精霊幻想記 ~術士たちの新たな旅~   作:山上真

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第13話

「すみません。この場にアイシア――俺の契約精霊がいたのなら話は別だったのかもしれませんが、生憎と今は別行動を取ってまして……」

「てかよ、本当に契約精霊なんていんのか?」

 

 リオが頭を下げると、そこに弘明が絡んだ。

 

「おい、坂田」

「いや、だってよ。どうにも契約精霊ってのは、ゲームなんかの召喚獣とは違ってその都度に召喚するってもんでもねえんだろ? だったら、何だってわざわざ契約者と別行動をする必要があるんだよ?」

 

 シュトラール地方で精霊術が廃れていることや、アイシアが別行動を取っておりこの場に不在なことを鑑みれば、弘明の疑問は道理といえば道理だ。しかし、どうにも言い方がよくない。理由を告げた上で懐疑的な言葉を発するのならまだしも、この言い方ではリオの言い分や、そもそもこれまで説明した展開そのものを否定することにも繋がりかねない。

 

「お前、きちんと話を聞いていたか? 俺たちの話と、今の俺たちの人数には決定的な違いがあるだろうが。アマリはまだしも、美春さんと亜紀ちゃんには戦闘能力がないからな。アイシアはその護衛に就いてくれてるんだよ」

 

 同級生だったこともありある程度は弘明の性格を知っているイオリだが、当時よりも酷くなっていると感じざるを得なかった。

 勇者として召喚されたことの特別感に酔っているのか。そう見当を付けながら、呆れた表情を隠さずにイオリは弘明を窘めた。この世界の者にとって弘明は勇者なのかもしれないが、イオリにとっては違う。勇者であることを認めてはいるが、それだけだ。名ばかり勇者に払う敬意などない。

 

「付け加えると、勇者であることを引き受けたんならそれに相応しい振る舞いを心掛けろ。日本で言えば、ハルトはまだ中三か高一だぞ。ハルトがイケメンなのは認めるし、お前のイケメン嫌いも知ってるが、限度ってものがあるだろう」

「……は? マジで? その割には大人びてねえか?」

「それだけ苦労してきてるんだよ。……今のお前、俺から見ると『ヨイショされて有頂天になって、そのくせ自分はそのことに気付いてない成金』と大差ないぞ。名ばかり勇者の扱いで是とできるんなら、それでも構わないけどな」

「な! ……ぐ……」

 

 イオリのあまりにも直接的な言葉に激昂しかけた弘明だが、その言葉は尻すぼみになった。彼自身、否定しきれなかったのだろう。

 

「……さて、話を戻します。沙月さんやフランソワ陛下たちと話し合ったあと、自分は雅人を沙月さんに預けて国境砦に戻りました。その後は別行動を取っていたハルトの仲間と合流し、一旦アマンドへ向かいました」

「アマンドへ?」

「ええ。何せドグマや精霊術で清潔さを保持してはいましたが、途中で砦を出た俺や、元が旅人で着替えのあったハルトと違い、女性陣は着の身着のままでしたからね。替えを用意するのは早急に必要な重大項目でした」

「それは……そうでしょうね」

 

 女性陣は揃って同意を示した。清潔さを保持できればそれで良いというものでもないのだ。

 

「買い物がてら情報収集をして、その過程でリーゼロッテ会頭が不在なことや、西の森――この町から見れば東の森に赴いた人たちがいつも以上に行方不明になっていることを知りました。……折しも勇者召喚なんてものが行われた後ですしね。そのことを踏まえれば無視するわけにもいきませんでした」

「それは、どうしてです?」

 

 訊ねたのはフローラ王女だった。小首を傾げている。

 

「この世界の人にとってはどうか分かりませんが、別世界の出身である自分たちにとって、召喚される勇者なんてのは『頻出する異常への対処係』と大差ないんですよ。自分たちではどうしようもないから、無理矢理にでも他の世界から召喚して対処を押し付けるわけです。一方の勇者も、何せ召喚された身の上です。地盤も何もあったものではないから、生きるためには否が応でもやらざるを得ません。……これがひねくれた見方であるのは認めますが、現実的に考えるとそうなってしまうんです。創作物のように綺麗事ばかりが罷り通るわけではありませんからね」

「……なるほど。私たちは伝承があるから勇者召喚について割合素直に受け止めてましたが、伝承が全てを語っている筈もありません。勇者様が召喚された理由を考える必要がある。……と、こういうことですね?」

 

 リーゼロッテが口を開く。前世の記憶を有するがゆえ、イオリたちの考えにもすんなりと理解を示した彼女は、それとなくフォローに回ったのだ。

 

「そういうことです。そんな状況で常ならぬ事態が起こっていると分かれば、調べない理由はありません。事は沙月さんや貴久さんにも関わってくるでしょうからね」

 

 ガルアーク王国に勇者として召喚された沙月は美春、亜紀、雅人の友人だし、セントステラ王国に勇者として召喚されただろう貴久は亜紀と雅人の兄にして美春の友人だ。美春たちを介して間接的な関わりがある以上、イオリたちが自主的に調査する理由にもなり得るのだ。

 

「そして、森の中で遭遇したのがコイツ等です。画面が小さいのは難ですが、そこは我慢してください」

 

 言いながら、イオリはスマートホンを取り出して操作した。小さな画面の中で、撮影された映像が再生される。中心となっているのはリオだ。

 

「それはイオリたちの世界の道具でスマートホンといい、それ一つで様々なことができるんだそうです。もっとも、異世界であるここでは使えない機能もあるそうですが……。そして、この世界でも実行可能な機能の一つに録画というものがあります。これは録画中の出来事を映像として残しておくことができ、消さない限りは何度でも確認可能とのことです。その映像はアマリに説明を聞いて私が録画したものです。初めての操作なので覚束ない部分もありますが、そこはご容赦ください」

 

 セリアが補足を入れる。

 調査に赴いたとき、アマリは自分のスマートホンでイオリをメインに撮影し、セリアはイオリのスマートホンでリオをメインに撮影した。そうすることで役割分担をしたのだ。

 セリアが言った通り覚束ない部分はあったが、それでも必要な部分は見て取ることができた。リオの際立つ実力の高さもまた然り。

 

「初めて見る魔物だな。少なくとも、私の記憶にはない。それにしても、なんという耐久性と回復力の高さか……。よもや、心臓を剣で貫いてもすぐには死なないとは……」

「この町でも森に赴いた者たちが行方不明になっていると報告を受けてはいましたが……。申し訳ございません、リーゼロッテ様。行方不明者が増加傾向にある報告は受けていましたが、魔物や害獣による被害と受け止めていた私の落ち度です。いえ、確かに魔物被害には違いないのでしょうが、よもやこのような魔物が潜んでいようとは……」

「頭を上げてください、ボクサ準男爵。同じことはアマンドの代官を務めている私にも言えます。私もまた、このような魔物のことは把握していませんでした。行方不明者が増加傾向にあることは報告を受けていましたが、代官として動くには時期尚早だと判断していたのです」

 

 それぞれが渋面を浮かべる。特にボクサ準男爵が深刻だが、広大な森の調査は簡単にできることではない。ノワの町の保有戦力でどこまで調べられるかも分からず、調査員が二次被害に陥る可能性を踏まえれば、準男爵が二の足を踏むのも無理はない。

 そして何よりも、人を出すとなれば金がかかるのだ。万全を整えようとすればするほどに、そのコストも跳ね上がる。

 それはアマンドにしても同じことだ。戦力的な意味ではノワよりも充実しているが、それだけ仕事が多いことも意味している。そう易々と人手は割けない。だからといって少人数を割り振ったところで、どれだけのことが分かろうか。

 古今東西、魔物や害獣の返り討ちに遭い、結果的に失踪として扱われる冒険者は珍しくもないのだ。武力を持たない民間人なら尚のことである。それが街中で起こったならまだしも、森の中とあっては『不幸な事故』で片付けられるのが大半だ。

 先述したコストの問題もあり、たとえ行方不明者が増加傾向にあったとしても、比率的に誤差の範囲で済むレベルならば、領主として中々重い腰を上げることはできないのだ。

 

「しかし、倒しても死体が残らねえってのは厄介だな。これじゃあ、目撃者が報告を上げてもそう簡単には信じられねえだろ」

 

 そんな中、弘明がガシガシと頭を掻きながら言った。

 

「まさしく、それがこの魔物の厄介なところだ。もしかしたら報告は上がっていたのかもしれないが、役所やギルドの途中で信憑性なしと判断された可能性も否定はできない。そんなわけで、アマリ、美春さん、亜紀ちゃん、アイシアの四人には先行して王都に向かってもらい、沙月さんを介してフランソワ陛下に報告してもらうことにした。向こうにはアマリが録画した映像があるから、証拠としては問題なく機能するだろう」

「自分も確かに陛下から召喚状を寄越されましたが、生憎とやることがありましたので……。赴けばいつ解放されるかも分かりませんし、陛下には申し訳ありませんが先にそちらを片付けさせてもらうことにしたわけです。アイシアには美春さんたちの護衛の他、その説明もお願いしています」

 

 ここにきて、アマリたちと別行動を取っている理由が明かされた。

 

「なるほど。国王陛下を動かすなど、普通に考えれば難易度の高さ故に頭から切り捨てるだろうが、君たちであれば例外的に可能なわけか。少なくとも、ガルアーク王国の勇者様を介することで報告を上げることはできるし、信憑性を持たせることもできる。そして他ならぬ陛下の口から注意喚起が齎されれば国民は気を付けざるを得ないし、それは他国も同じだろう。国王の口から発される以上、ある程度の確度があってのことと他国も考えるだろうしな。……まさに妙手と言えるだろう」

「自分たちはハルトの用件を済ませるために彼女たちとは別行動を取り、今はそれを済ませた帰りがけというわけです。……それであのブラックワイバーンなんですが、何かに操られているフシがありました。完全に支配されているわけでもなさそうでしたが、一種の行動制限は掛かっていたでしょう」

「うん? それはどういう……」

 

 いきなり話題がブラックワイバーンへと飛んだため、ユグノーが首を傾げる。時系列的におかしいことではないが、移動手段を徒歩や馬で考えていては中々に噛み合わない。

 

「補足を入れさせていただきますと、ハルトにイオリ、それからここにいないアイシアとアマリは、それぞれが精霊術なりドグマなりで空を飛ぶことができ、背負ったり抱きかかえたりすることで他の者を運ぶことができるのです。それにより、徒歩や馬では比較にならないほどに移動時間が短縮されるのです。その時も空を移動していたのですが、当然ながらブラックワイバーンに気付きました。私はその存在に驚いていただけですが、二人はブラックワイバーンの行動に疑問を抱いたのです。何かを探しているか示威行動か、私があの行動に理由を付けるとすればそこら辺でしょう」

「だろうね。事実、私たちもそのように見当付けた。とは言え、我々の手に負えるものではなく、下手に刺激を与えて暴れさせるなど以ての外だ。然るに、周辺都市に魔道通信具で警告を発し、最悪の事態に備えて住民たちに避難の用意を促すことで結論付けた段階だったのだ」

 

 ユグノーはブラックワイバーンの行動については同意を示す一方、イオリたちが空を飛んで移動していることには言及しなかった。とはいえ、疲れた表情で眉間を揉んでいる辺り、聞いていなかったわけではなさそうだ。突っ込む気力もないのだろう。

 

「順当な結論だと思いますが、二人にとっては違いました。そういう行動を取らないわけではないだろうが、それを続けるほど我慢強くはない。ある程度やって手応えがなければ、適当に突っ込んで暴れ回る。そういう我慢弱さ、知能の低さ、傍迷惑さ、それらを兼ね備えているからこその亜竜であり、人々から天災扱いされているのだろう……と。それから外れた行動を取っている辺り、何らかの異常が起こっている可能性があると二人は判断したんです。そう言われると、私も否定はしきれませんでした」

「我慢弱さに知能の低さに傍迷惑さ……ですか。猶予がある。そう考えて行動している時点で、私たちはあれに対する危機感が足りなかったということですか……」

「そして、そんな猶予を与えられている時点で、何かがおかしかったということか……」

 

 セリアの説明を聞き、リーゼロッテとユグノーは顔を顰めながらも一定の理解を示す。自分たちの行動にケチを付けられたことになるが、否定しきれる要素もないからだ。そもそも、二人は為政者であって戦闘者ではない。意見の方向性に偏りがあって当然だった。

 事前にどれだけ備えていたとしても、いざ現実に起こった時にきちんと対処できるかは分からない。天災とはそういうものだ。まして、今回は突発的遭遇である。その上で災難を逃れられるとすれば、他のどこかが被害を被ることで、自分たちの逃げる時間を確保してくれたから。理屈で考えればそうなるのだ。如何に強大な力を持っていたとて、ただ空をうろついているだけならば天災足り得ないだろう。

 

「実際、近付いてみましたが、あれは軽く吠えたり睨みつけたりしてくるだけで、直接的に排除しようとはしてきませんでした。こうなると、何らかの形で縛られていると考えるのが妥当です」

「確かめようとするその行動自体が信じられませんが、反応からはそのように思えますね」

「ええ。まあ、だとしても邪魔なことに違いはありません。しかし、いくら相手がブラックワイバーンとはいえ、操られているだけの相手を仕留めるのも気が引けます。そんなわけで浄化のドグマを用いました。かつてはエンデの支配下にあった術士を解放したこともあるので、実際に何者かの支配下にあるのなら解放できると思ったんです。結果、確かに解放はされたんですが、こちらに八つ当たり気味に仕掛けてきたので返り討ちにした次第です」

「大型のブラックワイバーンを単独で返り討ちか。気楽に言うだけでなく、それを実際にやって見せたんだから開いた口が塞がらないよ。正直、今でも信じられないくらいだ」

 

 頭を押さえながらユグノーが顔を横に振る。他の者も同意見のようでしきりに頷いていた。

 

「ところで、ブラックワイバーンってどれくらいの値が付くか分かりますか?」

「何とも言えませんね。そもそも、そのような事例があったかどうかすら調べてみないと分かりません」

「そうなりますか。いえ、言った通りに自分には地盤がありませんし、クレーターも作ってしまったので。高値が付くようなら家の購入費用や、クレーター整備の補填費用に充てようかと思いまして、それで訊いてみた次第です」

「ああ、そうですね。ブラックワイバーンが仕留められて安全が確保された代わり、そちらの対処が必要になったんでした……」

 

 ブラックワイバーンの討伐など、調べてみない限りは前例があるかも分からない。また違った意味で厄介な対処が生じたことに、リーゼロッテは疲れた表情で首を横に振るのであった。 

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