猫と放浪のアルフライラ   作:しちご

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或いは毒で一杯の島 ①

 

透明度が高く、遠浅の浜辺へと小船が進む。

 

陸に近付くにつれ、潮風に押されていた硫黄の臭いが空気に混ざり、

火山を持つ土地独特の熱と空気が、旅人たちを包みはじめる。

 

大麦の島と供物の島の狭間に在る海峡より船は入り、

火山を持つ黒の植民都市、イルイトイへと辿り着いた。

 

【挿絵表示】

 

小船の船底が砂を噛み、アルフライラたちは海上に下船する。

浮遊板の横で素足のまま海水を踏み、砂浜へと上陸を果たした。

 

その際に調子に乗った創世神が海に誘われ、素足のままで降り立って、

そのまま波と砂に足を取られ倒れ込み、土座衛門と化したが。

 

まあそれはそれでいつもの事ではある。

 

「ここが話に聞いた、毒竜の封じられた火山かあ」

 

そして板上で煙を吹きながら、神が言葉を零した。

 

鉄で身を固めた巨人族の勇者に封じられた、毒竜の伝承が残る観光地。

 

かつてこの地に巣食い、人々の魂を食べ続けていた悪竜に、

巨人族の青年が立ち向かい、終には山頂湖に封印したと伝わっている。

 

「千切れた自分の頭を叩き付けて、竜に杭を打ったんだっけ」

「お伽噺紛いとは言え、無茶な内容よのお」

 

「そして断末魔の息吹で村人は全滅、いや何が言いたい昔話なのよ」

 

イルドラード、そして道中で聞いた火山のお伽噺を思い返しながら、

面々は乾かした足から砂を払い、靴を履いて街へと向かった。

 

海を見れば、船からの荷下ろしで小船が往復を繰り返し、

アルフライラたちの様な乗客はその最中、折を見て降ろされていた。

 

街の前で靴を乾かしていた馴染みの商人夫婦に出会い、

迷惑客たちは反対側に降ろされたらしいと、簡単な状況確認。

 

「さての、船が戻るまでに山に登りたいところじゃが」

「ああ、それでしたら私どもの商会から話を通しましょうか」

 

アルフライラたちの興味を引いた幾つかの観光地、船が戻るまでに、

それらを回るための拠点を探していた所への提案を、在り難く受けた。

 

やがて見えたのは、青々とした椰子に囲まれた木造建築物の集合。

硫黄混じりの風が土の大路を走り、人々や荷車を乾かしている。

 

そのまま街に入り、青の商館で軽く紅茶を振る舞われた。

島で採れた茶葉で造られた紅茶は、苦みや渋みが薄く飲み易い。

 

「飲料水の様な紅茶だなあ」

「この土地では、昔から食事に合わせていますね」

 

ハジャルたちが宿泊先の契約を纏めている後ろで、丁稚に持て成され、

固焼きの小さなパンを齧り茶を啜る武力暗殺補給滅殺担当の1柱2人。

 

開け放たれたままな商館の窓から通りを伺えば、黒の植民地ながら、

やたらと様々な人種、獣人たちを含むそれらが通りを行き交っている。

 

「元々、本国で生き難い人たちの避難所でしたからねえ」

 

アルフライラの視線に気付いたのか、丁稚の少年が賢しらに嘯いた。

そんな少年の頭をぽかりと叩き、近くに居た壮年の商人が言葉を継ぐ。

 

「黒の大神が代替わりして、国の在り様が変わったとは聞くがね」

 

だからと言って、はいそれでは早速と帰れる様な物でも無いと。

 

「話が纏まったぞい、近場の村で陽除けの屋根が借りられるとな」

 

壁は無いので虫除けの蚊帳を貸し出すと。

そんなハジャルの説明を受け、マルジャーンが疑問を呈した。

 

「壁無しって、大丈夫なのそれ」

「むしろ風通しが良く、人気の宿所らしいぞ」

 

あと安い。

 

火山の硫黄を切り出す職人の村で、山への登山口に近く、

登山を試みる観光客たちがよく泊まっていくと商人も語る。

 

そして何よりも、安い。

 

「あとはまあ、これから食材などを買い込んで出立は明日じゃな」

 

今日の所は商館に泊めて貰えると、そういう話であった。

 

「じゃあついでにご飯かな」

「ああ、飯なら通りの先の串焼き屋がお薦めだぜ」

 

神の軽い言葉に、丁稚を構っていた壮年商人が被せてくる。

酒に混ぜ物も無く、商会の人間にも薦めている優良店だと。

 

「ならせっかくだし」

 

薦められるままに商会を辞し、開拓者たちは通りへと歩を進めた。

必需品を買い込みながら、人の流れに通りすがり目的地へと至る。

 

【挿絵表示】

 

しかして勧められた店は、木製の茅葺屋根を持つ店舗であり。

表まで漂う串焼きの肉の香りが、一同の食欲を刺激した。

 

串焼き(サテ)と、砂糖椰子酒(トゥアック)とな、興味深い」

蒸留酒(アラキ)も在るのね、ならもう両方で」

 

「土地では蒸留酒(アラック)と呼んでますがね」

 

ウチはその中でも糖蜜だけで造る、蒸留酒(シドゥ)だと店の女将が言う。

そして早速に始めようとしてしている呑酒妖怪の後、注文を求めた。

 

「それで嬢ちゃんたちもだね、串焼き(サテ)は鶏と山羊どっちが良いかい」

 

「山羊で」

「山羊だ」

 

打てば響く様な即答であった。

 

アルフライラとサフラには道中、大麦島の各所で串焼きを頼み、

その際に散々に思い知らされた大麦島の現実と言う経験が在る。

 

鶏は、ヤバイ。

 

パッサパサで。

 

もう本当にパッサパサで食えたもんじゃないと。

 

なので脂が乗ってジューシーな山羊肉一択である。

呑む方には水割りを頼み、同時に製氷神がザクザクと氷を造りだした。

 

店内の客にも奢り、代わりに串焼きを奢られ、割引かれ。

そうこうしている内に小振りの肉が連なった串と杯が運ばれて来る。

 

「香辛料が強い、所にほんのり甘い香りの酒、よき」

「串は島の西に行くほど甘口に成るらしいな」

 

そして東に行くほど串焼きはスパイシーに成っていくと言う。

 

青と黒の交易船が通る都合、香辛料の類の流通が活発だからだろうか。

西の方では他の料理も、食材自体の味を活かす方向で東とは違っていた。

 

蒸留酒(シドゥ)以外のじゃと、どんな蒸留酒(アラック)が在るのじゃ」

「ここらで流通してんのは芋や廃蜜混じりのが大半だねえ」

 

串焼きを齧りながらのハジャルの質問に、気の良い風で応え。

蒸留酒(シドゥ)は昔ながらの伝統的な製法で造られた品だと、女将は語った。

 

「昔ながらって、黒か帝国からの文化かな」

「いやあ、元々島に住んでた人間の伝統だね」

 

今でこそ帝国と黒に島の勢力が分かたれ、海峡を挟んだ供物島には青と、

3国に編入されている地域だが、古代文明時代から人は居たと。

 

「火山の毒竜の伝承とかも、その頃からの言い伝えさ」

 

そう言って女将は、四角い箱が組み合わさって造られた人形を示す。

古代から伝わる、巨人の勇者を偲んで造られた設定の土産物。

 

「めっさ四角い」

「そして目玉の中には、幾つもの瞳が瞬いていたとね」

 

土地に伝わる言い伝えを聞いた神が、首を捻って問い直した。

 

「それ、本当に人間」

 

いや千切れた自分の首を掴んで叩き付けている時点で怪しいからと、

土地の人間から身も蓋も無い感想を得て、遠い目に至る。

 

傾いた陽射しの中で、漂う硫黄を串焼きの煙が包み隠していた。

 

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