猫と放浪のアルフライラ   作:しちご

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或いは毒で一杯の島 終

 

やがて焔は途絶え、村の残骸が旭光に照らされる。

 

眠る様に倒れ伏す遺体たちは、そこかしこが酸に焦げ爛れ、

生存者が墓所に遺体を納める内、イルイトイより参列者が訪れた。

 

硫黄を扱う商会からの、支援と共に。

 

大麦島の葬送は穏やかに、哀しみを堪える様に行われる。

 

しかしその葬列は盛大に、縁薄き者も立ち寄り人の群れにて、

ただ数と規模を以て死者を弔い送り出す土地であった。

 

どこからか、啜り泣く声が聞こえる。

 

湿度の高い空気を厭う様に、アルフライラは葬儀の場から席を外した。

 

元より只の異邦神である。

 

慰霊の碑を生成し、名を刻み、未来への戒めを記す。

登山道の危険性を告げ、千の夜に御霊を眠らせればする事も無い。

 

なので人の世を揺らさぬ様、静かに移動をした。

 

ついで、参列者のために散々に作っていた葬式饅頭的な蒸しパン、

(パオ)を幾つか蒸篭より失敬し、食みながら確保した写本を眺める。

 

包は東方より伝わった包子(パオズ)を元とした料理で在り、

その製法などに違いは無いが、掌に収まる程度、一回りほど小さい。

 

小腹満たしに丁度良い品目である。

 

内容物も挽肉、野菜、乾酪、甘味など様々な種類が在り、

アルフライラが齧った包は、刻み晩白柚の蜜煮が入っていた。

 

「うーん、晩年の味」

 

苦甘い。

 

包を実芭蕉水(ミシュリー)、焼いた料理芭蕉(プランテン)を水で溶いた醗酵飲料で流し込みながら、

板に改めて髪を挟み、村長宅に残された過去の記述を読み進めた。

 

「きっちり18機造っていやがったか」

 

代物こそ古代遺産だが、その変遷に特筆する内容は無く。

読み耽る内に砂浜まで辿り着き、読み終わる頃には陽が暮れて。

 

【挿絵表示】

 

星月の下で、少女が仰向けに転がる。

 

昼に暖められた空気か潮騒を押し返し、軽く硫黄の臭いを漂わせた。

 

「こっちに居ったか、マルジャーンも」

 

やがて砂浜を訪れた男衆が板に声を掛け、その内容に籠もる不穏に、

アルフライラがふと目線を上げれば、普通に居た。

 

板の上、一手一殺の間合いで気配を消し包を食んでいた元貴族令嬢。

勝手に上がって勝手に飯を食う、完全にぬらりひょんの類である。

 

キャーと神が人の力に弱々しく悲鳴を上げたのを黙殺しながら、

面々が板に集まり、廃蜜の蒸留酒を入れた杯に氷を強請り。

 

からころと音を立てながら、冷水割りを傾ける宵の砂浜。

 

「矢張りと言うか、村長宅に天羽楼の痕跡が残りまくっておったわ」

 

追加の包を齧りながら、ハジャルが調査の結果を簡単に述べた。

 

「放置された、魔族の隠れ里ってとこだったのかな」

「浸透に抵抗はしておった様じゃが、結局は呑まれたらしいの」

 

時代の違う様々な記録には、村が陥落する流れが記されていたと言う。

 

機神を有する辺境の村は、いつしか天羽楼に捕捉され、

魔族の浸透が行われる中で、18機の機神たちが相討った。

 

それは勇者と謳われた17号機が、天羽楼に抗した記録。

 

「そして結局は魔族の生産拠点、でも無いね、倉庫ぐらいかな」

「距離も在るし、件の大戦に呼ばれぬ程度の扱いじゃったのじゃな」

 

せいぜいが、帝国南部への工作拠点の一角ぐらいか。

 

「………………マリクを締めたら、何か吐きそうな気がする」

「いつか黒に訪れた時は、ワシらの分も殺っといてくれ」

 

まぐまと呼称されていた、件の機神に関しても多少は残っていた。

 

「単純に、制御する技術が失われて封印されておったらしい」

 

そして1機だけ残されていた首無し機神について語る。

 

いつか制御可能になる可能性に賭け、保存したと記されていたが。

 

事後に調べてみれば、祭壇の首無し騎士の柱がへし折れており、

機体に連動していたであろう事実に、破壊が確信へと至る。

 

「いやそもそもあんな地震災害、何で保存されてたのよ」

 

マルジャーンが抱いた根本的な疑問に、アルフライラは気軽に応えた。

 

「定期的に大地を叩いて、池の毒を抜いてたんじゃないかな」

 

登山道が造られなかったら、さほどの被害も出なかったのだしと。

根拠は無いけど、まあそんなとこじゃないのと簡単な推測。

 

「炎の河も、古代人の工夫の産物じゃったのかもしれんのう」

 

それきりに言葉は絶え、星月の下で杯の氷だけが音を立てる。

 

【挿絵表示】

 

そして少女は、最も古い文献に記されていた文章を覗く。

 

―― 赤銅の大神より奪った技術で、報復を果たすその日まで

 世代を重ね全ての機神を造りあげ、いつの日か本懐を遂げん

 

「だけど肴にするには、あまりに遅い」

 

始祖の思いは失われ、いつしか仇敵に乗っ取られ。

 

この地では何もかもが既に終わっており、成れの果てだけが

静かに大地に溜まり続け、島に毒として眠り続けていた。

 

吐く息は、静か。

 

つくづく見事だなと女神から、長女から末の妹への称賛が零れ、

毒の抜かれた毒で一杯だった島で、星月に軽く杯が捧げられた。

 

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