精霊幻想記 ~術士たちの新たな旅~   作:山上真

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第5話

「改めて沙月さんを確認した結果、漸く気付いたんですが、沙月さんは精霊と契約状態にあるようです。……さっき魔術と精霊術について軽く触れましたが、前提として魔術を扱うには術式を体内に取り込む必要があり、もう一方の精霊術は精霊と契約する必要があります。術式を宿していれば精霊と契約できず、精霊と契約していれば術式を宿せないというのが正しい理由だそうです。まあ、あくまでも聞きかじりの知識ですが……」

 

 そう言ってイオリは頬を掻く。無理だとは言ったものの、その知識に当て嵌めての判断でしかないのも事実だ。根本的な知識が乏しいこともあり、根拠が薄いと言われれば否定はできない。

 

「俺たちに加勢してくれたハルトは精霊と契約しているとのことでして、沙月さんの状態はそのハルトと類似している部分があります。そしてそれは、雅人、フランソワ陛下、シャルロット王女のいずれとも合致しません。消去法で考えると、精霊と契約状態にあるとするのが妥当でしょう」

 

 とはいえ、それでも言っておかなければならないことだとも判断した。

 

「もっとも、精霊術にしろ魔術にしろ、そもそもの知識に疎いのも確かであり、あくまで聞きかじりの知識に当て嵌めて考えた上の推測であるのも確かです。しかし、この推測が正しかった場合、とある問題が浮かび上がります」

「サツキ殿にその自覚がないのなら、いつ精霊と契約したか、ということだな?」

「ええ。ハルト自身、幼い頃には自覚のないままに精霊と契約していたそうなので、一概にそういう事例を否定することはできませんが、ハルトと沙月さんには大きな違いがあります」

「時間、ですね。ハルトさんとやらのことはさて置くとして、サツキ様はこの世界に召喚されて間もありません。その期間で、自覚もないままに精霊と契約するというのは、正直に言って考えにくいです。しかし、それが実際に為されているとするならば、そのタイミングは召喚時しかありません。より正確に言うならば、召喚自体にそのような機能が組み込まれていたと考えるべきでしょう」

「あくまでも推測でしかないがな。サツキ殿を召喚したのは聖石であり、聖石に関しての言い伝えはあるが、それとて大雑把なもので、その詳細は不明なのが現実だ」

「そして、勇者を勇者足らしめるのが、その戦闘能力でもあります。その根拠であり、六賢神の使徒の証明でもあるのが『神装』と言われる武装であり、それは勇者の意思一つで自在に出し入れが可能な物であるそうです。戦闘能力は確認していませんが、実際にサツキ様は神装と思しき物を所持しており、それもあって我々はサツキ様を勇者として認定し、それに準じた扱いをすることに決めました」

 

 まだまだ分からないことの方が多いが、その場の全員が難しい顔にならざるを得なかった。

 

「ちょっといい? 魔術は六賢神が伝えたのよね? じゃあ、普通に考えて精霊術を伝えた存在もいる筈よね。そっちに関しては何か知らない?」

「申し訳ないが、余は知らぬ。……シャルロットはどうだ?」

「同じく、です。我が国を含め近隣国家では魔術が一般的なこともあり、精霊術の名前自体は知ってますが、精々が触り程度です。それとて、魔術に比べて難度が高いために廃れた、とか程度です。まあ、精霊術というその名前と、発動に精霊との契約が必要ということからして、よほど力のある精霊が伝えたものだとは思いますが……」

「だからこそ、それを伝えたであろう精霊に関して知られていないのも妙な話よな。廃れた技術ということもあって今までは特に気にしてもいなかったが……」

 

 あくまでも状況からの推測でしかなく、詳しく調べてみないと何とも言えないが、快い考えは浮かばない。

 

「えっと、セントステラ王国……だっけ? そこに連絡を取ることはできませんか? 俺は確認できなかったけど、イオリ兄ちゃんによると、転移の際、沙月姉ちゃんには緑の魔法陣が浮かんで、兄貴には赤い魔法陣が浮かんだって話だった。そして、緑の柱が立ったこの国には実際に沙月姉ちゃんがいた。だったら、赤い柱が立ったセントステラ王国には兄貴がいると思うんです。調べるにしても比較材料は多い方が良いし、兄貴だったら協力してくれると思います。俺としても、兄貴や沙月姉ちゃんがわけ分かんねえ状態にあるっているのは不安ですし……」 

「尤もであるな。セントステラ王国は閉鎖的な国だが、その推測が正しかった場合、サツキ殿やマサト殿の名前を出せば反応を返す可能性はある。そして実際にマサト殿の兄上が勇者としていた場合、調査にも協力してくれるだろう。勇者の立場が立場故に当人の行き来は難しかろうが、式典を開いたりといった感じでやりようはあるしな」

「取り敢えず、取れる手は何であろうと取りましょう。推測を裏付けるにも否定するにも、勇者、魔術、精霊術に六賢神……現状ではどれもこれも情報が足りません。広く協力者が必要です」

「そうなると、ベルトラム王国にも協力を頼むか。現在は内部政争が激しいと聞くが、曲がりなりにも同盟国だ。彼の国にも勇者は召喚されているだろうし、何よりあの国には現時点において魔術の第一人者といわれるセリア・クレールが所属している」

「魔術と言えば、現在は別行動をしているそうですが、ハルトの仲間にも魔術に詳しい人物がいるそうです。ハルト自身が精霊と契約していることもありますので、ハルト共々協力を打診してみようと思います」

「そうしてもらえるか。余の方で召喚状を用意するから持っていけ。あまり好ましい手でないのは事実だが、事が勇者全体に及ぶかもしれん以上、そのようなことも言ってられん」

 

 こうして、沙月の要望をきっかけにガルアーク王国は俄かに騒がしくなるのであった。

 

 ♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢

 

「国王陛下からの召喚状……ですか」

 

 それを見たリオは、見るからに顔を顰めた。乗り気でないことがありありと分かる。

 ドグマを駆使することで報告に赴いた兵士たちに先駆けて独り砦に戻ってきたイオリは、リオやアマリたちと数日ぶりの再会を果たし、その上でリオに対しフランソワからの召喚状を渡した。なお、雅人は沙月と一緒である。

 

「相手が相手だけに断れるとも断ろうとも思いませんが、経緯を説明してもらってもいいですか?」

 

 リオの要求は尤もであり、イオリは簡単に経緯を説明していく。

 ガルアーク王国には沙月が勇者として召喚されており、無事に再会が叶ったこと。勇者に関わりあることとして、状況説明の場には国王も同席したこと。話の流れの中で、ドグマやリオについても触れたこと。その場には雅人も同席していたが、シュトラール語が通じないことから疎外感を抱えざるを得ず、それをどうにかするためにドグマを使って限定的ながらも会話を可能にしたら、思いの外ドグマに興味を持たれたこと等だ。

 沙月と無事の再会が叶ったと聞いて、美春と亜紀は安堵の息を吐いた。

 

「当然の如く沙月さんも興味を持ってな。道中、雅人に教えていることもあって尚更だった」

「それはまあ、そうでしょうね。俺の前世でも魔法はお伽話や創作物の中の存在でしたから、実際に覚えられる可能性があるとなれば興味を抱いても不思議はありません。また、魔法というだけならこの世界にも魔術と精霊術がありますが、自身の同胞であるイオリさんが習得済みで、雅人も習得中だというドグマの方に惹かれるのも分かる話です。可能性だけで言えば、前例のある方が習得できる可能性は高いですからね」

 

 そこまでの流れに関しては、リオも納得したようだった。

 

「ただ、精霊術と魔術は二者択一の関係にあるだろう? そのルールがドグマにも適用される可能性はある。だから、念のために沙月さんを視てみたんだ。何せ沙月さんは勇者として召喚されており、勇者は六賢神の使徒だ。沙月さん自身が知らないところで、魔術の術式を刻み込まれている可能性は否定できなかったからな。だがその結果、沙月さんは精霊との契約状態にあるという推測が成り立った」

「術式なら理解はできますが、精霊との契約状態ですか?」

「ああ。とはいえ、ドグマに関してならともかく、魔術と精霊術に関しては俺の知識も聞きかじりだ。根拠は薄い。それでも、沙月さんとハルトに類似した部分があるのは確かで、それはその場に同席していた雅人、フランソワ陛下、シャルロット王女のいずれにも当て嵌まらないものだった。消去法で考えると、そういう推測にならざるを得なかった」

「なるほど。こっちでは魔術が広く普及していることもあり、精霊術に関しては然程知られていませんからね。魔術を伝えた六賢神の使徒である勇者が精霊と契約状態にあるというのも妙な話ですが、それを裏付けるにも否定するにも、そもそもの判断材料が足りていないということですか。ドグマに関してはイオリさんを信じるしかないとしても、魔術と精霊術で長所と短所があることは事実ですからね。廃れるからには廃れるなりの理由があると判断するのは当然のことで、にも拘らず、その廃れた筈の技術を扱う下地が勇者にできているとあっては無視もしきれませんか。結果、イオリさんに精霊術のことを教えた俺に白羽の矢が立ったと……」

「まあ、そういうことだな。他ならぬ勇者である沙月さんが解明を望んだことも大きい。そんなわけで、巻き込んで申し訳ないとは思うが、俺としても放置はできないし、したくない。俺の見立てが間違っているだけで取り越し苦労ならそれでいいんだが、現状では材料が足りな過ぎてその判断すら下せないのが現実だからな」

「前世が日本人とはいえ、今は別人だというのが個人的な認識ですが、何の影響も受けていないわけではないですし、日本人に親近感を持っているのも事実です。俺にどこまでできるかは分かりませんが、そういうことであれば喜んで協力させてもらいます」

「そう言ってもらえると助かるよ。今は別行動中だが、旅の仲間には魔術に詳しい人もいるんだよな? その人とハルトの契約精霊にも協力をお願いしたいんだが、可能か?」

「断言はできませんが……。ただ、優しい人ですので、そういう理由があるのなら協力してくれると思います」

 

 無事にリオの協力が取れたこともあり、一行は早速砦を発つことにした。まずはリオの仲間と合流し、その上で王都へと向かう。自分たちだけということもあり、ドグマも精霊術も遠慮なく行使する。そうすれば、時間も大幅に短縮できる。

 リオに案内されて着いたのは、人里離れた自然の中だった。

 

「この辺だと思うんだけど……」

 

 言いながら、リオはキョロキョロと周囲を見回す。

 

「リオーーーーッ!」

 

 すると、遠目に声を上げてブンブンと手を振っている人物が確認できた。

 

「ああ、いました。行きましょう」

 

 近付いて分かったが、手を振っていたのは白銀の髪が美しい美少女だった。もう一人、桃色髪の美少女もいる。

 

「紹介します。こちらが俺の契約精霊でアイシア。こちらがセリアです。事情があって、俺と同じようにセシリアという偽名を名乗っていますが……」

「セリア? フランソワ陛下が言っていたベルトラム王国における魔術の第一人者もセリアという名前だったと思うが……」

「そのセリアです。セリアが相手との結婚を望んでいなかったこともあり、式場から俺が拉致しました」

「お前、堂々と言うのな」

「調査をするにしても、その方が信憑性も上がるでしょう? まあ、他の人には黙っていてもらいますが。この条件が飲めないのであれば、セリアが協力すると言っても俺の方で断らせてもらいます」

「何のこと?」

 

 事情の分からぬセリアは、イオリとリオのやり取りを見て首を傾げる。

 

「取り敢えず、これ以上の立ち話もなんですので家の中にどうぞ」

 

 そう言ってリオが指し示した先には大きな岩があった。

 

「『岩の家』です。俺に精霊術を教えてくれた人たちから頂きました。旅をする上では非常に重宝していますよ」

「へえ、空間魔法が働いているのか。中は外見よりもだいぶ広いな。家というだけあって家具も満載だ。……負けたんじゃないか、ホープス?」

 

 家の中を軽く見まわしたイオリは感想を述べたあと、ニヤリとした表情でホープスを揶揄った。

 以前の旅路において、ホープスは結界魔法を用いて独自の空間を用意していた。曰く『研究室』である。そこで製作された魔導器などは大いに役立ったものだが、少なくとも快適さという面では岩の家に遠く及ばない。

 

「む、聞き捨てならんなマスター。私の結界魔法は日々進化しており、当時と今では大きく違うぞ。女性であるアマリ様が同行したこともあるので、快適に過ごしてもらえるように居住空間も用意したし、万一の事態を想定して衣類や保存食はもちろんゼルガードもしまってある」

「はあっ!? おま、ゼルガードを持ってきているのか!?」

「どうせマスターとアマリ様以外には使えぬ代物だ。である以上、アル・ワースに残しておく意味もないからな。以前のようなことが起こる可能性を考えれば持ち出さない理由はない。研究室を利用すれば目立たぬようにしまっておけるのだからな」

 

 ホープスのセリフは暴論と言えば暴論だが、一概に否定できない部分もあった。実際、自分たちは意図せぬ要因で異世界に来ている。

 

「ゼルガードって?」

「丁度いい。我が結界魔法の髄をお見せしよう。マスターにバカにされたままというのも心外なのでな」

 

 そう言って、ホープスはおなじみの結界空間を展開した。ホープスがいてドグマが使えるのであれば、どこからでも開くことができるという利点が存在する。

 そうして展開された研究室はとにかく広かった。魔導器を作るための設備があり、一角には所狭しと段ボール箱が置かれており、上部には『CONGRATULATION ACE PILOT』と書かれた装飾があったりもするが、中でも目を惹くのは一機の巨大ロボットだろう。

 

「マジであるし……」

 

 ゼルガードを目にしたイオリは、四肢を床に落としてガックリと項垂れた。確かに万一を考えれば助かると言えば助かるのだが、この世界ではとかく不似合いだ。

 

「これって、巨大ロボット騒動の時の……」

 

 実際にゼルガードを目撃した美春がそう零す。

 

「これがゼルガード!? 大きいけど、飛行船とはまた違うし、何これ何これ!?」

 

 その一方、巨大人型ロボットという、未だかつて見聞きしたことのない物を目にしたセリアはひどくはしゃぐのだった。




魂魄のドグマとか、エンデの支配から解放するドグマが使えるんですから、イオリは調査・分析にも長けている設定です。
X本編で逆境に追い込まれるたびポンポン新技を開発してきた実績もあります。

魔術と精霊術の相関関係を知った上で、『魔術を伝えた六賢神の使徒とされる勇者が精霊と契約状態にある』と知れば、六賢神を王権の根拠としている王族ならばこそ、その可能性があるだけでも、この矛盾を放置できないと思います。
普通に考えて、勇者が習得しているべきは魔術である筈ですから。
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