精霊幻想記 ~術士たちの新たな旅~   作:山上真

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第25話

「しかし、良かったんですか? サラさんまで俺たちに同行して。俺が言うのもどうかと思いますが、こっちの行動は流動的と言えば聞こえはいいですが、悪く言えば行き当たりばったりです。当然ですが、そちらとしても元々の予定にはなかったことでしょう?」

 

 北方にあるガルアーク王国の同盟国の一つ、ルビア王国へと向かう飛行船の中、イオリは自分たちへの同行を希望したサラへと問いかけた。

 あまりにもざっくばらんな表現ではあったが、同席しているフローラ、ユグノー、ロアナは文句を言うこともなく苦笑するに留めていた。実際、行き当たりばったりと言えば否定はできないからだ。

 加えて言えば、こうして飛行船に乗って移動中な以上、今更な質問でもあったからだ。まあ、それぞれが忙しなく動いていたこともあり、情報を伝達する途上で洩れがあっても仕方ない。

 

「ええ、はい。正直、人間族の政治形態には疎いところがありますし、そういった方面で私に何ができるとは思っていないことも事実ですが、これから向かうという北方にも我らの同胞がいる可能性は否定できません。ならば、そこに私がいることが何らかの助けになる可能性もあり得ます。私も対外的にはヘキサグラム精霊国の特使という立場みたいですし」

 

 その返事は、サラ自身が納得済みでの行動であることをイオリに窺わせた。

 なお、オーフィアにアルマ、ラティーファはガルアーク王国に残っている。王宮からの発表の結果、早くも亜人族奴隷を引き渡す奴隷商たちが現れたことが一因だ。

 狙い通り、大型亜竜の素材はそれだけ欲を惹き付けたわけだが、だからこそ引き渡された奴隷たちを安心させるためにも、同じ亜人族が残った方が都合が良かったのである。

 その一方、実際に成果が出たからこそ、彼女たちにも欲が生まれてしまった。更に同胞たちを救う、という欲が。

 早い話、サラがフローラたちへの同行を希望したのはその表れである。期待が低いのは理解しているが、いてもたってもいられなくなってしまったのだ。一言で言えば、待ってるだけでは耐えられないということである。

 

「いま私たちが向かっているルビア王国は、北方に数ある小国の一つに過ぎないが、その一方で大国であるガルアーク王国の同盟国でもある。その事実がある故に敵対国が限定されているのはルビア王国も否定はできない。場合によっては大国であるガルアーク王国が出張ってきかねない、その危惧が周辺国に生まれるからだ。費用やら何やらの面で実行に移すのが難しいと理性的に考えても、そもそもにして小国とは資本力が違うからこその大国でもある。それを思えば、万が一が実際に起こる可能性は十分にあり、だからこそルビア王国周辺の小国は彼の国に対して中々表立った敵対姿勢を示せないのさ」

「同盟の効果が実際にどこまで働いているのかは分かりませんが、彼の国が四面楚歌になっているわけではない以上、効果を否定できないのも事実です。それ故に、ルビア王国も此度の割と無茶な要請を受け入れざるを得なかったわけですね」

 

 そう、ガルアーク王国の同盟国であるが故に、ルビア王国はフローラたちの当座の活動拠点として使用されることになったのだ。

 もっとも、ルビア王国にも旨味がないわけではない。これによりガルアーク王国との交易も活発化するからだ。

 フローラ一行が掲げるお題目は、『北方に召喚されたが消息不明な二人の勇者の捜索』である。だがその裏に、無駄に数の多い小国の併呑・平定があるのは明らかだ。

 あんなに目立つ光の柱が立ったというのに、そして小国が乱立しているというのに、未だにどの国も勇者を保護したという表明をしていないのだ。

 王権の根拠とは六賢神であり、勇者とは六賢神の使徒である。ならば、召喚国は真っ先に保護して然るべきなのだ。

 しかし、現実としてそれは為されておらず、周辺各国も同様だ。果たしてそんな国を残しておく価値はあるのか? 勇者の保護を表明した大国がその様な結論に至るのも無理のない話なのである。

 ルビア王国はガルアーク王国の同盟国であるからこそ、その矛先から免れることが出来た。とはいえ、同盟国としての価値を怪しまれていることも間違いない。である以上、以後も矛先を躱すには積極的な協力姿勢を示すしかない。

 お題目の割に実際の動員兵力が少ないのもその仮説を裏付ける。大国の片翼であるベルトラム王国は第二王女を筆頭に指揮官を派遣し、もう片翼であるガルアーク王国は主に物資方面で支援するから、実際の戦力は現地が負担しろ。つまりはそういうことであり、それが大国である両国の既定路線! 勇者が同行していることから、勇者がそれを支持していることは間違いない。まあ、己が同胞を蔑ろにされているのなら無理もないだろう。理は勇者にある。

 そしてこれに逆らうようならば、同盟国から一転して周辺各国への見せしめに利用されかねない!

 

「まあ、このような危惧がルビア王国には働いているだろうね。我らの受け入れが常ならば考えられないほどに早く決まったのもその表れだろう。普通ならこんなに早く決まらないよ」

「……なるほど」

 

 一言にシュトラール地方と言ってもその範囲は広い。距離を隔てればその分だけ知れることが狭まるのは道理だ。その不足分を推測で補い生存戦略を練る。この点については人間族も亜人族も変わらないのだろう。サラたちが未開地に逼塞し、普段から結界を敷いて余人に里の存在を知られないようにしているのも、結局はその一環だ。

 その上で、勇者の召喚という一事を境に普段の道理が通用しきらなくなったのが現状ということなのだろう。サラはそのように理解した。

 

「まあ、我々の中に未開地の中に居を構える国家であるヘキサグラム精霊国の特使が同行していることも、その国が積極的に亜人族を保護していることも先方には伝えている。今頃、ルビア王国は必死になって勇者に関わる情報の収集と亜人族の保護に乗り出しているだろうさ」

「勇者の情報収集は分かりますが、亜人族の保護もですか?」

 

 やや訝し気にサラはユグノーを見やる。そんな簡単に保護されるようならば、そもそも地方全体で迫害などされていないだろう。

 

「それも国同士の力関係ということだよ。我々の中に、そんなお題目を掲げる国の特使が同行している。その事実は、大国がその要望を受け入れたことを意味している。たとえ名前を聞いたこともない国の要望だろうと、それが明らかに六賢神を信仰していない国だろうと、同盟先の小国としては慮らないといけないのさ。ただでさえ勇者の一件で失点が付いているのだから。まあ、これは設定上、ヘキサグラム精霊国が未開地の中に構えていることも大きいけどね」

「その相手がベルトラムかガルアークかは分からないが、少なくともその国は大国が要望を受け入れるだけの価値を有している。ルビア王国はそう判断し、その前提の下で動かなくてはならないわけです。同時に、それはとても怖いことです。自国が見捨てられる可能性がより高まったのですから」

 

 お茶を飲みつつ、ユグノーとロアナは平然とした態度で語る。その事実こそがサラは怖かった。まあ、それが貴族だと言われてしまえばそれまでなのかもしれないが。

 だが、二人を畏怖する一方で、その話が分かりやすいのも事実ではあった。

 

「なるほど。だからルビア王国とやらに着く頃には偽装魔道具を解除するように要請されたわけですか……」

 

 いまいち腑に落ちていなかったが、サラはようやく納得することが出来た。

 簡単に言えば、特使が亜人族だからこそ、その説得力も増すということだ。これで特使が人間であれば、本当にそんな国があるのか? という心情になるのは間違いないだろう。それではどこまで身を入れて協力するか分かったものではない。

 だが、特使のサラが紛うことなき亜人族であれば、実際にそういう国があり、実際にそういう申し出があり、大国はその申し出を受け入れた、とルビア王国は判断するし、せざるを得ない。そしてそれは、自分たちが追い詰められた状況にあると、一層のこと彼らの危機感を刺激するだろう。

 基本的に偽装の解除は好ましいことではない。それでも、それが同胞を救うための一助になるなら否やはない。それがサラの結論だった。

 

 ♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢

 

「何だ……?」

 

 ルビア王国の王都に降り立った一行だが、その雰囲気に疑問を覚えざるを得なかった。活気がある分には結構なことだが、これはそういうのとはまた違ったものだ。どちらかと言えば物々しさがある。

 

「お待たせいたしました。失礼ですが、勇者様のご一行でお間違いないでしょうか?」

 

 駆け寄ってきた、おそらくは発着場のスタッフが一行へと問いかける。一行の立場を鑑みると、スタッフの中でも上役だろう。

 一行を代表して、侍女の恰好をしたアリアが対応する。

 

「間違っておりませんが、何かあったのでしょうか? どうにも物々しい雰囲気が漂っていますが……」

「その質問に関してはエステル第二王女がお答えになられます。皆様の船が見えた時点で城に遣いを放っておりますので、申し訳ありませんが暫しあちらの建物でお待ちいただいてもよろしいでしょうか?」

 

 スタッフは発着場に併設された建物を指し示す。特段外観がボロいわけではないが、王族や高位貴族を迎えるに相応しい建物であるとも思えない。船員用の宿泊所とでも考えるのが妥当だった。

 

「あちらの建物に、ですか?」

 

 念のため、アリアはスタッフに訊き返す。間違いなくルビア王国への心証は悪くなるが、それでも構わないのか? そう言外に問いかけたのだ。

 苦しそうに表情を歪めるスタッフだったが、それでもその返答は変わらなかった。その表情を見れば、それがスタッフの本意でないことは明らかだ。だが、その上でそうせざるを得ない理由があるのだろう。

 

「……ふむ。どうにも、余程にのっぴきならない事態が訪れているようだ。……構いませんか?」

 

 海千山千のユグノーにとってその程度を察することは容易く、また決して理解を示せないわけではない。想定外の事態というのはいつ何時でも起こり得るし、だからこその想定外なのだ。まあ、可能な限り事前にそれを潰すのが腕の見せどころであるのも事実だが。

 

「まあ、仕方ねえさ」

「私も構いません」

 

 弘明とフローラが答える。

 

「感謝いたします」

 

 前向きに受け止めたその言葉に、スタッフは深々と一礼した。こういう場合、何事かが起こっているのを理解した上でゴネる者が一定数いるのも事実なのだ。

 案内された建造物は、その内装もそれほど悪いわけではなかった。確かに王侯貴族を受け入れるには色々と不足しているが、他国の船員なりを宿泊させることを目的にしていることもあってかきちんと清掃は行き届いている。

 

「果たして何が起こっているのだろうね?」

 

 ロビーのソファに腰を下ろしたユグノーは、アリアに淹れられた紅茶を一口飲んでから口を開いた。……ロビーには利用者が自由に飲めるよう、ある程度の茶葉やら茶器やらが用意されていたのだ。

 

「流石に情報が足りていませんよ。ただまあ、事前のやり取りではこんな様子は見られなかったんですよね?」

「そのように聞いてはいますが……」

 

 困惑を露わにしながらロアナが答える。結局のところ、実際のやり取りをした者は他におり、一行はその結果を受けて行動しているに過ぎないのだ。断言など出来るわけがない。

 

「事前のやり取りを行ったガルアーク王国の使者がルビア王国の返答を携えて帰国し、それを受けて俺たちがこの国にやってくるまでの間に事態が急変した。……順当に考えるのならそうなるでしょうね」

「つってもよ。俺たちだって結構なテンポで行動してるぜ。返事を受けてからこの国に着くまで一週間とかかってねえ。んな短い間でそうそう何かが起こるもんか?」

「坂田の言いたいことは分かるが、それはあくまでも俺たちから見た捉え方でしかないからな。まあ実際に何が起こっているのかは分からないが、この国にとって何か想定外の事態が起こったのは間違いないだろうさ」

「最も可能性が高いのは戦かな……? 如何に大国の後ろ盾があったところで、この国も群雄割拠の一角であることに違いはないからね」

「この国の第一王女であるシルヴィ殿下は『姫騎士』として知られています。ベルトラム王国やガルアーク王国にまで。まあその理由として、王女という立場故のものも少なくはないのでしょうが、そう謳われるに相応しい実力を持っているが故であるのは否定できません。そしてそれは、それを知らしめた敵対国がいるということを意味します。その国が攻め寄せたのか、或いは注意を払っていなかった他の国が攻め寄せてきた可能性はあるでしょう」

「なるほどな。どっかの国が攻め寄せてきて、その第一王女様は出陣。だからこそ、俺たちの説明役には第二王女様が当たるってわけか……」

 

 先ほどまでとは態度を一転させた弘明は納得したように頷いた。

 

「しかしそうなると、この国が劣勢である可能性は否めませんね。私たちが来るのは承知の上で、それでもなお第一王女様は席を外すことを選ばれたわけでしょう? それだけ余裕がないことの表れではありませんか? 私たちで考えるなら、リオさんと事前の約束があったにも拘らず担当の最長老様が席を外されているようなものですから」

 

 表情を険しくさせながらサラが口を開いた。

 精霊の里で考えるなら、崇拝されるドリュアスがトップで、その下に諸々の実務を取り仕切る最長老たちが位置している。最長老たちの力関係は横並びだが、それぞれに向き不向きがあるのは間違いない。薬関係ならシルドラ、鍛冶関係ならドミニクといった具合だ。

 鍛冶関係でリオとドミニクによる話をする予定があったが、ドミニク側でトラブルが起こり、畑違いとはいえ同等のシルドラにリオとの対応を任せた。……今回の事態をそのように考えるのは決して不可能ではない。まあ、現段階ではあくまでも推測に過ぎないのだが。

 

「……と、どうやらエステル王女殿下が参られたようだ」

 

 窓の外に馬車が停まったのが見える。ルビア王家の紋章が刻まれていることから、まず間違いはないだろう。

 

「さて、一体どのような話を聞かせてくれるのか……」

 

 ユグノーの呟きが、静かに響き渡るのだった。

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