猫と放浪のアルフライラ   作:しちご

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Ex-Ex 死んでらあ

 

これまでのおはなし

 

それは、スノゥホ王国のワイト王女が武者修行の旅に出て、

道中に知り合い連れ合ったオーク族のドンハッカ、深砂の

性を持つ小神サージョーゴと共に、東方千夜神殿より聖域

千夜神殿に最新の教典を受け取りに向かう神官の護衛依頼

を果たし、帰還の路に着いていた時の事

 

―― 天挑五輪大舞會

 

帝国首都にて、あの伝説の大舞踏会が開催されるとの報と、

スノゥホ王国代表としての招待状を受け取りました

 

舞踏会に参加するであろう一騎当千の姫君たち

 

鮮血の赤頭巾、鉄砕指の親指姫、睡拳高手の眠り姫、竹林

三節混の輝夜姫、海賊王女の人魚姫、帝国全土から我こそ

が真の淑女と様々な姫君たちが令嬢比べに挑みます

 

そして今ここに、デビュー戦(デビュタント)を控えた(レディ)の姿が ――

 

 

それは帝国属国の一角、ドアマット伯爵領。

 

女伯爵の葬儀の直後、夫であった伯爵代理は家中の反対を無視し、

館にかねてより関係を持っていた愛人親子を迎え入れました。

 

嗚呼何と言う悲劇か、ドアマット伯爵令嬢はこのまま哀れにも、

不貞の輩に真実の愛を邪魔する敵と罵られ冷遇されてしまうのか。

 

まさに名前の通りのドアマット。

 

古より伯爵領を守護していた慈愛の女神は嘆きます。

 

でも大丈夫、この後は冷遇の果てにスパダリに引き合わせて

容赦無く逆転断罪ざまぁをさせてあげる予定なのだからと。

 

そんな慈悲深き思惑で覗いている小神の視界で、

庶子の娘が唯一の伯爵の直系に対しその手を伸ばし。

 

山が、在った。

 

自称意地悪な義理姉は、指に触れた物体に山脈を幻視した。

 

そっと指が離れ、伸ばした手が引き戻されていく。

 

あれ、どうしたのと困惑の覗き神の目の前で、

全身に蝦蟇の油の如く滝の汗を流す庶子は告げる。

 

「わ、私たちの親って、クソよねッ」

 

全力で媚びた、両親や神の思惑などはもはやどうでも良い、

何事よりもまず、目の前に迫る脅威から逃れる方が優先である。

 

「おいお前、何をしたッ」

 

愛娘の異常を察知した伯爵代理が怒りを込めて令嬢に詰め寄り、

その腕を掴もうと伸ばした手は、打撃に迎えられました。

 

背筋を緩ませ伸びた令嬢の左腕が、大きく振られ代理の腕を払う。

 

そのまま開いた掌が髪を掴み、勢いのまま引き落とす。

 

突然の制動に頭を下げた形で動きを止めた伯爵代理の、

その無防備に晒された首筋に間を置かず右の腕が叩きつけられました。

 

伯爵代理の横に回り込む様な踏み込みに合わせた腰の回転で、

大きく振り回した左右の腕での連撃は轟音を伴い。

 

そう、時として山は動くのです。

 

「ぐ、ぎぎぎ」

 

だが、婿入りした三男とは言え伯爵代理もまた帝国貴族。

打撃に耐えきり、両の拳を胸の前で固め交戦の意思を見せました。

 

対し令嬢は、両の腕を広げ舞う様に歩みはじめます。

 

閃光の如き左。

 

伯爵代理が令嬢の顔面に向けて拳を繰り出したが、

その距離は遠く、当然の様に届くはずも無い。

 

間合いを読めていないのでしょうか。

 

否。

 

腕が伸び切った瞬間に、拳が解かれ掌が現れます。

 

掌に隠された令嬢の視界、そこに踏み込みと右の拳が在った。

全身を使った突進に合わせる、掬い上げる様な形の鉄拳。

 

だが令嬢は、既に動いている。

 

拳を避ける様に伯爵代理の横に踏み込み、腰が回る。

 

大きく腕が振られ、下から打ち上げる事を掛と言う。

 

令嬢を狙った拳打は腕を下から打ち上げられて逸らされ、

その勢いのまま巻き込まれ、外に払われる。

 

体勢を崩した伯爵代理の頭に、逆の腕。

どすんと、とても重い音がしました。

 

上から叩きつける事は、劈と言う。

 

伯爵令嬢の腕は、重かった。

 

幼少より朝晩と、鉄砂を詰めた麻袋を叩いて造った腕である。

やがて肌の色は変わり、家人に鉄の如きと囁かれる腕が造られた。

 

とは言え固い物を叩き続けたとて、人の腕が鉄になるわけも無く。

 

そこに在ったのは、感覚の麻痺である。

 

痛覚などの話では無く、腕が壊れるほどに強く叩き続ける動作、

繰り返されるそれが脳から筋肉に対して、ひとつの麻痺を齎します。

 

筋肉が肉体を動かし過ぎない様にと、無意識に発揮される制動。

肉体の中で、意思とは逆の方向に発揮される力の向き。

 

それが、麻痺をする。

 

肌の色が変わり、功が成る頃には腕の振りを妨げる力は失われ、

筋繊維が持つ本来の力、純粋な威力がその腕に宿るのです。

 

制動の力が失われると、腕の動きが肉体に掛ける負担は増し。

 

その感覚を、歴代の使い手たちは腕が重くなると表現した。

 

そう、これこそが伯爵家家伝、帝国北部拳法通背の系譜が一派。

 

―― 劈掛鉄砂掌

 

なお、家中の秘伝となっているのは鍛錬方法では無く、

鍛錬中に飲用する炎症除けの薬湯な事はあまり知られていない。

 

ともあれ、叩きつけられた腕は重かったのです。

 

伯爵代理も、その後頭部で山を理解した事でしょう。

そして不貞の果て、意識を失い大地に倒れ伏しています。

 

覗いていた小神も、パイラ神法身体手裏剣で制裁されていました。

 

詰まる所、伯爵令嬢はドアマットなのです。

 

けど、ドアマットが踏まれる物だなどと誰が決めたのでしょう。

人と対等面するドアマットが在っても、面白いじゃないか。

 

奇獣神ならば、間違い無くそう語る事でしょう。

 

―― 踏まれる事を拒否するドアマット

 

麻袋を叩き、巻き上げられた灰を被り続けた令嬢はここに在り。

 

鉄砂掌の灰被り。

 

後に、白猿姫ワイト終生の好敵手と呼ばれる令嬢でありました。

 

そして天挑五輪大舞會の参加を機に、父親と義母を隠居させ、

若き女伯爵として義姉と力を合わせ領地を運営していくのですが。

 

領地に昔から存在していた慈愛の女神を祀った神殿は、

いつの間にか奇獣神殿へと姿を変えており。

 

本殿中央、出荷されていく豚を見る目付きの千夜神像の前で、

正座で詰められる奇獣神と慈愛神の像が置かれているのは余談になります。

 

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