猫と放浪のアルフライラ   作:しちご

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汝は人狼なりや ③

 

皿に盛られた潰し芋の上には腸詰が置かれ、肉汁を煮詰めたソース。

 

宿の食堂で出された朝食は王国でありふれた品目でこそあったが、

その新鮮さ、料理としての次元が首都とは桁違いであった。

 

「いや何よりも腸詰が凄いね、何事かなこれは」

 

驚嘆も露わなジェーンの言に、主人は簡単に応える。

 

「羊に隠れてるけどよ、実は豚も昔から名産なんだ」

 

羊の丘は初期鉄道網から外れ、国の流通に乗れなかった地域である。

それ故に地産地消率は高く、その品質の高さが保たれ続けている。

 

そんな会話を続ける内に、朝に弱い探偵も起き出してきた。

 

寝ぼけ眼のままパイラ神に運ばれ、席に座らされて髪を整えられる。

顔を拭かれた後に化粧水を叩き込まれ、ぬああなどと呻いていた。

 

そのまま食事を終え、シャーロットはパイラにしがみ付く。

 

「はっはっは、押し当てられて嬉しいかね、嬉しいだろう」

「何だろう、駄肉が何かほざいている」

 

海の生き物を彷彿とさせる塩対応な神に、抗う人が触腕を締め上げる。

ともあれ結局海星ライドする探偵に、呆れた声色で助手が問うた。

 

「君、パイラが来てから駄目人間ぶりに拍車が掛かって無いか」

 

元より社会不適合気味な冒険探偵であったが、最近は特に酷いと。

流石に自覚が在ったのか、海星に運搬される爆乳は目を逸らす。

 

そんな朝に宿を出て、牧草地の方へと足を向けた。

 

なだらかな丘陵に緑が続き、時折に露出した石灰岩が見えて、

腰程度の高さに在る石積みの壁が、土地の区切りを造っている。

 

「最初の犠牲者は1年半前、羊飼いの少女だったらしい」

 

海星に乗った探偵が言う。

 

未成年ながら家業の手伝いで放牧をしていた所、被害に在った。

 

「野犬の類、風説に黒妖犬の仕業かと囁かれた」

 

黒妖犬の伝説、連合王国に森の在る地域には大抵存在する。

燃える瞳を持つ黒い妖犬の伝承であり、羊の丘にも存在していた。

 

「そして被害は止まらず、半年で9人の犠牲者が出た」

 

被害は主に夕刻から夜半、周囲に人の居ない牧草地で、

家業の手伝いなどをしている少年少女の名が犠牲の項に並んでいる。

 

獣と呼称された何かに人々は怯え、自衛を念頭に置き行動し出すも、

対処を嘲笑う様に次々と被害が積み重ねられていく。

 

「でまあ、襲われて逃げたヤツとかも出て来て、証言が出るわけだ」

「狼にしては巨大な、知恵を持つ獣か」

 

やがて被害はそれだけに留まらず、町外れの一家惨殺の段にまで至る。

 

「そして事態を受け、王国軍から名乗りを上げた軍人貴族が向かい」

「見事、犬のような獣を仕留めたのが半年前と」

 

少将閣下の凱旋で、首都の方が賑やかだった頃だねと探偵が告げた。

 

「しかし被害は止まらなかった」

 

シャーロットの語る現状に、道行きの空気が僅かに重くなる。

そして依頼が出て、受け、昨日に最新の犠牲者が出た所だと。

 

簡単に語り終えた探偵が海星から降り、懐からトラベル缶を出す。

中から薄荷飴を取り出し、口に放り込んで噛み砕いた。

 

「まだ獣が残っていると言う事かね」

 

ジエーンの疑問に、そうだねと軽くシャーロットが頷く。

 

「実は最初の犠牲者の前にも、結構な被害が出ていたらしいんだ」

 

ただ犠牲が羊や豚、牛馬の類で事故として処理されていたと。

 

「鋭い刃物の様な物で、内臓や頬が切り取られ持ち去られていた」

「いやそれは完全に別口だろう」

 

明らかに獣では無いやり口に、ジェーンが反射的に口を挟む。

 

「だがね、一家惨殺もこれと同じ様な殺され方なんだよ」

 

そのあたりで乳から解放され、道すがら報告書に目を通していたパイラが、

淡々とした声色で記されている内容を読み上げた。

 

「息子夫婦と同居する老夫婦、孫が一人」

「死体は4つ、夫だけが生死不明で血痕が外に続いていた」

 

最初の獣が討たれたのはその後で、行方不明のままである。

 

「何かね、獣とは別に殺人鬼が居て、しかし昨日の犠牲は獣の物で」

 

結局この地に何がどれだけ隠れているのか、そんな疑問に困惑する

探偵助手の有様に、苦笑を零したシャーロットが、ふと顔を上げた。

 

パイラとジェーンも遅れて気が付く。

 

空気に、煤が混ざっている。

 

耳を澄ませば何処からか、鋼を打つ駆動音も響き。

 

それが森林の近く、牧草地の藪の中から姿を見せた。

 

【挿絵表示】

 

人の背丈を優に超えた体は重心が低く、背中に蒸気機関を背負っている。

人型ではあるが手は細く、頭部からは煙突が突き出していた。

 

「魔導甲冑か、軍も本気では在るのだな」

 

獣の被害が止まらず、面目を潰された王国軍が派遣した戦力。

しかしそれは先の大戦時に使われた、蒸気式の骨董品であり。

 

「流石にボロくないかな」

「何と言うか、軍内の意思がバラバラなんだろう」

 

パイラの率直な感想に、少し困った顔でジェーンが応えた。

 

失敗は許されない、故に送られるべき軍事力は確かな物。

しかし失敗したら事であり、誰もそんな物に関わりたくは無い。

 

「展開次第では最大に面子が潰れた、少将閣下の恨みまで買うしね」

 

失敗しろ、失敗は許されない、関わりたくない、俺は知らない。

様々な思惑の結果、用意されたのは立派な建前と足りない内実。

 

「魔導甲冑を出したから充分だろ、みたいな感じなんだろうさ」

「なおその甲冑は骨董品であり、失われても惜しく無い物とする」

 

「えーと、あの、ですね」

 

海星と元軍人のぬけぬけとした会話に、遠慮がちと口を挟んだ、

甲冑に随伴している若き軍人の顔は引き攣っていた。

 

制服を纏い髪は短く癖毛の金、琥珀の瞳から人の良さが滲み出ている。

 

「探偵の方々ですよね、調査中ですか」

「うむ、まあこれから聞き込む所で何もわかってはいないがね」

 

腸詰がやたら美味かったぐらいだと、シャーロットは軽口を叩いた。

 

そんな関わり方で少々に会話を積めば、若者は今回の討伐隊の責任者、

経歴は軍学校を出たばかりの少尉だと名乗り、遠い目をした。

 

「少将の次は少尉と、何でそんな事になったのかね」

「そうですね、良い子ちゃんだったからじゃないでしょうか」

 

ハイライトの消えた瞳で乾いた笑いを零す責任者の有様には、

貧乏籤を押し付けられた者独特の悲哀が醸し出されていて。

 

「つーが坊ちゃんよ、自動給炭機が在るだけ御の字だろうよ」

「そうだぜワシら、大戦の時なんか円匙担いで随伴だったからな」

 

そんな隊長に慰めもどきの言葉を掛け笑う、幾人かの老兵たち。

制服を崩し、白髪、皺くちゃ、古傷だらけで定年除隊間近な外見。

 

新人に率いられた老兵、そんな討伐隊の全容を把握してしまい、

流石の冒険探偵たちも掛ける言葉を見つけられなかった。

 

「ああ、うん、それで君たちも聞き込みか何かかね」

「え、ええ、それと念のため軽く索敵ですね」

 

獣の襲撃からの生還者に話を聞くために、牧草地帯の端、

森林近くの家屋にまで足を運んで来たのだと確認し合う。

 

現代でこそ様々な発展でその必要性は薄れたが、

 

古来、羊飼いの血筋は家畜を受け取り放牧に出る都合上、

牧草地の外れに住居を建てて住み着く事が多かった。

 

肉親の葬儀の手間で間を空けている依頼主宅もそうであり、

過去の犠牲者、惨殺された一家の家なども同じ環境に在る。

 

「それでこの家の家族、5人が同時に目撃したと」

「あれは宇宙人よッ」

 

少尉の言葉に被せる様に、軍人たちの後ろから少女が歩み出て叫んだ。

 

「私たちの一家は見たわ、銀の円盤から降りて来た光る巨人をッ」

 

過去にも家畜たちがキャトルでミューテーションされていて、

それこそが宇宙人がこの地を訪れた各個たる証拠だと主張する。

 

「ふむふむ夜に森で音がして、確認するため家族総出で出向いたと」

「ええ、そしたら腐った卵の様な臭いがして、探したら居たの」

 

それらの主張を聞き流しながら、探偵が淡々と証言を聞いた。

 

森の中の木々の隙間、暗闇の中から爛々と燃える様に光る赤い瞳。

家族は皆不思議な力で、電撃に打たれたかの様に身体が固まったと。

 

瞳が見えた高さから、その身体は巨人族に匹敵する体躯。

 

「やがて羽搏きの音を響かせ、空の円盤へと還って行ったわ」

 

大真面目に語る少女の視線から外れて、海星が書類を捲りながら、

そっと内容を示して探偵助手と小声で相談する。

 

【挿絵表示】

 

「最初の証言の記録と比べると、宇宙人関連は全部後付けの様だ」

「つーか、梟か何かを見て驚いただけじゃないか」

 

枝に止まった梟か何かが人に驚いて飛び去って行ったと。

目撃から時間が経つ内に、銀の円盤や謎の力が盛られたらしい。

 

「ジュードさんもきっと連れ去られたのよッ」

 

「ふむふむ、いや待てジュードって誰かな」

「惨殺一家で行方不明の人だね」

 

聞き手の探偵の疑問に、書類片手に後ろから応える探偵助手。

 

「そう、神話にも謳われた宇宙の神秘、すぺえすぴいぽおにッ」

 

すぺえすぴいぽお、その単語を口に出した瞬間に空気が変わった。

 

どこからか村人たち、老若男女5人が現れて両の手を掲げる。

そして恍惚とした表情で、皆が空に向かって叫び出した。

 

「かまんすぺえすぴいぽおッ」

「かまんすぺえすぴいぽおッ」

「かまんすぺえすぴいぽおッ」

「かまんすぺえすぴいぽおッ」

「かまんすぺえすぴいぽおッ」

 

神代より伝えられた聖句が風に乗り草原に響く。

 

一糸乱れぬ家族の祈りが、今まさに遥かなる大宇宙に届き、

遥か天空より偉大なるすぺえすぴいぽおが降臨した。

 

「ぴぽぽぽぽぽ、我こそはパイラ、宇宙道徳に従いこの地を訪れた」

 

何か見覚えの在る赤い単眼海星である。

 

そしてそっと千夜経典を宇宙大好き家族に配り出したパイラ神から、

シャーロットとジェーンは無言で距離をとり、他人の顔をする。

 

深き羊の丘の森から、牧草地に向けて冷たい風が吹いていた。

 




世界大戦では他に戦車なども登場した模様

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