猫と放浪のアルフライラ   作:しちご

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Ex-08 石材の森で悪魔が哂う

 

遮る物の無い雪原を、ただ雪風だけが走り抜ける。

 

そんな起伏の無い白一色の平面に見えるのは、幾らかの汚れ。

数名の足跡と、固められ穴を掘られた雪の小山。

 

そして簡素な雪の構造物の近くに居る、緑の髪を持つ長耳の美女。

 

造られた雪洞の周りでジャマール・シャムスは円匙を振り回し、

四角く固められた雪の煉瓦を積み重ね、風除けの壁を造った。

 

ひとしきりの拠点製作を終わらせた後、吟遊詩神が釜倉に入れば、

そこには着脹れた少女たちと、1人の軽装な青年の姿が在る。

 

赤い髪を後ろに括る布達磨と、金の髪を飾り布で括る布達磨。

 

炭に混ざる獣骨と骨髄が黒煙を上げる火元を挟んで、

帝国礼服に薄手の外套を羽織るだけの、中肉中背な黒髪の若者。

 

「ささささささささ寒むむむむむ」

「こ、凍る、生体部品が凍ってしまふ」

 

氷点下に凍て付いた空気の中、タサウブとハディヤは震えている。

震えながら火にあたり、雪原の民から買った川魚を炙っていた。

 

「現地の流儀、雪原の民は生で齧るそうですよ」

「それ、腹に湧く虫とか大丈夫なのか」

 

美貌の詩神が焼き魚に知見を述べれば、黒髪金眼の青年が問う。

 

「長期冷凍、寒さで虫も死ぬのだとか」

 

冷凍川魚の生食、熱でビタミンなどが破壊される事も無く、

極限世界で可能な限り養分を補給するための、生活の知恵であった。

 

しかし砂漠の開拓者には多少に抵抗が在り、火に焙る現在。

 

良い感じに火が通ったと見て、齧ろうとした少女たちに対し、

軽く制止を掛け、ジャマールは油の入った瓶を取り出した。

 

川魚と一緒に買った海豹脂(インニャク)、これを付けて食えと。

 

「ええと、味付けか何かなのかな」

「注意喚起、単にこれを付けないと餓死しますよと言う話で」

 

ご当地の味かなと気楽に問うたタサウブに、容赦の無い返答であった。

 

「蛋白質、要は低温下で人は肉を栄養に分解できないのです」

 

正確には、蛋白質の分解に大量の脂肪を必要とする。

 

北方で赤身肉ばかりを食い、満腹のまま餓死をするなどと言う例は

意外に珍しくは無く、そのために雪原の民は脂を常に備えていた。

 

「あああぶううらああぁぁ」

「ぬとるううぅぅ」

 

ぎとぎとの川魚を齧りながら嘆いている少女たちを眺めながら、

確かにこれは凍った生魚の方が食べ易いなと、しみじみ齧る軽装組。

 

「でもまあ、何か生命をお腹に入れた感じがするよ」

「私のオイルも熱で回り始めたわ」

 

熱を補給したタサウブと、機械人で在る事を隠さなくなったハディヤが

着脹れたままで一息をついて、改めて釜倉の中を見渡した。

 

目の前には場違いなほど、やたら軽装な美男美女。

 

「いやジャマールさんはいつもの事だけど、そっちの美形は何事よ」

「タサウブ、そこの詩神への追及を諦めないで」

 

人類種の上限である高位素体を持つ元悪神への追及は置き、

それに追随する同行者の異常に対し問い掛け、短い答え。

 

「催眠術師だからな」

「理由に成ってねえッ」

 

そう、自己催眠で代謝を調整し極限状況下で生存を可能にしていたのだ。

たぶんどこぞの帝国貴族産地の近隣出身、耐え忍ぶ心は海国男児の装い。

 

そしてオイルでテッカテカで無様でございますな少女たちの猛攻に、

催眠術師が鮮やかに軽口で返す様に動揺は無くアンナプルナ。

 

零下の極限世界での喧噪は、僅かに釜倉に熱を齎していた。

 

 

などと白い世界の騒動よりも6千年前。

 

神代にて、旧神ロボブーたちはその日も余暇に研究室で遊んでいた。

機械を背負う無駄に整った容貌の金髪碧眼美少女と、小柄な爺。

 

生成したホワイトボードの前で、アルフライラが宣言した。

 

「石ノ森世界を語りたくてえええぇぇ……」

 

力を込めた溜めの後、真顔で相方の兵器廠爺に告げる。

 

「語りたくない」

「ああうん、わかる」

 

短い言葉で真意を共有できる、相変わらずの以心伝心であった。

 

「クロスオーバー風味なリブート、基本全部コケたからねえ」

「思い切り雑で、商売舐め切っている感じだったからなあ」

 

とは言え、経済と言う言葉が消え去ってからは久しいが。

 

かつて戦隊とライダーの放送期間が被っている問題を解消するため、

半年の短いシリーズを入れて、期間をズラそうと試みた事があった。

 

そして雑に人気が出ていたカードゲーム筐体のキャラクターを流用し、

記念作品として造られたのが仮面ライダーディケイドである。

 

その内容に賛否は在る物の、急造の割りにそれなりに評価は高く、

過去のライダー作品の人気が再燃した件も含め成功の内に入るだろう。

 

そして微妙な点を改善した感じにリファインされた、過去の戦隊、

その全ての海賊版を扱う海賊戦隊ゴーカイジャーの好評を受け。

 

味をしめたのか、その後にリブートコラボを乱発する期間に入る。

洋画などで、クロスオーバー物が人気だった世風もあったのだろう。

 

だがしかし、とにかく雑であった。

 

無駄に石ノ森的作風や、真仮面ライダーの成功に囚われていると言うか、

もはや呪われているのでは無いかと言う程の強烈なパチモノ感。

 

後日にアレらは単なるそっくりさんですと公式で発表されるほどに。

 

某悪魔の閣下が声をあてたりして楽しげだったり、将軍様が参戦したり、

ところどころ良い点も在りはするのだが、総評としてはダダ滑りで。

 

端的に言えば、円谷とは大違いである。

 

「クロスオーバーするなら、クロス先への理解が欲しいやね」

「アクマイザーが生物的なのは解釈違いだったなあ」

 

設定の矛盾は仕方ないにしても、敬意は欲しいと語る少女と爺。

 

「そこらへん考えると、スカルマンあたりが丁度良いのかな」

「あれは逆にリスペクトが強すぎるだろ」

 

いやアニメ版の方と、リメイク漫画版で語る爺に訂正の言葉。

 

「古代文明が在って、遺跡から発掘された技術が在って」

「研究の経緯で造られた白鈴會が後のショッカーだったか」

 

改造人間、獣人、新人類、関わっていく勢力それぞれに分岐する。

 

「研究成果は多国籍企業ブレインギアの接収と、新人類帝国」

「ブレインギアがブラックゴーストだったな、確か」

 

アニメ版の作中では最終的に、限界を越え死亡したスカルマンが、

遺体を回収された後にブラックゴースト幹部スカールに改造される。

 

同時、ヒロインとの間に出来た忘れ形見が009島村ジョーであると、

そんな匂わせが行われ、物語の幕が閉じられる作品であった。

 

「そのノリで、古代文明の末裔が住んでいる隠れ里が魔界」

「サイボーグ手術と共に生きる悪魔族は古代人の末裔か」

 

アクマイザー3である。

 

「そして伊賀、根来あたりの忍者にも混ぜ込んでいくとして」

「バンパイラはともかく、化身忍者は江戸時代の来航だろ」

 

超人類、改造人間、作中にそれに類する物さえあれば接続は可能。

だがしかし、作中で明言されている時系列に矛盾が出るとの反論。

 

「いやそれは新変身忍者嵐の設定、媒体でそこらバラバラだから」

「だが化身忍者、人間に擬態している異星人って設定は捨て難い」

 

「どうせ完全には無理なんだ、クロス先の設定の矛盾は無視しよう」

 

さくさくと作品間の設定が結合されていく。

 

「忍者刀は風早と迅雷、どっちで行く」

「もう両方造ろう、打刀で」

 

過去の浪漫武装作成経験を思い出しながら、爺が悩んだ。

なお、爺が江戸時代に無駄に詳しいのはそのあたりの経験に因る。

 

「絡繰入りだし、神威大上段業物って感じじゃないよなあ」

 

単に登録名の決定だけの問題ではあるのだが、名付けもまた浪漫である。

 

「とりま適当に名称付けとこうか、化生応身刀とか」

「刀剣に変形するAI入りの自動人形でも造る気か」

 

このあたりで施設に常駐する世界樹AIからの通報が施設局長に入り、

指示を受け駆け付けたナハース渾身の飛び蹴りツッコミからの拘束。

 

「ノリと勢いで謎すぎる機械人類造ってんじゃないわよッ」

 

馬鹿2名は懲罰房に、変形メイド人形計画が阻止されたのは余談になる。

 

「と、とりあえず認証AIまでは許可が下りた」

「使い手を選ぶ刀か、化身に関してはどうするよ」

 

そして懲罰明けでも、懲りない面々。

 

「ビジュアル的には着ぐるみだし、装甲の展開でいいんじゃない」

「いや待てそれ、武装に在る意志に認められその性能を発揮する鎧」

 

はたと何かに気付いた爺が、その名称を口にした。

 

「覚醒式強化外骨格」

 

化生応身刀に認められし化身忍者が纏う鎧、覚醒式強化外骨格「嵐」

 

「何か変なとこに着地してるッ」

 

時折に大暴投が変な所に真実驚愕ェ直撃をしたり。

 

「そしてアマゾンあたりの末裔に、(ガガ)の腕輪と(ギギ)の腕輪」

「禿鷹モチーフだったか、そこらへんの完全再現はキツいな」

 

その時、不思議な事が起こりまくる腕輪である。

 

「基本理不尽だからねえ、スーパー大切断に機能を絞ろうか」

「使うのが高位素体ならギリいけるか、あのサイズでも」

 

などと造ったは良いが即座に廃棄品目に放り込まれた逸品である。

他に携帯武装開発の名目で造られた数々であったが、採用品は少ない。

 

と言うかむしろ、無い、皆無。

 

あくまでも汎用の制式品開発のための叩き台でしか無く、性能が過多。

後世には、高位素体たちが秘密裏に確保した幾つかが残るのみであった。

 

「そして思いついて造ってみた、スカルヘルメット」

 

それはそれとして、とりあえず造る性格の2匹である。

 

アルフライラがどすりと台に置いたのは、白い髑髏の仮面。

作中新人類の肉体の制御を行うための制御装置、と言う原作設定。

 

新人類基準で制御するため、常人が装着すると肉体が崩壊していく。

限界を越えた肉体の酷使、作中2名のスカルマンの死因でもあった。

 

装着者の、不随意筋なども含む肉体の完全制御を行う造りであり、

その構造に思い当たる物があった兵器廠爺が、簡単にそれを評する。

 

「生命維持装置の生命維持抜きかッ」

 

当時、アルフライラが背中に背負っていた装置の簡略版であった。

 

「いやもう、検証データが在り過ぎるせいで完成度が恐ろしいわ」

「うわあ、手抜きの割りに最近随一の出来栄えじゃねえか」

 

原作再現と言う浪漫のために生命維持機能を抜いた生命維持装置。

ドヤ顔で提出した馬鹿2匹を前に、施設局長は頭を抱えたと言う。

 

 

そして6千年後、黒の神国で宵闇に影が走る。

 

【挿絵表示】

 

月影の下、髑髏の怪神の黒衣が踊った。

神都の夜を駆け抜け、やがて高級住宅街の屋敷へと舞い降りる。

 

「お疲れ様です」

 

髑髏の怪神を迎えたのは、編み込んだ黒髪に首元までを隠す黒いドレス。

古代からの王の高位従属神である、喪服を纏う女神、シュフラ。

 

「出迎えは要らぬと言ったはずだが」

「そういうわけには参りません」

 

外套を受け取りながら、従属神は控えめに言葉を継いだ。

 

「いかに大神と言えど、加速装置の使用は御身に関わりましょう」

 

意志に因る極限の肉体制御を可能にする旧神遺物、髑髏の兜。

王の大神が所持する神器であり、古代より黒で語られる怪人の姿。

 

「案ずるな、好き好んで使う様な真似はせんよ」

 

加速装置、意識、認識の加速とそれに合わせた肉体の限界超過機動。

高位素体を以てしても、肉体の負担が無視できない剣呑な代物である。

 

「それと間違えるな、私は王の大神ではない」

 

神国の夜を駆ける謎の髑髏怪神、王の大神マリクとは何の関係も無い。

 

先代黒の大神はもはや黒の神国の行く末に関わる事も無く、

神が表立って動けない薄暗がりで起こる騒ぎなど、与り知らぬ事だと。

 

そんな主の設定主張を聞き、従者の目から刹那ハイライトが消えた。

次いで内心のツッコミをおくびにも出さず、素直に頭を下げるシュフラ。

 

そのまま隠居先の屋敷へと入っていく先代黒の主従の姿が在り。

 

既に昔から帝国など神都の外、様々な土地で王の大神と黄金の大神が

髑髏の姿で語られ続けている件に対し、終ぞ従者が語る事は無かった。

 

大神兄弟がその事実に気付いたのは、かなり後の時代であったと言う。

 

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