精霊幻想記 ~術士たちの新たな旅~   作:山上真

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第17話

 話し合いは、長く多岐に亘った。

 

「……ふむ。取り敢えずの情報共有は済んだか。人によっては新事実が発覚し、それはこれからの助けにもなるだろうが、やはり情報が足りんな。まあ、程度の違いはあれ危機感の共有はできたであろうから、その点は是とするべきか」

 

 難しい顔でフランソワが唸った。

 何も進展がなかったわけではない。特にセシリア=セリア・クレールということが知れたのは、フランソワにとって大いなる躍進だろう。他国にまで名を轟かせる魔術研究の第一人者がセリアなのだ。当面は表立って正体を明かすことができないにせよ、その助力を得られるのならこれからの進展に一歩も二歩も期待できることになる。

 無論、当人の能力だけでは如何ともしがたい部分があるのも事実だ。環境や設備などは、当人の努力だけでどうにかなるものでもない。だがそれも、他ならぬフランソワの後押しがあるのなら話は別だ。そこに巨大商会の会頭であるリーゼロッテの助力も加われば、更なる期待が持てるのは間違いない。

 だが、それでも、現状では分からないことの方が多いのだ。

 

「やはり人手が足りませんわね。魔術面ではセシリア様が、精霊術面ではハルト様とアイシア様が協力してくださるとはいえ、向き不向きがあって然りですから」

「そうですね。先生はともかく、俺もアイシアも研究者というタイプじゃありませんから。精霊術に関しては便利使いできるから使っているというのが正直なところです」

 

 シャルロットの言葉にリオが同意した。

 

「……人手についてですが、心当たりがないわけではありません」

 

 そして、難しい顔をしながらリオは続けた。

 

「ほう?」

「未開地以東に住まう精霊の里の民、あとはヤグモ地方に存在するカラスキ王国。もしかしたらですが、彼らの助力を得られるかもしれません。ですが、そのためには陛下にも骨を折っていただく必要があります」

「詳しく申せ」

「精霊の里に住まう人たちは、全員が亜人族なんです。シュトラール地方では迫害が相次いだため、現在の場所に隠棲した経緯があります。これだけを聞くと協力を得られるとは思えませんが、同時に彼らは精霊を信仰している存在でもあります。実際に里では準高位精霊であるドリュアス様が祀られていますし、俺が縁を深められた一因に人型精霊であるアイシアと契約していることがあったのは否定できません。ですので、そんな彼らにとって現在の推測は毒にも薬にもなるでしょう」

 

 勇者の神装に六大精霊が封じられているかもしれない、或いは神装その物が六大精霊かもしれない。それが一同の抱いた推測だ。

 そんな情報を精霊を信仰している者たちが聞いた場合、まず間違いなく爆発する。何とかして救い出そうとするだろう。

 

「とはいえ、彼らがどう思おうと、彼らだけでそれが為せる確証はありません。十中八九は賢神の仕業でしょうからね。それが六賢神によるものなのか、シュトラール地方では数えられていない残る一柱によるものなのかまでは分かりませんが……」

「我らとしてはそれを認めたくはないのだが、その可能性を否定できんのも事実ではある。しかし、だからこそ、この曖昧な状況を脱する必要があるとも思っている」

「それ故の陛下の骨折りです。神装の件はさて置いても、シュトラール地方における亜人族の扱いに対し、彼らが忌避感を抱いているのは確かです。そんな彼らの助力を得ようとするならば、根本問題をどうにかする必要があります。とはいえ、如何な陛下でもシュトラール地方全域にどうこうするのは不可能と言ってもいいでしょう。しかし、陛下の治めるガルアーク王国に限れば話は別となります。すぐに結果は出せずとも、緩和の動きを示してみせることは可能な筈です」

 

 リオは一国の王であるフランソワに対し、臆せずに言い切った。

 

「難題ではあるが、精霊の里の民とやらの助力を得ようとするならば道理であるな。いや、或いは……」

「お父様?」

 

 難しい顔で同意したフランソワは、何事かを考え込んだ。シャルロットが問いかける。

 

「いや、ともすれば『亜人族の迫害』すらも意図して行われたものではないかと思ってな」

「それは……」

 

 誰も否定はできなかった。神装に対する推測が真実だとして、そのことに真っ先に気付きやすいのは同じ精霊か精霊術士だろう。だからこそ、精霊術を扱う者たちを迫害し、シュトラール地方から追いやった。そういう推測も、できなくはないのである。

 

「そして神装のことを考えるとな、どうしても魔剣を考えずにはいられん。あれは『神装の練習品』なのではないかとな……」

「頷ける話です。そも、どれだけ自信があったところで、早々ぶっつけ本番などできるわけがない。まずは練習から入るのが道理でしょう。……下位精霊はこれといった意思を持たず、中位精霊からは生物を象り意思を持ち始めるとのことです。これが一般的な魔剣と上位魔剣の違いと捉えることもできます」

 

 魔剣とは文字通りに『魔法を込めた剣』だが、狭義的には『現代の魔法技術では再現不可能な出力や現象を起こせる古代魔術具の一種』という意味合いを持つ。そして、後者に数えられるのが上位魔剣である。上位魔剣は『使い手を選び、適性がなければ能力を発揮できないことが多い』と言われているが、その原因が『封じられている精霊の違い』という可能性もなくはないのだ。神装と違って自由な出し入れができないのは、それこそ『練習品だから』という身も蓋もない一言で済む。

 

「俺の剣も魔剣ですが、これは件の里に済むエルダードワーフの人が打ってくれた物です。流石にそれはないと思うのですが……」

「いえ、分かりませんよ。要は正規品か違法品かという話です。亜人族の迫害、神装、人魔戦争、いずれが先に起こったのかは分かりませんが、魔術と精霊術の間で対立があっただろうことは容易に想像がつきます。そんな状況では、道徳や仁義など蔑ろにされるでしょうし、正規品に対抗すべく違法品が創られて然りです。ハルトさんの持つ『精霊術士が打った魔剣』を正規品だとするなら、アリアの持つような魔剣が『魔術師が創った違法品』という推測は十分に成り立ちます」

 

 苦い顔で否定するリオだったが、それをリーゼロッテが否定した。人気品が出れば、パチモンが出るのは世の常である。そしてパチモンの中には、明らかに偽物と分かるような代物から非常に精巧な物まで実に様々だ。それが魔剣に適用されない理由はない。

 

「違法品とまでは言わないが、魔剣の中には精霊を剣に宿して使い手と契約するタイプの物が存在する可能性はあるだろうな。実際、剣じゃないけど似たような物を俺たちは知っている。『剣が使い手を選ぶ』って下りはそっくりだ。魔術・精霊術間で対立が起こった可能性は否定しないが、協力関係も否定はできないだろう。だったら、言わば合いの子、ハイブリッド作品が生まれる可能性だって十分に存在する」

 

 そこへイオリが口を挿んだ。その言い分も決して否定できるものではない。

 

「はいはい、そこまで。気持ちは分からなくもないけど、ちょっと脱線し過ぎよ。現状では考えても分からないんだから、今は魔剣から離れましょう?」

 

 パンパンと手を叩いて、沙月が場を改めた。

 

「うむ、サツキ殿の言う通りであるな。国内全土で一気にとは言えんが、少しずつでも亜人族に対する迫害の緩和に取り掛かるとしよう」

「しかし、それが必要なのは分かりますが実行は難しいのではありませんか? シュトラール地方における亜人族には後ろ盾となる存在がいない。件の精霊の里が後ろ盾になるにしても、距離がありすぎてどこまで役に立つか……」

「そこなのよな、問題は……」

 

 それも事実だった。シュトラール地方において、亜人族への蔑視・迫害は強く根付き過ぎているのだ。それをどうこうしようと思えば、国王たるフランソワとてそれなりの理由が必要となる。大々的に執り行おうとすれば尚更だ。その一方で、表に出せる理由がない。

 

「確認ですが、未開地は誰の土地というわけでもないんですよね?」

「そうだが……それがどうかしたか?」

「いえ、いっそのこと未開地に国をでっちあげてしまおうかと思いまして」

「国をでっちあげるだと!?」

「人が集まって組織となるわけですが、国も結局は規模の違いでしかないわけですからね。国民は人間もいれば亜人族もいます。国名は六大精霊にあやかってヘキサグラム精霊国。ヘキサグラムとは俺たちの故郷の言葉で六芒星を意味します」

「ふむ、面白い。余りに危険すぎて、未開地に足を踏み入れる者など今やほとんどおらぬ。精々が一部の跳ねっ返りくらいだ。我が国も以前はヤグモ地方にあるというロクレン王国と国交があったが、それも途絶えて久しい。だからこそ、今現在、未開地に国があったとて否定することはできん」

「いえ、それでも後ろ盾として機能するかは別問題なのでは?」

「それも問題はない。要はすぐに抗議できる人物がいればいいのだからな。実際に国がある必要もない。……ふむ、バックストーリーはこんなものでどうだ?」

 

 そうして、フランソワは即興で思い描いたバックストーリーを語る。

 ベルトラム王国の王都で育った移民の子リオは、悪漢に親を殺されてスラム街での生活を余儀なくされる。後に王族を助ける機会があり、その恩賞として王立学院への入学を認められるも、そこでも蔑視を免れなかった。最終的には冤罪を掛けられることとなり国を出奔。

 リオは両親の出身地だというヤグモ地方へ向かう途中、ベルトラム王国の貴族から放たれた暗殺者を返り討ちにするも、それが隷属の首輪で縛られた、自分よりも幼き亜人族の娘であったことから哀れに思い、精霊術を用いて首輪より解放、旅の道連れとする。

 そして未開地を旅する途中、精霊を信仰するという亜人族で構成された村へ立ち寄る機会を得た。自身が高位精霊と契約していることもあり、人間にも拘らず村からの強い信頼を得たリオは、連れ立ってきた亜人族の娘と義兄妹の契りを交わす。束の間の安息を得たリオは、村へと義妹を残し、再会を約束してヤグモ地方へと向かう。

 無事にヤグモ地方へと辿り着いたリオは、そこで自身の出生の秘密を知ることとなった。なんと、リオは王族に連なる身の上だったのだ。

 当時は隣国との戦争中にあった王国だが、いつまでも戦争を続けていられるわけがない。停戦交渉に至るのは道理であり、その最中、交渉相手である隣国に王国はハメられた。王女にして美姫として有名な母親に、隣国が手を出してきたのだ。護衛騎士であった父親がその相手を返り討ちにしたわけだが、その相手が問題だったのだ。

 戦時中とはいえ、同時に停戦交渉中の出来事。相手に先手を取られたことにより途端に不利になった王国だが、二人の仲の良さを知っていた国王は、原因となった二人を密かに国から逃がすことを決意。そうして国を出奔することになった二人は、未開地をも超えてシュトラール地方にやってきて、そこでリオを産んだのだ。

 一方の王国も、隣国を返り討ちにすることで勝戦国となった。勝ったからには諸々の有利な条件を一方的に吞ませることも可能となる。それにより事の経緯を明らかにし、開戦の切っ掛けとなった二人の名誉も既に回復されている。

 それもあり、王族として国に所属することを祖父たる国王から求められたリオだったが、心苦しく思いながらもそれを拒否した。シュトラール地方に心残りがあったからである。

 一つは、シュトラール地方における亜人族や移民の扱いである。未開地で亜人族の世話になったばかりか、亜人族の娘を自身の義妹としたリオは、自身の過去も合わせ、シュトラール地方における亜人族や移民の扱いに我慢がならなかったのだ。

 一つは、両親の仇討である。自身の親を殺した悪漢を、リオはどうしても許せなかったのだ。

 とはいえ、どちらを果たすにせよ個人でできることではない。それを聞いた国王は、リオの心情に理解を示すとともに、その一助となるべく人を付けることにした。かつてリオの母親に仕えていた者たちである。

 図らずも家臣を得たリオは、彼らを引き連れて義妹の待つ亜人族の村へと帰還。自身のルーツと思いの丈を語ったリオは、村人たちからも理解と協力を得て建国に着手する。そうして出来上がったのが精霊国ヘキサグラムであり、初代国王の座に就いたリオは目的を果たすべく精力的に活動を始めたのであった。

 

「即興にしては良くできていますね。まあ、ところどころ物語にありがちな部分がないではないですが、だからこそ共感も得やすいというものでしょう。ベルトラム王国の扱いが悪いですが、概ね事実ですので否定もできません」

「はい! リオ様が王族であるのなら、うちの国も高らかに非難はできないと思います」

「私が言えたことじゃないですが、ベルトラム王国は人材流出が激しいですからね。身分が低いという一点だけで、どれだけ有為な人材が国を出ていったか分かったものじゃありません。そこのアリアもその一人ですし……」

 

 などと、他ならぬベルトラム王国の王侯貴族であるユグノー、フローラ、セリアが感想を言い合う中、図らずも主人公に据えられてしまったリオは沈黙を保っていた。

 

「リオ、どうしたの? やっぱり主人公に据えられて嫌だった?」

「い、いや……」

「概ね間違ってないから困惑してるだけ」

 

 そんなリオの様子にセリアが小首を傾げて問いかけ、リオはしどろもどろになり、アイシアがその理由を告げた。

 

「んん? それはどういうことだ?」

「カラスキ王国の現国王カラスキ・ホムラと王妃であるカラスキ・シズクの娘であるカラスキ・アヤメがリオの母親。アヤメの護衛役だったのが父親であるゼン。今の作り話と違いがあるとすれば、両親は近隣諸国において開戦の切っ掛けを作った大罪人として指名手配されている。国王を始めとする真相を知る人たちはリオのことを喜んでいるけど、公に王族として扱われることはない」

「なんとまあ……」

 

 アイシアの補足に、話を作ったフランソワは呆気にとられるのであった。まあ、驚いていたのは全員一緒であるのだが。  

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