お供の自愛女神を連れて、今日も凶とて帝国を彷徨う海星神が在る。
大神一〇二芸を修めた奇獣神、その名は
「どこからでもかかってきな」
「やったーカッコイイーッ」
かくして、千の芸術へと続く千の爆発を抱いている旅路では、
誰の涙も受け取り、きっと微笑む
熱い、厚い、暑い闘い、愛を背にして。
そ、れ、は、それとして、手頃な小神神殿で休む主従である。
屋外、神殿中庭に造られた席に金髪の女神と海星神が座り、
屋根の下の厨屋から杯を持った偉丈夫が持て成しに現れた。
かの紅玉の剣士すら凌駕する程の体躯に、巌の如き容貌。
側頭に2本の捻じれた太い角を持つ、獣の血が混ざる小神。
小さなお花さんを咲かせる権能を持つ、神殿の祀神であった。
なお、この領地の特産は養蜂なので素直に信仰されている。
そんな神が運んで来た杯には、白い液体。
加水して蜜を溶いた後、気化冷蔵の壺で冷やしてある。
「相変わらず甘くて呑み易いわねー」
慈愛改め自愛の女神の言に、軽く頬を緩める巌顔の小神。
海星も杯を傾けながら、顔が怖ぇと思いつつ口には出さない。
「そして相変わらず顔が怖いわね、あんた」
「躊躇なく口に出しやがった」
付き合いが長いのか、遠慮の無い女神の物言いを軽く流す祀神と、
海星が杯を酌み交わしていれば、中庭を秋の風が通り過ぎた。
「それで、最近何か変わった事とか在った」
杯片手に女神が問えば、大柄な神は少し首を捻った。
「何でも王太子が、真実の愛に目覚めたとか」
男爵家の庶子に心を奪われ、あられも無い姿で絡んでいる所を、
婚約者である侯爵令嬢に見つかってしまったと言う。
「そして侯爵令嬢も、真実の愛に目覚めました」
「何で」
公爵令嬢もまたあられもな無い姿で男爵庶子に絡みつき、
尻と腹を吸われた家猫族の庶子は、物凄く嫌そうな顔をしていたと。
「ただの
なお、当然ながら普段から全裸なのでどうあがいてもあられが無い。
「それと、その庶子の義姉がドアマット令嬢で有名でして」
「それ自分から踏まれに行ってるよなッ」
なお、男爵が庶子である妹を溺愛して姉妹格差が生まれている件は、
家猫族相手に致すほどのガチだからと、生暖かく見守られているらしい。
「まあ何か問題が在ると言うわけでは無かったか」
「そうですね、問題と言えば」
パイラが話を纏めれば祀神は軽く考えて、改めて口を開く。
「国の中枢が邪教に浸食されていく現状、でしょうか」
言い訳も無く、即座に平身低頭五本投地の奇獣神であった。
「いや小神が多い国ですからね、纏まる理由が出来るのは良いのです」
「ふむ、つまりここはパイラ様の出番と言うわけですか」
あからさまな高位神の謝罪姿勢に、神殿の神が慌てて取り成せば、
自愛の従属女神が、何か思いついたような顔で滔々と述べる。
曰く、纏まるにしても千夜神のみと言う選択肢の無い状況は避けたい、
緩やかに纏まるにしても、他の選択肢を用意する事が肝要だろうと。
「というわけでこの神殿、今日から奇獣神傘下ね」
「相変わらず強引な方ですねえ」
呆れた声色に、いや無理を言うなと止める海星と、
別にかまいませんよとあっさり認める偉丈夫な神殿の主。
「やはり私単独だと、何をするにしても限界が早いですから」
手頃な寄る辺が在ると言うのなら、願っても無い話だと。
「いよっし、豚さんと奇獣族呼んで私の神殿に蜂蜜輸入だああぁッ」
「何か欲望のために関係神悉く良い様に使われている気がする」
「まあ何だかんだ、最後の帳尻は合わせて来る方ですから」
半目に成った単眼海星に、苦笑しながら取り成す大柄な小神。
かくして小神集う帝国属国は大まかに3種の宗派に分断される。
千夜教、奇獣教そして、空飛ぶマッケローニの怪物教。
緩やかな連帯は緩やかなまま、後の時代まで長く保たれたと言う。
「そう言えばその王太子、聖女を追放したそうなんですよ」
奇獣教典と千夜経典を受け取りながら、祀神が思い出した様に告げた。
「何でも
「それは追放では無く出奔と言わないか」
当然の疑問に、軽く肩を竦めての応え。
「出奔だと各所の面子に関わりますので」
追放と言う事にしておくのが最も穏便であり、戻ってきた時にも、
必要に応じ追放を解くだけで済むから各所の対応が比較的楽に成ると。
「残された側は大変だねえ」
杯を傾けながら海星が相槌を打てば、祀神が深刻な顔で続ける。
「それで王国から、
「豆でも齧ってろ」
打てば響く様な塩対応を真に受けて、
新たな
陽の傾いた秋の中庭からは、それは少し先の話と成る。