猫と放浪のアルフライラ   作:しちご

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Ex-11 互いに世界の果ての先

 

傾いた陽射しが、岸壁の彩を変える。

風雨に浸食され露出した地層が、様々な色彩で旅人を迎えていた。

 

【挿絵表示】

 

とある創世神の肩に同行者たちが手を置いて疑いの目を向ければ、

知らない、この断層は知らないと抗弁するも容疑は晴れず。

 

そんな東方諸国の西部、交易路沿い辺境の地。

 

イルハイナンより大陸に渡り、旅路を歩んでいたアルフライラたちは、

初手より道中に渡り、様々な有力者よりの忠言を受け取っていた。

 

少女の、外見が良過ぎる件について。

 

中央に向かえば様々な者、その権の強弱に関わらず様々な立場の者が、

少女の身柄を手中に収めようとあらゆる手管を使ってくるだろう。

 

もはや神国も遠く、大神の威風は帝国よりも届かない。

 

創世の大神、正当なる支配者にして全ての神の名を従える者。

そこまで謳われた珠玉、手にしたいと思わぬ王など居るだろうかと。

 

誰だんな事謳ったやつと少女が叫べば、物陰の詩人が隠形した。

 

そのため流石に洒落に成らない厄介事の可能性を避け、

交易路沿い、帝国への帰還の路へとついた開拓者たちである。

 

そして西の果て、東西の関を目指す道中に岩石山脈を抜け。

 

露出した地層を眺めながら、通りすがる隊商の天幕に寄れば、

簡単な消耗品の補充と幾らかの話題、竈を借りる神が居た。

 

道中に幾つか譲り受けた、熟した甘藷を暫し水に漬け、

満遍無く、分厚く塩で塗り固めた後に竈の炭で蒸し焼きあげる。

 

塩蒸し焼き芋、先史江戸時代に絶品と謳われた調理法であった。

 

「簡単な割に贅沢で、何より美味いのう」

 

塩と甘味が矢継ぎ早に口中を蹂躙すると面々に好評で、

おすそ分けされた商人たちも、興味深い顔で芋を齧っている。

 

「極東の芋の焼き方だね」

 

現在の極東に存在しているかどうかも知らないが、

とりあえず生前の手前、由来に適当な言葉を流す神。

 

そして後に極東芋、千夜芋などと呼ばれ東方諸国に定着したが、

極東人がその起源に関して頭を抱える事になるのは余談である。

 

やがて昼食がてらの買い物も終わり、開拓者たちは歩を進めた。

 

商人や旅人たちも幾らか視界の中に在り、荒い人の群れで進む。

各人少数の旅ではあるが、移動の際は纏まり集団に成りがちである。

 

辺境に旅を続けるに於いて、道中で最も警戒するべきは何であろうか。

荒れ狂う魔物か、金品狙う野盗や村人か、それとも権力者の類か。

 

歩む集団はそれらの危険よりもまず、野犬を警戒していた。

 

どこにでも居て、話も通じず、集団で襲いかかり個人での対処が困難。

野では隊商が護衛に期待する仕事も、野犬への対処の比重が大きい。

 

そのため旅の道に在る者は、誰が言うでも無く集団に成りがちで、

微妙な距離を空けて歩む様々な旅人と共に、岩山の道を進んだ。

 

「砂漠とは結構道行きが違うんだね」

「それはのう、生きる者も環境もまるで違うからのう」

 

いつぞやの黒の神国の様な旅路も在るし、平野と纏めて一概に言えず、

その土地のやり方に合わせる物じゃがなと、ハジャルが笑った。

 

やがて岩山も途切れ、砂の混ざる土塊の大地が広がり、

そこかしこ風雨に削られた奇岩が乱立し、旅人の視界を覆う。

 

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幸いと言うべきか、岩山の物陰に時折犬狼の影が見え隠れはしたが、

襲われる事も無く国境の交易都市へと辿り着いた。

 

イルドンファン、東方諸国の西の果てにして東の入り口。

 

時間に浸食された岸壁を削り、木材を足したような建物が多い。

砂混じりの街道には露店の天幕が並び、傾いた陽が影を造っている。

 

「この地の関城を抜け、連環砂漠を越えたら帝国じゃな」

「南下して、霊峰経由でいつもの南方に向かう感じね」

 

諸国西の果てと言う意味は、国力の及ぶ領地の果てと言う意味よりも、

ここより西は砂漠だからここまで、と言う意味の方が強い。

 

死の砂漠を挟み、その東西に諸国の西端と帝国の東端が在った。

 

そして霊峰北部から砂漠にかけて、外に住む者の如く砂に生きる民、

強き者(テュルク)と名乗る民族が存在し、交易の路に寄り添っている。

 

「なので個人で渡るのは危険じゃ、隊商の護衛にでも混ざるぞい」

 

簡単に言えば、通行料の相乗り先探しである。

 

そして隊商宿に向かい、ハジャルと別れた1柱2人が夕食を訪ねた。

宿場近くの露店、屋台を軽く回り、簡素な酒店に席を得た。

 

酒を頼めば、青の硝子に白い葡萄の酒が注がれる。

 

「随分と甘口の葡萄酒」

「葡萄の美酒に夜光の杯、と言った所かしら」

 

イルドンファン周辺は葡萄の名所でもあり、葡萄酒の流通が盛んである。

帝国とは趣が違い主に白、甘味が強く蕩ける様な造りを好んでいる。

 

行き交う人や駱駝の狭間、どこからか琵琶の音も響き、

夕闇に包まれる都の中、そこかしこで篝火が焚かれはじめた。

 

そして剣士と歌姫、創世の神は屋台で買った串焼きを齧る。

 

紅柳烤肉(ホンリンカオロウ)、紅柳を削って造った串が羊の肉の臭みを消し、

馬芹(クミン)と蕃椒で味を付けた肉片を炙った土地の串焼きである。

 

―― 爺さんの頃は臭み消しが手に入り辛い土地だったんでね

 

なので紅柳の香りを使う工夫をしたのだと、屋台の店主は言っていた。

 

「煙の香りの中の馬芹が好く羊を引き立ててる」

「何より、酒に合うわねコレ」

 

齧り、呑む女神と女怪の横で、静かに太麺を齧る剣士が居た。

いつぞやにイルドラードで造られた醸皮、在る意味本場の味である。

 

「芥子菜か」

 

アルフライラが造った物に似て、それでいて舌を刺激する鮮烈な辛さ。

混ぜ込まれた芥子菜だと気付いたサフラが、短く感嘆を漏らした。

 

一本分けて貰ったアルフライラが、マスタード、その手が在ったかと

頭を抱えて叫ぶも、残念ながら付近に理解できる者は無く。

 

やがて合流したハジャルと共に、西の果ての酒宴は続けられていった。

 

そして数日に準備を整え、砂漠へと向かう。

 

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朝焼けの中で関を越え、砂へと歩む隊商の駱駝たち。

同行する板や開拓者たちの他、役人や道の者の姿なども在り。

 

運命共同体として連環の砂漠を渡り、別れの慰めに詩人が謳う。

 

―― 送別の地に朝雨が降り 洗い落とすは通りの塵

―― 旅籠に植えられた柳も洗われ 緑は鮮やかに新

 

―― さあ君よ もう一度杯を傾けよ

 

―― 西の果ての関を出れば 居もしない誰ぞ知る人

 

風雨に削られた奇岩が散見する砂の上を、旅人たちは歩んでいった。

 

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