精霊幻想記 ~術士たちの新たな旅~   作:山上真

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第42話

 夜会を翌日に控えたその日、練兵場を少年少女が駆け回っていた。もっとも、決して大人が混ざっていないわけではない。

 端的に言えば鬼ごっこをしているわけだが、ただ遊んでいるわけではない。ゲームであると同時に、れっきとした訓練の一環だった。

 鬼と逃亡者には、共通してあるルールが課せられているからだ。どんなルールかと言えば、『ゲーム中は常に自己強化を行うこと』である。出来なくなった時点で、鬼に捕まらなくとも脱落となる。単純だが実に厳しいルールだ。

 このゲームは、なにも今日初めて行われたわけではない。雅人、シャルロット、フローラにロアナ――ドグマを教わっている者たちが強化術式を会得してからは、暇を見つけては何度もやらせてきた。まあ、施行回数自体がまだ少ないのも事実ではあるが。

 動き回ることで体力の底上げにも繋がるし、魔力コントロールと保有魔力の上昇効果も見込める。強化術式を使えないことには参加できない仕様にすることで、羨望感を刺激して習得速度を早める狙いもあった。事実、雅人などはそれによって強化魔術を会得した。

 シャルロット、フローラ、ロアナの三人は元々魔術を修めていたこともあってか、基礎術式の習得は早かったのだ。ドグマと魔術には『術式を用いて魔法を行使する』という共通項があったのも大きいだろう。もっとも、その一方で魔力コントロールや保有魔力量には難があるのも事実だが。

 一方の雅人は、日本の各種創作物の影響もあってか、魔力コントロールは早々に修めることが出来た。その一方、『魔法』という『形』にする部分で躓いていた。ここら辺、魔術に慣れているシュトラール人とは異なり、言ってみれば『思い込み』が弱かったのである。

 自分が強化魔法を使えずに難儀している一方で、見目麗しい美少女たちは鬼ごっこを楽しんでいる。実際はともかく、それが雅人の認識であり、その羨望が現実への不満と繋がり、その不満が魔法を行使するべく――言い換えれば現実を破壊するべく雅人の背中を押したのだ。

 以後は雅人も鬼ごっこに参加したわけであるが、次第に参加者が増えていった次第である。端から見ればただの鬼ごっこだが、その目論むところを知れば意外と馬鹿にできないのも事実だ。何もドグマだけに言えることではないのだから。

 そうして参加者が一人増え二人増え、今では結構な人数が参加している。ただし、イオリ、アマリ、リオ、アイシアは参加していない。正確には審判役の参加となっている。

 

「っしゃあー! 逃げろ逃げろ!」

「うん! 逃げろ逃げろー!」

 

 さて。参加者の中でひときわ楽しんでいるのは雅人とラティーファの二人だった。

 年齢を鑑みればおかしなことではないが、いつも以上に乗り気である。夜会に向けての詰め込み教育は、幼い二人にはそれだけ酷だったようだ。訓練前はどんよりとした空気を背負っていたというのに、今は実に活き活きとしている。

 

「今日こそは捕まえますよぉーっ!」

「さて、誰を狙ったものかな……?」

「ふっふーん、捕まえちゃうぞぉーっ!」

 

 それを見て口々に言うのは今回の鬼役――フローラ、デュラン、沙月である。見て分かるようにドグマ、魔術、精霊術から一人ずつの選出だ。濃淡の差はあれ、誰もが楽しそうな表情を浮かべていた。

 無論、この選出にも意味がある。ドグマ、魔術、精霊術という違いがある以上、自己強化という共通点はあれど、細かな部分では差異も大きいからだ。例として魔術を挙げると、強化補正が固定化されており、それでいて補正率も低い魔術士が精霊術士やドグマユーザーを捕まえるというのは、元々の身体能力が関わってくるとは言っても無理難題に等しいのである。覆しようのない純然たる事実というものは存在するのだ。

 だからこそ、それを覆しやすくするためのルールであり人選であった。

 

「と言うわけで、お相手願おうか、クレール女史」

 

 デュランがターゲットに選んだのはセリアだった。そもそも、前述した魔法形態の差異により、魔術士であるデュランがまともに相手取れるのは同じ魔術士しかいないのである。そして、どちらが鬼だったかはともかく、武闘派寄りのシルヴィにアリア、ロザリーなどとは既にやり合ったことがあるための選択だった。

 再戦も一興ではあったが、そうせずにセリアをターゲットに選んだのは、彼女がベルトラム王国における魔術研究の第一人者だからだ。そんな人物が相手であれば、何か隠し玉でも見せてくれるのではないかと期待したのである。

 まあ、結局は鬼ごっこなので必ずしも誰か一人を狙うルールなどありはしないのだが、楽しみ方は人それぞれだ。

 

「お眼鏡に適ったようで光栄です、と返させてもらいますね。ただ、体力や身体能力面では確かに私の不利は否めませんが、そう簡単に捕まえられるとは思わない方がいいですよ?」

 

 おもむろに近付き声を掛けたデュランに対し、セリアは微笑を浮かべて応えた。

 魔術の造詣に関しては確かにセリアに一日の長があるし、それはデュランも認めている。しかしその一方で、体力や身体能力面ではデュランに軍配が上がる。発されたセリフからセリアもそれを認めていることが分かった。

 その上で、不敵に笑うその度胸。ゲームとはいえ、デュランの琴線を掻き立てる。

 

「ほう? 何か隠し玉でもあるのかな? ならば重畳というものだが……」

「まあ、まだ開発中の術式なんですけどね。それでも言えることがあるとすれば、これから使う術式は、きっと魔術の『先』にあるものですよ」

「魔術の『先』とな? よかろう。是非とも見せてくれ」

「それではお言葉に甘えて。ただまあ、さっきも言った通り生憎とまだ未完成の術式なものでして、付き合えるのは十秒ほどになります。よろしいですか?」

「些か短い気もするが、未完成では仕方ないと思うしかなかろうな」

 

 言って、デュランは身構える。魔術行使の邪魔はしない。普通に考えて、一流の戦闘者であるデュランからセリア単独で逃れるなど不可能だ。である以上、邪魔をする理由は無いし、邪魔をしてはセリアの隠し玉が見られない。

 そして――

 

「なっ……!?」

 

 現実は前提を覆した。新型術式を行使したセリアは、瞬きの間にデュランの前から姿を消したのである。デュランの認識も追いつかなかった。驚愕の声がデュランの口から洩れる。

 されど、実戦経験の豊富さを以て、デュランは即座に気を取り直した。実戦の場においては駆け引きなど常の事。相手がこちらの裏を掻こうとしてくることなどありふれているし、それに引っ掛かったこともある。その上で生き延び、糧としてきたからこそ、今のデュランがある。

 デュランは視線を巡らせる。結果、砂煙が残っていることからして、転移などによる消失ではなく、己が足で移動したらしいのは間違いないと判断した。

 どこへ移動したかは砂煙を追えば分かる。そう判断したデュランだったが、残念なことにそれは叶わなかった。セリアは単なる直線移動をしたわけではなく、縦横無尽に動き回ったからだ。その結果、広範囲にもうもうと砂煙が巻き上がっている。これでは、砂煙が収まらない限りセリアを見つけることなど出来はしない。

 

「ちょ、何だよこれーっ!?」

「目が!? 目があぁぁぁっ!?」

 

 被害甚大だった。弘明などは両目を抑えて地面を転がっている。

 決してセリアがルール違反を犯したわけではないが、ゲーム中断のジャッジが入るのは当然だった。

 そして、身体能力強化魔術にはあるまじき効果に対し、セリアに質問が飛ぶのもまた当然だった。

 

 ♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢

 

 今しがたの魔術について質問されたセリアだが、疲労困憊なのは一目で分かった。

 

「あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛、からだ痛い……。いや覚悟はしてたけど、マジでシンドイ……」

 

 セリアは練兵場の一角にあるティーテーブルに突っ伏していた。声にも張りがない。せっかくの美貌が台無しである。

 

「大丈夫ですか、先生?」

 

 そんなセリアにフローラが癒しのドグマをかけていた。柔らかな光がセリアを包んでいる。

 

「事前にデュラン王子には説明したんだけど、さっきのは魔術の『先』にあるものよ。もっとも、まだ未完成ではあるけどね」

 

 幾らか復調したところでセリアが口を開いた。まあ、垂れたままではあったが。

 

「魔術を学んでいるだけでは辿り着けなかったと思うわ。ハッキリ言うと、魔術によるドグマの模倣だから。と言うより、世の中に広まっている魔術そのものが、ドグマの劣化品なのよ。使いやすさを追求した代わりに、可能な限り発展性を低くした代物。それが魔術なんでしょうね」

 

 キッパリとセリアは断言した。それは同時に六賢神批判へと繋がりかねない内容だったが、この面子だと今更である。

 

「クレール伯爵家には家伝の魔術があって、それは私も修めているんだけど、既存の魔術とは隔絶した術式なのよ。修めた私自身、どこをどうすればこんな術式に行き当たるのか分からない。そんな代物。――なんだけど、ドグマを学ぶことで穴が埋まっていったのよ。まあ、それでもまだ穴は多いんだけど、ドグマと魔術の間にあるのが家伝魔術なんだと思う。魔術との相反関係を鑑みると、アプローチの方法が違うだけで、きっと精霊術もそうなんだと思う。魔術も精霊術も、ドグマから分派したものなのよ」

 

 今までにもそういう推測はあった。だが、それを述べるのがセリアとなると、その説得力も違ってくる。

 

「まだまだ基礎部分ではあるけど、座学面では私もドグマを学んでいるわ。これはその上での判断。正直、ドグマを学べば学ぶほど、刺激を受けてしょうがない。そんな状態で試しに作ってみたのがさっきの術式ね」

 

 言い換えると、『ハイテンションの余りあれもこれもと取り入れて試しに作ってみたら形になった』術式と言うことである。そんな経緯で出来上がった以上、無駄が多くて然りだ。

 

「精霊術の方は……あまりに実践的と言うか、座学で参考に出来る部分は少なかったわね」

「いやまあ、精霊術に関しては認めますけど……。と言うか、それで新型術式を作れる辺り、流石先生ですね」

「そう? 正直、一端の研究者であれば誰でも出来ると思うわよ? むしろ、あれで刺激を受けないようなら、また刺激を受けて試作術式の一つも作れないようなら、そんなのは魔術の研究者じゃないわね」

 

 リオがセリアを称賛すると、セリアは軽く受け流した。

 

「分かります、分かります。まあ、魔術については分野外ですけど、僕も研究肌の人間ですからね。先達の足跡を否定はしませんが、それに胡坐をかいている老害や、血統だけで威張り散らしている能無し共のなんと多いことか……。おまけに、そんな奴らのご機嫌を取らないことには碌に研究も出来ない悪環境。日本にいた頃は何度溜め息を吐いたか分かりませんよ」

 

 そして、明がセリアに同調した。ばかりか、盛大に愚痴を吐いた。

 

「それですよね! 足を引っ張りたい気持ちは分かりますけど、そんなことやってたら国の発展なんてありゃしないでしょって話です! 向上心あるのは結構なんですけど、その方法が相手の足を引っ張ることなんですから堪ったもんじゃありませんよ! 切磋琢磨せずして磨かれる筈もないでしょうに……。実際、ベルトラムなんてそれで有為な人材に出奔されまくってますし。分かりやすいところでリオとアリアなんですけどね。特にリオなんて貴族のゴタゴタによる冤罪被せられている始末ですよ! まあ、それやったのがそこのユグノー公爵の子息であるスティアード君なんですけど……」

 

 今度はセリアが明に同調して愚痴を吐く。ベルトラムにおける魔術研究の第一人者とはいえ、苦労と無縁ではなかったということだ。

 ともあれ、零された愚痴の内容が内容だけに、事情を知らぬ者たちは一斉にユグノーとピエールの方を、或いはリオの方を向く。

 

「まあそうですけど、既に俺とユグノー公爵との間では手打ちになってますので、どうか皆さんはお気になさらず。主犯はあくまでスティアード殿ですし、その点で俺たちの認識は一致していますから」

 

 事情を知らぬ者に対して告げるには絶好のタイミングであったことは事実だが、せめて事前の通達はお願いしたい、と思わずにはいられないリオだった。

 

「本当ですか? 父上、私は聞いていないんですけど……」

「本当だ。まあ、我が家の醜聞に関わる内容でもある故、説明するタイミングがな……。付け加えると、そこのラティーファ嬢は以前に我が家が奴隷として扱っていた少女であり、国を出奔したリオ殿を暗殺すべく放った刺客でもある。……分かるだろう? どうにか手打ちには持っていったが、我が家から泥を被る人物を出すのは必然というわけだ。結果、私とラティーファ嬢の強い意向もあり、白羽の矢が立ったのがスティアードだ。もっとも、実際にスティアードが戦犯ではあるわけだがな……」

 

 ピエールがユグノーに確認すると、ユグノーは苦い顔で頷いた。

 

「君が、あの……」

 

 ピエールもユグノーの息子であるため、自分の家に奴隷として亜人族の少女がいたことは覚えていた。

 とはいえ、公爵家ともなれば奴隷を抱えていてもおかしくはない。だからピエールにとって当時のラティーファは、今の今まで『いつの間にかいなくなっていた奴隷』という印象でしかなかった。

 なにぶんピエールが幼い頃のことのため記憶はだいぶ不鮮明だが、それでも覚えているのは、件の少女に対し、兄であるスティアードが『お兄様』呼びを強要させていたからだ。それだけならまだしも、躾と称して甚振っていたのだ。スティアードが強い執着を見せた奴隷など彼女ぐらいだったため、嫌でも記憶に刻まれるというものだ。

 それがこうも闊達になっているのだから驚きもひとしおだ。

 同時、当の少女にしてみればスティアードに対する怒りは心頭だろうと納得もいく。

 

(もっとも、それは父上もか……)

 

 ラティーファの意向について納得したピエールは、ユグノーに視線を向ける。

 そも、ユグノーがスティアードにかける期待は無いに等しい。結果、弟である自分が後継者教育を受けているのだ。

 そのきっかけとなったのが、今しがた話題に挙がった独断による冤罪被せだ。それが、ここにきて更なる厄災を運んできたわけだ。何せ、その冤罪を被せた相手は、今や王の剣と渡り合ってセリア・クレールを拉致してみせたほどの実力者なのだ。加え、その仲間には黒竜殺しがいる。

 冤罪を被せた相手とセリア・クレールの拉致実行者がイコールで結び付いてしまった以上、自分から非を認めて謝罪するのは妥当な判断だろう。その戦闘力がこちらに向けられないという保証はないのだから。むしろ、向けられる理由の方がある。

 そこら辺、流石だとピエールはユグノーを改めて尊敬した。

 

「その件に関することだが――」

 

 口を開いたのはフランソワだった。

 

「ベルトラムは確かに同盟国ではあるのだが、昨今の彼の国は我が国を蔑ろにしている面が少なからずあるのでな。夜会でリオを大々的に紹介するのは既に告げてある通りだが、その際にリオの経歴も話すことでベルトラムに忠告と警告をする狙いがあるのだ。『逃がした魚は大きいぞ。いつまでそのような愚行を繰り返すつもりなのだ?』……とな。血統の尊重は結構なことだが、それに拘泥する余り能力のある者を逃してしまっては国の運営など覚束ないに決まっている。確かに他国ではあるが、我が国と縁戚関係にあるのも事実なのでな。怒りと呆れがあるのは否定せんが、その程度はするべきだろう。……なお、フローラ王女やユグノーとは協調済みだ。然るに、いざ夜会の場で、勇者を掲げるルビア王国とパラディア王国にユグノーを責められては具合が悪いのだ。それもあり、クレール女史はこの場でそれを話したのだろう」

 

 そこまで言われれば、ユグノーを責めることなど出来はしないし、この場でセリアがユグノー公爵家の醜聞を口に出したことにも納得せざるを得ない。

 

「念のため確認しておきたいのですが、フローラ王女を女王に据えた新王国の建国に関して、まさかベルトラムは関わっていないのでしょうか?」

 

 改めてそれを問いかけたのはシルヴィだった。余りにも大それた事ゆえに、てっきりベルトラムも承知だと思っていたのである。それはデュランも同じだ。

 勇者を掲げる国同士による同盟圏の設立に関してもそうだ。事前に大国同士で下地は作られており、北方勢はそれに混ぜてもらっただけだ……と。

 だが、話を聞くに、どうも違うようだと思わざるを得なかったのである。

 

「その通りだ。セントステラには事前に話を通しておきたかったのだが、閉鎖体質故に今になってもそれは叶っておらん。『詳しくは夜会の場で……』、それの繰り返しよ。一方のベルトラムだが、話を持っていっても断られるのは目に見えている。現国王のフィリップは特段暗愚というわけではないが、家臣を統制しきれておらん。もっとも、統制できていながら、同盟国を蔑ろにした講和をプロキシアと結んだというのなら、それはそれで問題があるがな。そんなわけで、特にベルトラムに対しては、断り切れないようにしてから話を持っていくことにしたのだ」

 

 果たして、フランソワの返答は是であった。

 

「関与した身でこのようなことを告げるのはなんですが、人道に悖る行為であることは否定できませんのでな。……国のために個を犠牲にする。それは時として確かに必要な行為ではあるのですが、為政者は決して当然と思ってはならないのです。そう思ってしまった時点で、為政者はその行為に甘えてしまいますので。しかしながら、ベルトラムの王侯貴族の大半は、私自身も含めてそれを当然と思うようになっていました。民あっての国であり、民衆に認められてこその王侯貴族だというのに、我らはいつの間にかそれを忘れてしまっていたのです。大国という外面の中身は、それほどに腐敗しているのです。もはや、国としての先行きは長くありません。人魔戦争の再来も踏まえて考えますと、そのような国に仕える価値を持てなくなったのです。とはいえ、王家に対する忠誠心までなくしたつもりはありませんので、最後の奉孝としての荒療治なわけです」

「私自身、母国に思うところがあり、加えてユグノー公爵の心情を鑑みた結果、ベルトラムと袂を分かつことにしたのです。ですが、如何に勇者であるヒロアキ様の支持を得たところで簡単なことではありません。お父様――国王陛下の賛同がないとなれば尚更です。その上でそれを強行しようと思えば、相応の理由と後押しが必要になってきます」

「その理由がリオに対する正当性なき振る舞いであり、敵国との同盟国を蔑ろにした講和であり、北方において召喚された勇者が置かれた実情であり、人魔戦争の再来に対する備えであるわけか……。そういうことであれば、我がルビア王国に否はない」

「パラディアも賛同しよう。正直、国土を拡張しようにも自国だけでは儘ならぬのが実情なのでな。それを踏まえると同盟国は必須だ。それ故にプロキシアと同盟を結んできた部分もあるわけだが、正直に言って信頼できんのが現実だ。だが、勇者を軸に据えるとなれば話は異なる。現状、国の正当性を掲げる上で、六賢神の使徒たる勇者の存在は重要だ。それを手放す理由もない」

 

 ユグノーとフローラが続くと、シルヴィとデュランも同意した。

 現状、ルビア王国とパラディア王国は十分な利益を得ている。そしてそれは、『ベルトラムに対する楔打ち』という一面があったればこそ。

 もちろん、勇者周りの事情が絡んでいたことも事実だが、フローラ一行の選択次第ではルビア王国はプロキシア帝国の手に落ちていただろうし、パラディア王国に対するプロキシア帝国の圧力も強まっていただろう。それを防げたのは、フローラ一行がタイミングよくルビア王国を訪れ、特にその護衛としてイオリたちが同行していたことが何よりも大きい。

 既に多大な恩を受けている以上、シルヴィもデュランもそれを蔑ろには出来ない。義だけで国家運営が出来ないのは確かだが、義を蔑ろに出来ないのも確かなのだ。

 

「まあ、話がズレちゃいましたけど、未完成術式でよければ両国にも提供しますがどうします?」

『ありがたく頂戴する!』

 

 セリアの問いにシルヴィとデュランが声を合わせて応え――

 

「くぅ……。俺らの貴重な気晴らしが……!」

「諦めよ。人間、時には諦めも重要なんだよ、雅人君」

 

 その片隅では、気晴らしが出来なくなったことを嘆く雅人とラティーファの姿があったそうだ。

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