精霊幻想記 ~術士たちの新たな旅~   作:山上真

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第31話

 情報の収集に際し、ユグノーたちは二つの手を取った。

 一つはリッカ商会を活用した方法だ。リッカ商会の者たちが商売がてら北方の各所に赴き、実際に現地で情報を仕入れるのである。

 経営者がガルアーク王国の公爵令嬢だとしても、商会は商会だ。基本的に商会や商人は中立なのである。

 まあ、いくら中立を謳ったところで客がいなければ商売にならず、金を持っていなければ客足り得ない。そして金を持っているのは基本的に王侯貴族であり、それ故にその者たちが大口の顧客になりやすい。必然、うちの何名かはお得意様として繋がりが深まるのが現実だ。商人や商会の全てがそうだとは言わないが、確たる力量を持っているのなら大体そうなる。

 つまり、国外・領外の商人を招くということは、自国・自領の情報をある程度持っていかれるのを覚悟しなければならないのだ。

 しかし、此度その役を担うのは大国であるガルアーク王国でも最大手の商会だ。扱う商品は豊富にある。それこそ、北方の小国内の商人では比べ物にならないほどに。民心を考えた場合、受け入れないことこそが悪手となるのは間違いない。見方次第では非常にいやらしい一手と言えるだろう。

 もう一つは、ルビア王国に侵攻してきたプロキシア帝国軍の捕虜からの情報収集だ。

 一言にプロキシア帝国軍と言っても、その実態は同盟国軍や帝国内各所の者が含まれる。自然、ルビア王国にいては分からない情報を得られる可能性は高かった。

 これらが能動的な情報収集であるのなら、受動的な情報収集もあった。プロキシア帝国に対して絶賛逆撃を仕掛けている最中のシルヴィらから齎される報告である。

 そんな中、ユグノーらの元にとある情報が齎されたのである。

 

「勇者様が見付かったですと!?」

「はい。今現在、我が国の第一王女シルヴィを筆頭に、此度侵攻を仕掛けてきたプロキシア帝国並びにその属国に対し我が国が逆侵攻を仕掛けているのはご存知かと思われます」

「ええ、それは。私に同行してきた派閥員からも、いくらか人手を貸し出しておりますので……」

「落とすだけの価値があるかよりも、どれだけ落としやすいかを念頭に目標を選んでいること、またイオリさん、アリアさん、サラさんらお三方の並外れた実力もあり、まさに破竹の勢いと言えましょう。その主力が、本来ならばあなた方の護衛として同行して来られた方々であるのは我が国として恥ずべきことではありますが、そうして落とした国の中にリヴァノフ王国が存在し、その片隅の村に勇者様がおられたとのことです。……リヴァノフ王国を一言で言えば、他国に狙われるだけの旨味が一切存在しない国です。それ故に我らの興味も薄かったわけですが、実情は悲惨の一言では尽きないそうです。民から搾取し、一部の王侯貴族だけが裕福に暮らせる体制が築かれていると言えばお分かりになられますか?」

 

 エステルの言葉に、ユグノーらは無言になった。ならざるを得なかった。

 旨味がないのなら他国からの襲撃を恐れる必要はない。その上で念には念を入れてプロキシア帝国の属国に納まった。属国になったところで旨味など一切ないのだから、宗主国であるプロキシア帝国が強い興味を持つ筈もない。実に小賢しい話ではあるが、その国の王はそうすることで安全を確保したのだ。――ただ、その対象が『自国』ではなく『自分たち』だったということ。

 まともな統治者にはあるまじき行いだが、残念なことに古今東西そんな真似をする人物は一定数存在するのである。

 逆説、そんな国だからこそ宗主国からの要請があれば断れない。要請自体が滅多にないとなれば尚更だ。結果、なけなしの軍勢を派遣し、一蹴されたのだろう。これでは逆撃を防げる道理などない。

 

「そんな国の中に聖石があったこと自体が解せなくはありますが、勇者様の言によると山奥の中に現れたそうですので、単に我らが忘れてしまっただけで六賢神の信仰にまつわる場所であった可能性が高いという見方が出ております。この仮説が正しければ、将来的には観光地として機能するかもしれません。……失礼、話がずれました。かの地に召喚されたのは黄色い柱の勇者様で、お名前はエリカ・サクラバ様。また、婚約者であるアキラ・テシガハラ様も御一緒とのことです。お二人は山を下りた場所にある村で暮らしておられたそうです」

「エリカ・サクラバ様にアキラ・テシガハラ様……」

「お二人は他の勇者様との邂逅や各種情報を求められているらしく、サラさんが護衛に就いて我が国にお連れ下さるとのことです」

「サラ君が? ……なるほど、契約精霊か」

「そう伺っております」

 

 イオリたちが迎撃戦への増援に向かう際に、エステルたちは実際にサラの契約精霊を目撃している。ヘルという名らしいあの巨狼であれば、なるほど、三人を乗せての疾走くらいはわけないだろう。

 

「そして、最後の一人である白い柱の勇者様に関しても消息が掴めております。もっとも、こちらの方は可能性があるだけで未だ確証を得られてはいませんが……」

「ほう?」

「灯台下暗しと言うべきか、考えれば妥当と言うべきか、我が国で冒険者として活動しておられました。レンジという名で、常にソロで活動しておられるそうです。登録時から上等な格好をしており、その割には所々で常識に疎く、採集系の依頼に関してはそこまででもありませんが、討伐系の依頼に関しては実績が鰻登りとのことです。……国内の冒険者ということもあるのでしょうが、少し力を入れて調べるだけでこれだけのことが分かりました。勇者様に関する事前情報ありきで考えると、これほど怪しい人物はおりません」

 

 エステルは頭を抑えながら語った。

 

「レンジ、ねえ。日本人の名前としちゃあおかしかないが……」

「家名を名乗っておられないのも、召喚時にいざこざがあった可能性を鑑みればおかしくはないかと……。件の勇者様は召喚地のヴィルキス王国において聖地を破壊した下手人として扱われた可能性が大ですので……。馬鹿正直に名乗られた結果、王国側が『そんな家名は聞いたことがない!』となった可能性は否定できないかと思われます」

「ああ、そう言われりゃあ納得だ。俺らの苗字は話に聞くヤグモ地方なら違和感もなさそうだが、シュトラール地方じゃ違和感バリバリだからな。もちろん、中には違和感の少ない苗字もあるだろうから断言は出来ねえが……」

「私たちの知る限りですと、勇者様ではヒロアキ様の家名であるサカタ、サツキ様の家名であるスメラギ、ルイ様の家名であるシゲクラ、タカヒサ様の家名であるセンドウ、そしてエリカ様の家名であるサクラバですね」

「横から口を挿んで恐縮ですが、ルイ様とタカヒサ様というのはどこの? また、千堂というのはマサト殿の家名では?」

 

 互いが持つ情報量の差によるものだろう。エステルは瑠衣と貴久についての情報を持ってはいなかった。

 

「ルイ・シゲクラ様はヒロアキ様と同じくベルトラム王国に召喚された勇者様です。直接の面識を持っているわけではありませんが、我らもベルトラムの者ですので名前くらいは仕入れております。タカヒサ・センドウ様はセントステラ王国に召喚された勇者様ですね。サツキ様とタカヒサ様の召喚に巻き込まれる形でこちらの世界に来られたマサト殿と、その姉で現在はガルアーク王国で待機しておられるアキ殿の実兄でもあります。こちらはお名前に関して正式な発表があったわけではありませんが、そのような事情から我らはそのように判断しております」

「なるほど、そういうことでしたか」

 

 エステルは納得したように頷いた。

 

「いや、申し訳ない。こちらの持つ情報を提供するのが疎かになっておりました」

 

 それを見てユグノーは頭を下げた。

 

「いえ、情報格差は仕方のないことと理解しております。加え、正味な話、最近は状況の変遷が激しいですので、事前に提供されていても活かせたかどうか怪しいところがあるのは否定できません」

 

 エステルは片手を振って気にしないように促す。

 

「それよりも、召喚に巻き込まれた方々の家名を教えていただいてもよろしいですか?」

「構いませんが、正直に申せばサツキ様とタカヒサ様に巻き込まれる形で来られた方々しか存じません。その点はご了承をお願いします」

「了解しました」

 

 エステルが頷いたのを確認して、ユグノーらは巻き込まれ組に関する説明をおこなった。イオリまでもがその該当者であることにエステルは驚いていたが、妙な納得感も抱いたようだった。

 

「サカタ、サクラバ、シゲクラ、スメラギ、センドウ、アオイ、アマノ、アヤセ、テシガハラ……確かに、シュトラール地方では違和感のある家名ですね」

 

 指折り数えながらそれぞれの名字を復唱したエステルはそのような感想を零した。

 

「エステル王女もお分かりになられたと思いますが、ヒロアキ様、マサト殿、イオリ君、そのいずれも移民に似た顔だちをしております。件のレンジ殿が勇者様だったとしても、それらの情報が結び付いていなかったとすれば、ヴィルキス王国の者が『移民が適当な嘘をついて言い逃れしようとしている』と判断した可能性は十分にあり得ましょう」

「なるほど、移民との勘違いですか……。たとえ聖地が破壊されたという事情があったにせよ、最初から下手人扱いしているのが不思議ではありましたが……」

 

 早い話、先入観による判断だったということだ。現時点では推測に過ぎないが、これが真実だった場合、本当にヴィルキス王国は言い逃れができない。

 確かにシュトラール地方において亜人と同等に扱いの悪い移民であれば、聖地を破壊する理由は存在する。するが、それならばその方法も明確にするべきだ。光の柱によって破壊された。そう判断するのはいいが、それならそれで、どうやってその柱を用意したかや、他に柱の立ち上がった場所ではどうだったかまでをも調査してから下手人として認定するべきだった。

 それを怠り、状況証拠だけで判断した結果が現状である。為政者と官憲、どちらの判断かは分からないが、何ともお粗末なこと極まりない。あんな異常事態に、平時のそれが適用できる筈もあるまいに。

 まあ、その結果として勇者の可能性が高い人物が自国に滞在しているのだから、ルビア王国としては歓迎するより他にないが。

 それでも一つ残念な点を挙げるとするなら、そんな国と長らく対峙してきたという事実だろうか。それによって相対的にルビア王国の見方も下がる可能性は捨てきれない。無論、その逆も然りではあるのだが……。

 

「話を戻して恰好についてですが……。召喚時にヒロアキ様が着ておられた衣服も上等な物であり、全員を確認したわけではありませんが、召喚に巻き込まれた方々も同じようでした」

「つっても、俺のは向こうじゃ簡単に買える代物だぞ? 有体に言えば大量生産の安物だ。そりゃあ、その中でもピンキリあるし、安すぎるわけじゃねえのは認めるが、決して高すぎるわけでもねえ。極々一般的な範疇だ」

 

 こういうところの感性が、弘明としては未だ慣れない。彼にしてみれば、フローラにロアナ、ユグノーらが着ている服の方がよっぽど高級品に思えてならないのだ。

 ところ変われば品変わる、隣の芝生は青く見える、つまりはそういうことだろうと理解してはいるのだが、実感が伴わないのである。

 

「そこに関しては世界の違い、環境の違いということで納得するしかないでしょうな。ですが、だからこそ上等な格好であっても不思議はありません。常識の疎さについても同じことが言えます」

「あ~、そりゃあなあ。別世界から召喚されてるんだから疎くて当然だ。共通する部分はあるだろうが、共通しない部分もあって然りだ。努力と想像だけで補いきるには無理がある。当然、どこかしらでボロが出るさ。その代表が採集系依頼ってことだろ? 知識が必要なのに、肝心の知識がねえんだから上手くいく筈もねえ。まあ、だからって討伐が簡単かと言われれば首を傾げざるを得ねえが、武器に関しては文句の付け所がねえのも確かだ。そうなると、あとは個人の胆力や性質の問題だ」

 

 重度の中二病罹患者ならば、突然の異世界召喚でも喜ぶだろうし適応も早いだろう。進んで魔物に立ち向かってもおかしくはない。

 その点で言うと、弘明は軽度の部類だ。異世界に来たことを喜んでいるし俺TUEEEもしたいが、だからといってそのために努力をしたくはない。楽できるならそれに越したことはないし、特に何もせずともチヤホヤされるなら万々歳だ。

 その結果待ち受けるのは傀儡だが、イオリとアマリにそれを指摘されるまで、弘明にその自覚がなかったのは苦い記憶だ。それで良い思いをしたのには間違いなく、弘明自身が見栄っ張りな性格なのでユグノーらを問い詰めてはいないが、今はきちんと気を付けている。

 また、手合わせと称してイオリに何度となくボコボコにされたこともあり、本人にその自覚はないが、密かに地力も上がっているし度胸も付いているのが現状だった。

 ともあれ、武器の問題はないのだ。戦い方も段階的に神装が教えてくれる。ならば、魔物と対峙しても問題のない胆力があるのなら討伐も叶うだろう。初期からそれほどのスペックを持っているからこその勇者でもある。

 

「状況証拠だけなら、そのレンジとやらが勇者と見て間違いはないだろうな」

 

 そういう結論になったのだった。




当事者ではないのだから、レンジの経緯についてこんな推測をしてもおかしくはないかと思います。

あと、絵梨花の婚約者であるアキラさんの漢字表記が分かりません。
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