とはいっても今回はチュートリアルのようなお話ですのでゆっくりご理解ください。
それはアトミック学園保健委員会の正当な後継委員会。
生徒の健康的な生活を支援する委員会である。
話は変わり、時は春。
別れの季節であり、出会いの季節である。
桜が咲き誇り、お日様の陽気が街並みを照らしている1日。
「入学式閉式の挨拶、昼ノ部推進委員会会長の
アトミック学園も入学する者を祝う式典が催されていた。
「はい。これにてアトミック学園入学式を終わります」
「礼。………。それでは入学生のみなさん、解散してください」
入学生が入ってきて、在校生も学年が上がる。
何ら変わりのない年度始め。
式典を終えた校舎敷地内では入学する者とそれを祝福する者とでにぎわっていた。
にぎわいを見せる本校舎から少し離れた旧校舎、その第一理科棟。
その建物へ向けて駆け足で進む人影があった。
真新しい制服に身を包み、胸元に紙花を付けたままの新一年生。
名前を
制服に着せられている気がすること以外は何も問題のない普通の少女。
桜並木に揺らめく下をさくら色の髪が春風になびく。
手の半分まで袖が来るワンサイズ大きな黒い制服と白のブレザーを握ったまま軽々しく、全速力ではないスピードで走っていた。
急ぎたい気持ちもあるけれど、汗ばむのを気にした速度。
桜と春風に歓迎されたのか、走ってても体は火照らず、春風の寒さも感じない。
とても心地よかった。
この新一年生となった少女は高等部になって必ずやりたいことがあった。
昼ノ部推進委員会、ディオネに入ること。
そしてディオネのリーダーに直接会って「ありがとう」と言うこと。
全てはあの時助けてくれた
ユイのやってやるという強い心が大きな原動力となり、ついには学園の旧校舎、その第一理科棟までやってきた。
此処こそが昼ノ部推進委員会の本拠地。
理科棟と言っても今は授業にも使われておらず、ほぼ空き家状態のものを昼ノ部推進委員会が利用している代物。
少しヒビの入ったコンクリートが少し古めかしさを醸し出す。
その一階正面玄関までやってきたユイは、駆け足で乱れた呼吸を正す。
けれども運動による鼓動の高なりとはまた違う高なり。
ユイは少し緊張していた。
その緊張を落ち着かせるべく、さらに一呼吸置く。
完全に消えた訳では無いが、随分と落ち着きを取り戻した。
正面玄関前にある数台の階段を上り、ガラスの扉を押し開ける。
空気や気温こそ変わっていないものの、組織のテリトリーに立ち入るだけで緊張が再びユイの中へと舞い込む。
建物の中はほとんど無音。
入口のガラス扉がガタンと音を立てて閉まるのを最後に静寂が支配していた。
そんな静けさがユイの緊張を加速させる。
ユイは緊張するとテンパるタイプなのでさっきよりも深く呼吸して緊張をおさえようとしていた。
その時。
「あら〜、昼ノ部になにか用?」
「ふぇぁっ!」
深呼吸をするときに目を瞑っていたのが仇となり、目の前の人物に気づかなかった。
不意を突かれて変な声を上げたユイを見て、目の前の人物は「ふふふ」と小さく笑っていた。
その穏やかに微笑む声と小動物を可愛がるような優しい表情、白銀のふわふわとした長い髪型にも優しさが溢れ出る。
けれど、頭の上に載せた汚れのない黒の帽子と何一つシワの無い淡青色の上着、その下から覗く青いネクタイと、ユイのものと似た黒の制服には襟が白く、その中には動脈と静脈を表す赤と青の2重線が伸びている。
優しさとは程遠い規則遵守の容姿。
そして左胸元にある『昼ノ部推進』と書かれたバッチと左襟についたローマ数字の2を表すバッチの2つが光の反射で少し明るく目立っていた。
『昼ノ部推進』バッチの下の名札には『前湯江』と書かれている。
昼ノ部推進委員会所属の高等部2年生のゼントウエさん?
一瞬考えたけれど読み方がわからない。
考えても時間だけが過ぎていく。
この状況でなにかアクションを起こさないと、と考えるユイは。
「ご、ごめんなさい、勝手に入ってしまって」
早々に謝罪した。
組織関係者、それも先輩に何の許可もなく建物に立ち入ったのだから、謝るのが道義だろうと考えた。
それでも2年生の先輩は優し笑みを崩さない。
「ふふ、いいのよ〜、誰でも入れるから。それよりもなにか用事があったの?新入生さん?」
2年生の先輩は柔らかな声で訊いてくる。
ユイの胸元の花紙を見て入学生だと思ったのだろう。
緊張がままならぬままの自己紹介を開始する。
「はい、あの私、今日いまさっき入学したての1年生で、昼ノ部推進委員会のディオネに入りたくてやってきました。お名前を茂木望ユイといいます。ディオネの
変な自己紹介である。
落ち着きを取り戻せていないと考えながら内心揺らめきおどおど陽炎のよう。
恥ずかしくて相手の顔を見れない。
ユイは目を瞑っていた。
その時、2年生の先輩は一瞬だけ表情を変えた。
奇特なものを見るかのように。
しかし、すぐ優しい笑みを浮かべ、ユイへ声をかける。
「あら〜、可愛い新入生さんね。入会手続きがあるから、こっちへおいで?」
ユイがゆっくり前を見ると、2年生の先輩に手招きされた。
そのまま移動し始めるので、ユイは親鳥に続く雛鳥のようについていった。
「あ、そうそう、自己紹介がまだだったわね〜、私は
廊下を歩いて、階段を上がっている時、2年生の先輩が自己紹介をしてくれた。
そして昼ノ部推進委員会に入ると9つの衛星への所属選択が待ち構えている事、テティスは正式名称を調停自警団という昼ノ部推進委員会の警備専門組織だとを教えてくれた。
ユイは中等部の頃から昼ノ部推進委員会に興味を持ち、ディオネについては知っていたけれど、テティスにはあまり知識が及んでおらず、今回の説明に興味を示す。
ホノカの説明が終わる頃に着いたのは2階の一室。
部屋の名称札は『応接室』。
今日入ったばかりの新入生だった一人に応接室なんて使っていいのか、と不安げに思いつつも「どうぞ〜」と促されては断る術もない。
応接室の中にはなにも入ってない棚が両端に並び、部屋の中央には応接室にはふさわしくない素材そのままの木のテーブル。
椅子もパイプ椅子が数個立てかけてあるのみ。
理科棟の教室を改装したのがよく分かる。
「ここの建物ちょっと古くてごめんね〜、この部屋は理科準備室だったの」
ホノカがパイプ椅子を展開してユイの元へ持ってくる。
そのまま「どうぞ〜」と促され着席。
「ま、前湯江先輩、あ、ありがとうございます」
辿々しく、言葉を発する。
まだ緊張は解けていない。
「気にしないで〜、それに、前湯江先輩なんて堅苦しくなくていいわ。ホノカって呼んでね」
柔らかい笑みのままそう言ってくる。
けれど、ユイは初めての先輩に呼び捨てをするほどの度胸なく「ホノカ…先輩」と小さくつぶやく。
「ん〜〜かわいい」
嬉しさを隠そうともせず両手を頬に当てながら微笑むホノカ。
「いいわぁ〜!先輩が入会手続きちゃちゃっと済ませちゃうから、少し待っててね」
ホノカは先輩と言われたのが相当効いたようで、柔らかさの中に気合が入り交じっていた。
ホノカが部屋を出てどこかへ行ってしまうと応接室は一瞬静寂に包まれる。
この建物に入った時と同じ感じ。
ユイはキョロキョロと応接室を見回すも薬品もなければ資料なども無い。
文字という文字が全くない理科準備室。
照明をつけるほどではないが窓もスモークガラスで陽気は遮られ、日光も明るさを軽減し、少し寒さを感じた。
そんな寂しさも束の間、廊下から足音が聞こえてくる。
それも2人、急ぎ足のようだ。
「早速新入生が来たってホントですか!」
「えぇ〜こっちよ」
廊下からバタバタと走り着き、ユイの前に姿を表したのはふわふわした白銀の長髪に帽子を載せたホノカとサラサラとした黒いショートヘアが特徴の対称的な2人。
髪の長さが統一された黒いショートヘアは真面目な雰囲気を纏わり、丸メガネが具体例のように優等生であることを主張している。
ユイと同じ白いブレザーと黒い制服、けれど胸元のバッチと白い襟、青いネクタイから昼ノ部推進委員だと分かる。
しかし、ホノカのテティスとは差異があり、テティスではない制服。
昼ノ部にはちょっと詳しいユイにもどの衛星か分からなかった。
「ホントに1年生だ!」
考えるユイをまるで奇跡を見たかのように驚く黒髪の生徒。
襟のバッチは2年生を表し、名札には『柳川』と記されている。
「こんにちは!昼ノ部推進委員会へようこそ!私は昼ノ部推進委員会事務局の
コノハは一瞬のうちにユイとの距離を詰め、しゃがみ込んでパイプ椅子に座るユイの手を取る。
「よ、よろしくお願いします…!」
印象とは違うハツラツとした勢いに圧倒されているユイ。
勢いに押され、ユイの座るパイプ椅子が音を鳴らす。
「わぁ!昼ノ部と文化委員会で夜なべして作った花紙だ、ちゃんと使ってくれているんですね」
コノハはユイの胸元についている花紙を優しく擦る。
「あの時は大変だったわね〜、ヘレネやテレスト、トリトンの子まで動員したんだっけ?」
「そうそう、
ホノカとコノハが花紙について語りだすもユイは話についていけない。
そんなことがあったのか、と想像を膨らませながら二人の顔を見上げる。
一瞬だけ遠くを見ているかのような目をしていた。
もう二度とやりたくないと言いたげな顔。
「まぁ、そんなことはさておきまして、入会手続きはじめますね」
気を取りなおしたのか、コノハは立ち上がって、ユイとは机を挟んで反対側にパイプ椅子を持ってきて座る。
コノハが持っていたPCと書類入りファイルを机の上に広げ、本格的な書類準備。
テキパキと必要そうな書類をユイの前に出したり、ホノカにも指示をして作業しやすいように準備したりと、事務員ならではの素早い作業に感心する。
「さてさて、まずは昼ノ部推進委員会について説明しますね」
ユイの前に置かれていた冊子を開き、ユイの読みやすいように机の上へと置く。
タイトルは『はじめての!昼ノ部推進委員会!』
その冊子の注目してほしい部分を指さしながらコノハは説明を始めた。
それはアトミック学園保健委員会の正当な後継委員会。
生徒の健康的な生活を支援する委員会。
昼ノ部推進委員会に入ると9つの衛星への所属選択が待ち構えている。
学園の正当な保健委員会の後継組織『
学園第二風紀委員会として活躍する『
不良生徒の矯正局の運営管理を行う『
昼ノ部の組織警備を専門に行う組織『
夜間の救護に対応する夜型ディオネ『
夜間襲撃に備えた夜型エンケラドス『ミッドナイトクラスター』第六衛星テレスト
緊急救護最優先の速達性保健委員会『
昼ノ部の情報統括や後方支援を行う『
遠方地域を支える移動式保健委員会『
そして各衛星からの書類事務を行う『統合事務局』
これら9つの衛星と1つの事務局を昼ノ部推進委員会と言い、各衛星の委員長や副委員長といったトップの人物を
「昼ノ部推進委員会全体としてはこんな感じですね、えーっと、ごめんなさい、今更ですがお名前お聞きしてもいいですか?」
説明を続けていたコノハだが、ユイの所属希望を聞こうとして言葉に詰まる。
名前を呼びたいのだがコノハはまだ名前を知らない。
ユイの名札に目線を向けるも『茂木望』という表記に困惑していた。読み方を知らなかった。
読み方についてコノハが考えを巡らせている間に答え合わせの時間がくる。
「はい、
予想外の読み方が飛んできて、コノハは戸惑いを顕にした。
「なる、ほど、茂木望ユイさん。結構珍しい苗字ですね。ちょっと読めませんでした」
「よ、よく言われます。それに、茂木ノゾミさんってすぐ間違われるんです、あはは」
軽く流すのも慣れたもの。
ユイ自身の経験である。
過去に幾度となく間違われ、中等部の入学のときも公的文書に茂木ノゾミと書かれたり、クラスメイトからも茂木さんと呼ばれる事があったり、高等部の書類提出の際にも名前の再確認の電話が来たりと、この手のネタは幾らでもある。
「なるほど、でも珍しい苗字ほど、事務局員としては印象に残るんです。覚えておきますね」
コノハはユイへ笑みを贈ると、すぐさま手元のメモ用紙にユイの名前を記す。
事務局員の手際の良さが伺えた。
「さて、茂木望さん、お話を戻しますね。昼ノ部推進委員会としてはこの9つの衛星から所属を決めるわけですけど、希望とかあります?」
コノハがペンを持ったまま訊く。
ユイは内心喜んでいた。
この質問を待っていたのだ。
中等部の頃から待ち焦がれたこの時。
自身がディオネを志すと正式に言える機会。
解けぬままの緊張を増幅させながらユイは口を開く。
「はい!私、ディオネの衛星長さんに憧れていて、ディオネに入りたいです!」
上手に言えました。
今日一番上手に言いたいこと言えたのではなかろうか。
ユイは言えたことを自信に持ち、先輩方を見る。
コノハは一瞬だけ手を止めた、しかし、すぐメモ用紙にユイの発言で必要な事項を記す。
この間ホノカはコノハ書き記す内容を隣から見ていた。
「なるほど、ディオネ希望ですね。それならディオネについての説明を挟みますね」
今度はディオネの冊子をユイに見せ、説明を始めた。
「昼ノ部推進委員会、第一衛星ディオネ。正式名称は健康保健会と言って、一般的な保健委員会とほぼ同じです。主な仕事は生徒の出席、健康管理から各地の保健室運営など、やる事は多岐に渡ります」
そんな組織に足を踏み入れるんだ。
話を聞いている最中、ユイの想像はあらかた予想通りであり、期待が膨れる。
コノハが一通り説明を終え、再び口を開く。
「ディオネについてはこんな感じです。どうです?具体性増してきましたか?もしよければ、テティスの説明も受けてみませんか?本職の方も同席してますから」
と言って、コノハはホノカの方を向く。
ホノカも「興味持ってくれるとうれしいわ」と笑みを浮かべる。
その笑みにユイは即答。
「お願いします!」
それが嬉しくて、テティスのお姉さんは軽やかに口を開いた。
「それじゃ〜説明するね〜、昼ノ部推進委員会、第四衛星テティス。正式名称は調停自警団とと言って〜今は昼ノ部推進委員会の警備員さんとして活躍してるわ」
コノハの説明と違って、柔らかなゆっくりとした説明。
言葉と言葉の間が生まれ、その中にユイが潜り込めた。
「警備員、ですか?」
「そうそう〜、私みたいに建物を守ってたり〜、ディオネやトリトンの衛星員を守ってたり。昔は各方面の言い争いを止める仕事もあって〜、今もやってるけどほとんど無いかな」
「ほとんど無い」
先輩の言葉を復唱するユイ。
精一杯の聞いていますアピールだった。
「そうそう〜、無いことはないけど、今はエンケラドスが多くてね〜、エンケラドスが武力で〜、テティスが文力で物事を解決する感じ。なんとなくわかる?」
「ん〜、はい、なんとなく、です、けど」
警備は分かるが調停がしっくり来ていなかった。
そんなユイを見て察したのか「興味が湧いたらいつでも訪ねてきてね」と優しく声をかけてくれる。
ホノカのニコッと笑うその顔を見て、幾分の申し訳なさを感じていた。
「さて、今までの説明で何も聞きたい事が無ければ、ディオネへの配属として受け入れますが、大丈夫ですか?」
コノハから発せられたこの問いはユイに投げかけられる。
ユイは「ん〜」と一拍置くが、こう言う時って何故だか質問が思いつかない。
しりとりしている時に次の言葉が詰まる感じ。
気持ち的には先輩ともっと話しがしたいが、出るものも出ないなら仕方がない。
「だ、大丈夫です。よろしくお願いします」
「はい、では手続きしますね」
ユイの返答を皮切りにコノハは書類に美しい字体のインクを載せ始める。
この後いくつかの質問を受け、その度にユイの情報を書類へと書き記す。
質問で足りないところはユイが書くこともあった。特に氏名。
「ココとココに学年学科と氏名をお願いしますね」
書類とペンを渡されて指示された所に記入する。
「先輩、できました」
「はい、ありがとうございます」
ユイは自身の字の中でできるだけ綺麗に書いたつもりだが、コノハの字と比べるとやんわり崩壊している。
多少の恥ずかしさを隠しながら書類をコノハに向けて返した。
「茂木望さんの字、美しいですね。綺麗に書こうとする努力が分かります」
「そっ、そんな事はないです」
コノハに目を付けられ、自身の文字に恥ずかしさを隠せず、少しだけ俯く。
「いえいえ、たくさんの筆跡を見ているとなんとなくですがわかるんです」
コノハは「恥ずかしがらなくても良いんですよ」とユイに微笑んで手を動かし始める。
しかし、その手にはペンが無かった。
どこかというとユイの右手付近。
コノハが「ほいっ」と口を開くと同時に、机の上に横たわっていたペンがピョンと跳ね上がるように宙を舞い、磁石で引きつけられるようにコノハの右手へ飛んでいく。
そして見事にキャッチ。
ユイは「えっ?」と驚き。
俯いた恥ずかしさを忘れ、動くペンに目が行く。
それもそのはず、ペンがひとりでに飛び跳ねるなど見たことがなかった。
けれど心当たりはある。
魔法である。
「先輩、魔法、使えるんですか?」
ユイは初めて見る魔法に興味を持っていた。
「はい、でも、物をちょっと動かせる程度しか使えません」
コノハは話しながらもペンを手の上で泳がせる。
「すごいです、魔法使ってる所を見たの、初めてだったので」
「私で良ければ何時でもお見せしますよ、こう言う所でしか使い道が無いので、喜んでもらえるなら嬉しいです」
話しながら白紙に魔法を使ってペンを踊らせながらぐるぐると筆跡を重ねていた。
「さて、魔法を見せたいのもやまやまですがもう時期終わるので手続き進めますね」
コノハはひとりでに踊るペンを掴み、再び美しい字体を連ねていく。
掴まれたペンが「イタイヨー」と悲鳴を上げたようにも思えた。
ユイは漫画の見過ぎだと、邪念を払い、コノハの筆跡を見ていた。
今回は書く箇所が多いのか「ちょっと待ってくださいね」と筆を進める。
書類に書く手を動かす度に揺らめくショートヘア、ペンの色と同じ黒い髪はストレートで重力に逆らうことを知らない。
そんな枝垂れのような髪から見える丸メガネが特徴的で優しげのある人。
優等生なんだろうな。
ユイは考えを彷彿させる。
そんな中、コノハの筆跡が増える時、ホノカのケータイが鳴った。
「はい。こちら前湯江です」
ホノカはケータイを上着の内ポケットから取り出し応答する。
今までのほんわかとした優しい口調は姿を消し、淡々とした落ち着いた声がケータイの奥の人物へと行き届く。
この応接室はコノハのペンを操る音以外音源がなく、ホノカのケータイから焦るような声が漏れ出る。
『……ホノカさん…、……に、……が!大至急……ください…!』
何か緊迫し、張り詰めているような声。
通信機器はその全てをホノカへ伝えることが出来ていないように思えた。
ケータイの奥の人物は構わず何か急ぎの用事をホノカに伝える。
ユイは全部は聞き取れなかったが、ホノカは聞き取り、理解したのか返事を送る。
「はい。了解しました。いまからそちらに急行します」
そう言ってケータイを元あった上着の内ポケットに直すと同時にコノハへ口を開く。
「コノハさん、フォボスからの要請です。近くで不良生徒が出たそうなので、行ってきます」
「はい、わかりました。お気をつけて」
コノハへ伝えた声も淡々と落ち着いた声。
短い会話を済ませホノカは応接室を出る。
その時少しだけ振り向きユイへと視線を移した。
「ユイちゃん、昼ノ部として頑張ってね〜」
一言だけ発するとそのまま廊下へ繰り出し、軽やかな足音を残して去っていった。
その声は以前の柔らかく優しい声に戻っていた。
ユイの心には緊張と心配と感謝が大乱闘を起こしている。
緊張がやや劣勢で心配と感謝が対峙。
その中でも心配が勝ち誇り、ユイの口を動かして、コノハに問いかける。
「何かあったのですか?」
「近くで不良生徒が出たらしいです。こういう入学式とかの時期って結構出るんですよね。それにホノカさんってテティスでも優等生なのでこうやって呼ばれる事もよくあることです」
コノハは書類に記入しながらユイの質問に答えた。
ユイは不良生徒なんているんだ、と思わぬ現実に身を振るう。
(本当に、いるんだ)
今の今まで健全に生きてきたユイに不良生徒にいい思い出などない。
少し嫌な顔をした。
「茂木望さん、大丈夫ですか?」
書き記す合間にコノハがユイの顔色をうかがう。
「いえいえ、少し昔の事を思い出しちゃって。全然、大丈夫です」
「そうですか、無理はしないでくださいね。これからディオネとしてたくさんの生徒を助けるとは思います。だけど、一番最初に自分を助けて下さいね」
「…はい」
コノハの優しさに心が揺れていた。
そんなユイは小さく返事することしかできなかった。
「わかってくれたのなら大丈夫ですね。さて、茂木望さん、最後にココに名前を書いてくれたら必要書類は完成です」
そう言ってコノハはユイの前に書類とペンを差し出す。
もう何度目かわからない自分の名前を書き、書類をコノハへ返却した。
「ありがとうございます、そして、お疲れ様でした。これで茂木望さんの昼ノ部推進委員会への入会手続きは終わりました。この後、制服とかお渡しするので、少し待っててくださいね」
コノハはユイの目の前の席から立ち上がり、書類を持って応接室をあとにした。
再び訪れた静寂。
誰もいなくなった事で緊張も解け、伸ばしきった背筋も緩む。
ほんの少しの休憩。
しかしその時、緩むユイを揺るがすものがあった。
爆発音である。
「うわぁっ!」
外から聴こえた爆発音は瞬く間に応接室の窓を震わせ、静寂を吹き飛ばし、間接的にユイも震わせた。
驚きのあまり緩むどころではなくなったユイは急いで机の下へ隠れ、そして頭を守るようにしゃがみ込む。
机の下で震え、縮こまるユイに「どうしたのですか?」とコノハが訊いてくる。
その手にはプラ袋に入った制服のようなものがあった。
「ばばば、爆発が、き、聞こえました」
爆発音とコノハがいた事、両方に驚きながら窓をめがけて指をさす。
「あー、ドンパチやってますね」
コノハが立ち上がり、スモークガラスの窓を開ける。
ギシギシと音を立てながらも摩擦を受けつつ窓が動く。
続けてユイが机の下から這い上がり、恐る恐る外を見る。
そこには季節に合った桜の木々と、学園市街地の街並み、その中から一際目立つ大きな煙が上がっていた。
「なんですか、あれ」
「おそらく昼ノ部と不良生徒が衝突してるのだと思います。さっきもホノカさんが出動したでしょう?多分そこにいるんだと思います」
コノハは爆煙の足元を指さして説明した。
まるで日常茶飯事であるかのように。
すると激しい爆音と共にに2本目の爆発が起こる。
当然のことながら音波と空気波が室内を揺らす。
ユイは「ひいっ」と細い声を出して音と恐怖で縮んでいた。
「ホノカさんならきっと制圧できるでしょう」
コノハは2本目の爆発に諸共せず、遠く、煙の発生元を見ている。
その目にはユイと違って恐怖や緊張、心配が立ち入れない、曇りなき眼であった。
音読、お疲れ様でした。
私の脳内で展開されている世界を数少ない語彙力で表現したものです。
ありきたりですが、作者ってこんな趣味してんだなーとご理解ください。
こんな感じの世界観でユイさんには頑張っていただきます。
新キャラとか脳内にたくさんいるので頑張って具現化します。
ではまた次回。
近い内に投稿するように務めます。