猫と放浪のアルフライラ   作:しちご

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或いは毒で一杯の島 ⑤

 

巨神が動き、大地が揺れる。

 

間を空け幾度も繰り返し揺れる足元の振動に耐えながら、

避難した人々は、祭壇の在る広場まで辿り着いた。

 

陽は既に山裾に隠れ、星月が空に輝いている。

 

遠く山頂近くから機神の駆動音が鳴り続け、大地を打つ音が響いた。

 

「様子から見るに、何処かを襲う様な代物では無さそうじゃの」

 

響く振動の中、ハジャルが観察からの推測を口にする。

ただ大地を叩き、地面を揺らし続けているだけに見えると。

 

そして専門たる邪神の意見を聞こうと、板の方に振り向いていみれば。

 

溺死していた。

 

滝の様に流れる造られた脂汗の泉に、溺れる様に倒れ伏す少女。

 

「ぬ、ぬあぁ」

 

何か呻いている。

 

板から生えた棒を両手で握り、か細い腕で必死に掴む。

握力で上半身を引き上げ、肉体の接地面の負担を減らす工夫である。

 

そっとマルジャーンが少女を仰向けに転がし、膝を曲げさせた。

 

「ぬぐぁー」

 

そして発声し喉周りの緊張を緩め、肺を萎ませ肉体の内圧を下げる女神。

 

「相変わらず、目を離すと死に掛けておるのう」

「下山から今まで休み無しだったからねえ」

 

本来ならば、宿所に戻りゴロゴロと身体を癒やしていた頃合いである。

 

しかし現状は大声を出し、疲労が蓄積された状態の下山後に、

各種センサーと作業用ハンドをフルに活用し、軽く限界を越えた状態。

 

死に体であった。

 

板の上に出来た汗の泉は分解され消失し、内臓は煙を吹き修復される。

 

しかし、修復とは何を何処まで行われる物なのであろうか。

 

例えば脳髄、板に記録された状態まで修復してしまえば

シナプスの結合は失われ、近場の記憶は奇麗に消え去るだろう。

 

だからと言って、壊れた組織を取り換えないと言う判断も無い。

 

臓器は、血液は、その状態は、どの段階でどの状態まで修復するべきか。

 

とりあえず今回の所は、疲労の蓄積で不整脈が危険な頻度にまで頻発し、

急激な血圧の低下から各種臓器、全身の不調が表に出た状態であった。

 

「ぬーあー」

 

呻く内にマシになったのか、少し軽い口調に成った。

 

不調を回復し、全身の状態が正常な状態にまでは戻されている。

 

しかし、正しく機能しだした臓器が下がった血圧を元に戻すまで暫く、

各種臓器に正しく酸素が送られ出し、正常に機能しだすまでもまだ暫く。

 

つまり肉体の修復から体調の回復までは、タイムラグが生じる。

 

「あー、花畑からナハースに蹴り戻された気がする」

「反応に困る心霊現象を起こすでないわ」

 

揺れる大地の上、ようやくに復調した神の言葉を人が受けた。

 

急場だから仕方無しと、既存の飲料ではなく情報生成した先史遺産、

古代語で電解水と書かれたペットボトルを咥えながらの会話である。

 

「もう、そういう機械なんじゃないかな」

 

そして宵闇の中、角灯に照らされながら女神が意見を述べた。

 

麓の村、そして祭壇に集まる自分たちに対し何の行動も起こさない。

ただひたすらに地面を叩き大地を揺らしている、その在り様。

 

アルコーンなどの神機として造られた機神ではなく、

造り手が望んだ作業工程を、ただ繰り返す工業機械の様な代物。

 

「望む通りと言うてもなあ、延々と地面を揺らしおるぞあやつ」

「案外、だから封印されていたとか言う話なのかも」

 

間を空けて、延々と地震を起こしている強大な機械。

推測は立つも判断材料は無く、しかし問題は現実としてそこに在る。

 

「とりあえず、これからどうするかじゃな」

 

ハジャルが疲労の滲む声色で、幾つかの案を述べる。

無視して密林側から避難するか、土地を漁って機神の情報を探す。

 

或いは単純に、壊す。

 

「壊す方向で、放置するといつまで地震を起こされ続けるやら」

 

月光の髪より滴り零れる汗を布で拭きながら、女神が告げた。

その視線の下には硫黄の村が在り、今はもう炎に埋まっている。

 

【挿絵表示】

 

「宿場の荷物も回収したいとこじゃしのう」

「帰りの船も、揺れ続ける大地には接岸できないだろうしね」

 

言いながら、ハジャルとマルジャーンがサフラの肩に手を置いて、

補水中の貧弱女神も、容赦無くサムズアップで良い笑顔を見せれば。

 

紅玉の剣士が、すこぶる嫌そうな顔を覗かせた。

 

「あ、あんたら、あの化け物をどうにかする気なのか」

 

奇獣、森の掟支族に甘噛みされながら運ばれていた村の青年が、

淡々と進んだ開拓者たちの会話内容に怯えつつ、問いを投げる。

 

「ぶっ壊す」

 

端的な返答。

 

その後は、村に流れ込んでいる炎が海に抜けるまで現地で耐え、

毒が消えてから村に帰ろうと、簡単な予定を述べた。

 

言葉を聞いた生き残りの村人は、わからないと頭を振る。

それが正しいのか、信じて良いのか、従うべきなのか、何もかも。

 

自分たちは貴女たちの様に強くは無いのだと、嘆いた。

 

「弱い者など何処にも居ないだろう」

 

そして人の言葉を、神は否定する。

 

「生きると言う事は、強いと言う事だ」

 

機械は壊される、硫黄の交易先も生き残りを保護する方向だろう。

聞けば商人夫婦も商会の者として、軽く頷いて肯定の意を示し。

 

何よりも、まだ生きているのだからと神は告げた。

 

「だから猫を信じるのだ」

「……猫を」

 

【挿絵表示】

 

「流れる様にトンチキを混ぜ込みに行くのう」

 

などと千夜の邪神が、初穂の信者に邪教の教えを示している内に、

宵闇も深く、女神の肉体も衰弱から復帰している頃合い。

 

終わらせようと身を翻したアルフライラは、気付いてしまった。

 

自らの背中に注がれる、期待を込めた視線。

 

今も奇獣人の影に隠形する、吟遊詩人たちからの無言の圧力に。

 

「…………そわしゅうえんのそらよりー」

 

空気を読んで、うろ覚えな聖句を思い出しながら女神が棒読めば、

頷く吟遊詩人たちと、そっと気配を消して隠れるマルジャーン。

 

遠い目をしたサフラを巻き込んで、高貴なる赤(レッドバロン)が光臨した。

 

星月の下を、紅玉が征く。

 

足裏より高貴なる焔(バロンファイヤー)を靡かせて、はるか貴き神の空を飛ぶ。

 

「それで、どうすれば良い」

「たぶん殴れば壊れると思う」

 

内部で浮遊する肉体のバランスを取りながらサフラが聞けば、

アルフライラは、エチケットダクト越しに簡単な予想を述べた。

 

「言わば古代文明産の機械天使みたいな物だしもげろっぱー」

 

述べる途中に既に何かが起こっていた様だが、それはともかく。

 

相手も結局は、アルコーンにすら満たないただの鉄の人形。

故に戦闘と言うよりも、もはや処理や処分と言った感じだと。

 

放置できない程度に厄介な機能を持つだけで。

 

言い終わり安らかに横に伏す紅玉の燃料担当を背に、

操縦担当は無言で拳を掲げ、全力で叩き下ろした。

 

遥か上空から、握られた紅玉の拳が落下する。

 

本体ごと、肩を回し、天より振りそそぐ様な形で叩き付ける。

 

―― 高貴なる鉄槌(バロンハンマー)

 

不壊の拳に位置エネルギーを乗せた、絶対の暴力。

 

そして紅の拳は、対空の迎撃に放たれた鉄柱ごと、

古代文明の機械人形を紙細工の如く容易く叩き潰した。

 





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チャーラリラリラリチャーラリラー

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デデデデドン

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