猫と放浪のアルフライラ   作:しちご

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Ex-07 浅い縁と短い日々に

 

良く晴れた日の海原に、遠く船影が見えた。

 

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帰りの船が到着し、宿所を引き払ったアルフライラたちは

荷物の積み下ろしを終えるまでの数日、イルイトイに滞在する。

 

大規模な港湾施設の在る土地ならば船舶の積み下ろしは早いが、

残念ながらイルイトイは港こそ在れ、そこまでに贅沢な土地では無い。

 

なので遠浅の海岸の沖合に停泊し、小船で積み下ろしを行う船舶。

つまるところ出航までに結構な手間、日数が掛かるのだ。

 

なので開拓者たちを含む乗客は、商会に案内された宿に泊まり、

そこそこの費用を掛け、呑み、食い、だらだらと過ごす。

 

石造りの盛り場には肴と安い酒、太った歌姫が朗々と謳う。

 

黒の神国への土地から報告には、千夜神の名で軽く言葉を足し、

その見返りにと、宿代や飲食に様々な便宜が図られていて。

 

「うーん、禍福は糾える縄の如し」

「何ぞまた信者が喜びそうな発言じゃな」

 

はたと気付いたアルフライラが瞬時に後ろを振り向けば、

筆記具片手の吟遊詩人が即座に場から飛び消えその姿を隠す。

 

本日も千夜神の御言葉は軽く千里を走っていたと言う。

 

やがて朝焼けの中、早朝の涼し気な空気に最後の積み込みが行われた。

 

樽の中に水を詰める。

 

アルフライラが内側を焦がし炭化させた樽の中に水を注ぎ、

最後に件の隻眼船長が幾許かの銀貨を放り込み、蓋をさせる。

 

炭と銀が水を浄化して保存性を高める。

 

経験則で得られたそれ、船乗りの水樽と銀貨を積み荷として運び、

開拓者たちが大陸へと帰還する航路の準備は整った。

 

「何か樽に手を突っ込む不心得者が出そうな構造」

「いやな、水樽の銀貨に手を出す様なヤツァ船乗りじゃねえんだわ」

 

思い付きを少女が口にすれば、船長は苦笑を込めて言葉を返す。

船乗りではない、気軽な割に様々な隠喩が乗った重い言葉である。

 

後は最後の積み荷、乗客を乗せるだけとの段に成り、

その前に飯だと、隻眼の偉丈夫が笑いながら神を誘った。

 

「水のお代を食事で誤魔化される気配」

「相変わらず勘の良い女神だな、意外と」

 

軽口の間にも、料理の乗った大皿が幾枚も用意され船乗りが集う。

いつもの面々もそれに混ざっており、俄かに港湾が騒がしい。

 

皿の上には茹でられた野菜と、それを覆い隠す大量の肉類。

 

雑に切られ茹でられた丸菜や萵苣、漬物が大皿に敷き詰められ、

その上に酒に漬け込み焼かれた牛、豚、鶏、羊、亀、など雑多な肉。

 

塩漬けの小魚や、雑に切られ焼かれた塩漬け鰊の身も混ざり。

果実油に酢と塩胡椒、香辛料を混ぜた物を回し掛けている。

 

船乗りの雑な飯(サルマガンディ)、在り物を全部ぶち込んだ様なノリの料理である。

 

実際に今回の皿に使われている食材のかなりの部分は余り物、

使い切りたい保存食や、売れ残りの廃棄食材などで構成されていた。

 

「捨てるぐらいなら全部食っちまおうってな」

「おかげで朝から阿呆みたいな分量ぉ」

 

鬼盛りである。

 

取り皿にこんもりと乗せられた肉と野菜の小山を前に、

船長と並んで先割れ串で、もりもりと食を進める板少女。

 

合間に樽杯の飲み物、船乗りの珈琲と呼ばれる薄い水割り、

それに桂皮(シナモン)などを軽く振った物で雑に流し込み、また喰らう。

 

「そういや林檎が売れ残ってよ、食うほどの数じゃねえんだが」

 

そんな言葉と共に神に捧げられたのは、羊毛酒(ラムズウール)

 

摩り下ろした林檎と砂糖を麦酒(エール)で溶き、肉荳蔲(サツメグ)を軽く振った物。

踊る林檎の果肉が羊の毛の様だと、そんな理由の名前である。

 

「どこか実芭蕉水(ミシュリー)に似た爽やかな酸味」

「北方の島国の飲み方でな、寒い日は温めたりするんだぜ」

 

林檎の爽やかな口当たりは、村で幾度か飲んだ料理芭蕉(プランテン)の酸味に似て、

南北随分と離れているのにと、女神が少し呆れた声を出した。

 

やがて食べ終わり、過剰摂取に倒れ伏すアルフライラ。

 

食事の場が片付けられる中、乗客たちは船乗りの珈琲片手に時機を待ち。

 

その中で神が腹の上に生成したタオルケットを乗せて呻いていれば、

最後の見送りにと、縁を結んだ商人夫妻が港へと姿を見せた。

 

これより船は青の古都ではなく、小遣い稼ぎに若干東方に向かい、

東部諸国の南端に至ってから国に戻る航路を取る予定である。

 

商会からの連絡を携え、直接に国に戻る夫妻とは方角が違っていた。

 

そして最後の力を振り絞り、夫人の爆乳に顔を埋める少女神。

 

「柔らかくて良い匂いがするけど、それはそれとして何か哀しい」

「大変反応に困る感想を出されてしまいましたわね」

 

板の嘆きに、怒るべきか憐れむべきかとの迷いを人が述べる。

 

名残を惜しみ尽くし、アルフライラの首根っこをサフラが掴み、

乳圧に潰され涅槃に旅立とうとしていた神の運搬に移行する。

 

小船に乗り、遠浅の海岸より沖合に停泊している船に向かった。

 

錨は上がり、縄は解かれ。

 

曳航船に牽かれながら離岸を果たし、風を受けながら帆が広がり。

 

そして船は行く。

 

遥か小さくなっていく砂浜の見送りに向かい、見えるかもわからぬが、

アルフライラは大きく手を振って別れの意思を告げた。

 

僅かに噴煙の混ざる翠、大麦島が遠ざかっていく。

 

潮風が慣れ親しんだ硫黄の臭いを祓い、海原には航跡が描かれていた。

 




その頃のペル・アビヤド

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