猫と放浪のアルフライラ   作:しちご

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Ex-01 神の嘆きは誰が聞くのか

 

草原に足りない程度の荒野を渡る。

 

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副王都を目指す商隊は幾度かの夜を越え、道中の村に足を止めた。

軽い売買の傍ら、護衛に付く開拓者たちと共に神殿に宿を取る。

 

石造りの土台を持つ習合神殿の食堂に、陽も傾く頃合い。

 

僅かな灯りからは安い獣脂の臭いが漂い、黒煙の煤は天井の宵に溶ける。

その中でアルフライラたちは、黙々と食事を麦酒で流し込んでいたが。

 

瞳のハイライトは、消えていた。

 

護衛用の席に座る、尋常ならざる美貌を持つ神族の少女と、

砂漠の陽に灼けた帝国の麗人、巨体の剣士と細身の文士。

 

どんよりとした瘴気を漂わせながら。

 

いつもの面々、3人1柱は開拓者としては上澄みであり、その待遇も

駆け出しなどとは比ぶるべくも無く、優遇されて然るべきではあるが。

 

それを踏まえた上でも、この惨状であった。

 

建物の中に入る事が許される、食堂に座り、食事が出る、麦酒が出る。

相対的に見れば確かに、優遇されている側の存在だろう。

 

実際、足元を見られた駆け出しの開拓者たちなどは、

神殿の敷地に風除けの布を張り、集団で固まって夜に備えていた。

 

出て来る食事なども、固くなった雑穀パンと飲料水程度。

 

それに比べれば、屋根の下で雑穀パンに汁と麦酒は破格であろう。

そして商人たちの席には神殿長の姿も在り、共に肉の塊を割いていた。

 

優先順位のまま、明確に待遇は分けられている。

 

「ええと、この神殿って誰を祀っているのかな」

「千夜神じゃったら爆笑物じゃな」

 

野菜の煮汁で固いパンを噛み、麦酒で流し込みながらの会話。

淡々と肉体に補給する様な食事風景は、サフラ以外の目が死んでいる。

 

「そもそも、何で汁に味が無いの」

 

野菜を切って水で茹でた、ただそれだけの汁であった。

 

「アルちゃん、実は味があるって事は贅沢なのよ」

「ちょっとアズラク呼んでこよう、この文明は沈してもらうべき」

 

「流れる様に自然に大惨事を引き起こそうとするでない」

 

絶賛神罰を検討中の創世神に対し、人が応える。

 

「金を払えば塩が買える」

「このあたりじゃと、塩は名主以上で無いと普段使い出来んのじゃな」

 

古今、希少品と言う物は権力者が優先して確保しがちな物である。

 

塩、砂糖、様々な調味料もまた希少であるのならば例外に成るわけも無く、

土地によっては階級に因って使用する権利が制限される事があった。

 

先史に於いても、塩を使えるのは領主の一族のみなどと言う例も存在し。

 

一般村人はどうやって塩分を補給しているのと問う少女に、

穏やかな笑顔のまま無言を貫き通す元外交官。

 

この村はそこまでに厳しく制限されているわけでも無かったが、

それでも使用の権は、積み上げる金銭に正比例する程度に切実であった。

 

「道理で道行く人の顔色が悪かったわけだー」

「まあ料理上手など、野草の組み合わせ程度はする様じゃがな」

 

しかし神殿が旅人に出す様な品では、そんな工夫も無い。

正確には、出て来る品は喜捨の金額相応である。

 

「とりあえず麦酒のお代わりは欲しいわね、クソ高いけど」

「4人部屋の要求額も酷かったし、呪われよ銭ゲバ神殿じゃな」

 

「千夜神が祀られていません様に」

 

言いながら酒呑み妖怪たちが神官に心付けを渡せば、

冠水樽に満たされた村の麦酒が運ばれて、それぞれの木杯に分けた。

 

「北に行くにつれ、麦酒が酸っぱくなってる気がする」

「そもそも交易路の麦酒は、品質に下限が在るからのう」

 

村内でしか呑まれない、流通に乗せられないほど低品質な村の麦酒。

隊商宿場でやりとりされる品に比べれば、酸味は強く酒精は弱い。

 

最近のアルフライラたちが呑んでいるのは、そんな品ばかりであった。

 

「固いパンと味の無い野菜、もう嫌だー、砂漠帰るうぅ」

「アルちゃん正気に戻って、砂漠は普通死の世界よ」

 

乳酸菌醗酵を止めきれていない低品質な麦酒を傾けながら、

砂の生き物が板に付いてきた邪神の狂乱を適当に人が鎮め。

 

その内に無言で神官に喜捨を積んだサフラが、追加の品を受け取った。

 

鶏的な鳥の胸肉。

 

微妙に表面が乾いている。

 

そして生であった。

 

肉をと頼んで出てきた品である。

 

解体してあるだけ温情と思え、そんな神殿関係者の副音声が聞こえた。

 

「……頑張れ」

「何か突然無茶ぶりされてるしッ」

 

勝手にどうにか火を通して齧れと。

 

言うまでも無いが、厨房を使用するためには別料金が請求される。

到着早々に板が向かったが、そのまま追い返されたのは先程の話である。

 

味付けなどという上等な物は無く、付け合わせる香菜も無い。

追加で僅かな塩だけ受け取り、焼くか煮るか、選択肢が限られる中。

 

終には、アルフライラの目が座った。

 

「先ず4人分、4枚に切り分けて棒で叩き布状に伸ばします」

 

板から取り出した塩漬け豚を薄く切り、鶏で出来た布の上に置く。

さらにその上に乾酪を削った後、肉布を折って挟み込んだ。

 

端を棒で圧着して、具を挟み込みんだ鶏胸肉が完成する。

 

「本来は小麦振って卵潜らせてパン粉纏わせて揚げますが」

 

そんな物は無えので塩振って焼くと、言い切って鉄皿に放り込む。

板上焜炉で肉の焼ける音が響き、香り立つ芳香が食堂に満ちた。

 

問答無用の板上調理に周囲から視線を集めながら、焼き上がりは皿に。

熱にカリカリと焼けた肉の表面で、炙られた脂が艶めかしく誘う。

 

「そして完成、簡略版青き表彰ッ(コルドン・ブルー)

「きゃー、アルちゃん素敵ーッ」

 

サックリと完成した酒の肴に、酒杯片手のマルジャーンが歓声を上げ。

満足気な顔で肉を齧る男性陣と、目が座ったままの板上調理少女神。

 

「鶏、鶏肉料理の至高と謳われた逸品なのに、こんな不完全な形でッ」

 

「なにやら恐ろしい事を言い出しておるぞ、この邪神」

「ここんとこずっと、店主と一緒に全力で料理作ってたからねえ」

 

「道中は粗食で気付かなかったが、箍が外れっぱなしだったか」

 

不満が残る出来栄えに眉を顰めっぱなしのアルフライラとは裏腹に、

笑みを浮かべる連れ合いと、驚愕と羨望の眼差しを注ぐ神官と商人たち。

 

神殿が神に食材を献上するのも、時間の問題な旅の夜であった。

 




特に関係ないけど最近思った事

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