬に痛みが走り、腕の痛みなど忘れるほどであった。ことりも自分の手のひらに痺れを感じているのか、一歩も動かずそのまま硬直している。

 

 ビンタされた……?ことりに……?あのことりが……俺に?

 

 

「……休もうよ、今は」

 

「ことり……」

 

 

 ことりは俯いたまま、普段の彼女からは考えられないぐらいの低いトーンで俺に言葉を投げた。その表情は前髪で隠れて見るコトは叶わない。だが見なくとも、今の彼女がどんな表情をしているのか想像が出来た。それはことりから制裁を受けたコトで、自分の気持ちが整理出来たからだと思う。

 

 

「悪かった……ちょっと、いやかなり焦りすぎた」

 

「こっちもゴメンね……急に引っぱたいちゃって……」

 

「むしろ助かったよ……おかげで頭が冷えた」

 

 

 さっきの自分を思い返す。その時の俺がどんなに険しい表情をしていたか、どれだけ焦っていたのか簡単に思い返せた。これじゃあ穂乃果のコトも言えないな。俺もアイツ同様に暴走してしまったんだから。落ち着け……最後の最後になって1人で突っ走っちゃダメだよな。俺の周りにはたくさんの仲間がいるんだ。その仲間と共に穂乃果を助けよう。自分の感情を高ぶらせ、周りが見えなくなったら彼女を救い出すなんて到底不可能だろう。

 

 

「怖かったんだ。零くんがまた無茶をしそうで……もし零くんが倒れたらって考えるとことり、頭がぐちゃぐちゃになっちゃってた……」

 

「そこまで俺のコトを……ありがとな。でももう大丈夫だ!!かなり落ち着いたから」

 

「そう……よかったぁ~」

 

 

 あのことりに引っぱたかれるなんて夢にも思ってなかったけど、逆にその衝撃で心を更生出来たと思う。今までの彼女なら、意地でもこんなコトはしなかっただろう。しかしこれも仲間を想ってのコト。彼女も俺の知らないところで成長していたんだ。

 

 

「海未も、心配かけて悪かったな」

 

「いつものあなたに戻りましたね。それだけで私は満足です」

 

「そっか、それじゃあ行こう!!」

 

「えぇ!?ことりの話、聞いてました!?」

「もしかしてまたことりに引っぱたいて欲しいとか……?これでも結構勇気いるんだよ」

 

「んな訳あるか!!安心したら腕もよくなったから、もう行こうって言ってんの!!」

 

 

 落ち着いたら自然と腕の痛みも収まっていた。こうやって冗談を言い合えるあたり、お互いの気持ちにも余裕が生まれているに違いない。穂乃果の心に想いを届けるのに、俺たち自身の心が窮屈だとどうしようもないもんな。余裕を取り戻してくれたことりと海未に感謝だ。

 

 

「くれぐれも無茶だけはしないようにしてくださいね」

 

「分かってるって!!」

 

 

 そして穂乃果の捜索が再開された。待ってろ、お前の笑顔を絶対に俺たちが取り戻してみせる。

 

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 穂乃果は絵里と希までの距離を一気に詰めた。普段の彼女からは考えられないほどのスピードで、一瞬にして2人に追いつく。鉄棒を両手で握り締め、かつての仲間であっても躊躇など一切なく襲いかかる。

 

 だがそのままやられる2人ではなかった。絵里と希はお互いにアイコンタクトを取り合い、穂乃果を十分に引きつけてから背中を向け合い互いに逆方向へと走りだす。

 

 

ガキッ!!

 

 

 穂乃果が振り下ろした鉄棒は空を裂き、そのまま地面に叩きつけられ鈍い音を立てる。しかし穂乃果は怯まず絵里に標準を合わせて再び走り出した。

 

 

(初めはビックリして動きが鈍っちゃったけど、これなら穂乃果を止められるかも……)

 

 

 穂乃果の狂気を受けて初めは怯んでしまったものの、彼女が動き出してみれば意外と動きは単純で、1つ1つの動作にも隙が大きかった。その分普段の練習や元々バレエできめ細かな動きが可能な絵里ならば、彼女から逃げ続けるコトは造作もない。この事実は絵里に余裕を与えた。

 

 

(絵里ちが穂乃果ちゃんを引きつけてくれてる間に、穂乃果ちゃんを止める作戦を考えないと。かと言って無理に近付くのは危険やし……ここは)

 

 

 希はそのまま切り返し、今度は絵里と穂乃果の元へ向かって走り出す。正直今の穂乃果に近付くコトがどれだけ命知らずの行為なのかは希自身も分かっている。絵里なら穂乃果を上手く引きつけ、こちらに有効な作戦を練る時間を与えてくれるコトも。しかし希はその危険を顧みない。彼女もにこたちと同じ、自分の想いを穂乃果に伝えたいのだ。

 

 

「も~う絵里ちゃん!!さっきからちょこまかちょこまかゴキブリさんみたいだよ」

 

「流石の私でもゴキブリに例えられるのだけは勘弁だわ……」

 

 

 いつもの絵里なら寛容な心を持ち、穂乃果たちの冗談も軽く流せるのだがゴキブリ呼ばわりは癪に障った。絵里は無造作に動く穂乃果から逃げ回りながら、彼女の手から鉄棒を叩き落す手段を考える。流石に武器持ちを相手に真正面から説得をするのはあまりにも無謀過ぎるからだ。

 

 

「穂乃果!!そんなモノを持って人を……あなたはそんな人じゃなかったハズよ!!」

 

「……」

 

 

 穂乃果は何も答えない。その目はただ絵里だけを獲物のように見つめていた。こんな安い言葉では彼女の心には届かないだろう。そもそも今の彼女の心に言葉が届くかどうかも分からない。それほどまでに心の奥まで闇に侵食されているのか、それとも真っ直ぐな性格がゆえ横から付け入る隙がないのか。

 

 

「聞いてるの穂乃果!?」

 

「うるさいなぁ……遺言ならちゃんと聞いてあげるから。だからいつでも天国に行っていいよ♪」

 

 

 それ以前の話、彼女とは話し合いにすらなっていない。希たちから彼女の惨状を聞いてある程度は覚悟していたが、いざ向き合ってみると自分が無力と感じるほど彼女との会話は無意味なものであった。もはや会話と呼べるのかも怪しいが。

 

 さらにそれは近くまで来ていた希にまで聞こえていた。彼女は一度穂乃果と対面したコトはあるが、あの時より聞き分けがなくなっているのは確かだ。あの時の方が"まだ"会話が出来ていた。ことりに拘束されたあと何をされたのか、どのような経緯で脱出したのか、その間に彼女は何を思ったのかなど、全く予想が出来ない。恐らくその間に彼女を変えた何かがあったのだとは思うが、ここまで穂乃果を豹変させた理由とは一体なんなのだろうか?

 

 

「穂乃果ちゃん……さっきからずっと笑顔や……」

 

 

 この状況で何が恐ろしいのか、それは穂乃果が自分たちと対面してからここまでずっと"笑顔"だというコトだ。もちろんその笑顔はかつての太陽のような笑顔ではなく、色で言えば誰しもが黒と答えるだろう。その冷たい笑みはかつての彼女を知っている者なら間違いなく、本人と瓜二つのそっくりさんと勘違いするほどだ。

 

 

「とにかく、暴れ回る穂乃果ちゃんを止めん限りウチらの想いも伝わらない。だったらやるコトは……」

 

 

 穂乃果が持つ凶器を捨て去る。希も絵里と同じ考えだった。今穂乃果は絵里に標準を会わせて追いかけているため、希自身は完全にフリーだ。これ以上絵里に負担を掛ける訳にはいかないので、希は穂乃果の後ろを追いかけ、徐々に距離を詰めていく。絵里はその希の動きの意図を察したのか、穂乃果を翻弄するように動き回る。そうしなければ運動神経が高い穂乃果に希が追いつけないからだ。

 

 

 絵里と希、お互いに抜群のコンビネーションを披露しながら穂乃果を取り戻すための道を一歩、また一歩と歩を進めていく。穂乃果は前にいる絵里に集中しすぎて後ろから迫る希には一切気付いていない。彼女は『さっきは2人いて、目の前にその内のは1人いるけど、もう1人は?』などという単純な思考すら持ち合わせていないのだ。ただただ目の前の敵を叩く。目に付いたものから順番に排除する。まるで本能で動いているかのようであった。

 

 

(もう少しや……このまま穂乃果ちゃんを後ろから押し倒す!!少々乱暴やけど許してな……)

 

 

 希は穂乃果の背中を眼前にし、彼女を押し倒すため右足で大きく踏み込んだ。

 

 

 

 

 その直後だった。

 

 

 

ブンッ!!

 

 

「えぇっ!?」

「!!!」

 

 

 穂乃果が握っていた鉄棒を絵里に向かって投げつけたのだ。2人の失態はそこだった。

 今の穂乃果の行動を読もうと思っても読みきれない。ただ単純に本能で動き回り、そこに計画性や戦略がある訳ではない。

 

 その前提を一瞬だが忘れてしまっていた、2人は穂乃果が武器を手放す訳がないと思い込んでいたのだ。2対1という不利な状況で武器を手放すのは自殺行為に近い。それが"普通"の考えだ。だが、今の穂乃果は"普通"ではない。セオリーなどはもちろん、自分が有利になるとか不利になるとか、それ以前にそんな考えすら持ち合わせていないのである。

 

 絵里と希が知的過ぎたせいで起きた弊害。穂乃果がどのように行動しているのか、一瞬でも忘れてしまったコトによる惨事。心に多少の余裕が出来て、安堵してしまった慢心。すべてが合わさり、たった今マイナスに働いた。

 

 

ドゴッ!!

 

 

「きゃあっ!!」

 

 

 鉄棒自体はダイレクトにヒットしなかったものの、その先端が絵里の脇腹に激突した。絵里は激痛でその場に崩れ落ち、鉄棒はそのまま回転しながら遠くで落下し鈍い音を立てる。

 

 

「絵里ち!!!!」

 

 

 想定外すぎる光景に驚きながらも希は絵里の元へ駆け寄ろうとするが、先に穂乃果が動いた。動けない絵里に向かって迷いなく突撃する。

 

 

(このままじゃ絵里ちが!!)

 

 

 鉄棒を失っているため絵里が一撃で天に登らされるコトはないものの、あの穂乃果に捕まってしまえば死より恐ろしい体感をするコトになるだろう。

 

 

 もう、間に合わない。

 

 

 

ダンッ!!

 

 

「「「!!!」」」

 

 

 すると突然、絵里のでもない、希のでもない、そして穂乃果のでもない足を踏み出す音が聞こえた。そして一瞬の内に人影が穂乃果たちの横から現れる。

 

 

「きゃっ!!」

 

 

 絵里はその人影に抱きかかえられ、数m横へ移動する。そして、その人から守るように抱きしめられた。あまりにも一瞬の出来事で目を瞑ってしまっていたが、そこでようやく目を開けた。

 

 

「あ、あなた!!」

 

「ようやくご到着やね……待ってたよ」

 

 

 

 

「零……君」

 

 

 

 

「全く……今日だけで何回目の間一髪なんだか」

 

 

 遂に零と穂乃果が対面した。零は絵里に飛びついた反動で腕に痛みが走りながらも、それを感じさせない動きで絵里を庇うようにして彼女を抱き寄せる。

 

 

「穂乃果!!」

「穂乃果ちゃん!!」

 

 

「海未ちゃん!?ことりちゃん!?」

 

 

 今度は海未とことりは希の前に出て穂乃果と対峙する。希は2人の登場にさらに驚いた。穂乃果の狂気に怯まされていた絵里と希とは違う、海未とことりは物怖じせず真っ向から向かい合っている。これも幼馴染としての所以、彼女へ対する熱意は零よりも他のμ'sメンバーよりも遥かに大きいためだろう。

 

 

「わぁ~♪海未ちゃんもことりちゃんもわざわざやられにくるなんてねぇ~♪」

 

 

 それでもなお、穂乃果の笑顔は消えていなかった。むしろ、これからが本番だと言わんばかりの、悪魔のような笑顔……




零、ことり、海未も現地に到着。ここからがこの小説内での最後の戦いとなります。もちろん絵里や希、まだ来ていないにこたちも活躍予定ですよ。

そして次回が恐らく第六章最終話、まだ完成はしていないのですが長くなった場合には話を分ける可能性があります。なるべく穂乃果への説得に関しては、バシッと一話で終わらしたいですね。

最終章のあらすじを知りたい方は第十話の後書きにて公開しています。
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