茂札普夫はどこにでもいる平凡な高校生である。
彼はバイト先であるホビーショップMeeKingで働いているが、今日は平穏な一日で終わりそうであった。
茂札はレジ番をしながら、暇なこの時間帯にできることを脳内にリストアップして── 棚にしまってあるノートパソコンを引っ張り出した。もちろん、このノーパソはMeeKeingの社用品である。そこそこ旧式のものだが、これから茂札が作業しようとするものに関しては性能不足ということもない。
「何をするの? 手伝いは必要?」
茂札がガタガタ音を立てたことに気づいて、彼の同僚であるバイト店員、サレン・アンダーがバックヤードの店員専用エリアからひょいと顔を出した。
茂札は何でもないと言うように手のひらをひらひらさせて、ノートパソコンの画面を指差した。
「
MeeKingは宣伝用にホームページを持っており、新製品の入荷告知、開催した大会の結果、
それ以外にも、ホームページもそれなりの頻度で更新しないと宣伝にならないので、更新のタネとして店員の執筆した読み物・コラムも掲載している。
サレンは視線だけで『更新のネタは?』と問いかけ、茂札は軽く肩をすくめた。
「先日の御霊鎮めの儀、当たり障りない範囲で書こうかなって。デッキテーマ・エルドラの紹介とか」
さすがに、お店に精霊の宿ったカードがあるなんて大っぴらには書けない。そんなことをしたら好ましからざる客が次々と押しかけて
それを聞いてサレンはバックヤードへと引っ込み、茂札はちらりと店内フロアに視線を向けてからコラム記事を書き始めた。
デッキテーマ:エルドラ
【概要】
5~6年ほど前に発売された追加エキスパンション【久遠の闇】で登場したテーマ。エルドラのサブタイプを持つカード群が印刷され、それがデッキテーマの名称にもなっている。
エルドラ・クリーチャーは映画『エイ●アン』を彷彿とさせる姿で描かれており、一部愛好家からはキモカワイいと評判。
高コストのカードを叩きつけていくスタイルで、相手を豪快に薙ぎ払う爽快感がウリ。ただしその高コストにたどり着くまで序盤をどう耐えるかに難があった。
その後の追加エキスパンションで時おりエルドラ用のパーツが印刷されるが、まだマイナーな色物路線という評価から脱せていない。
【設定】
多元宇宙のそれぞれの次元の間に広がる"久遠の闇"から、通常の次元に"影"が落ちる。その影は周囲の現実を侵食し、己の都合の良いように変容させる。
この次元の侵略者は、たとえ受肉した影が倒されても、久遠の闇にある本体には決して届かないのだ。
影が次元内に象ると、まずは"落とし子"と呼ばれる卵のようなものになる。落とし子それ自体は大した脅威ではないが、周囲からマナ・オドを吸収して孵化すると"末裔"となり、そこから"ドローン"、"昇華者"、"タイタン"と成長していく。タイタンは久遠の闇にある本体にかなり近い存在であり、これ一体で大陸一つを滅ぼせるとも言われる。
なお、【ヴァニシング・ブロック】でゴブリンプラントの次元侵蝕がメインストーリーとして語られる*3など、他次元からの侵略者はLife世界において珍しくない。
【デッキ構築】
エルドラをテーマとした代表的なカードを挙げる。
<歪んだ解体者 コーシ> コスト10 唯一無二のクリーチャー - エルドラ・タイタン 10/10 |
このカードを手札から唱えたとき、あなたの手札がゲーム開始時上限枚数より少ないなら、その枚数になるまでカードを引く。 このカードが戦場に出たとき、すべてのクリーチャーにそれぞれ9ダメージ与え、すべてのファイターは土地を9つ生贄に捧げる。(コントロールしている土地が9枚未満ならすべての土地を生贄にする) このカードがあらゆる領域から墓地に置かれるとき、代わりにこのカードをライブラリーに混ぜてシャッフルする。 |
Lifeで高コスト域というと5~8を指すことが多いのだが、それをぶっちぎる二桁コストは圧巻。エルドラデッキではフィニッシャーの代表格。
サイズは10/10とコスト比で標準的*4。手札から唱えたときにドローが誘発する。打ち消されてもドローできるが、何らかの効果で(重いコストを踏み倒して)直接戦場に出す場合はドローできない。
<ウタの化身>*5と同様に、墓地に置かれる代わりにライブラリーに戻る。これは、墓地から(重いコストを踏み倒して)戦場に出せないという点ではデメリットだが、副次効果としてライブラリーアウト対策になる。ただし手札に引いてしまうと捨てない限りライブラリー切れを防げないので過信は禁物。手札から捨ててもデッキに戻るのでコンボパーツとして利用できなくもないが、エルドラテーマに手札とデッキをぐるぐる循環するコンボは今のところ存在しない。
これが戦場に出ると、大抵の場合は敵味方を問わずすべての土地とコーシ以外のクリーチャーが吹き飛ぶ(これは重いコストを踏み倒した場合でも誘発する)。相手はコスト基盤を失い、コーシへの対策札を唱えることができずに抱え落ち死するだろう。後は無人の野をコーシが悠々とのし歩いて相手ファイターをぶちのめす、そうデザインされている。
ただし除去耐性がないため、<辺境への流刑>*6のような、低コストのクリーチャー対策カードがあれば、リセット後でも対処されてしまう。
またコーシが着地したときの全体9ダメージは自身にも適用されるので、墓地に落ちたときにダメージを飛ばす
そうなった場合は単なるリセットボタンとなるが、コスト10と重いのでリセット後に次のアクションを取れずターン終了することが多く、相手が先に動き出すことになるのに注意が必要。
正直に言えば、デカくて派手ではあるが、それだけ。除去耐性もなく、速攻・飛行・貫通といった攻撃ダメージを通す能力もないのでチャンプ・ブロックで時間を稼がれ逆転されることもしばしば。コスト10なら唱えて即勝つくらいの性能があってもいいよね。
<解体者の下僕> コスト6 クリーチャー - エルドラ・昇華者 6/6 |
対戦相手がこれを呪文や能力の対象に取るたび、そのファイターは3ライフ失う。 先制攻撃、警戒、到達 |
設定上は<歪んだ解体者 コーシ>の配下だが、正直言えばコーシよりエースアタッカー扱いされていた。
いや、だって、コスト10は非現実的だがコスト6はまだ現実的だし。
疑似除去耐性あり、戦闘用のキーワード能力も3つ持っていて攻防に優れたクリーチャー。
<解体者の末裔> コスト1 クリーチャー - エルドラ・末裔 0/1 |
これを生贄に捧げる:1コスト生み出す |
序盤の壁であり使い切りのコスト加速。
敵クリーチャーの攻撃をこれでブロックしてライフを守るか、ブロックせずにライフで受けてコスト加速を温存するかの二択。
そう考えてデザインされたのだが、明らかにテストプレイが足りていなかった。序盤はライフで受けて土地を伸ばすのがエルドラデッキの基本戦法である。これがブロックに回るときは、ブロックしないと死ぬときだけである。
<解体者のドローン> コスト3 クリーチャー - エルドラ・ドローン 2/2 |
これが戦場に出たとき、<解体者の末裔>トークンを2体戦場に生み出す。 |
末裔トークンは使いきりのコスト加速なので、これを唱えた後に2コスト分のジャンプアップが出来る。
コスト3の次ターンに土地セットも含めてコスト6で動ける、デッキの潤滑剤。
<影に飲み込まれた地> コストなし 土地 - エルドラ |
これはステイ状態で戦場に出る。 起動:戦場に出ているエルドラ土地の枚数に等しい数のコストを生み出す。 |
エルドラの高コストをどう捻出するかの回答であり、これをいかに早く複数枚並べるかがエルドラデッキのキモである。
ステイ状態で戦場に出るので出したターンは仕事しないが、この土地を1ターン~3ターンに3連続セットするなら、1ターン目0マナと劣り、2ターン目2マナと並に追いつき、3ターン目6マナと一気にブーストする。4ターン目にレディ状態の土地を置けば10マナでコーシを唱えられるという、まさに無法。
ただし3ターン連続でこの土地を戦場に出すのは、極めて高いデッキ共鳴率が求められる。
高コストを提供できるようオド基盤さえ整えてしまえば、フィニッシャーは何でもいい。でもこの土地だけは替えが効かない、エルドラデッキの心臓と言っても良いだろう。
なお、エルドラ土地の枚数をカウントするときは敵味方を問わない。ミラーマッチだとお互いに高コスト呪文がポンポン飛び交う別ゲームになる。
ここまでエキスパンション【久遠の闇】で登場したカード5種を紹介した。
久遠の闇が発売された時点では、エルドラ土地は<影に飲み込まれた地>のみであり、エルドラデッキは末裔トークンをばら撒いて瞬間的なコストブーストという一発芸的な性格が強かった。
それが変化したのは、久遠の闇が発売されてから2年後、エルドラとまったく関係のないエキスパンションでとあるカードが刷られてからである。
<物真似師の聖地> コストなし 土地 |
あなたはこれを、既に戦場に出ている土地カード1枚のコピーとして戦場に出してよい。そうした場合、これはステイ状態で戦場に出る。(コピーしない場合はレディ状態で出る) |
エルドラデッキの心臓とも言うべき<影に飲み込まれた地>のデッキ投入枚数が実質2倍。先に<影に飲み込まれた地>が出ていないとコピーできないという欠点はあるが、エルドラ使いは狂喜乱舞した。
<影に蝕まれた寺院> コストなし 土地 - エルドラ |
(特殊能力なし) |
エキスパンション【次元侵略者たちの衝突】でエルドラのカードがいくつか新規追加された中で、最もエルドラに恵みを与えたカード。
単にエルドラというサブタイプがついただけの、一見して地味な土地である。だがエルドラのサブタイプを持つ土地はこれでようやく2種目、<物真似師の聖地>を含め3種9枚がライフデッキ20枚の約半数を占めることとなる。
またレディ状態で戦場に出るのも地味ながら見逃せない。1ターン目に<影に飲み込まれた地>、2ターン目にこれを出してコスト3で動ける、という序盤ルートが開拓されたのは割とデカい。
ここからは、サブタイプ:エルドラを持たないがエルドラデッキと相性の良いカードを紹介しよう。
高コストのエルドラカードを叩きつける下準備としての、低コストで小回りの効くものを主に挙げる。
<精神の貴石> コスト2 秘宝 |
起動:コスト1を生み出す。 これを生贄:カードを1枚引く。 |
コスト加速の置物。コストが余る後半はドローに変換できるし、<歪んだ解体者 コーシ>で盤面リセットしても秘宝は残るのでリカバリーしやすい。
<エルフの道探しの儀式> コスト1 魔法カード |
あなたのライフデッキの上3枚のカードを見て、それらを好きな順番で並べ直す。 |
<影に飲み込まれた地>を素早く出すための1コスト・アクションとしては、もっともアクセスできる枚数が多い。
ライフデッキ20枚のうちエルドラ土地は3種9枚なので、そのターンの通常ドロー1枚+上3枚にアクセスすれば1枚は見つかる計算である。
<荒野の斥候> コスト1 クリーチャー - エルフ 1/1 |
これが戦場に出た時、ライフデッキに占術2を行なう(占術2を行うには、あなたのライブラリーの一番上から2枚のカードを見て、そのうちの望む枚数のカードを望む順番で一番下に置き、残りを望む順番で一番上に置く)。 |
<エルフの道探しの儀式>よりアクセスできる枚数が少ないが、不要牌をドロー回避できるし、クリーチャーが戦場に残るので戦闘にも役立つ。
レアリティがアンコモンなのでやや入手しづらいのが欠点。
<死して花を咲かせる者> コスト1 クリーチャー - エルフ 1/1 |
これが死亡したとき、これを墓地に置く代わりにコストゾーンにステイ状態で置く。 コストゾーンに置かれている限り、これはすべての能力を失い土地になる。 |
死亡したら土地が増えるクリーチャー。
ブロック要員に良し、<献身の証明>*8などで積極的に生贄にしても良し。
<荒野の探索者> コスト2 クリーチャー - エルフ 1/1 |
これが戦場に出た時、ライフデッキから土地カード1枚を探し、公開する。ライフデッキをシャッフルし、その後それをライフデッキの一番上に置く。 |
確実に<影に飲み込まれた地>を持ってこれる2コスト・アクション。<エルフの道探しの儀式>で見た3枚がいまいちの時にライフデッキをシャッフルする手段でもある。
<荒野の斥候><死して花を咲かせる者>と同じくエルフなので、エルドラとエルフのハイブリッド、またはエルドラと偽装して実はエルフという初見殺しチューニングもなくはない。
<双雷>*9 コスト2? 瞬間魔法 |
1つまたは2つのクリーチャーとファイターの組み合わせを対象とする。これは、それらに2点のダメージを望むように割り振って与える。 |
定番の火力呪文。敵の厄介なクリーチャーを処理しつつ、隙あらば自分への自傷ダメージとして土地を伸ばすこともできる。
<鳴動>*10 コスト3 瞬間魔法 |
クリーチャー及び全ファイターにそれぞれ2点のダメージを与える。 |
タフネス2までのクリーチャーをまとめて処理しつつ自傷ダメージで土地を伸ばせる。
ブレイバーデッキやゴブリンデッキなど小型クリーチャーを横並べする相手に良く効く。レアリティがアンコモンなのでやや入手しづらいのが欠点。
<抱き寄せ>*11 コスト2? 魔法カード |
手札を1枚選んで捨て、カードを2枚ドローする。 |
序盤では高コストのカードを、後半は低コストのカードを捨てて、手札を入れ替えて今の局面に相応しいカードを引き込むデッキ潤滑剤。
「まあ、こんなものか。続きは休憩時間にして、今日中にアップできるかな」
コラム執筆はあくまでレジ番が暇なときの隙間時間活用であって、そこそろお店が賑いそうだと勘で悟った茂札はノーパソをパタンと閉じた。