精霊幻想記 ~術士たちの新たな旅~   作:山上真

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スパロボと同じくアル・ワースから跳ばされる展開も考えましたが、美春たちに巻き込まれてもらうことにしました。
なお、現在のイオリたちは普通の私服です。術士の恰好ではありません。


第1話

 次の瞬間、周囲の景色は一変していた。市街地の中から、広大な自然へと。辺りは一面の草原地帯で、他に視界に入るものといえば岩、丘、山くらいだ。

 また、明確なまでの違いとして大気に満ちるオドの有無が挙げられた。イオリたちが先ほどまでいた地球は、これほどまでにオドが満ちてはいない。魔法が日常的だったとされる神話の時代であれば違うのかもしれないが、少なくとも今現在は無いに等しい。

 これは大きな違いだった。景色が違うだけなら、地球内の別の場所に跳ばされただけという可能性も僅かながらあったのだ。ホープスのセリフから可能性自体が低かったが、そもそもにして確認できたのもほんの僅かな間だったのだ。である以上、ミスがないとは言えない。しかし、オドの量という明確な違いが、その可能性を否定する。ホープスの言った通り、自分たちは異世界に来てしまったのだろう。

 それでも、魔法陣の対象であった二人を除き、あの場の全員が揃っているのは間違いなく幸いだろう。

 

「なあ、兄ちゃん。いい加減に放してくれねえかな? 痛えんだけど」

 

 ザっと状況を確認するイオリの耳に、そんな声が届いた。

 

「っと、すまない。取り敢えず、悪い事態であることに違いはないが、それでも最悪の事態にはならなかったようで何よりだ」

 

 少年から手を放したイオリは軽く謝罪し、その後に安堵の言葉を洩らした。

 

「ここが何処かはサッパリだし、闇雲に動くのも危険ではあるが、この場で待機してもそれは同じだからね。歩きながらでも、互いの自己紹介と簡単な状況確認を行いたいと思うけどいいかな?」

 

 相手グループの中では最年長だろう高校生の少女へとイオリは訊ねる。必ずしも年上が責任者になるわけではないが、大抵の場合、年長者が責任を負うことになるのは間違いない。年少者が責任者に収まる場合、経歴なり能力なり、相応の理由が必要となる。イオリの見たところ、相手はいずれも年相応の一般的な少年少女といった感じだった。である以上、酷だが年功序列を求めざるを得ない。

 

「え、ええ、そうですね。とは言え、正直、私自身何が何だか分かっていないので、状況の確認といってもどこまでお役に立てるかは分かりませんが……。

 取り敢えず、私は綾瀬美春といいます。高校一年生です。と言っても、入学したばかりですが……」

 

 状況に困惑しながらも、高校生の少女――美春は口を開いた。

 自分も巻き込まれている以上、他人のことを言えたものではないが、入学早々に災難なことである。

 

「えっと、私は千堂亜紀で、こっちは弟の雅人です」

 

 美春に続き、亜紀と雅人が名乗り軽く会釈する。

 

「ありがとう。俺は葵伊織で、彼女は天野亜真里、こっちはホープスだ。……ホープス、近くに道がないか確認してくれ」

「仕方あるまい。少々待っていろ」

 

 続いてイオリたちが名乗り、ホープスが空へと飛んだ。

 

「暫し歩くことになるが、向こうの方に整備された道があるのを確認した」

 

 そうして、待つこと暫し。イオリの肩に止まったホープスが、とある方向を指し示す。

 それを機に、もはやお決まりに等しくもなったホープスが喋ることに対するやり取りが行われながらも、一行は示された方向へ足を進めるのであった。

 

「改めて状況の確認を行うが、前提としてここは異世界だ。地球でなければ日本でもない。……それはいいかな?」

「日本でないのはともかく、異世界って……本当なんですか?」

「まず間違いなくね。この世界にはオドが満ちている。魔法の廃れた現代の地球ではあり得ないことだ」

「魔法……ですか?」

「ああ。残り二人の足元から魔法陣が浮かび上がったのを見なかったかい? ホープスによると、あれは異世界召喚の術式らしい」

「沙月さん――一緒にいた女性とお話をしていたら急に視界が歪んだ気はしますが、魔法陣とかは……」

 

 イオリの言葉に、美春はそう言って首を横に振る。

 

「二人はどう? 魔法陣とか見た?」

「お兄ちゃんとお話していたら景色が歪んだ気はするけど、魔法陣とかは……」

「俺も同じ。景色が歪んだような気はするけど、魔法陣とかは全然」

 

 三人の言葉にイオリとアマリは顔を見合わせる。

 

「三人の場合、単に魔力を視認できなかっただけだろう。それでも魔法が行使されたのは事実なので、それを『景色の歪み』という形で捉えたのだと思われる」

 

 ホープスの言葉を受けてイオリとアマリは納得した。二人にとってドグマは身近なものであり、だからこそ魔力の視認も無意識のうちに行っていたが、何の心得もなしにできることではないのも事実だ。

 

「時間の短さもあり、私自身も術式を理解しきれたわけではない。だが往々にして、類似現象には類似項目や共通項目が存在するものだ。我々の扱う魔法である『ドグマ』とは、言語が違えど術式が違えど、それがオドや魔力を介して発動した魔法である以上、何となく分かるものはある」 

「それに、幸か不幸か、召喚だったりアクシデントだったりとまちまちだけど、俺たちは異世界間移動に慣れていてね。世界の壁を超えたのは肌で理解できた」

 

 イオリたちの言葉に、美春たちは顔を呆けさせた。荒唐無稽過ぎて信じきれないのだろう。

 そんな中、雅人が口を開いた。

 

「なあ、もしかして兄ちゃんたちって以前にニュースでやってた巨大ロボット騒動に関わってる? 魔法っぽいものを使ってるロボットもいるって話だったし……」

「そのものズバリで当事者だよ。ある日突然、『アル・ワース』っていう異世界に召喚されてね。そこでドグマも覚えた。その後、ああいう騒動に巻き込まれて色々な世界に行って、それが一段落ついたんで戻ってきたところだったんだ」

 

 言って、イオリは指先に火を灯す。簡単なドグマだが、それでも魔法である。手品と違って物理的な種や仕掛けはない。

 

「本当に、魔法なんですね……」

 

 感嘆の表情を浮かべ、美春が口を開いた。論より証拠とばかりに見せられれば、否が応でも認めざるを得なかったのだろう。

 

「なあなあ、兄ちゃん! 俺も魔法が使えるようになれるのか!?」

「覚えることはできるし、使うこともできるだろう。ただし、どこまでやれるかは才能と努力、そして『破壊の意思』次第としか言えないな」

 

 ワクワクとした表情を浮かべて問いかける雅人に、イオリは苦笑を浮かべて答えた。魔法に憧れる気持ちは分からないでもない。

 

「破壊の意思、ですか? 何だか物騒な響きですね」

「否定はしないよ。だが、薄弱な意思では何も成せないのも事実だ。誰に何を言われようと、どう思われようと、為そうと思ったことを為す。そういう強固な意思があってこそ、ドグマは力を発揮する。意思を以て不都合な現実を否定し、望む現実を掴み取るのは何もおかしなことじゃあない。……ま、一歩間違えればただの独り善がりになってしまうけどね」

「それだけ聞くと、なんて言うかアレですね。そこらの一般庶民が一流アイドルなり大女優なりプロのスポーツ選手なりを目指せば、まず間違いなく『無理だ』っていう人がいますけど、それを撥ね退けて夢を叶えるシンデレラストーリーみたいな……」

「極論すれば同じことさ。ドグマはそのための方法の一つでしかない」

 

 言葉を重ねるうち、幾らか緊張も解れてきた。ホープスが口を開いたのはそんな時だった。

 

「どうやら馬車がくるようだぞ、マスター」

「思ったよりも早かったな。どうやら幸先は良さそうだ」

 

 道を目指したのは、通行人と出会えることを期待している部分もあった。道がある以上は、人が通ることを意味している。

 イオリがその旨を説明すると、美春たちも理解したようだった。感嘆の表情を浮かべる。

 

「凄いですね。ここに跳ばされてきた時から、そのことを考えていたんですか?」

「まあね。そもそも、次元跳躍っていうのは相応に大きな痕跡を残すんだ。衝撃なり震動なりね。この世界の事情が分からないから確かなことは言えないけど、それを察知できるものが一人もいないってのは正直に言って考えにくい。だから、時間を置けば誰かが調査に訪れる可能性は高いと思った。……まあ、件の馬車が調査するために来たのか、それともただの通りすがりなのかまでは分からないけど」

 

 実際、調査員が派遣されたにしてはあまりにも早過ぎる。通りすがりの可能性の方が高かった。

 

「ただまあ、人が来るからといって安心はしないでください。来るのが善人か悪人かも分かりませんし、召喚に巻き込まれた身である私たちの場合、言葉が通じるかどうかも分かりません。政治体制によっては奴隷制度が適用されている可能性もあります。そして悪質な商人の場合は相手を無理矢理奴隷にすることも厭わないでしょう」

「……そっか、そういう可能性もあるんですね。正直、そういう可能性は少しも思い浮かびませんでした」

 

 神妙な表情で美春は頷いた。

 

「ま、無理もないさ。俺たちの場合は、そういうのを思い浮かべやすい状況にあっただけだからね」

 

 イオリたちの脳裏に浮かんだのはかつての仲間たちだ。彼女たちは所属国において、『マナ』と呼ばれる力を使えないというそれだけの理由で最下層の扱いを受けた。それはどれだけ高貴な生まれであっても関係なかった。

 結局その国は崩壊したわけだが、彼女たちを知るが故に、その国のシステムを知るが故に、イオリたちは現実的な危険性として奴隷制を思い浮かべることができたのだ。

 

「馬車の数が多いな。護衛の数も揃っている。おまけに馬乗りだ。その割に貴族を示すような紋章は見当たらない。……商人かな?」

「その可能性が高そうですね。お忍びの貴族という可能性もなくはないですけど、その割には護衛の質が……」

「……だね。気を抜かない方が良さそうだ」

 

 自分たちの目にも馬車が映った時点で、イオリたちは注意深く観察した。その上での推測を語り合う。

 

「どういうことだ?」

 

 疑問に思ったのだろう。雅人が訊ねる。

 

「ゲームとか物語とかじゃあ騎兵は珍しい存在じゃないけど、実際に揃えるとなると難しい。馬の維持管理もあって費用が余計に掛かるからだ。少なくとも、そこらの傭兵なり冒険者なりが維持できるもんじゃない。数が増えれば尚更だ」

「けど、馬に乗ってる奴が多いぜ?」

「そうだな。複数の馬車を持っていて、騎兵の護衛を取り揃えていることからして、よっぽどにこの馬車の持ち主は金を持ってるんだろう。だから『お忍びの貴族』という可能性もないわけじゃないけど、その場合、護衛からそういう佇まいが窺えてもおかしくはない。だが、見た感じじゃあそれもない」

「よっぽど上手くそういう風に取り繕っている可能性もないわけじゃないですけど、むしろああいう態度の方が自然な雰囲気です」

「……確かにな。何て言ってるのかまでは分からないけど、ここまで声が聞こえてきてるし。てか、日本語かこれ?」

「違う感じよね。笑い声だけを聞くと断言はできないけど……」

「流石に俺たちには気付いているとは思うけど、如何せん、こっちは女子供のグループだからな。この世界でも通用するかは分からないけど、東洋人は西洋人からは幼く見られるって言うし、脅威とは思われていないんだろう」

 

 そう言ってイオリは肩をすくめ、馬車が近付くのを待った。現状においては貴重な情報源だ。接触しない理由がない。まあ、実際には騎兵の集団が先行してきたわけだが。

 

「へえ? 遠目に見えたときから思ってたが、結構な上玉じゃねえか。……おいガキ、さっきから立ち止まってたようだがこんなところで何をしてんだ?」 

 

 その言葉と態度に、イオリは眉を顰める。馬上から掛けられた言葉が乱暴なだけなら問題ないが、男の視線にはこちらを見下すものが混じっている。とてもじゃないが、こちらを心配してのものではない。

 

「あの、なんて言ってるか分かりますか? 英語でもないですよね?」

 

 後ろから美春がそっと訊ねてきたことで、美春たちには男の言語が通じていないことが分かった。だが、自分には分かる。

 何故かと考え、得心した。イオリとアマリの場合、こことは違ったが美春たちよりも先に異世界へと召喚されているのだ。それを行ったのは『神』と称えられていたエンデである。そしてエンデは、性格はともかく、そう称えられるに相応しい実力を持っていた。召喚された当初は記憶を封じられて精神操作されていたこともあり思い出したくない限りだが、召喚の術式に翻訳のドグマが組み込まれていたとしてもおかしくはない。むしろ、そう考えた方がしっくりくる。

 

「おそらく、ここの言語だろう。幸いにして俺には何て言ってるのか分かるから、俺とアマリが対応するよ」

 

 不安げな表情を浮かべる美春にそう答え、イオリは男へと向き直った。

 

「普通に町中を歩いてたら、気付いたときにはここにいてね。他に男子と女子が一人ずつ、合わせて二人が一緒にいた筈なんだが、その姿も見えないし、景色も見覚えのないものだ。そんなわけで、何が起こったのかと立ち往生していたところさ。一応、俄かには信じ難い話だが、転移現象にでも巻き込まれたんだろうということで結論付けたところだ」

「もしよろしければ、ここがどこで、最寄りの町村が何処かを教えていただければありがたいんですが……」

 

 イオリが男に簡単な事情を説明した後で、アマリが上目遣いでお願いした。それを受けた男は瞬く間に表情をニヤつかせ――

 

「ついてきな。俺たちの雇い主のところに連れて行ってやるよ」

 

 そう言って踵を返した。

 イオリとアマリは男に続く。男の言葉はサッパリと分からなかった美春たちだが、この状況でイオリたちと別れるわけにもいかないので疑問を抑えて後に続く。

 

「ちょいとここで待ってな」

 

 馬車の近くに着くと、男はイオリたちにそう言って一際立派な馬車へと向かう。他の護衛にイオリたちの監視を頼むことも忘れない。

 

「近くで見ると、本当に馬車が多いな。俺、馬車なんて初めて見たよ。十台以上はあるんじゃない……か……」

 

 そこで雅人の声が止まった。幌が捲り上げられていたため馬車の荷台が見えたからだろう。

 荷台には、ボロ布を纏った人間が数えきれないくらい乗っていた。おまけに、その骨組みは金属製であり、さながら牢屋の如しである。

 荷台に乗っている人たちは、誰も彼もが俯いている。チラとこちらを見る者もいなくはなかったが、声を上げるものは一人としていない。

 平和な日本の現代社会で過ごしていた雅人にとっては異質過ぎる光景だった。

 

「見た感じ奴隷商の馬車のようだな。まともな人品の持ち主ならいいけど、あまり期待できそうにない」

 

 よりにもよって、ファーストコンタクトの相手がこんな輩だ。この後の展開を考えると憂鬱にならざるを得ない。肩をすくめたイオリは、深々と溜息を吐くのだった。




アニメだと描写されている馬車や奴隷の数は少なめですが、書籍の方だと馬車は十台以上、奴隷は数えきれないほど乗っているように書かれているんですよね。
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