猫と放浪のアルフライラ   作:しちご

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誕生日グッズ、アルカナとアルカナシャドウで二度打ち……だと……

【挿絵表示】



Ex-20 凍り付く秋の夜を越えて

 

秋のイルドラードに、創世神を待ち構えている物が在った。

 

そう、羊肉である。

 

タサウブが戻り、付属していた詩神が猫人を追い回し、

同行していた獣人たちが宿場の片隅に千夜小神殿を建て、

 

春から秋にかけてのイルドラードに様々な物事の変化が在り、

その清算が少女の頭部に握力で叩き込まれたりもしたが、

 

まあいつもの事と流し、アルフライラは厨房に籠もっていた。

 

「野菜鍋と見せかけて牛を入れる、これこそが秋の黄金律」

「いや水屋よ、現実から目を逸らすな」

 

火に掛けた鍋の前で楽しそうに夢の世界へ逃避する創世神に、

羊肉の塊を抱えた店主が後ろから、容赦無く現実を突きつける。

 

板の右から肉を近付ければ、少女の身体は左に傾き、

反対側に肉を回せば、少女の身体も逆に傾く。

 

「戦え、現実と」

「ぐぎゃあああぁぁ……ッ」

 

かくして、大量の羊肉の処分を考える事に成った。

 

とりあえず竈の鍋が煮込まれている間に、

店主と一緒に、切り分けた羊肉を漬け込んで行く。

 

発酵乳、尾の脂身、胡椒、香菜など幾らか。

 

ひとしきり終わった頃合いには鍋の中身も煮込み終わり、

宿場酒場で開拓者麦酒片手に待っている面々へと持って行った。

 

馬芹(クミン)と生姜を効かせた、南瓜と木瓜(マルメロ)の鍋(タジン)。

 

南瓜には鶏肉か牛肉が合い、木瓜には羊肉か牛肉が合う。

道中で使い掛けの塩漬け樽に牛が余っており、消費の鍋であった。

 

「秋って感じの野菜鍋ねー」

 

傾ける酒杯の合間に、鍋を突いたマルジャーンが述べる。

 

蕩ける様な木瓜の、果肉から醸される酸味が南瓜の甘みに溶け絡み、

塩抜きした牛に残った塩気が、野菜から出た水分に好く馴染んでいた。

 

「アル・デバランの領主の心尽くしもこれで使い切りかの」

 

牛肉の塩漬け樽の事である。

 

神国の手前、牛の良い所だけを選び漬け込んだ領主の面目であり、

蓋を開けない限りは1年ほど保つであろう、高品質な品であった。

 

なお、ムダラアミーナからの道中で容赦無く消費された。

 

そして3人1柱が麦酒の傍ら、秋野菜の鍋を堪能している内にも、

肉の漬け込みは進み、やがて夜も更け酔っ払いが片付けられる。

 

宿場前の土地には様々、秋の市とでも言うべき天幕が軒を連ね、

篝火が夜通し焚かれては夜市や宿無しを引き寄せる。

 

そして夜も明ける前、早出の旅人たちを見送る頃合いの中庭。

 

脂を塗った鉄槍に、漬け込み肉を突き刺す少女と店主の姿が在った。

厚めに切った肉の板を突き刺しては重ね、潰しては固め、また重ねる。

 

その横でサフラたちが薪を積み重ね、固定の支柱を2本立てた。

 

篝火から火を貰い、良く回ったあたりで肉の柱も完成する。

そんな明け方の動きに、敷地外の旅人たちも注目を寄せていた。

 

だんと、重い物が乗せられた音を響かせて支柱に肉柱が乗る。

途端に火で炙られた羊肉から、芳ばしい香りが漂い出した。

 

取っ手を付けて、横に成った肉柱をぐるぐると回す。

 

串焼肉(ジャーケバブ)、ウルトラ上手に焼けそうな城壁破り、回転焼肉(ドネルケバブ)の原型である。

帝国東部の料理で在り、串をシシでなくジャーと呼ぶのは東部方言となる。

 

「は、破滅の音ぐわああぁ」

 

そしてハジャルが力尽きた。

 

肉を乗せた焚き火の横、まずは回し係が店主からマルジャーンに移り、

そこそこ回してからハジャルに移り、そのまま瞬殺されて倒れ伏した。

 

転がる遺体の横で、無言でサフラが肉を回し始める。

 

横からアルフライラが肉の焼けた所を気持ち大き目に切り落とし、

数が溜まったあたりで鉄串に刺し、ムダラアミーナ風に塩胡椒炙り。

 

柱の外側が無くなり形が整い、良く熱が回った所で客を取り始めた。

 

その頃には蘇生したハジャル込み3人は火の傍ら、麦酒を片手、

串に刺した塩胡椒の羊肉を肴に良い感じの空気を醸していて。

 

肉柱の横では、幼女ハーレムの頭首が息も絶え絶えに回し続けていた。

 

少しばかり腹回りがふくよかな彼の横で、相方の平坦娘が励まして、

遅れて起きて来た調理解体担当幼女も必死に声援を送っている。

 

回した成果で、割引の額が決まるからだ。

 

そして身代の確かな商人たちが幾人か買い求めた後に、

終に力尽きた党首が倒れ伏し、両腕を痙攣させながら震えていた。

 

咄嗟に平坦が後を繋ぎ、悲鳴をあげた所で店主が代わる。

 

そして朝日が薄く中庭を照らす中で、肉が皿に乗せられた。

割引価格で3人が確保した皿は、商人に提供されたのと同じ物。

 

切り落とした肉の上に、店主が造っていた赤茄子(トマト)のソース。

酪と共に煮詰めた中には、刻んだ香菜と軽い蕃椒で味が整えられ。

 

その横に、ムダラアミーナで仕入れた固い攪拌発酵乳(ヨーウルトゥ)を乗せる。

 

イスケンデル焼肉(ケバブ)、そう呼ばれていた。

 

帝国ではイスカンダル、銅の聖女はエスケンデルと呼んでいる。

組み合わせの考案者、美食船団に属していた料理人の名である。

 

「うあああ、脂の回った肉に酸味が嬉しいぃぃ」

 

痙攣していた汗まみれの男性が、久々の贅沢に涙目に成っている横で、

在り難やと拝んでいた少女たちも、料理に舌鼓を打つ。

 

「回転(ドネル)と違って、肉に脂が乗ってる気がする」

「肉柱を横にしているからね、脂が落ちずに良く回るんだ」

 

夢中に食べ進む幼女の横で、感想を零した平坦仲間に対し、

平坦な女神が冠水瓶を渡しながら調理手順の妙を説明した。

 

せっかくだからと安目の赤葡萄酒も渡し、氷水割りを進める。

 

普段の面々が手にした麦酒に合う塩胡椒串焼き形式と違い、

赤茄子や発酵乳で飾った皿には、赤葡萄酒の方が好く合っていた。

 

「俺は串焼きの方が好きだな、真珠よ」

 

後から訪れた、外に住む者の頭首はそんな事を言って麦酒を頼む。

まあ我らが真珠の手作りなら何でもと続け、ぬかしよると返された。

 

そうこうしている内に肉が尽き、柱が取り替えられ。

昼の陽除けの頃には余りまくった羊肉は消費されていた。

 

炎天の下で音は消え、ただ排水路の水の流れだけが響いている。

 

「お大尽な商人には、イスケンデルさんの方が好評だったね」

「料理と言うより、麦酒か葡萄酒かで選ばれた感じだな」

 

宿場酒場の陰の中、焼き残りの中央部分を肴に麦酒を傾けながら、

売上を数えていた女神と店主が、そんな結論を出した南中であった。

 

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