猫と放浪のアルフライラ   作:しちご

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誰が為に鐘は鳴る ⑤

 

アルフライラたちは、迎賓館宿舎に滞在していた。

 

ハジャルを生贄に捧げ外出の自由を得た大神姉妹が、

今日もまた街を練り歩き市を覗き、馴染みの酒場へと訪れる。

 

なお、聖女のストレス値は限界を突破した。

 

アリの自警団たちが屯する港湾の安酒場に籠もり、

薄暗がりの中で日中の喧噪をやり過ごす昼時の事。

 

板を渡した樽が椅子として置かれ、歪んだ卓が雑に並んでいる。

 

「ぶっちゃけ迷惑なのだが」

 

水割り片手の創世神に対し、酒場の店主が主張した。

 

「支払いは良いはずだし、料理も自分で造って手間も無いのに」

「いやウチはそういう店じゃねーから」

 

青の妹を厨房に放り込んだ姉が抗弁するも、店主はにべも無い。

 

曰く、酒を呑ませ気分良く細かいところがわからなくなっている所に、

味が濃いだけの適当な料理を適正価格で売り捌き利益を出す店だと。

 

「料理が美味いのも困るし、神族が多いと酒場の格が上がっちまう」

「びっくりするほど向上心が無いなこの店主」

 

微妙だが悪しかろうと言う程でもなく安かろうで回す店に、

礼賛される美味や格の高い客層などは無用の長物であった。

 

そんな働きたくねーとぼやく店主の言を受け、神は考える。

 

「自警団連中、集合ー」

 

「へい何ですか姐さんッ」

「何かいつの間にか部下が掌握されてやがるッ」

 

散々に生命の危機に晒した後に、餌付けと介抱に因る懐柔。

いつもの合わせ技に、アリの自警団員たちは完全に陥落しており。

 

「何か近所に良い感じの観光名所とか無いかな」

 

少女の問い掛けに、途端に真面目な顔で相談を始める荒くれ者たち。

 

「ええと、まずは遠浅の浜辺と言いたい所なんですが」

 

【挿絵表示】

 

水遊びに人気の海岸は、高台の上に古代から使われる灯台が置かれ、

以前より人気の名所ではあったが現在は問題が在ると言う。

 

「誰も泣かなくて良い世界でしたっけ、住み着いてんですよね」

「浜辺に良い感じの洞窟がたくさん在りましてね」

 

空を飛ぶ顔を崇め、銃器で武装する難民集団。

海岸に存在している洞窟が、その拠点の一角と成っていた。

 

まあそこに気を付けて、関わらない様にすれば良い名所だと締める。

 

「あと海沿いに魚醤村が在りますね」

「交易都市最寄りだけあって、良い感じの醤をつくってますぜ」

 

海岸沿いに付き物と言えば、魚醤の村である。

ご当地の魚醤を造る村は、様々な海沿いに存在している。

 

「軽く遊びに行くには良さげだね」

「あと、山脈を登った方に古代の温泉跡が在りますや」

 

興味をそそられた風情な少女の反応に、ここぞとばかり、

畳みかける様に次なる名所の場所を荒くれ者が告げた。

 

「古代って、今は使ってないの」

「いや今も使えますがね、誰かが管理してるわけでも無いんで」

 

古代文明時に使われていた温泉跡地。

特に誰の物と言うわけでも無く、現在は放置されているらしい。

 

「海の後に山か、夏満喫って感じだなあ」

 

豊かな時代の価値観で神がぼやくも、人は理解できず首を捻る。

 

「ご当地魚醤ね、私も同行するわ」

「アズにゃんイン」

 

複数の小皿を乗せた盆を両手に、厨房から出たアズラクが主張した。

国の土産に成れば御の字ねと嘯きながら、卓上に大量の小皿を並べる。

 

上に乗っているのは、厚く切られた焼き鴨の肉、香辛料に漬けた香菜、

内臓を取って炙った塩漬けの小魚、瓜の薄切り、煮込まれた挽肉団子。

 

軽食(メゼ)、そう呼ばれる小皿料理である。

 

料理の前の前菜、小腹満たしなどに使われている料理形式だが、

港湾都市付近では大量の小皿を並べ、これ自体を食事にしている。

 

合わせるのは、神製氷で冷やされた蒸留酒(ラキ)の白濁した水割り。

 

「これはもう、呑めって事よね」

 

すかさず気配を見せたマルジャーンが杯を上げ、皿を引き寄せる。

 

「何かもう港って感じ」

「酒と肴で腹を満たせって感じね」

 

小皿の棗椰子ペーストを齧るアルフライラの横で、乾酪を齧り、

そのままの勢いで水割りを景気良く嚥下するマルジャーン。

 

炙り小魚を齧るサフラの向こうで、ペーストに固まる神族アリ。

 

「ええと、匂いは良いんだがコレ何だ」

「極東の味噌で和えた叩き鯵を軽く炙った物よ」

 

謎の食事に困惑する小神に、青の大神がぬけぬけと説明を述べた。

正体不明の謎物体を、大神の圧で食わせる気が満載である。

 

押しに負け覚悟を決めて口に放り込んだ若者の顔が少し呆け、

結構イケると言いながら水割り片手に焼き味噌鯵を削りだした。

 

「生ほどじゃないけど、ペーストも結構不評よねえ」

「なめろうとか漬けとか全力で拒否されそうな雰囲気」

 

ひとしきりの皿を置き終わった後、特級調理神姉妹が語り合う。

 

やはり焼くべきかと結論が出る前に、剣士と呑酒妖怪が聞き咎めた。

何やら酒に合いそうな名前が会話に混ざっていたのだがと。

 

なのでとりあえず二人の前に、鯖の芥子醤油漬けを置く神々。

 

「これは好評、なのかな」

「凄い勢いで酒が空いていくわね」

 

ハジャルにお土産で持って帰るかと、少女は漬け壺を板の上に乗せ、

そのついでに食うかなと、軽く視線を向けていたアリに問い掛けた。

 

「いや、陸の上なのに生魚は勘弁だ」

「つまり海の上だと食っていると」

 

含みの在る断りの言葉に問い返せば、軽く肩を竦める若い団長。

 

「まあこうして稼いでるのも、船を買うためだしな」

 

実の所、自警団員は基本船乗りだと言葉を続ける。

 

「交易にでも参加する気かな」

「いや、その向こうだ」

 

アルフライラが合いの手を入れれば、アリからは軽い否定が紡がれた。

 

西の最果て(アル・マグリブ・アル・アクサ)を越えた大海の先、草原の地が在ると誰かが言った」

 

俺たちはそこを目指すと、気負い無く告げる。

 

日も高い内から、酔っ払いが戯言を並べる安酒場であった。

 




今週の良いジト目

【挿絵表示】
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